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2007.04.20

IT政策の揺り戻しが始まった?

あっさり決まりそうだったコピーワンスの撤廃が漂流している。
その理由はどこにあるのだろうか。
そして、安倍政権下のIT政策のゆくえは?

●迷走するコピーワンス問題

 このところデジタル放送の問題点について書いているが、この話のむずかしいところは、受信していない人にはまったく実感がないことだ。
  地上波デジタル放送は、昨年12月までに都道府県庁所在地すべてとその周辺などで始まっている。世帯数にして84パーセントがカバーされ、テレビやチュー ナー、ケーブルテレビなどの受信機も今年2月までに1860万台、全世帯の3分の1以上に相当する台数が出荷されている。とはいえ、複数台持っている家も あるだろうし、持っているものの見ていない、あるいは電波が届かなくて見れない世帯もあるから、実際に見ているのはもっと少ないはずだ。しかし、11年に アナログ放送を停止する予定だから、この4年ほどのうちには、誰しもデジタル放送の問題点を痛感することになる。
 デジタル放送の録画はコピーで きず、ハードディスク・レコーダーからDVDなどへ移動させることしかできない。どんどんコピーされて海賊版が出まわると困るという権利者側の意見にもと づいて、コピーワンスと呼ばれるこうした仕組みが導入された。その結果、著作権法で認められている私的利用まで制限されることになった。技術の選択肢が少 なかった導入当時はともかく、いまとなっては、これはやり過ぎだとかなり多くの人が思っている。
 実際、地上デジタル放送の活用や普及のために 05年7月に出された情報通信審議会の第2次中間答申でも、視聴者の利便性の向上と受信機の普及を図るためにコピーワンスなどの見直しは必要で、「年内を 目途に結論を得るよう努めることが望まれる」とされた。つまり、コピーワンス撤廃は、05年中にも決まりそうだったのだ。しかし、07年になってもまだ議 論は続いていて、結論が出ていない。

●コピーワンスの代替案

 昨年8月に出た第3次中間答申も、基本的にはやはりコピーワンス撤廃の方向が打ち出された。しかし、議論が噴出している様子も見てとれた。
 12 月までに対応することが必要と書く一方で、アナログ放送の録画もじつは問題だったのだとばかりに――「アナログ放送の時代には、技術的な抑止手段がなかっ たため、多くの視聴者が、著作権法上許容される『私的利用』の範囲内か否かを十分に吟味しないまま、オリジナルを残したままコンテンツを複製する行為を 行っていた」。あるいはコピーワンスは「一定の評価に値するものであり、原則的には堅持すべき」と、「ちゃぶ台をひっくり返すような」と死語になった比喩 を思わず使いたくなるような主張が列挙され、検討時に異論が出たことがうかがえた。
 不便な目に遭っている消費者や、評判の悪い装置を作らされて いるメーカーは、コピーワンスはやめてほしい、やめたいと思っているのに対し、放送事業者や制作者・出演者側は権利が侵害されることを恐れ、反対する。議 論が折り合わず、堂々めぐりを繰り返し、決着がつかずに時間が経つ‥‥という悪い流れが予感されるものだった。
 現在この問題を検討しているのは情報通信審議会の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」だ。議論を取り仕切っているのは日本のインターネットを生んだ村井純慶応大学教授だが、委員会のメンバーにはそれぞれ対立する立場の人びとがずらっと並んでいる。
 消費者としては、「デジタル・テレビを買おうと思っているんだから、早く決めてくれよ」とか「もう買っちゃった装置はいったいどうなるんだよ」と思うが、「紛糾度」はそうとうなものだ。
 当初、選択肢は次のようなものだった。

① コピーワンスのまま。
② コピー回数は無限にできるがインターネットへの流出を防ぐ「EPN」(出力制限)。
③ 移動に失敗した場合、録画が消えてしまうのが問題なのであれば、ハードディスクにバックアップが残るようにすればいいという限定解決案。
④ 番組によって①にしたり②にしたり、あるいはコピーフリーにしたりと設定を変える折衷案。

 

これらの案を議論している過程で、突如、5番目の案が浮上した。3回ほどコピーができるコピー回数制限案で、このところの有力な選択肢になっている。

 昨年7月に出た第3次中間答申では、コピー制限のもっともゆるい②の「『EPN』の取り扱いとしていく方向で検討」とあったのだから、消費者の立場からすれば、こうした選択肢が並ぶこと自体、すでに議論が逆戻りしているように見える。

●安倍政権は誰の味方か?

 昨年8月の第3次中間答申後、小泉政権が終わって安倍政権になった。それにともなって総務大臣も替わった。昨年9月までの大臣は改革派の急先鋒・ 竹中平蔵氏である。小泉・竹中時代の政策には賛否いろいろあるが、生産者の論理ではなくて、消費者・利用者のメリットになる形で制度を変えようとはしてい た。規制緩和が行なわれ、競争が激しくなれば、既得権にもとづいて利益をあげていた生産者は困ったことになるが、価格低下やサービス向上がはかられ、消費 者にはメリットになる、というわけだった。
 これまでは生産者優先の政策運営が多く、戦後の政権でほとんど初めての方向転換だったが、不特定多数 の人びとがコンテンツを作り広めていく利用者主導のウェブ2・0の時代の流れにもあっていた。こうした政権が終わり、揺り戻しが始まったことが、コピーワ ンスの検討にも現われている・・・・と言えば、関係者は邪推だというだろう。
 しかし、第3次中間答申を検討した委員会と、紛糾している現在の委員会の構成メンバーを見比べて一目でわかるのは、放送事業者や制作者などの権利者サイドが大幅に増えているということである。
 以前コピーワンスを検討していた委員会では、放送事業者は27人中6人に過ぎず、しかもそのうち2人は、オリジナル・コンテンツの少ないケーブルテレビの関係者だった。権利者団体のメンバーもいなかった。
 それに対し、現在の委員会は、30人中、NHKや民放キー局など放送事業者と権利者団体が半分を占めている。
 こうしたメンバー構成にした時点で、以前のような流れにならないことはわかりきっていたはすだ。議論の風向きは変わるべくして変わったことになる。
 現在の菅義偉総務大臣は、竹中時代の副大臣で、竹中改革を引き続き推進すると見られているが、少なくともこのメンバー構成を見るかぎり、コピーワンスには、「生産者の論理で押し通すようでは大臣が納得しない」といったプレッシャーが働いていないように思われる。
 安倍首相は、競争政策の促進に小泉政権ほど積極的ではない。格差問題がクローズアップされているから、それは当然かもしれない。しかし、それとともに、消費者・利用者の立場で政策を考えるという方向も一緒に消え始めているのではないか。

afterword
コピーワンスに替わって、コピー回数を制限する案が急浮上していると書いたけれど、どうやらその方向でまとまる可能性が高くなってきているようだ。唖然とさせられるその顛末についてはまた次回。(追記 日経エレクトロニクスのニュース記事が新しい情報を伝えています)

関連サイト
コピーワンスの問題を議論している総務省の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」。委員30人中、NHKや民放キー局など放送事業者が10人、権利者団体が5人。消費者代表は3人。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.480)

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