« 未来のテレビ広告 | トップページ | グローバル経済では自分の仕事はどうなる? »

2007.05.26

強まり始めた「ユーチューブ包囲網」

ユーチューブはグーグルに買収されて、強力になった。
他のメディアの警戒感が高まり、
「打倒ユーチューブ」を意識した動きが相次いでいる。

●ユーチューブ強大化へのメディア企業の危機感

 ユーチューブは、昨年10月にグーグルに買収され、グーグルの動画サイトとあわせて5割を超えるネット動画シェアを握った。その後、グーグル・ビ デオのほうは芳しいとはいえないが、ユーチューブのシェアは着実に拡大しており、両サイトあわせて、この春には6割にまでなった。
 日本からの利 用者数も今年の2月にはついに月間1000万人を超えたようだ。昨年3月には月間200万ほどだったから1年ほどで5倍になったわけだ。ネットレイティン グスが2000年にサイトの視聴率調査を始めて以来、最速の成長とのことで、月間1000万人を超えるドメインは、ヤフーや楽天など一八サイトのみだとい う。
 しかし、ユーチューブ一人勝ちともいえる急成長ぶりに、他のメディアは危機感を募らせ、「ユーチューブ包囲網」が強まりつつある。
 まず3月22日、米NBCユニバーサルとニューズ社は、両社のテレビ番組や映画を無料配信するサイトを夏に開設すると発表した。ユーチューブは著作権侵害の被害を抑えるために投稿できる動画を10分以内に限っているが、全編無料公開もするという。
  ニューズ社は、「24」や「アリーマイラブ」など日本でも人気のある番組を輩出しているテレビ・ネットワーク「フォックス」を傘下に置いている。NBCユ ニバーサルも、テレビ・ネットワークや映画会社を擁している。巨大メディア企業が連携し、ユーチューブの有力な対抗馬になると注目されている。両社はさら に、ニューズ社傘下のマイスペースはもちろん、米ヤフーやAOL、MSN、ケーブルテレビ会社のコムキャストなどのウェブサイトでも配信することを決めて いる。
 また4月12日にはCBSも、米MSNやAOLなど10のサイトで、テレビ番組や映画全編などを無料で視聴できるようにすると発表した。コメントや編集・共有などの機能のあるサイトでは、そうしたことも認めるようだ。
  この提携相手にはジューストも含まれている。ジューストは、P2P電話の「スカイプ」の創業者2人によって作られた動画配信会社だ。効率的なストリーミン グ再生ができるP2Pソフトを使うので、大容量の映像配信に向いている。スカイプを成功させた創業者であることもあって、立ち上げ以前から注目度は高い。 著作権保護の仕組みがあるとのことで、米大手メディアがコンテンツ提供を決めており、ユーチューブの強敵になると目されている。
 アメリカのメディア企業はネットを積極的に使って配信ルートを増やす方向に向かい始めているが、自分たちもサイトを作って、広告メディアとしてのイニシアティヴを確保しようとしているのだろう。
  米ハリス・インタラクティヴの調査によれば、18歳から24歳までの男性の76パーセント、女性の69パーセントがユーチューブを見ている。その一方、 ユーチューブのヘビーユーザーの36パーセントはほかのウェブサイトを見るのが減ったと答えている。テレビの視聴時間も、ヘビーユーザーの32パーセント が減ったという。18歳から24歳の層は、大手テレビ局のサイトで動画を見た割合も35パーセントに過ぎず、64歳以下の成人のうちでもっとも低い。こう した数字からも、若者の視聴者を取り戻すためには、ユーチューブに露出することが重要になってきていることがわかるが、アメリカの大手メディアとしては、 このままユーチューブが力をつけるのをただ手をこまねいて見ているわけにはいかない、といったところなのだろう。

●グーグルやユーチューブにたいする訴訟攻勢

 ユーチューブに対抗する新たな試みが始まる一方で、本格的な訴訟攻勢も始まった。
 バイアコムは、映画会社のパラマウントや音楽専門局 MTVなどを抱える大手メディアだが、著作権を侵害していると、グーグルやユーチューブに10万本以上の映像作品の削除を求めた。しかし、著作権侵害はな くならず、グーグルやユーチューブが昨年中に導入すると言っていた著作権保護システムも導入されないことから、3月13日、ユーチューブおよびグーグルを 10億ドルの損害賠償と著作権侵害の停止を求めて訴えた。
 グーグルは、著作物の検知システムはまだ開発中だが、要請に応じて違法コンテンツは削 除しており、アメリカ著作権法にしたがって著作権侵害に問われないはずだと反論している。アメリカの著作権法には、著作権侵害がわかったときに削除すれ ば、サービス・プロバイダの責任を問われないという「セーフハーバー」と呼ばれる条項がある。
 しかし、マイスペースなどはすでに検知システムを導入しており、裁判では、グーグル側の対策の遅れが指摘されるだろう。

 さらに集団訴訟も始まった。5月4日、イギリスのサッカー連盟と独立系音楽出版社が、著作権侵害の停止と賠償を求めて、グーグルとユーチューブを提訴した。集団訴訟なので訴えやすい。提訴に加わる団体や個人が今後増えることが予想される。
  ユーチューブを使って番組の宣伝をするなど良好な関係だったはずのNBCまでも、ここへきて、ユーチューブの著作権侵害を批判し始めた。同社はニューズ社 と組みながらも、ユーチューブとの協力関係は続けるとのことだったが、態度が変わった。ロサンジェルス暴動の映像を無断で使われたとジャーナリストがユー チューブを訴えているが、五月四日、NBCはバイアコムとともに、ジャーナリストを支援する文書を裁判所に提出した。
「セーフハーバー」が認めら れるためには、侵害しているコンテンツをあらかじめ発見し除去するのがむずかしいことや、侵害行為に直接起因する経済的利益を得ていないことなどが条件で ある。NBCやバイアコムは、ユーチューブが著作権侵害を止める能力を持っており、そうしたコンテンツで儲けてもいるので、「セーフハーバー」には該当し ないと主張しているようだ。
 その一方、ユーチューブとの提携を発表したユニバーサル・ミュージックは、ソニー・ピクチャーズが買収した動画配信サイト『グルーパー』などを著作権侵害で訴えている。提携していない陣営のサービスをねらって、訴訟の嵐が吹き荒れ始めた。
  裁判で「セーフハーバー」が認められるかどうかによって、ユーチューブの運命はもちろん、テレビまで含めたアメリカの動画配信の今後は大きく変わってくる だろう。グーグルやユーチューブの主張が法廷の場で認められれば、大手メディア企業は、オープンな回路を使って無料配信するビジネスモデルをよりいっそう 推し進めていかざるをえない。反対にグーグル=ユーチューブが負ければ、そうした動きは鈍り、有料配信のウェイトが増すかもしれない。
 しかし、いずれにしてもアメリカのテレビ局などのメディア企業は、利用者が映像をそれぞれのサイトに貼り付けるなどの共有のメリットまで理解し始めた。デジタル放送のコピー制限にこだわっている日本のテレビ局とはえらい違いだ。

関連サイト
ネットを使って見るテレビ「ジュースト」。 「次世代のテレビ」を謳っている。今月から広告付きで動画配信を始めているようだ。コカコーラやヒューレット・パッカード、インテル、ナイキ、米マイクロ ソフト、ソニー、IBMなど大手32企業・団体とスポンサー契約をしたという。映像を見ながらチャットする機能などを備え、「一人で見るテレビじゃない よ」と言っている。まだベータ版で、招待された人だけがソフトをダウンロードできる。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.484)

« 未来のテレビ広告 | トップページ | グローバル経済では自分の仕事はどうなる? »

YouTube」カテゴリの記事

2014年8月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31