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2007.08.03

政府・与党の広報戦略の成果はあったのか?

与党が負ければ、政界再編必至といわれている。
天下分け目の戦いという人までいたけれど、
不思議な広報戦略が行なわれていた。

●選挙結果はメディアのせい?

 この原稿を書いているのは投票日の何日も前なので、参議院選挙の結果はわからない。しかし、もし与党が勝っていたならば、メディアはとても困ったことになっているはずだ。
  自民党の大敗北と見られていたにもかかわらず、もし自民党が勝った、もしくはたいして負けなかったならば、それは「アナウンス効果」のせいとしか考えられ ない。「アナウンス効果」というのは、メディアの報道によって選挙の結果が動くことを指す。こんどの選挙の場合は、参議院での与党の過半数割れを予想する メディア報道に接した有権者が、「政治が混乱するのは困る」などと考え、与党候補に投票したりすることを意味する。こうしたことが顕著に起これば、より慎 重な選挙報道が求められるようになり、メディア行動が縛られることになる。

 しかし、「アナウンス効果」についてはいろいろな説がある。まったく逆に、勝ち馬に乗る人もいると言われている。つまり民主党が勝つとアナウンス されれば、勝ち馬に乗ろうとして民主党に投票する人がいるというわけだ。競馬ならともかく、選挙でこうした行動をする人の心理はよくわからないが、こうい う行動パターンがあることは指摘されている。だから、アナウンス効果によってどちらが有利になるかは一概にいえない、ということになっている。それによっ て、メディアも、安心して選挙報道ができている。

 選挙の勝敗の原因はさまざまで、たいていの場合、メディア報道が影響をあたえたのかどうかははっきりしない。ところが、こんどの選挙の場合、少な くともこの原稿を書いている時点では、安倍自民党が大逆転できる要素はまったくない。これでもし勝てたら、アナウンス効果以外の原因を見つけることはむず かしい。というわけで、与党が勝てば、アナウンス効果についてのこれまでの前提が壊れ、メディアはとても困ったことになっているはず、というわけだ。でも まあ、与党はやはりとても勝てそうにないから、おそらくこれは余計な心配だろう。

●あやしげな政府の世論調査

 そんなことを思っていたところ、公示日直前の7月5日に政府広報室が発表した何とも不思議な世論調査を目にした。「美しい国づくりに関する特別世 論調査」というタイトルで、「現在の日本を美しいと思うか」に始まって、「日本の美しさとは何か」「美しい国であるために見つめなおすべきもの」「重要と 思う美しい国の姿」など6つの問いについて面接調査をしたものだ。

「美しい」と答えた人は10・6パーセント、「どちらかというと美しい」と答えた人が42・7パーセント等々の結果になっているのだが、こうした数 字はともかく、これはいったい何のための調査なのか。美しいと答えた人が多ければどうするつもりで、少なければどうするつもりなのか。そもそも「現在の日 本を美しいと思うか」という問いが、あまりに抽象的で漠然としている。何について美しいと思うかというのでなければ問いとして成り立たない。だから調査結 果も解釈不能で、これでは利用のしようがないだろう。世論調査のプロたちも、これはやってはいけない調査の代表例だとあきれている。

 この問いを見てすぐに思い浮かべたのは、宗教団体が勧誘のためにやっている「あなたはいま幸せですか」というやつだ。「幸せでないのなら、うちの 宗教団体に入りなさい」というわけだが、この手の漠然とした問いは、ほんとうに答えを知りたいためのものではなくて、答えさせたり調査結果を見せたりする ことで、何らかのアクションが起きることを期待してのものだ。少なくとも「美しい国づくり」という安倍首相が設定した政権テーマに注意を向けさせるためで はあるのだろう。しかし、選挙直前に発表したのでは、世論調査の名を借りた選挙運動の一環と見られても仕方がない。
 年金問題などで政府の行ないに批判が集まっているさなか、国の予算を使ってあざとい選挙運動まがいの世論調査をやって平然とその結果を発表するというのでは、反発を買いはしても、けっしてプラスにはならないのではなかろうか。

●一変した自民党の広報戦略

 安倍首相を支える自民党の若手改革派は広報戦略に熱心だ。テレビの政治討論番組などに党の政治家を出演させるときには、討論相手の野党政治家が誰 になるかによって出演者を変え、事前に十分なレクチャーをし、相手のつっこみに対する切り返し方を考え、髪型からファッションに到るまで忠告をあたえてい る。日本の政治家、とくに自民党の政治家のメディア戦略はアメリカなどに比べて大きく遅れていたが、ここへきて飛躍的に変化し始めた。

 その中心になっているのは、自民党の参議院議員・世耕弘成氏だ。もともとNTTの広報マンで、アメリカの大学で企業広報の勉強もしてきたこの道の プロである。その人物が、小泉内閣の広報戦略を一変させた。小泉政権時代から、安倍氏を改革派のリーダーとしてかつぎ、新政権誕生に力を尽くした。40代 半ばの若手ながら、広報担当の首相補佐官と幹事長補佐の要職に就いている。改革にあたっては、党内からの猛反発もあったようだが、選挙などで勝利をおさめ た実績をもとに力をつけていったようだ。政治家をとりあげるのはあまり好きではないが、メディアと政治のかかわりに興味がある人間には、この人物は注目せ ざるをえない存在だ。
 05年の小泉首相の郵政解散による総選挙のときには、ブロガーを集めて会見をやったことで、ネットでも有名になった。私がこの政治家の存在を知ったのも、そのあとネットでちょっとした騒ぎになっていたからだった。

 こんどの参議院選挙は世耕議員自身が選挙戦を戦わなければならなかったから、郵政選挙のときのように、自民党本部につめて全般的な戦略を取り仕切 るなどということはやっていられなかったにちがいない。だから、あまりに拙劣な世論調査の発表もこの切れ者議員がやったこととは思えないが、広報担当の首 相補佐官である以上、政府広報室による調査発表についても責任がないはずはない。それとも、こういうやり方は、もしかして彼の流儀なのだろうか。
 この世論調査を目にして、この「広報のプロ」がどんなことを考えているのか、あらためて興味が湧いてきた。世耕氏の本は昨年2冊も出ているが、気になりながらも読んでいなかった。

 紙面が尽きてしまったので、本については次回書くことにするが、2冊目の本のほうはとくにおもしろかった。メディアと政治のかかわりやメディア・ リテラシーについて考えるための必須文献と言ってもいい。そればかりでなく、ここ最近起こった政治的事件の背景がかなりあからさまに書かれていて、ゴシッ プ好きの興味まで満足させるものになっている。というわけで、次回は、それをとりあげてみよう。

afterword
まあ考えてみると、世耕氏が郵政選挙のときに仕掛けたブロガー会見以後、いろいろなことが起こった。それについても書きたいことはいっぱいあるが、その話はまたいずれすることにでもしよう。

関連サイト
●内閣府政府広報室が参議院選挙公示直前に発表した「美しい国づくりに関する特別世論調査」の概要
自民党のサイト。「自民党があなたの年金を守ります!」と年金問題一色だ。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.494)

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