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2007.12.21

広告主たちのネットでの熱い戦いとクリック詐欺

ネット広告が注目され、価値が認められるにつれ、
いじましくも熾烈な争いを広告主たちが繰り広げ、
グーグルなどに、ダメージをもたらし始めている。

●忙しくてクリック詐欺を休んでいたために発覚

 メディアサイトはもちろん、個人のブログでも、いたるところで広告が目につくようになってきた。検索結果やウェブサイトの内容に応じて現われる広告は、利用者の関心に沿って表示されるのでクリックされやすい。しかも、広告をクリックされたときにだけ課金されるので、広告効果がわかる。またサイトの開設者も、こうした広告をウェブページにおけば広告収入の一部を得られる‥‥といいことずくめだ。広告市場が急拡大し、今後も有望株と見られている。
 私も自分のブログに検索機能が付け加わると便利だということで、グーグルの検索を導入している。このようにしてこれらの広告は、アメーバのごとくウェブ中に広まった。
 グーグルはこういった広告で、ネットの王者の地位に駆け上った。ヤフーもマイクロソフトも、こうした収入源をほっておくわけにはいかない。相次いで参入し、現在は三つどもえのすさまじい戦いが繰り広げられている。

 しかし、そうしたネット広告の土台を脅かしかねない恐るべき危機が迫っている‥‥というと、なんだか仰々しいが、クリック詐欺というものをめぐって、論争が起こっている。
 クリック詐欺というのは、広告の内容に興味もないのにクリックする行為を指す。そうしたことをする動機はふたつある。

 ひとつは、とてもわかりやすい。サイト開設者が広告収入を増やすために、自分のサイトに設置した広告をクリックする、というものだ。
 もうひとつ、ライバル企業にイジワルするために相手企業の広告をクリックする、というのもある。クリックされるたびに課金される仕組みだから、ライバル企業は負担が増える。「いっぱいクリックされて広告費がかかったのに、商品がたいして売れないや」ということになれば、ライバル企業は広告を出す気がしなくなる。それがねらいである。

 グーグルなどの広告では、1クリックいくらの広告費になるかは、オークションによって決まる。たとえば「パソコン」という言葉で検索されたときに、A社は1クリック100円、B社は80円払う、などといったぐあいに入札する。利用者の役に立つ広告を優遇するというのがグーグルの方針で、おカネの額ばかりでなく、キーワードと広告の関連性やクリック数などからなる「品質スコア」を掛けあわせ、より大きな数字になった広告が検索結果の上位に表示される。
 ウェブサイトを覗いてまわっているだけではわからないが、検索結果の上部に並ぶために、広告主たちは、コンピューターの画面をにらんで熱い戦いを繰り広げている。だから、インチキをしてライバル企業を蹴落とそう、などいう不届きなヤカラも出てくるわけだ。

 アメリカのある企業のオーナーは、関連企業がこぞって集まる展示会の期間だけ、自社の広告のクリック数が減っていることに気がついた。展示会で忙しかったために、ライバル企業がイジワルのクリックをするヒマがなかったというのだ。
 こうしてクリック詐欺が発覚したというのは、冗談のような話だけど、クリック広告のニュースサイトの記事に書かれている。この話がほんとうだとすれば、人の手でクリックしていたわけだが、専用ソフトを使って自動的にクリックする、などということもやられている。

●1クリック30円のクリック詐欺のお仕事

 さらに、労働賃金の安い海外にオフショアリングする、というグローバリズムの時代ならではのクリック詐欺もある。
 インドの新聞が伝えているところでは、1クリック25円から30円でクリックする仕事が、IT業種のオフショアリングで栄える彼の地にはあるという。ただクリックするだけではだめで、きちんとカウントされるように、60秒から90秒そのサイトにとどまるように指導しているのだそうだ。報酬はペイパルなどの電子決済で払われるので、メールアドレスを持っている必要があるが、実際に仕事をしている人の多くは、現地通貨ルピーで支払われることを望むので、あいだに業者が入って換金することも多いのだという。

 これは04年の新聞記事で報じられていることだが、少なくともグーグルなど大手検索会社の広告については、こんなやり方はもう通用しないだろう。先に書いたとおり、こんなクリック詐欺が蔓延すれば、ネット広告市場は信用を失い崩壊する。ということで、次回以降で詳しく書くように、検索会社は、クリック詐欺対策に躍起になっている。このインドの新聞記事は関連業界でかなり有名になったようだから、まともなネット広告会社は、コンピューターの所在がわかるIPアドレスの情報などを使い、インドなどからの不自然なアクセスはチェックしているはずだ。
 この新聞記事でも、ネット広告会社が対応するまでのことで、こんな仕事がいつまでも続きはしないだろう、といったことが最後に書かれている。ただし、イタチごっこで、また新たな手法が生み出されるだろうとも付け加えているが。

●クリック詐欺について9000万ドルで和解したグーグル

 検索エンジンの歴史のなかで、これに似た話は以前にもあった。
  98年頃のアメリカのネット検索は、自分のサイトを検索結果の上位に表示させる「検索エンジンだまし」の手法が広がって、混乱の一途をたどっていた。検索しても求めている情報が出てこず、ビジネス色の強いサイトばかり出てくる。「検索は役に立たない」というムードが広がった。こうしたときに救世主のように現われたのがグーグルだ。ほかのサイトからのリンクでサイトを格付けする方法を採用し、自分のサイトをいじくっただけでは検索順位を上げることができなくなった。グーグルが採用したこうした仕組みによって検索は息を吹き返し、その後ほかの検索エンジンでも採用されるようになった。
 しかし今回グーグルは、クリック詐欺が蔓延していると言われること自体に不満である。

 複数の調査会社が、クリック詐欺の割合は、10パーセントを超えている、と指摘している。なかには35パーセントという数字をあげたところまであった。言うまでもないが、広告主は、作為的なクリックに対しても(それが無効なクリックだと認定されないかぎり)お金を払わなければならない。
 アメリカで広告主たちは、無効なクリックも課金されているとグーグルなどを訴えた。その結果、グーグルは、最大9000万ドルまで払うことで、昨年7月、大多数の原告と和解した。
 和解はしたものの、グーグルは、そうした訴えに納得はしていない。クリック詐欺の計算の仕方がおかしい、実際は0・02パーセントに過ぎないと反論している。その一方で、広告主の疑念を解消するための努力を続けている。
 次回は、グーグルのおかれた複雑な立場と、どんな対抗策をとっているかを見てみよう。

afterword
 広告効果がわかるというのがネット広告の売り文句なのに、じつはそうではなかったということになれば、ダメージは大きい。そういう意味で、クリック詐欺は、急成長するネット広告に刺さったトゲのような存在だ。

関連サイト
●1クリック30円弱のクリック詐欺の仕事があることを報じるインドの新聞『タイムズ・オヴ・インディア』の記事「インドのオンライン広告クリック秘密部隊」
●イベントのためにクリック詐欺を休んで発覚した事件を伝えるクリック広告ニュースサイト『ペイパークリック・アナリスト・コム』の記事「クリック詐欺――業界の実態」

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.513)

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