メディア企業の生き残る道
メディア状況が激変するなか、メディア企業の前にはどういった選択肢があるのか。
IBMが教える「メディア企業の生き延び方」。
●アイソのつかされないテレビ
前回紹介した米IBMのレポート「われわれが知っているテレビの終焉」は、メディア利用者が2つに分裂している、と言っていた。受動的な多くの視
聴者がいる一方で、機械好き・新しもの好き、あるいはケータイ文化やP2P、SNSなどにどっぷり浸かっている「クール・キッズ」、これらの層はオープン
にアクセスできるコンテンツに能動的に関わることを好み、数は少なくても、テレビのビジネスモデルに変化を引き起こしているとのことだった。
た
しかにテレビの見方はずいぶん変わってきた。ハードディスクレコーダーの録画を見ることが多くなり、リモコンを握りしめ、気になる画面があると頻繁に巻き
戻している。これは、明らかに「われわれが知っていたテレビ」の見方ではない。テレビは典型的なストリーミング・メディアで、次々と映像が流れていくもの
だった。立ち止まって戻ってみるというのは、本などの印刷メディアが得意とし、テレビの持ち味ではなかった。ところがテレビも、能動的に操作して自分の
ペースで視聴できるようになってきた。
このIBMの報告書では、いまのテレビが終わってパーソナル化していくということも指摘していた。わが家の場合も、あまりにしょっちゅう巻き戻すので、家族が一緒にテレビを見るのをいやがるぐらいに見方がパーソナル化してしまっている。
同じ番組を見ていても、当然ながら、興味を持つシーンはひとりひとり違っている。それぞれが真剣に見ようとすればするほど、テレビの視聴はパーソナル化し
ていかざるをえない。もしそうしたことが可能にならなければ、「テレビ番組はやっぱりつまらない」と思われる。実際、先端メディア利用者にテレビはアイソ
をつかされ始めている。こうした状態から脱するためには、能動的な視聴を可能にし、パーソナルな興味に応じられるようにニッチなコンテンツも増やしていく
必要があるだろう。
●メディア企業のビジネスモデル
つい最近、IBMは同じ研究者たちによる続編とも言える新たな報告書「メディア格差をナビゲートする」を発表した。いまのメディア状況がどのようなもので、どういった方向に進もうとしているのかを分析している。メディア利用者としても、頭の整理に役立つ。
昨年のレポートではメディア利用者を、オープンなアクセスを好むか、能動的なかかわりを望むかで分類していた。1年経って、能動的にかかわれるかに替わっ
て、プロが作ったコンテンツか、利用者がかかわったコンテンツかにもうひとつの軸をおいた。この1年、ミクシィのようなSNSやユーチューブの爆発的な成
長があったから、メディアのビジネスモデルを考えるのにCGM(消費者が生んだメディア)に注目するのは当然だろう。
この2つの基軸で、メディアを次の4つに分類している。
- テレビは、プロが作り、電波を使ってテレビ受信機に送信するのがあたりまえだった。音楽も、プロのミュージシャンの曲がCDやDVDになってレコード店に配られた。プロが作り、固有の経路や装置を使う、従来型のメディアがまずある。
- 次に、固有の装置やアクセス環境を使って、ユーザーが作ったものも含めたニッチなコンテンツを配布するメディア。というとわかりにくいが、i モードなどがこれにあたるという。契約企業だけがサービスを提供できるが、そのコンテンツはバリエーションに富んでいて、ニッチなものもある、というわけ だ。
- つい最近、イギリスの公共放送BBCは、そのコンテンツをユーチューブで流すことを発表した。アメリカのテレビ局や映画会社、音楽企業なども、 ユーチューブを積極的に利用するところが増えてきている。このようにプロが作ったコンテンツを、オープンな流通回路で多様な装置に送り届ける新しい動きが 始まっている。
- さらに、ユーチューブやマイスペース、ミクシィなど、ユーザーが作ったコンテンツを、オープンな流通経路でアクセス可能にする、もっとも先端的なメディアの形がある。
この4つはそれぞれ複合的に運用されることも多く、少なくともこれから3年から5年は共存するものの、そういつまでもは続かない可能性があると報 告書は指摘している。メディア企業と一口に言っても、コンテンツの流通を担っている企業とコンテンツを制作している企業のあいだで利害の違いがはっきりし てくるからだ。
●「仲間割れ」するメディア企業
コンテンツ企業は、流通経路が多様なほうがいい。コンテンツの利用価値が高まるし、広告媒体としての魅力も増す。コンテンツの流通を担う企業が相
互に競争することで、流通コストが下がることも期待できる。しかし、一般の人びとがおもしろいコンテンツを作って配布するようになれば、自分たちのコンテ
ンツの経済的価値が下がる恐れがある。
一方、コンテンツの流通を担っている通信会社や放送会社なとって、経路の多様化は、ライバルが増え、利益
に減少にながる可能性が高い。しかし、コンテンツの種類の増加は望ましい。一般の人びとに、プロに負けないものをどんどん作ってもらえば、高いお金を払っ
てコンテンツ企業から購入しなくてもよくなるかもしれない。
このように配信を担っているメディア企業はコンテンツの種類の増加を望み、コンテンツを作っている企業は、流通経路が増えることを望む。そして、
それぞれの側の企業は、同じ陣営のライバルが増えることは望まない。既存のメディア企業間の利害が相反し、従来型のメディア企業のビジネスモデルが崩壊し
ていくというのが、この報告書がほのめかしている変化の構図のようだ。こうしたことはうすうすとは感じていても、整理して示されるとなるほどという感じが
する。
とはいえ、メディア企業は、従来型のビジネスモデルでまだしばらくは利益を確保できるとも見ている。しかし、新興のネット企業ははるかに速いペースで成長しており、何も手を打たなければ生き残れないと予測する。
反対に、従来型のメディア企業も、ビジネスモデルの大革命に驀進するという選択肢も考えられる。誰もが手にできる未開の地が広がっているのだから可能ではあるが、いまのメディア資産を失う恐れもあり、慎重に進めるべきだと書かれている。
結局のところ、メディア資産の強みにしたがってそれぞれが方向を選ぶべき、というのがこの報告書がメディア企業に勧める穏当な提案のようだ。
利用者にすれば、どんどん便利で安くおもしろいコンテンツにアクセスできるようになってほしいし、とくに日本の動きは遅々としているように思うが、日本の
メディア企業としてはやはり、オープン化したときの損得を慎重に見きわめ、アメリカでの推移なども見ながらゆっくり対応していくということなのかもしれな
い。
afterword
上の報告書は、消費者をビジネスや経営の中心に据えろ、とか、消費者のデータで競争力をつけろ、メディア利用体験で差別化すべし、などと具体的な処方箋も示しているが、メディア企業以外ではすでにやっていることだろう。
関連サイト
米IBMビジネス・バリュー研究所の調査報告書「メディア格差をナビゲートする(Navigating the Media Divide: Innovating and Enabling New Business Models)」。IBMはパソコン事業を売却する一方で、事業戦略のコンサルティングなどのサービス部門を強化している。こうした報告書をもとにメディア関係のサポート業務も増やしていくつもりなのだろう。
(週刊アスキー「仮想報道」Vol.477)
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