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2007.06.18

グーグルやアマゾンが力を持つ理由

テレビ局も新聞社もネット企業には勝てない。
個々の争いはいろいろな結果になるにしても、
長期的にはそうなる明白な理由がある。

●メディアの生殺与奪の力を握るネット企業

 週刊アスキーの連載を大幅に改稿して、『ネットはテレビをどう呑みこむのか』という本を出した。本欄を読んでいただいている方にはおわかりのとおり、このところテレビの話題を取り上げることが多い。アナログ地上放送が停止しデジタルに移行する11年が近づいてきて、テレビが激変することが必至で次々と新しい動きが出てきている。
 20 世紀後半以来、最大のメディアであり続けているテレビの変貌は、メディア全体の激震を引き起こさずにはいない。日本のメディアはときに変化がなかなか起こ らないと思われているが、変化の兆しは、じつはメディア内部にすでにあることに、本にまとめてみてあらためて気がついた。
 ネットが力を持つようになってくればくるほど、数多くの人にたくさんのコンテンツを流す魅力的な空間を作ったところが圧倒的な強みを持つ。そして、大手テレビ局だろうと大新聞社だろうと、コンテンツを作っている会社にたいして生殺与奪の力を握るようになる。

 たとえばグーグルは、検索エンジンの会社ということになっているが、無数のコンテンツをユーザーに届ける配信会社のような仕事をしている。グーグ ルの検索結果に表示されなくなることを(「グーグル」+「村八分」で)「グーグル八分」と呼ぶが、検索されなくなれば、ネット上では存在しないも同じだ。 大手テレビ局でも大新聞社でも、パワーのある検索エンジンから村八分にされればネット上では生きていけない。つまり検索エンジンは、実質的にコンテンツ流 通を差配し、生殺与奪の権限を握るコンテンツ配信会社のような仕事をしている。
 「コンテンツ配信会社」が「コンテンツ制作会社」に脅威を感じさせる力を持つようになったという例は、ネット上ではいたるところで見ることができる。

●音楽会社やテレビ局がユーチューブと提携した理由

 たとえば、動画投稿サイトとして圧倒的人気のユーチューブもそうだ。ユーチューブで映像や音楽を勝手に使われたメディア企業は、著作権を侵害され たと怒ったものの、ユーチューブで話題になると宣伝になることに気がついた。音楽会社やテレビ局のなかには、自社が権利を持つコンテンツを自由に使うこと を認めるところも現われた。
 アメリカの音楽会社やテレビ局は、新興のネット企業にたいして理解があるから承諾したのだと、ユーチューブ利用者と しては思いたいところだ。しかし、コンテンツを勝手に使われる不愉快さを抑えてまで手を握ったほうがいい相手と、アメリカのテレビ局や音楽会社はユー チューブのことを見なさざるを得ないところに追いこまれた、ということでもある。つまり、パワーゲームに負けつつあることがこうした「妥協」をもたらし た。ユーチューブは著作権訴訟も起こされており、生き延びられるかどうかはわからないが、どのような結果になっても、基本的な構造は変わらない。第二、第 三のユーチューブが出てきて同じようなことが起きるだろう。
 新聞記事についても同じようなことが起こった。グーグルのニュース検索サイト「グー グル・ニュース」に無償で表示されてしまうことを新聞社などは当初怒ったが、アクセスが伸びることに気がついた。そして、「グーグル・ニュース」に表示さ れることを各国の新聞社は承諾するようになった。
 グーグルが検索サイトとしてどれぐらい強いかは、もちろん国によって違う。日本は、ヤフーが強 く、欧米におけるほどの力はグーグルにはない。だから、グーグルとしても、新聞社にいくらか払うなど、ウワサされているような譲歩をせざるをえなかったの かもしれない。しかし、多くの新聞社が、グーグルで検索されることを突っぱね続けてもトクにはならないと思うぐらいにはグーグルは力があり、グーグルの言 い分を受け入れざるをえなかった。

●デパートが楽天に負けるとき

 本についても、「コンテンツ流通・配信会社」の力は強くなってきている。ネット上の最強の本の流通会社であるアマゾンに嫌われ、表示されなくなれ ば本は売れなくなる。コンテンツ流通・配信会社であるアマゾンは、コンテンツ制作会社である出版社にたいして強い立場を持てるようになってきた。
 こうしたことはほかの物流についても言える。
  楽天が十分に力を持てば、三越とか伊勢丹、丸井でさえも、ネットで売ろうとしたら楽天に出店させてもらうしかなくなる。もちろんこれらのデパートは、ネッ トでもそれなりの売り上げをあげられるだろう。しかし、デパートが出店をやめれば楽天がやっていけなくなるかといえば、そんなことはあるまい。その逆に、 販売サイトとして楽天が強大な力を持てば、楽天に出店させてもらえなくなるということは、デパートのオンライン販売にとって致命的なダメージになりうる。
 ネットでは「勝者がすべてをとる」と言われ、ナンバーワンのサイトが強大化すると言われてきた。ネットで強大化するのは、何からの意味でコンテンツの流通・配信にかかわるサイトである。
 コンテンツ制作会社であるテレビ局もまた、ネットのパワーが増せば増すほど、ネット上で流通・配信のカナメにいる企業に勝てなくなる。

●メディア戦争におけるロングテールの意味

 「ロングテール」という言葉が一昨年あたりから流行り始めたが、これも、「コンテンツ流通・配信会社」が「コンテンツ制作会社」より強くなるということを、別な角度から語った言葉である。
  商品を売れているものから順に横軸に並べ、縦軸に売上高をとると、ネットでは泡沫商品も売上高がゼロにはならず、グラフは延々と横に伸びていき、「長い尻 尾(ロングテール)」の形になる。リアルな世界では、宣伝もせず店頭にもなくなった商品はまったく売れなくなるが、検索機能のあるネットでは、時間が経っ ても発見されて購入される可能性がある。そして、わずかしか売れない商品でも、その売り上げを合わせるとけっこうな額になるというのが「ロングテール」の 理論だった。
 これを、先ほどの視点で語れば、次のようなことになる。
 リアルな世界では、高売り上げをもたらす商品を作ったメーカーは 力を持ち、流通・配信をつかさどる会社に対抗できた。しかし、膨大な商品を扱うことができ、それによって収益も得られる「ロングテール」のネットでは、ひ とつの商品が持つ力は、リアルな世界に比べて小さい。必然的に、メーカーの力は下がる。ロングテールはメーカーの力を殺ぐ働きをするのだ。

 こんど書いた本のなかでは、テレビ局やテレビ進出をねらう巨大通信会社、あるいはユーチューブを始めとするメディア企業のここ何年かの動きをたどり、制度面でどのような変更が行なわれつつあるかを検証した。その結果わかってきたのがネットのこうしたカラクリである。

afterword
 あらためて考えてみれば見るほど、テレビというのは奇妙なメディアだ。楽天がテレビ参入をめざしてTBSと争っているが、じつはテレビの電波は余り始めているのではないか。次回はそれについて書く。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.487)

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