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2007.04.13

困りもののデジタル放送

11年のデジタル放送への移行という国家目標のもと、
あまり大っぴらには語られないものの、
デジタル放送にはいくつも困った点がある。

●画面が小さくなるデジタルテレビ

 デジタル放送というのは、どうもあつかいづらい。デジタル放送を見ることができる環境にはしたものの、結局、アナログ放送をアナログのテレビで見たり録画したりしていることも多い。
 ハードディスク・レコーダーがほしかったので、それを買うときにデジタルチューナー付きのにしたのが、デジタル放送とのつきあいの始まりだった。買ってすぐ、デジタル放送を、古いアナログ・テレビで見るのは最悪の取り合わせだということがわかった。
  地上アナログのテレビ放送は、縦横比4:3の画面なのにたいし、地上デジタル放送は縦横比16:9。ワイド画面でないアナログ・テレビで見ると画面のサイ ズがあわず、上下に何も表示されない黒い帯が入ってレターボックスと呼ばれる状態になる。上下だけでなく左右も黒い帯が入って額縁状態になることもある。
  ワイド画面のデジタル・テレビでデジタル放送を見ても、こうした問題は起こる。こんどは左右に黒い帯が入ってピラーボックスと呼ばれる状態になる。額縁状 態になることもやはりある。ズームの機能をつけて対処している製品もあるが、デジタルへの過渡期であることもあって、黒枠は絶滅できない。デジタル放送は 高画質が売りだが、画面が小さくなるのでは形なしだ。

 アナログ放送が停止したときには、デジタルチューナーを買って古いアナログ・テレビを使い続けようと思っている人はかなりいるはずだ。しかし、小 さいテレビ画面に黒枠が入ってさらに映像が小さくなるのでは、とても耐えられない。お金がある人はデジタルテレビに買い換え、そうでない人は不満を抱え続 けることになるだろう。

 次に気づいたのは、デフォルトのハイビジョン録画の設定でデジタル放送を録画するとハードディスクがたちまちいっぱいになってしまうということ だった。いまはテラバイト級の記憶容量のも出ているが、買った当時は250ギガバイトはそこそこの仕様だった。ハイビジョンで32時間近く録画できるはず だったが、ちょっと録画するともう満杯という印象だ。使い始める前に思っていた以上に録画できない。ハードディスクはタイムシフト視聴(時間をずらしてみ ること)のためで、長く保存するためにはDVDということなのだろうが、移すのは面倒だし、移してしまえばずっと見なくなる可能性が高い。画質を落とせば かなり録画できるが、それだったら、アナログ放送を録画したほうがいい。

 というのは、デジタル放送の録画には、悪名高い「コピーワンス」の壁があるからだ。コピーワンスの制限のかかっているデジタル放送をハードディス クなどに録画した映像は、DVDなどにコピーしようとしてもできない。ムーヴ(移動)だけになる。移動させている最中に、何らかの問題が起きて失敗すると 消えてしまう。メーカーによれば、そうした「事故」はいまはもうそうとう減っているというものの、アナログで自由にコピーできるのにデジタルではできない というのであれば、不便になっているとしか思えない。私的な使用のための複製は著作権法で認められているはずなのに、コピーワンスは利用者からそうした可 能性を奪っている。

 高画質のコピーが無限にできるデジタルでは、違法コピーによって放送事業者が受けるダメージが大きくなるから、コピー制限が必要ということで導入 されたわけだが、違法コピーをする人がいるからといって、正当な私的利用がなぜ妨げられなければならないのか。その理不尽さは消えはしない。
 アナログ放送をアナログのテレビで見ていれば、こうした問題は発生しない。不便だし、腹も立つから、デジタル放送を見たり録画するのはできるだけやめておこう、という気分にもなってくる。

●消費者の利便性が考えられなければ可能性はない

 こんなふうにデジタル放送があつかいにくいのであれば、画質にうるさいわけでもなくて、ただハードディスク・レコーダーがほしいという人は、少なくとも当面はアナログのハードディスク・レコーダーを買ってアナログ放送を見続けたほうがいいのではないか。
  アナログ放送が停止したときには、デジタル放送対応のテレビを買うなどの対策をとらなければならないにしても、アナログのハードディスク・レコーダーは、 もはやそうとう安くなっている。4年後に新たな出費が必要になったとしても、もっと便利な機器が手にはいるだろうから、割があわないということはないはず だ。
 大勢の人がデジタル放送を見ることができる装置を持っていなければ、ほんとうに11年にアナログ放送が停止するかどうかもわからない。電子 情報技術産業協会の調査では、テレビやチューナー、ケーブルテレビ経由あわせて地上デジタル放送受信機国内出荷台数は2007年2月までの累計で1860 万台になったという。目標を少し上まわるぐらいで推移しているというものの、普及台数の目標は11年の停止の時点に1億台。世帯数5100万すべてに普及 するためには、最低でもその半分は出荷していなければならない。下欄のように、あとになるほど普及の伸びが著しくなるという予想だが、お金のある人がまず 対応し、残されたお金の余裕のない人たちが、あと4年ですんなり受信環境をととのえてくれるかどうか。
 デジタル放送に魅力が必要、というのは、そのための基本条件だ。私が感じたように「アナログ放送を利用していたほうがいい」とか「ほんとにアナログ放送をやめられるのか」などと思う人がたくさんいれば、政府のもくろみは崩れる。

 推進するための方策を考えている人たちは、コピーワンスの問題をともかくなんとかしようとしている。総務省の情報通信審議会傘下の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」というところがこの問題を議論している。
  この委員会に消費者の立場で参加している主婦連のメンバーは、「視聴者であり消費者であり利用者である人々の立場というのが、まったく考慮されずに進んで きた」と怒り、ルールがないと消費者の利便を全く考慮に入れず、合法的な行動を機械的に制限することも当然であると考える業界が、国際的に通用するコンテ ンツビジネスを展開することは無理であり、「消費者の利便を考えるという思想がないところには、人々から支持され、発展する豊かなビジネスの展開はないと 思っています」と辛辣に批判している。こうした批判はマスメディアにはそれほど現われないが、使えば誰でもわかることだから、当然ながら、ネットでも不満 の声はあがっている。
 デジタルを開始した国のなかでコピーワンスを導入したのは日本だけのようで、となると、ますます理不尽に思われる。
 コピーワンスを変える必要があるということは、この委員会のメンバーの多くも感じている。しかし、実際にどうするかとなると、なかなかまとまらない。次回はそれについて書くことにしよう。

afterword
 この連載をアスキー新書にまとめる仕事をしているが、テレビについて書いた回が多い。アナログ放送の停止という「国家目標」が近づき、大きな変化が起こることがはっきりしているだけに、どうしてもそうなってしまう。

関連サイト
 総務省の懇談会の提言を受けてできた地上デジタル推進全国会議による「第7次デジタル放送推進のための行動計画」(PDF)(2006年12月1日)では、来年の北京オリンピックまでに全世帯のほぼ半分の2400万世帯、台数で3600万台の目標になっている。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol,479)

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