世界最大のSNS『マイスペース』を創ったのは誰だ?
日本に上陸を果たした注目のSNSは、
その誕生の経緯からして謎に包まれている。
誰が創ったのかについてさえ、議論になっている。
●マイスペース出生の秘密
11月に日本に上陸した世界最大のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)『マイスペース』の歴史は、振り返ってみると、なかなかおもしろい。
「歴史」と言っても、03年7月に生まれたので、わずか3年半ほどしかないのだが、それでも波瀾万丈なのだ。あまりにいろいろあって、この見開きページですべて書くことはとてもできないほどだ。
そもそもこのサイト、誰が創立者かについて揉めている。
オフィシャル・ストーリーでは、創立者はCEOのクリス・デウォルフと社長のトム・アンダーソンの2人。
カリフォルニア大学のビジネススクールで学んだデウォルフがビジネス・プランを考え、ミュージシャン志望だったアンダーソンが、音楽志向の強いマイスペースのアイデアを練ったと言われている。
CNNの「マネー」ページに掲載されている「マイスペースのカーボーイたち」という昨年夏の記事によれば、マイスペースの誕生と発展の歴史は次のようなものだ。
創立者の2人が会ったのは2000年のこと。デウォルフは、Xドライブというデータ・ストレッジ会社の営業責任者だった。学費の返済に追われてカ
ネのなかったアンダーソンは、Xドライブの製品テストの20ドルの仕事に応募した。デウォルフに気に入られ採用されたものの、Xドライブは、ITバブル崩
壊のあおりを受けてまもなく倒産。気があった2人は、インターネット・マーケティング会社を設立し、1年も経たないうちにeユニバースという会社に数百万
ドルで事業を売り、自分たちもそこの社員になった。
02年後半、アンダーソンは、SNSが次の大きな目標だと見定め、翌年夏にマイスペースを立
ち上げた。地元のミュージシャンに会員登録を働きかけて、先行するSNSと違いを出した。しかし、「ユーザーのコンテンツではカネにならない」とeユニ
バースの幹部などから言われ、前途に暗雲が覆いかけたところに、SNSの可能性を感じていたローゼンブラットがeユニバースの新しいCEOとしてやってき
た。当時の人気SNS『フレンドスター』は殺到するアクセスに対応できず、ページを開くのに時間がかかった。それに、ペットの名前で登録するなどいい加減
なものは排除し、「無菌化」しようとした。これを見て、アンダーソンは「しめた」と思った。ユーザーが好きなことのできるマイスペースのチャンスだと思っ
たのだ。実際、マイスペースは急速に会員登録を増やしていった。しかし、それに見あった投資も必要になってきて、アンダーソンらは、悩んだ末に、05年7
月、58億ドルで、マイスペースが親会社ぐるみ、マードック率いるニューズ社の傘下に入ることを承諾した、というのがCNNの記事がたどってみせたマイス
ペースの歴史である。
●もう一人の創立者
ところが、である。自分こそが中心になってマイスペースを作ったのだ、と強烈に主張している人物がいる。
右のCNNの記事でも、マイスペースの所有権には多少微妙なところがあるのではないかと思った人もいるかもしれない。
ヤフーやグーグルは、創立者がサイトを作って会社を設立し、誕生当初からサイトの所有者だった。ところが、マイスペースの場合は、eユニバースの社員である2人が、会社の仕事としてサイトを立ち上げている。
権利関係については契約書を交わされてきちんと整理されているようだが、マイスペース設立のプロジェクトを誰がリードしたのかについては異論がある。
ローゼンブラットの前任者、つまりマイスペース誕生時のCEOブラッド・グリーンスパンが、『フリー・マイスペース』というサイトを立ち上げ、もうひとつ
のストーリーを語っている。彼がサイトに載せた文書群のひとつ「マイスペース:誕生の物語」に書かれた設立の経緯は、先のCNNの記事とはそうとう違って
いる。グリーンスパンが、デウォルフなどとやりとりしたメールなども公開して主張しているところによれば、マイスペースは次のように誕生したという。
●もうひとつのマイスペースの歴史
03年の夏、グリーンスパンは、フレンドスターがメディアの注目を集めているのを見て、自分たちも対抗するサイトを作ろうと思った。eユニバース
は300人の社員を抱え、エンターテイメントやマーケティングに関するサービスをやっていて、対抗するサイトを作れるだけの技術力があった。
またeユニバースが運営する一連のサイトには、月1860万のユニーク・ユーザーがいて全米20位の地位を占めていた。自分たちの抱えるユーザーに働きかければ、成功するチャンスは後続でも十分あると見てとった。
社内のいくつもの部署とミーティングを重ね、誰がこの仕事に適任かを検討した。そのうえで、デウォルフたちのチームにやらせることを決めた。
けれども、デウォルフやアンダーソンは、「eユニバース」というサイト名で有料会員制度にすることを提案した。それを退けて、「マイスペース」という名前
にこだわり、無料でやることを決めたのはグリーンスパンだという。マイスペースの成功を信じ、eユニバースが運営している有料サービスの会員が乗り換えて
しまうのをいとわず、ユーザーに対してアグレッシブな勧誘をやった、とグリーンスパンは述べている。
会員数は順調に伸びていったが、10月に
なって、ベンチャーキャピタルがeユニバースの支配権を不正に握り、自分を追い出した。デウォルフたちは、マイスペースの権利を手に入れることに熱心で、
一方、新任のCEOローゼンブラットは、自分が始めたSNSのほうに執心していてマイスペースには興味を示さず、デウォルフらに大幅に権利をゆだねてし
まった、というのが、グリーンスパンの主張である。
ニューズ社のマイスペース買収について、株主に十分に情報を開示せず、不当に安い額で買収に応じたと、グリーンスパンは、10月始め司法省や証券
取引委員会、上院金融委員会に訴えた。裁判所はすぐに却下したが、グリーンスパンは、自分のやっているSNSにマイスペースからリンクを張れないように検
閲が行なわれていると、新たな告訴で反撃している。
ニューズ社側の弁護士は、「ねたみが高じたすえの常軌を逸した行動」とグリーンスパンの抗議を一蹴しているが、サイトで公開している文書の量からも、彼の執念は見てとれる。
いくつもの事業を成功させてきたグリーンスパンは、カネには困っていないようで、中国に進出するための投資会社や音楽関係のサイトを作るなど、旺 盛な事業欲を変わらず見せている。今もってマイスペースの親会社の大株主の一人でもあるようで、その株の価値も上がっている。日本的感覚でいえば、「いつ までも根に持っていないで新たな仕事に専念したら」ということになるかもしれないが、あくまでも納得いかない、というのがグリーンスパンの思いのようだ。
afterword
この話はこれで終わりではない。グリーンスパンの意見などをもとにして、マイスペースの実態はウェブ2・0などではなく、スパム2・0だという告発も出ている。次回も、マイスペースをめぐる騒動をとりあげる。
関連サイト
●『マイスペース』設立時のCEOグリーンスパンが、『フリーマイスペース』というサイトで公開している数々の文書のひとつ「マイスペース誕生の物語」。
●アジア進出のためにグリーンスパンが作った投資会社『ブロードウェブアジア』。SNSやオンライン・エンターテイメント、検索の分野でアジア最大になることを目標に、投資や買収をするという。
(週刊アスキー「仮想報道」Vol.467)
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