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2006.11.03

映像コンテンツ企業の考え方を変えたユーチューブ

ユーチューブは、コンテンツについての
メディア企業の考え方を変えた。
これは、大きな変化のきっかけになるかもしれない

●名よりも実をとり始めたテレビ局

 グーグルは10月9日、人気動画配信サイト『ユーチューブ』の買収を発表した。ユーチューブは買収後も独立のブランドで事業を続け、著作物の使用 を検知するシステムを年内をめどに導入するとのことだった。音楽企業は、その仕組みを使ってかたわらに広告を出すことで、楽曲の使用を認めた・・・・とい う話を前回書いたが、ユーチューブはまた、大手テレビ局のCBSとも同様の興味深い提携を発表している。
 CBSは、ニュース、スポーツ、エンターテイメントの短いビデオ・クリップをユーチューブで流し、さらにCBSのコンテンツをアップしたユーザーの動画について、

「削除を求める場合もあるし、CBSの裁量によって、そのままにすることもある。CBSがそのままにすることを認めるときには、コンテンツに付随している広告から得られる収入の一部をもらい受ける」

 と言う。
 何だか尊大な言い回しだが、要するに、選択権はあくまでテレビ局側にあることを強調したいのだろう。ともかくもこうした決定によって、大手メディア企業の映像を合法的に共有する道が開け始めた。

 著作権侵害対策としてユーチューブは、非登録利用者によるアップを10分以内の動画にかぎっている。このルールのおかげで、大手メディア企業がユーチューブに歩みよる余地は出てきていた。
 映画会社やテレビ局は、プロモーション映像を作って広告を打っている。それぐらいだから、勝手に使われるのはいやだという感情的な抵抗感さえ払拭できれば、10分以内の映像を使われても損にならないことは多い。

 アメリカの三大ネットワークのひとつNBCも、2月に番組のコンテンツが使われたときには削除を申し入れた。しかし、ユーチューブでアップされる と番組の視聴が増えることに気がついた。このときのユーチューブの対応がよかったこともあり、6月末には、ユーチューブで秋のラインナップの宣伝をするこ とを決めている。

 こんどの提携によって、テレビ局は、不特定多数の利用者にタダで宣伝してもらって、広告料金を払うどころか、逆にもらえることになったわけで、頭 を冷やして考えてみれば、これほどおいしい話はないともいえる。CBS以外にも、名よりも実をとるテレビ局が出てきても不思議はない。

●絶妙のタイミングで行なわれた合意

 こうした変化はまさに絶妙のタイミングで起こった。というのは、当初から懸念されていたように、ユーチューブは、著作権侵害で訴えられ始めていたからだ。
  7月には、92年のロサンジェルス暴動を撮影したジャーナリストが、ユーチューブは映像の使用許諾権を侵害して利益をあげたと訴えた。9月半ばには、最大 手のレコード会社ユニバーサル・ミュージックの幹部が、何千万ドルもの被害を受けたのでユーチューブやアメリカのトップSNS「マイスペース」を訴えると 投資家向けの集まりで語ったことが報道されている。

 アメリカの著作権法は日本とはかなり異なっている。簡単に言ってしまえば、日本では、複製するかどうかを認める権利は著作権者にあり、許諾がなけ れば、教育目的とか私的利用など明確に規定された用途以外の複製は認められない。ところが、アメリカには、「公正利用(フェアユース)」については認める というグレイゾーンがある。
 公正利用は、

 ①利用の目的と性格、
 ②著作物の性格、
 ③利用する著作物の量と質、
 ④著作物の市場価値へのダメージ

 この4点についてそれぞれ検討して著作権侵害かどうかを判定する。さらに、著作権を侵害したとされる技術が活かされない場合の社会的損失についても勘案されることがあるようだ。
 日本の裁判所は(よくいえば)技術についてニュートラルであるのにたいし、アメリカの場合は、裁判所からして、新しい技術を推進する方向で判断できるものならしたいというムードが、裁判の判決文などにも漂っていることがある。

 そうした背景もあってのことと思われるが、ユーチューブは、先のジャーナリストに訴えられるまでは、時間の問題とは言われながらも裁判沙汰になら ずにすんでいた。もちろんユーチューブの広告がまだ少なくて、賠償金が取れたとしてもそれなりの額でしかなかったことも、訴えられなかった大きな理由だろ う。しかし、しだいに広告が載り始め、「お目こぼし」はなくなった。
 まさにそうしたときに、ワーナー・ミュージックが楽曲の使用を認めることを発表した。続いて、訴えると言っていたユニバーサル・ミュージックまでも、ユーチューブと提携してしまった。そして、CBSも追随したわけだ。

 もちろん映画やDVDなどの映像コンテンツは、まるごとアップされてしまえば映像企業はダメージを受けるだろう。たとえ10分以内の動画にかぎっ たとしても、6つに分けてアップされれば、1時間番組すべてを見られてしまう。どんなコンテンツについてもできることではないし、メディア企業は許諾の仕 方も工夫するにちがいない。著作物の自動検知システムを使い、連続ドラマならば、最初のほうの回だけ共有を認めて、ほかの回については削除を求めるなど、 きめ細かい対応をするだろう。

 また、メディア企業の規制の範囲内の動画が多くなってきたときに、はたしてユーチューブが現在の人気を維持できるかどうかもわからない。さらに、合意したメディア企業以外から今後とも訴訟が起きる可能性は十分ある。
 現実に、ユーチューブとの提携を発表したユニバーサル・ミュージックは、ソニー・ピクチャーズが買収した動画配信サイト『グルーパー』などを著作権侵害で訴えている。これから訴訟の嵐が吹き荒れるかもしれない。
 けれども少なくとも、ユーチューブが、映像企業の考え方を変え始めたことは確かである。

●広告を変えたフラットなコミュニティ

 8月、大手テレビ局のFOXが番組宣伝をするためにスポンサーになり、パリス・ヒルトンのデビュー・アルバムのプロモーション・ビデオを流す特別ページがユーチューブに作られた。その反応もまた、コンテンツ企業の考え方に影響をあたえてしかるべきものだった。

 パリス・ヒルトンは、ホテル王ヒルトン一族のじゃじゃ馬娘で、彼女のスキャンダラスな性格もあって、このプロモーションは波紋を呼んだ。
  ユーチューブは、トップページにこうしたプロモーション・ビデオを載せたりバナー広告を出したりしているものの、できるだけ一般の動画と同じようにしたい ふうではある。しかし、特別扱いされなければ、スポンサーはお金を出す意味がない。ユーチューブはかなり微妙なさじ加減をしているように思われるが、それ でも批判は出た。コメント欄には、「彼女が自分でクリップをアップしたんじゃないだろ」とか「彼女はこのサイトを見にも来ないんじゃないか」などと書きこ まれている。おもしろいと思った映像を自分でアップするのがユーチューブのルールで、それに反しているというわけだ。
 このプロモーションは失敗 だったという声さえある。デビュー・アルバムは注目されたようだし、ほんとうに失敗だったのかどうかはわからない。しかし、フラットなコミュニティに特別 扱いのコンテンツが紛れこむのはそもそも微妙である。特別扱いにしてもらうと反発が生まれる可能性があるのなら、いっそのこと「”コンテンツを自由に使っ ていい”という具合にして利用者自身に広めてもらおう」と、宣伝したい側が考えるのは自然の成り行きだ。不特定多数の人がコンテンツを作り、公開し、評価 し、再頒布するというフラット志向の強いサイトの構造そのものも、メディア企業の考え方に影響をあたえずにはいない。

   *

 ユーチューブのこうした騒動を横目で見ながら、ネットによる動画配信が今後大化けすると、日本でも一部の関係者が色めきだっている。次回は、日本のテレビとネットの動画配信の関係をとりあげる。

関連サイト
『YouTube』の「パリス・ヒルトン・チャンネル」
●東京のUHF局メトロポリタンテレビジョンも、視聴者拡大にプラスということで、「BlogTV」という番組をユーチューブで公開している。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.457)

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