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2007.08.10

失敗した与党の広報戦略

自民党の広報戦略は、若手が中心になって
一変したはずだったが、うまく機能しなかった。
自民党が大敗した理由は、その辺にもありそうだ。

●活かされなかった「広報の常識」

 参議院選挙は、予想どおり、自民党の大敗で終わった。小泉政権のときに自民党にはコミュニケーション戦略チームが作られ、企業ばりの危機管理対策 が行なわれるようになった。たとえば、ホリエモンが自民党幹事長の息子に怪しげなカネを渡したという「永田メール」事件が起きたときなどは、いち早く対策 チームを作って対応し、告発したはずの民主党に手痛いしっぺ返しをくらわせた。しかし、安倍政権では、こうした機能がうまく働いたようには思えない。
  安倍政権になって、危機管理のあり方が変わったということはあるのかもしれない。これまでの危機管理は、閣僚候補がスキャンダルなどを抱えていないか、就 任前に調べることでなされていた。若い政治家たちが中心になったいまの政権では、こうしたことはできなかった。だから、不透明な経理が発覚し、閣僚が相次 いで辞任したりすることにもなったのだろう。しかし、事件が起こって以後の危機管理は、以前とは比べものにならないぐらいにすぐれたものになっていたはず だった。

 前回少し書いたように、大手企業などから見ると唖然とするぐらいに欠如していた政府・与党の広報戦略を立て直したのは、NTTの広報課長から自民 党の参議院議員に転身した世耕弘成氏である。世耕氏の原点は、リクルート株を受けとってNTTのトップが逮捕された事件だそうで、国会議員になったいまで も、広報は自分の「一生の仕事」だと著書に書いている。
 広報と危機管理は表裏一体のものだが、安倍政権が苦境をよりいっそう深めたのは、まさに広報と危機管理の誤りによるように思われる。
  いくらすぐれた広報であっても、失敗を隠すことはできない。袋だたきの状態になっても、誠実にオープンに対応することが必要だと世耕氏は書いている。けれ ども、閣僚の不祥事や年金問題の発覚にあたって、この「広報の常識」は活かされなかった。安倍首相は国民が納得できる措置をとるよりも「仲間」の閣僚をま ず守ろうとした。また年金についても、問題のありかをはっきりさせるよりも、不信感を募らせないことに重きをおいた。問題が発覚したときに、もう少し国民 の目線で行動していたら、人気はこれほどまでには落ちなかっただろう。

 世耕氏の本は、昨年1月と7月に2冊発売されている。少し前の本だが、これらの本は、じつはいま読むのが最適の時期かもしれない。この本が出たと きには自民党の支持はまだ高く、その時期に読めばたんなる成功物語だが、いま読むと逆に、「ああ書いていたのに、どうしてこうなっているの?」というとこ ろが次々と見つかり、失敗のありかがよくわかる。
 たとえば安倍首相は、野党との論戦などで、歴代の首相と比べてもかなり攻撃的なやりとりをして いる。しかし日本では、ネガティヴ・キャンペーンは好まれない、もしやるならどこまで大丈夫かを慎重に調査してからにすべきだ、と世耕氏は書いている。 04年の参院選挙で、自民党は新聞一面を使ってネガティヴ・キャンペーンをやった。それを目にした世耕氏は、大金をかけて反感を買うとは戦略性がまるでな く、ひどいとしか言いようがない、「なんじゃこれは」とひっくり返ってしまったという。しかし、こんどもまた同じようなことを繰り返してしまったのではな いか。攻撃的になればなるほど焦っているように見えた。

●反撃するのも戦略のうち?

 世耕氏の本のおもしろさは、政界裏話的な話が散りばめられている点にもある。「永田メール」事件のほかにも、「片山さつきの髪型をなんとかしろ」 というクレーム電話への対応や、杉村太蔵議員が「料亭に行ってみたい」などと失言を重ねた危機的状況への対処などが具体的に書かれている。
 そこ まで書くかと思ったのは、名前こそはっきり書かれてはいないものの(週刊誌の見出しだけでも追っていた人ならすぐわかるが)、佐藤ゆかり議員の過去の異性 関係についてのスキャンダル報道をめぐるいきさつだ。こうしたスキャンタル報道について、一般の読者はだいたい「ほんとかな」と半信半疑で受けとめている のがふつうだろう。しかし、世耕氏は、「しょせん週刊誌の書くことだから」などと相手にしないのではなくて、弁護士を使って記事を差し止めることまで考え たという。そんなことをすれば、さらに話が広がってしまうように思うが、注目度が高い場合は個人的なスキャンダルもまともに対応すべきだと、この広報のプ ロが受けとめているのは意外だった。安倍首相周辺も、新聞や雑誌の告発報道に対して次々と告訴で応じている。それもこうした戦略の延長上なのかもしれな い。

●「失言はするな」と小泉首相は言った

 世耕氏の本に出てくる小泉首相はやはりただ者ではない。というか、世耕氏たち「若手」と比べると、政治家として、やはり大人と子どもの違いぐらいの差はありそうな気がしてくる。
  世耕氏が「データにもとづいてきちんとした戦略を練るべきだ」と談判に言ったところ、小泉首相は話をじっくり聞いたうえで、「データに頼っていたのでは田 中真紀子は更迭できない。だからデータはダメだ」と却下したのだという。田中真紀子氏の父の田中元総理は、データをいっぱい憶えていて、それで官僚たちを 説きふせたと言われている。政治家にもいろいろなタイプがいるということなのだろうが、「データはダメだ」と言う小泉首相は、ちょっと古風な政治家の凄み を感じさせる。
 スキャンダル報道に対しても、小泉首相は対照的に、ノーコメントでいくことを指示したという。渦中の女性議員には、「気にするこ とはない。堂々としていなさい」とその場で電話したそうだ。小泉首相自身もまた政権を支えた人びとも、メディアは敵に回さないように気をつけていたが、そ の点も安倍政権とはどうも違うようだ。

 スキャンダルには鷹揚だった小泉総理だが、「失言はするな」とは言ったという。「女性は生む機械」とか「原爆投下は仕方がない」などと相次いで失言をし、辞任問題が起きた安倍政権の閣僚たちは、この「小泉ルール」を守れていないわけだ。

 与党がダメになっていくのではと危惧を抱いた時期があったことは世耕氏も認めている。一昨年の総選挙で大勝利をおさめたあと、緊張感がなくなっ て、耐震偽装やライブドアの事件で追及され、「やられ放題」になった。選挙のときに協力してくれたPR会社に復帰してもらったりして立て直したそうだが、 実際のところ、あまり立て直せてはいなかったのではないか。

 安倍政権は、世耕氏ら広報戦略を推し進めた「改革派」が政権中枢に入ったにもかかわらず、広報戦略は成功しなかった。それはなぜなのか。女性議員の髪型へのクレームやスキャンダル報道まで書いたぐらいだから、それについてもいずれまた明かされるのかもしれない。

afterword
 世耕氏は、批判的なコメンテーターなどにも接触していくことが必要だと述べている。事実説明のためだが、心理的なプレッシャーにはなるかもしれないと言う。メディアと政治の緊張関係が新たな段階に入ったということなのだろう。

●世耕弘成氏の『自民党改造プロジェクト650日』(新潮社)。前著の『プロフェッショナル広報戦略』は帯にベストセラーとあるが、政界裏話的な話も盛りこまれているこちらの本のほうがおもしろい。
世耕弘成氏のサイト。世耕氏もこんどの参院選は改選期だったが、自民党大敗のなか、一人区での数少ない当選者になった。自民党をまた何とか立て直そうとするのだろう。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.495)

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