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2007.03.23

テレビなんて、と思っている人が多いのにテレビが売れる理由

「連ドラにはまった」と本誌に書いたら、
思わぬ波紋が起きた。
何かいけないことをしているような気分さえしてきたが‥‥

●連ドラ漬けでなぜ悪い?

 原稿を書いていると、いろいろな反応がある。ネットで猛反発が起きたり、公開質問状が送られてきたり、新興宗教から訴えると抗議が来たり。それなりに波瀾万丈なんだけど、「連ドラにはまっている」と本欄で書いたら、またまたちょっとびっくりの反応があった。
  まずネットでは、ニフティのトップページに写真入りで「ジャーナリストが連ドラ漬け?」という文字が踊った。ジャーナリズムかどうかは他人が決めるものだ と思っているので、自分ではあまり名乗らないようにしているのだけれど、こう書かれると、世のジャーナリストに何かとても申し訳ないことをしてしまったよ うな気がしてきた。
 連ドラ漬けになっていると書いた反響は、ネット以外でもけっこうあった。テレビなんてぜんぜん見ないという人が多くて、まし てや連ドラは、テレビ番組のなかでいよいよ見てはいけないものだったようだ。街を歩けば「え、歌田さん、連ドラにはまっているの」と声をかけられる‥‥と いうのは大げさだけど、会った人の何人かには言われた。そして、その言い方には、どこか非難めいた口調も漂っているようだった。
 そんなものを見ているヒマがあれば仕事してくださいよ、という反応はある程度予想していた。
  でもね。大臣までやった元大物政治家の息子の助教授が警察に捕まった、とつい最近メディアでかなり大きく報じられていた。不眠症になり、睡眠薬を大量に飲 んでも眠れず、アル中になり、さらには麻薬にまで手を出したのだそうだ。なぜそんなふうになったのか詳しくは知らないが、世の中にはたしかにつらいことも あるし、眠れないこともある。でも、連ドラにはまっているおかげで憂さが晴れ、アル中にもヤク中にもならずにすめば、これほどハッピーなことはないんじゃ ないか。

●「今日の殺人」番組から逃れて

 私が連ドラに「手を出した」のも、まぎれもなく世の中の憂さから逃れるためだった。
 家にいるときはだいたいいつも夜の10時ぐらいに ニュース番組を見ながら晩ご飯を食べていた。この時間帯にはNHKもニュース番組をやっていたが、1時間早まり、テレビ朝日の「報道ステーション」だけに なった。先行するNHKと差別化をはかるためだろうが、「報道ステーション」は、陰惨な殺人事件などをのっけから連日詳しくとりあげる。わけのわからない 殺人事件がこのところ立て続けに起こってはいるが、こちらとしては、ようやく晩ご飯にありついたときに、哀れな犠牲者がどうつらい目にあってあの世に行っ たのか、などという話をこと細かに聞きたくはない。で、何か見るものはないかと連ドラを見始め、やがて録画してまで見るようになってしまったというわけ だ。ちょっとのきっかけがあれば、リアルタイム視聴をやめて、ハードディスク録画再生に移ってしまう、いまのメディア行動の典型的なパターンをたどったわ けである。
 しかし、テレビを見ている人は多いはずなのに、連ドラを見ているだけで、なんでそんなにいぶかしい目で見られなければならないのだろ うか。私と連ドラの取り合わせが悪かった、ということもあるのかもしれないが、たまたま読んだIBMのレポートには、その理由らしきものが書かれていた。

●「クール・キッズ」がメディア利用を変革する

 IBMの報告書によると、年齢に応じて消費者はおおむね次の3通りに分類できるという。
 圧倒的に多いのは、受動的なメディア利用者。こ の層では、テレビはもっとも人気のあるメディアで、連ドラにはまったぐらいで浮くことはないだろう。報告書は、このグループは、比較的、年齢層が高いと見 ている。この層も、録画して、自分の時間にあわせてテレビを見たりと、だんだんと能動的なメディア利用のほうに移行していく。しかし、コンテンツへのオー プンなアクセスはそれほど望んでいない。
 それに対して、20代・30代の機械好き・新しもの好きの人たちは、テレビだけでなく、パソコンを使っ てオープンなプラットホームのコンテンツに能動的にアクセスすることを好む。グーグルで検索し「有楽町のビックカメラ」で買い物したりする(とアメリカの IBMの報告書なのになぜか書かれている)。
 そして、三番目の層は「クール・キッズ」。SNSやメッセンジャーを使ってばんばん情報交換し、 P2Pでダウンロードもする。10代などもっとも若い世代がこれにあたる。情報を共有することにも積極的だ。ただし、お金がない。もっぱらケータイのサー ビスを使い倒しているが、端末に依存せず、いつどこででもコンテンツにアクセスできる環境をもっとも強く望んでいる。
 このように、編成された番組を受け入れている受動的なメディア利用者と、オープンにアクセスできるコンテンツに能動的に関わることを望むあとの2つの層に、消費者が二極分化していると報告書は分析している。

●連ドラ視聴がいぶかしく見られる理由

 報告書には書かれていないけれど、ほかの世代に比べてテレビ好きの高年齢層にはお金の余裕のある人もいるから、高価な大型テレビがびっくりするほど売れても不思議はない。
  とはいえ、電器メーカーがもっとも利益をあげられるのは2番目の「機械好き」の層だと報告書は見ている。この層もテレビを買いはしても、お気に入りの DVDを見たりするぐらいで番組をあまり見ず、もっぱらパソコンでユーチューブにはまっていたりするのかもしれない。そして、連ドラなんて旧時代の遺物だ と思っている。本誌の読者にもそういう人は多いだろう。
 で、私のまわりに多いのも、この層である。こういう人たちに囲まれていることも知らずに、うかつに「連ドラにはまっている」なんて書いたものだから、なんて古いやつだと非難のまなざしで見られる羽目になってしまった‥‥というわけなのだろう。
 こんな観点で見ると、この報告書、ほんとによくできている。謎解きに役立つデータがいろいろと提供されている。
  選択肢が爆発的に増えた結果として、テレビ視聴者は、大衆向けのコンテンツよりも、ターゲットをしぼったニッチなコンテンツを好む傾向が強くなっている。 アメリカでは、大手ネットワークのテレビ放送の視聴率は10年で20パーセント近く下がり、専門チャンネルがそろっているケーブルテレビ視聴者が逆に20 パーセント近く増えた。そして、アメリカの平均的な家庭は91チャンネル視聴もしているのだそうだ。
 日本では、アメリカほど、多チャンネル環境があたりまえになってはいない。つまり、日本のテレビはコンテンツのバリエーションが少なく、能動的なメディア利用者の欲求に応じられてはいない。だから、ますます「へ、テレビなんて」ということになるのだろう。

afterword
 上の報告書は、録画や動画再生のコストが劇的に下がっていくので、コンテンツ提供側がしかるべき対応をしない場合、利用者は自分たちでネット越しに録画を見る環境を整えてしまうだろうとも予想している。

関連サイト
 IBMの調査報告書「われわれが知っているテレビの終焉」。つい最近、IBMは新しい報告書を出した。それについてはまた来週。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.476)

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