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2007.04.27

コピーワンス問題の摩訶不思議

デジタル放送のコピー制限をするほんとうの理由は何なのか。
そして、コピーワンス問題のゆくえは?
有力になってきた代替案が意味するものは?

●貧乏人は二度とテレビをみなくてけっこうです!?

「総務省より心からのお願いです。ご覧になっているアナログテレビは2011年にゴミクズになります。たいへん申し訳あり ませんが、デジタル放送対応テレビにお買い換えくださるようお願い申し上げます。貧乏人の皆様にはたいへんご迷惑をおかけしますが、買えないようでした ら、二度とテレビをご覧にならなくてけっこうです」

 若い女性アナウンサーが淡々とメッセージを読み上げる。こうした動画がユーチューブにアップされている。
 刺激的な内容のこのアナウンスは冗談のはずだけど、現実に起ころうとしているのは、ほぼこのとおりのことだ。いまの予定では、2011年になればアナログ放送は停止。デジタル対応受信機を購入しなければ、テレビは見れなくなる。
 さすがにこれではまずいと、政府や与党は低所得の高齢者世帯などに地デジ・チューナーを配ることを検討し始めたという報道もあったが、具体的にどういう人にどれぐらい配るのかはけっこうむずかしい話だろう。

 デジタル放送の録画はコピーできず、ハードディスクからDVDなどへ「移動」することしかできない。コピーワンスと呼ばれるこうした仕組みについ て、このところとりあげているが、不便な思いをしている消費者はもちろんのこと、使い勝手が悪い装置を売らされているメーカーも、総務省の委員会などで不 満を述べ、コピー制限をなくしてネットに流れることだけを防止する「EPN」(出力制限)案を推している。しかし、放送事業者や権利者は、それでは著作権 保護が十分ではないと反対だ。海賊版のDVDを売られればダメージが大きいというわけだ。
 たしかに映画などは、テレビ放映やDVD化など二次利用を前提にしたビジネス・モデルになっている。だから、海賊版のDVDが流れればダメージは大きいだろう。
 けれども、無料放送をしている一般のテレビ番組も、コピーワンスでなくなれば制作もできなくなるほどダメージをうけるのだろうか。少なくともアナログのときよりダメージが大きくなることを証明しなければ、デジタル放送について特別ガードする理屈は成り立たない。

 ソニーの「ロケーションフリー」のように、ネット越しに録画を視聴するなどのメディア利用は、これからますます活発になることが予想される。制約 が多くなればなるほど、新たな可能性は閉ざされる。コピーワンスの制限をしているのは日本ぐらいのようだから、海外の人びとが享受している新たなサービス が、日本人だけには使えない、ということも起こるだろう。

●コピー制限が必要なほんとの理由は何?

 あらためて考えてみると、テレビ広告はけっこう異様な構造になっている。スポンサーにとっては、一度放送したらそれっきり、それを見ないともう見 ることができないという状況こそが望ましいはずだ。そうした切迫感がなくなればなくなるほど、視聴率が下がり、広告を見てもらえなくなる恐れがある。正規 のオンデマンドやDVD、あるいは再放送でさえも、テレビ広告にはダメージになりうる。スポンサー側は「再放送やDVD化をするんだったら、そのぶん視聴 率が下がる可能性があるのだから、広告費を安くしろ」という交渉だって理屈上はやれるのではないか。

 テレビ局としては、テレビ広告が盤石ならば、スポンサーがそんなことを言い出しかねないリスクまで抱えて、ネット配信やDVD化などをする必要は ないだろう。しかし、現実には、若者のテレビ離れに加えて、録画してCMを飛ばし見されるなど、テレビ広告の将来には不安な要素がある。現実に、番組のあ いだに入るスポット広告収入は落ちてきている。となれば、DVD販売や有料オンデマンド放送を成功させるためにも、コピー制限はますます必要に感じられ る。「著作権侵害をされるからコピー制限が必要」というばかりでなく、著作権法で認められている私的利用についてもできれば制限したいという発想が、放送 事業者側にはあるはずだ。
 デジタル化によって、劣化しないコピーが無限にできるばかりでなく、アナログ時代には考えられなかったぐらいに自在に コピー・コントロールもできるようになってきた。これまでは、容易にコピーできるメリットをユーザーが享受し、著作権侵害が問題になることが多かった。し かし、デジタル化によってコントロールできるメリットを、権利者側が利用する場面も増えてきた。その典型的な例がこのコピーワンスで、こうした変化を象徴 している。

 海外では、私的利用を妨げてはいけないと法律ではっきりと位置づけているところもある。しかし、日本の著作権法では、私的利用は、たんに認められ ているということでしかない。いわば「お目こぼし」されているにすぎない。だから海外では、「公共的な地上波放送を制限するのはとくに許されない」という 発想になるのに対し、日本では、「アナログのときにはコピー制限をする有効な方法なかったからやらなかったにすぎない」といった意見が出てくることにな る。

●コピー回数を増やす案が有力か

 総務省の情報通信審議会のこれまでの答申では、コピーは無限にできるがインターネットへの流出をふせぐ「EPN」を採用する方向に向かっていた。しかし、ここへきてムードが変わってきた。
  コピーワンスというのは1世代コピー可能という設定だ。放送を録画した時点で一度コピーしているわけだから、ハードディスクの録画はDVDなどに移動しか できないと説明されてきた。しかし、じつはそうではない「1世代」の解釈がありうるらしい。ハードディスクの録画からほかのメディアへのコピーが「1世 代」めで、3つのコピーが可能といった設定にもできるのだそうだ。
 メーカーとともにコピーワンスの仕組みを作ったインテルの社員が、この問題を 検討している総務省の委員会で昨年11月に明かし、衝撃を呼んだ。EPN賛成派と反対派、まっぷたつに意見が分れて、どうにもならなくなりかけてきたとこ ろでこうした妥協案が明らかになっただけに、その影響は大きかったようだ。
 その後この委員会では、12月にEPN賛成派と反対派に分かれて依然として議論が交わされたものの、1月、2月は別のテーマを検討し、3月にはふたたびこの問題について議論している(3月の議事録はこの原稿を書いている時点ではまだ公開されていない)。
  インテルが明かしたコピー回数制限案は、紛糾しているなかではいかにも議論の落ち着きどころのように見える。しかし、EPNならば、すでに売ってしまった かなりのレコーダーもファームウェアを更新するなどの形で対応可能であると思われるのに対し、コピー回数を変える場合はそうした方法では対応できないよう だ。メーカーサイドがこれまでこうした可能性を明かさなかったのはそのためもあるのだろう。
 はたしてこの決着、どういうことになるのだろうか。

afterword
 不可思議なことにコピーワンスを議論している総務省の委員会の今年2月までの配付資料はほとんどすべてネットで公開されているにもかかわらず、議論の焦点になってきた昨年11月のインテル社の資料は公開されていない。

関連サイト
デジタル化に対応できない貧乏人は「二度とテレビを観なくてけっこうです」というユーチューブで流れている総務省の告知映像のパロディ

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.481)

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