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2008.01.25

ネット広告の近未来はどのようなものになる?

「クリック課金型のネット広告はすでに絶頂期に達し、
衰退のきざしが見えてきた」と、
あるブログが書き、論争が起こった。
実際のところはどうなのだろう?

●クリック課金広告は多すぎて効果がない?

 インチキなネット広告のクリックによって、過大な広告費の請求がかなりの割合で起こっていると調査会社は言うが、グーグルは否定している。第三者の立場でグーグルを調査したニューヨーク大学の教授の(前回紹介した)報告書でもはっきりせず、過大な請求が行なわれているのではないかと疑う広告主の不信感を完全には払拭できない。

 こうしたなか、スティーブ・ルーベルという広告マンのブログが論議を呼んだ。クリック課金広告は急成長を続けてきたが絶頂に達し、衰退に向かうきざしが出てきたというのだ。次の5つの理由を挙げてそう主張している。

① 乱雑化。ルーベルは最近クルマを買ったが、購入にあたっては検索で情報を集めた。しかし、広告はほとんどクリックしなかった。検索結果ページに広告が雑然とたくさん並んでいたからだ。CMが多すぎると効果がなくなるということは、テレビなどでも見られる現象だ。

② 購入やサービスの申し込みなど具体的な成果があったときにだけ支払う(ペイ・パー・アクション[PPA]広告と呼ばれている)広告へ移行しつつある。

③ クリック課金広告のコストの上昇。広告と連動させるキーワードの入札費用は06年から07年始めにかけて33パーセント上昇した。いつまでもこんなことが続くはずはない。

④ どのウェブページを見たかに応じて広告を表示する行動ターゲティング広告とかブログを使った広告など、多様なネット広告が出てきている。

⑤ 検索連動広告は信頼できないと見られている。調査会社のニールセンが世界47の市場で、どんな広告が信頼できると考えられているかを調査した。 信頼できるという答えがもっとも多かったのは、狭い意味の広告ではないが、直接的な「消費者の推薦」。78パーセントの人がそう答えている。続いて新聞広 告が63パーセント。ネットでの口コミ、ブランド力のあるウェブサイト、テレビ、雑誌、ラジオが僅差で続き、これらはいずれも6割前後の人の信頼を勝ち得 ている。それに対し、検索連動広告は、バナー広告(26パーセント)よりはましだったものの、信頼できると答えた人は34パーセントにすぎなかった。

 ルーベルは、デジタル広告について15年のキャリアがあり、いまはPR会社の副社長を務めている。自分も検索エンジンの力を信じて顧客に広告を勧 めてきたという。しかし、痛みがやってくるのはもはや避けられない、と考える。こうしたことをストレートに書けば、広告コンサルタントなどから猛反発を受 けるかもしれないが、「炎上」覚悟でこの記事を書いたのだそうだ。

●「それでもクリック課金広告は伸びる」という説

 実際は「炎上」というほどコメントが押し寄せたわけではなかったようだが、それでもやはり関係者の強い反発が起こった。
 たとえば、検索エンジン・マーケティング会社の社長アンドリュー・グッドマンは、自分が編集長を務めるウェブ・マガジンで、右の5点についてひとつずつ反論している。こんな具合だ。

① 乱雑だというが、検索結果表示の上部と右側にすっきりまとめられている。こうしたレイアウトはずっと変わっていない。

② 自分たちは、広告のパフォーマンスが上がるように顧客と仕事をしてきた。成果も上がっている。従来のメディアのありようから見ても、購入といっ た直接的な行動に結びつかない広告にも意味はある(ブランド力や認知度を高めるといったことだろう)。PPA広告にすべて移行する必要はない。どういった 広告がいいか選択するのが広告主の仕事だ。

③ クリック課金広告にまわす額はたしかに頭打ちになるかもしれないが、広告主は、やめるわけではなく、ゆっくりとでも成長していく。

④ ほかのネット広告も使われるだろうが、市場が拡大しているので、検索広告にお金を出さなくなることは考えられない。

⑤ グーグルが、広告主の信頼を得るためにとてつもない努力をしていることは、ネット広告業界で仕事をしているのなら、わかっているはずだ。

 グッドマンはまた、みんなが広告効果を気にし、クリック広告への出費が横ばいになると思われてからもグーグルの広告収入は伸びている。そうしたこ とから見ても、ルーベルの言うことはあたっていない。こうしたことを言いたがるのは、新しいものが気にくわなくて、昔に戻りたいという心理が働くからだ、 と痛烈に批判している。

●ネット広告の未来は広告目的達成課金型?

 このようにグッドマンは、ルーベルの主張を頭からはねつけている。もちろん、認知度を高めることや、サイトにアクセスしてもらうことだけを目的に 広告を出している企業もあるから、クリック課金広告が消えることはないだろう。しかし、無効なクリックを完全には排除できず、クリック詐欺の疑いを払拭で きない以上、具体的な成果を求める広告主は、少しずつPPA広告に移っていくにちがいない。

 グーグルも、PPA広告の可能性を感じとり、すでに導入を始めている。過去30日間に広告目的が500 回以上コンバージョン(達成)できた広告主だけを対象にして、昨年3月から募集を始めた。日本も含めたワールドワイドでは昨年6月から利用できるようにしている。
  ただし、まだベータ版という位置づけで、「一部の広告主様およびサイト運営者を対象にテストしている段階であるため、トラフィックがあまり発生しない場合 があります」と断わっている。そして、グーグルの検索結果画面ではなく、参加サイトのコンテンツ広告だけに限っている。

 広告を出す側としては、商品が売れたときなどだけ課金されるのは都合がいい。とはいえ、サイト運営者がこうした広告を自分のサイトに置きたいかと 尋ねられれば、ためらう人も多いだろう。クリックされる数に比べて、商品が売れたりサービスの申し込みが行なわれる割合はずっと少ないからだ。サイト運営 者は、広告収入がほんとうに得られるのか不安になる。それでもPPA広告を設置する気になるには、広告主の設定する報酬がそれ相応に高額の必要がある。

 グーグルも、PPA広告費を請求するためには、購入されたかどうかきちんと確認できなければならない。また、広告目的が達成されたときにしかお金 が払われないのだから、利用者の行動を今まで以上につかみ、広告効果を高める必要もある。そうしたこともあってか、グーグルはすでに独自の決済システムを 導入したり、利用者のネットでの行動をトラッキングするツールの提供にも力を注いでいる。グーグルは、このように次の時代のネット広告に向けて着々と準備 を進めている。

 ところが、グーグルは、PPA広告の発表とあわせて、ウェブを(悪い方向に)一変させかねない試みも始めた。これまでほとんど注目されていないそのことを、次回はとりあげる。

afterword
ペイ・パー・アクション広告というと新しげだが、その実態はアマゾンなどが以前からやっていたアフィリエ イト広告に近い。グーグルとアマゾンがひとつになってグーグルゾンという会社が生まれるというのは、ネットで評判になったショート・ムービー「EPIC 2014」が描くネットの近未来だが、グーグルとアマゾンのビジネスモデルは、少しずつ近づき始めているのかもしれない。

関連サイト
「クリック課金広告は衰退のきざしが見えてきた」と書いて波紋を呼んだPR会社社長スティーブ・ルーベルのブログ(http://www.micropersuasion.com/2007/10/five-reasons-wh.html)。
●「クリック課金広告は衰退しない」とルーベルに反撃した検索エンジン・マーケティング会社社長アンドリュー・グッドマンの記事(http://www.traffick.com/2007/11/impending-paid-search-recession.asp)。
●グーグルの広告目的達成課金型(Pay-Per-Action)広告のQ&Aページ(http://adwords.google.com/support/bin/topic.py?topic=11635)。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.517)

追記
この話は、「ワイアードビジョン」のブログ「ネットと広告経済の行方」で近々関連の話題を書く予定です。

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