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2006.11.10

事実上、無限のチャンネルを持つテレビ

テレビ受像機の用途はあまりに限られ、
テレビ局は驚くほど恵まれた存在だった‥‥と、
実感される時代が着実に来つつある。

●一変しつつあるテレビ視聴

 家の中でテレビほどいい位置を占めている装置はない。ほとんどの家庭で居間の中心の一等地にある。それなのに、長らく、東京などの大都市でもわず か6つのテレビ局がその画面を占有していた。その後、ビデオやゲームの表示媒体にもなり、衛星放送やケーブルテレビが出てきてもう少し用途が増えた。それ でも、地上波のテレビ局の優位は揺らいでいない。
 その一方、デジタル・ビデオ・レコーダー(DVR)が普及し、テレビの見方は大きく変わり始め ている。私も以前は、食事のときなどすぐにテレビをつけて、ヒマだからという理由だけで、たいして興味がない番組でも見ていた。しかし、そうしたテレビの 見方は過去のものになってきた。リアルタイムのテレビを見るかわりに、DVRで録画した番組のなかから選んで再生ボタンを押すことが多くなった。一度録画 設定しておけば、毎日あるいは毎週、自動的に録画され、またたくまに録画が増える。それをどんどん見ないと、溜まっていく一方だ。
 さらに、いま やっているテレビ番組も、すぐには見ないようになった。DVRは録画中も再生できる。だから、1時間番組なら15分ぐらい遅れて録画のほうを見る。CMを 飛ばしながら見れば、リアルタイムの放送と同じぐらいに見終わることができ、CMを見ていたはずの15分間はまるごと別のことがやれる。
 まあ、こんな具合で、テレビ放送は、ナマで見るのではなくて、まず録画してから見るようになってきた。もちろんアナログ・ビデオの時代にも録画はしたが、ビデオを探すのが厄介だった。チャンネルを選ぶ感覚で録画を見始められるようになって、探す面倒くささがなくなった。
  ネットで、カスタマイズの機能が進化し、フィルタリングがすぐれたものになっていけばいくほど、自分の関心のある情報しか出会わなくなると言われている が、テレビも録画ばかり見るようになると、同じことが起きる。それがいいことかどうかはともかく、便利であることは確かで、どんどん「DVR視聴」には まっていく。
 DVRを持っている人は、多かれ少なかれそうなっているのではないか。
 それぐらい影響力があり、忙しい人には強力な味方にもなる。だから、価格がお手頃になれば普及するのは当然だ。そしてそうなれば、テレビ広告は大きな影響を受けることになる。

●記憶されていないテレビ広告

 テレビCMは、広告のなかでもとりわけ押しつけがましい存在だ。
 雑誌は目次を見て、読みたいページをいきなり開いて見ることができる。紙メディアの広告は、飛ばし見するのもじっくり見るのも読者の裁量に任されている。
 それにたいしテレビは、録画してスキップしないかぎりは避けようがない。せいぜいトイレに立つなど、消極的な抵抗をするしかない。
 アメリカの広告コンサルタントが書いた『テレビCM崩壊』(Joseph Jaffe著、翔泳社)という本は、テレビCMに恨みがあるんじゃないかというぐらいに辛辣な調子で、

「テレビCMは、少なくとも現状の形では、すでに死んだ、あるいは死に行く運命にある、または、役割をすでに終えてしまったフォーマットなのだ」

 と説いている。
 この本が紹介している次のような数字を知ると、こうした過激な言葉も極端とは思えない。
 75 パーセントの人が「ながら視聴」をし、47パーセントの視聴者が番組終了後あるいはコマーシャルをスキップするためにチャンネルを替えている。これらの数 字はいずれも上昇していて、その結果、前日見たコマーシャルのブランド名を覚えている人の割合は激減した。65年には34パーセントの人が覚えていたが、 2000年には9パーセントになってしまい、現在では、おそらくもっと減っているという。
 つまり、視聴率が高い番組でも、CMがほんとうに見られているかどうかは怪しいわけだ。コマーシャルになるとチャンネルを替えたり、トイレに行ったり、新聞や雑誌を読んだりと、実際はCMを見ていないことが多い。
  そして、DVRを買えば、54パーセントの人がCMの75~100パーセントを飛ばしているという。これからDVRを購入したい人も、83パーセントが CMを飛ばして見ると答え、DVRが3000万世帯に普及したさいには、テレビ広告予算は40パーセント削減されると調査会社は予想する。そして、広告業 界の幹部の5人に1人は、DVRによってテレビCMは幕を閉じると考えているとのことだ。
 これらのデータはアメリカのものだが、以前本欄で紹介した日本の調査も似たようなものだった。

 広告費が減少すれば、制作費が減って番組の質が低下し、視聴者が減る悪循環に陥るといったことも、この本の中で指摘されている。番組の質が落ちて しまうのは困るが、「もはやテレビの時代じゃないよ。ネットだよ」という人には、ネットがおもしろくなればそれでいいかもしれない。動画配信サイトのユー チューブは、「ファクト・シート」にこう書いている。

「2005年のネット広告市場は、前年度30パーセント増の 125億ドルと見積もられ、今年インターネットの動画が爆発的に普及し、家庭からのブロードバンド・アクセスが増えた。消費者はますます多くの時間をウェ ブ上で過ごすようになり、企業は、広告予算を伝統的なテレビ市場からオンライン・ビデオの市場に移している」。

 まさにユーチューブのようなサイトの出番というわけだが、テレビ業界からすれば、ユーチューブに言われると、頭に来るといったところかもしれない。

●テレビ局が受像器を独占する時代の終わり

 テレビ局とは持ちつ持たれつの関係にあるはずのテレビ・メーカーも、テレビ受像器を、テレビ番組を映すだけの装置とはますます見なくなってきた。 電気店に行くと、大画面の高精細デジタル・テレビがずらっと並んでいる。こうしたハードの進化は一見してわかるが、中身の変化の準備も着々と進んでいる。
  ネットには、『GYAO』や『ヤフー動画』のような映像コンテンツ配信サイトが増えている。シャープからは今年5月インターネットにアクセスできる“テレ ビ”「インターネットAQUOS」が発売されたが、松下電器やソニー、シャープ、東芝、日立、ソネットエンタテインメントが共同で会社を作り、動画配信サ イトを共通テレビポータルに「チャンネル」として並べ、簡単なリモコン操作でネットの映像コンテンツをテレビに映し出そうとしている。来年2月に静止画と テキストでテレビポータル・サービスを開始、来年度中にストリーミングによるビデオ・オン・デマンド、08年度中には、ダウンロード型の配信サービスを始 める予定だ。
 テレビ受像機は、こうして本格的にネットの動画コンテンツの表示媒体になっていく。そうなれば、録画しておかなくても、オンデマンドで好きなときに好きなコンテンツを見ることができるようになる。
  共通テレビポータルでは、茶の間でも安心して見れるように組みこんだ動画配信サービスにだけアクセスできるようにするとのことだが、コンテンツ提供はオー プンな形で受け付けるので、原理的には、「チャンネル数」を無限に増やせる。動画配信サービスから見れば、ポータルサイトに組みこまれさえすれば、居間の 一等地のテレビに進出できる。
 テレビで、最大でも7つのチャンネルしか見れなかった時代は遠くなり、数百チャンネルが提供されている衛星放送時代を経て、居間のテレビで事実上無限のコンテンツにアクセスできる時代が来ようとしている。

    *

 「共通テレビポータル」は、有料コンテンツの視聴もあつかうようだ。テレビは、決済装置の機能も担うようになっていくのだろう。

関連サイト
●Joseph Jaffe著『テレビCM崩壊――マス広告の終焉と動き始めたマーケティング2.0 』織田浩一・監修、翔泳社。
●松下電器やソニー、シャープ、東芝、日立、ソネットエンタテインメントが設立した会社によるデジタルテレビ向けの共通テレビポータル・サイト「アクトビラ」。来年2月にテレビポータル・サービスを開始する。
●NTTコミュニケーションズのテレビポータル「DoTV(ドゥー・ティー・ビー)」

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.458)

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