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2007.09.14

CMにこれほどイライラさせられているのは日本人だけ?

テレビCMにイライラさせられているのは
どこの国でも同じと思いがちだが、
そんなことはない、
という興味深い研究レポートが出ている。

●日本のテレビの非常識

 テレビCMにイライラさせられるのはなぜかって? テレビCMっていうのはそういうものなんだよ。タダで見るんだから、多少イライラさせられたって仕方がないだろ‥‥。そんな「良識派」のあなたは、今回の原稿をぜひ読んでほしい。テレビCMを見なきゃならないのはほかの国でも同じだが、海外の人びとは、日本の視聴者ほどにはCMでイライラさせられてはいないようなのだ。
 このところ広告について、あれこれ資料を読んでいる。そうして読んだ一冊に興味深い研究レポートがあった。われわれの「テレビCMの常識」を覆すもので、研究書のなかだけにとどめておくのはもったいない。今回はそれを紹介しよう。

「番組内CM提示のタイミングが視聴者の態度に及ぼす影響」という堅いタイトルの論考がそれで、番組のなかのCM、とくに「ここぞ」という山場にさしかかると提示されるCMを「山場CM」と名づけて、こうしたCMがもたらす影響を考察している。
 この論考でも指摘されていることだが、CMの出し方は、このところ格段にあざとくなってきた。さあいよいよ真犯人がわかるというところでCMなどというのは当たり前。盛り上がって、さてクイズの答えというときにもCM。CMあけにはCMまえのシーンがまた繰り返され、答えを言うのかと思えば、そのまままたずるずると映像が続き、再度CMに突入、などということも珍しくない。
 われわれはこのようなCMにすっかりならされてしまっている。しかし、このレポートを読んで驚いたことには、こういうCMの出し方は、どこの国でもやっているわけではないようだ。欧米では山場CMは日本よりはるかに少なく、話が一段落して入れるCM(このレポートでは「一段落CM」と名づけている)が圧倒的に多い。

 日本、アメリカ、イギリス、フランスそれぞれの国で比較的よく見られているニュース、ドキュメンタリー、ドラマ、バラエティ、スポーツ、クイズなどのCMについて調査したところ、総合して日本では40パーセント近くが山場CMであったのにたいし、アメリカは14パーセント、イギリスは6・4パーセント、フランスはゼロだったという。
 ニュースは、キャスターが「続いてのニュースは‥‥です」と言ってハイライト的なVTRを流してからCMに入るものも山場CMと見なしたとのことで、日本では、ニュースも山場CMが多い。バラエティ、クイズ、ドキュメンタリーでは山場CMがほとんど。山場CMが見あたらなかったジャンルは、映画とスポーツだけだった。
 アメリカでも、ニュースやドキュメンタリー、ドラマ、バラエティ、クイズで山場CMが見られたものの、日本のテレビほどの頻度ではない。イギリスでは、映画やクイズにわずかに見られる程度だ。

 また、日本のテレビでは、CMあけに場面転換しているのが64パーセントなのに対し、ほかの国では9割以上。言うまでもないが、いいところでCMが入ってイライラさせられたうえに、CMあけにまた同じシーンを見せられれば、二重にイライラさせられることになる。
 こうした違いが生じる理由は、この論考でもいくつか指摘されている。
 まずあがっているのはCMに対する規制の違いだ。
 日本は、テレビ局の自由裁量にゆだねられているのに対し、ほかの3国では、CMを流す時間量や回数、さらには「過度に騒がしくなく耳障りでないこと、番組の自然な切れ目に限る」などと規制されているという。
 日本でも放送法の縛りや番組編集基準などはあるが、実態を見るかぎり、ほかの国よりはるかに甘いわけだ。

 このレポートがもうひとつ指摘しているのは国民性の違いだ。
 「不快感を持っていても黙って物言わぬおとなしい日本人と、怒りをあらわにして抗議する欧米人の違いが、CM提示タイミングに対する規制の違いをもたらしたと考えられる」と言っている。
 イギリスで30人を対象に聞き取り調査したところ、全員が「日本のようなCMの出し方などとんでもない」と答え、21人が「商品の購入意欲もなくなる」と答えたという。
 日本にいるフランス人のコミュニケーション学者も、「番組途中でCMが出て番組を中断させたら皆怒り出すだろう」と言っていたとのことだ。
 山場CMの多用になれていない国の人びとが反発を感じるのは当然だ。彼らにしてみれば、そうした番組を平気で見ている日本人はほんとうに不思議ということになるのだろう。

●視聴者の反乱――山場CMの商品は買いたくない

 もっとも、日本人がほんとうに平気で見ているのかというとじつはそうではないというのが、この研究レポートの興味深いもうひとつの指摘である。こういうテレビCMの出し方は広告効果の面でも、またテレビというメディアそのものにもダメージをもたらしているというのだ。
 山場CMで不快感を感じるか、またそれはどんな感情なのかを調査している。
 不快感をそれほど感じていない人もいることはいるが、ストレスを感じるとか、イライラするとか、息抜きにならないと感じる人の割合はやはり多く、とくに「不愉快」と答えている人が多い。
 山場CMを出す番組には好感が持てず、スポンサー企業に対しても、やはりいい印象は持てなくなる。そうしたスポンサー企業の商品は「買いたくない」と答えた人も34パーセントいる。

 山場CMの商品は記憶もしてもらいにくいようだ。
 一段落CMの商品は「覚えている」と答えた人のほうが多いのに、山場CMになると、覚えていない人が多数派だ。
 イライラした状態なので記憶していないのではないかとか、クイズなどでは答えを考えているのでCMが意識されないのではないかなどと推測している。言われてみれば当然考えられることで、制作サイドがそう思わないのが不思議なぐらいである。

 CMのあいだなどにチャンネルを変えるザッピングも、山場CMを出されたことによる不快感情を意識的・無意識的に解消しようとしてやっているのではないかと指摘している。
 「山場CMとシーンの繰り返しを多用している番組は、内容に対する自信のなさを告白しているも同然」で、また山場CMあけの番組展開は期待はずれのことが圧倒的に多く、視聴者はこうしたことを繰り返し経験すると、もとのチャンネルに戻ってこなくなるとも言っている。

 山場CMによって、さしあたりの視聴率低下は避けられるのかもしれない。しかし、視聴者に嫌われるCMを出し続ければ、番組もスポンサー企業の商品も、さらにはテレビそのものも嫌われる。
 CMがうるさいというと、すぐに「規制を」ということになりがちだが、こうしたレポートが広く知られることによって、テレビ局やスポンサーが、視聴者に嫌われるようなことをやってもメリットがないことを認識し、山場CMが自然に減っていくのがもっとも望ましい成り行きだろう。

afterword
 好きなタレントが出ているCMの商品は好印象を持つという心理の裏返しで、不愉快な思いをさせられたCMの商品は買いたくなくなるとも指摘している。
 これについても、なぜそうしたことが気づかれないのか不思議である。

関連サイト
山場CMと精神的不快感の関係。榊博文、今井美樹、岡田美咲、出羽かおり「番組内CM提示のタイミングが視聴者の態度に及ぼす影響」より(真鍋一史編著『広告の文化論』日経広告研究所、所収)

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.499)

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