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2006.11.17

ネットでケンカに勝つ方法

主張の是非やサービスの良し悪しだけでなく、
ネットでは、リンク構造によって勝ち負けが決まる。
そうしたことを考えさせる研究が進んでいる。

●ブッシュ勝利の背景にあるネットのリンク構造

 何だかとても大胆なタイトルをつけてしまった気もするが、こうしたタイトルだからといって、ネットでのケンカに私が強いというわけではない。ネッ トでは、主張の正しさや説得力だけでなく、リンクのありようによって勝ち負けが決まってくるのではないか、ということを書こうと思っている。

 ネット時代のジャーナリズムについてのシンポジウムがオンラインで公開されていた。それを見ていたら、「新聞社が記者ブログを始めたけれど、朝日 新聞がやったら大変だろう」などと話していた。朝日新聞は、戦後長きにわたって日本のマスコミを代表し、戦後民主主義的な価値観を擁護してきた。そのこと に対する感情的な反発がネットではとくに強い。朝日新聞の記者が所属を名乗って実名でブログを書いたりするのは、たしかにそうとう勇気がいることだろう。
 とはいえ、朝日新聞の論調を支持する人が、まったくの少数派というはずはない。ネット人口がこれだけ増えたいま、朝日新聞派はネットでも相当いるはずだ。にもかかわらず、炎上する確率が高いのは、やはり朝日新聞的な論調のブログやサイトだ。

 たとえば、この春に、社民党党首の福島みずほ氏が、公立学校の教職員に対する国旗掲揚や国歌斉唱が強制されていて「思想・良心の自由は守られてい るのか」と問いかけた文章が、コメント欄のあるサイトに載った。すると、批判が次々と寄せられて炎上する騒ぎになった。社民党の支持率はたしかに低いが、 それでもこうした意見を支持する人はいるはずだ。それなのに、コメント欄が一方的になるのはなぜなのか。

 炎上しているところにわざわざ飛びこんでいって火の粉をかぶろうとする人は少ない。雰囲気を見て少数派になることがわかっていれば、たいていの人は参入したりはしない。そうしたことから一方的になるのだろうが、しかし、それだけではないかもしれないと思い始めた。

 少し前の本だけれど、ラズロ・バラバシの『新ネットワーク思考』という本を読んだら、次のようなことが書いてあった。
 スタンフォード大 学の研究者が検索エンジンによって、妊娠中絶・賛成派と反対派のサイトを抽出し、それぞれの主張のサイトがどのようにリンクされているかを調べた。する と、妊娠中絶反対派のあいだのリンクのほうが賛成派よりも多かったという。つまり、妊娠中絶反対派(多くの場合、キリスト教右派などの保守派)のサイトの ひとつで誰かが何かの運動を始めたら、リンクをたどって、ほかのサイトにすばやく伝わっていく。反対に、妊娠中絶賛成派(たいていはリベラル派)のサイト は、反対派に比べてサイト間のリンクが少ないために、お互いの動きがわかりにくい。当然ながら、運動の広がり方は遅く、反対派よりも分が悪い。リンクの数 によって、運動の勢いが変わることになる。

 ネット上のリンクの張られ方というのは些細なことのようだが、運動や思想の広がり方に思いがけない違いが出てくる可能性がある。ブッシュ大統領 は、妊娠中絶反対派の支持を集めて大統領選挙を勝ち抜いたが、その背景には、こうしたネットの力学も多少は関係していたかもしれない。

●リンクの方向とサイトの優劣

 バラバシの本では、リンク構造を見ると、サイトが4種類に分類されるという、IBMやアルタビスタ、コンパックの研究者たちの有名になった研究も 紹介されている。リンクの張られ方によってウェブ空間を4つの地域に分け、図にしたときの形から「蝶ネクタイ理論」と も呼ばれている。

 バラバシは、4つの地域を陸地に見たてて、わかりやすく説明している。
 「中央大陸」は、相互リンクされていたり、サイトを経由して間接的にリンクで結ばれているサイトからなる。ヤフーやCNNなどの大きなサイトはここにある。
 中央大陸はふたつの大陸につながっている。 
 ひとつは、中央大陸へ一方向的にリンクが張られている起点サイトからなる「IN大陸」。
  「OUT大陸」は逆に、中央大陸から一方向的にリンクが張られている終点サイトからなる。「IN大陸」と「OUT大陸」のあいだには「トンネル」があっ て、多少の行き来はあるが、中央大陸とふたつの大陸のサイトのリンクは一方向だから、IN大陸の起点サイトから中央大陸へ、また中央大陸からOUT大陸の 終点サイトへ行ってしまうと、もとの大陸へは戻れなくなる。
 4つめの陸地は大陸とはつながっていない「島々」。島のなかでしかリンクを張られていない。

 相互リンクの多い少ないによってグループの勢いが決まると先に書いたが、リンクの張られ方も、ネットの生態に大きな影響をもたらす。
 検 索エンジンは、リンクをたどってサイトを巡回し、サイト情報を集めてデータベース化している。相互にリンクが張られている中央大陸のサイトは巡回ソフトの 調査がまわって来やすい。新しいサイト情報が反映されてアクセスが増え、検索結果で上位になる可能性が高い。主張を広めるにあたって一番有利なのは中央大 陸のサイトのわけだ。
 一方、双方向のリンクが張られていない陸地のサイトには巡回ソフトはまわって来にくく、検索結果順位で不利になる可能性が高い。

 政治的な運動ばかりでなく、ネットで新たなサービスやビジネスを立ち上げようとするときにも、そのサイトがどの大陸に位置するかは重要なはずだ。サイトの「地政学的な位置」がアクセス集めの勝ち負けを決めることになる。

 4つにきれいに分類できるというのは少々単純化しすぎの気はするが、リンクの張られ方はたしかに均等に双方向に張られているわけではなく、それによって損得が生まれるということはあるはずだ。
「OUT 大陸」には企業のサイトが属しているというが、最近はアメリカの企業サイトなどは、自社が取り上げられた記事にリンクを張っている。中央大陸のサイトへ まったくリンクを張っていないわけではなさそうだ。しかし、一般に企業サイトは、ほかのサイトに利用者が流れていくことは歓迎しない。だから、外部サイト へのリンクは少ないはずだ。

●独特なミクシィのリンク構造

 99年当時のウェブを対象にした研究なので、いまと明らかに違っているところもある。
 たとえば、ブログの存在は視野に入っていない。ブ ログは、ほかのサイトに簡単にリンクを張れる。仲間内だけでリンクを張っている「島ブログ」もある一方で、たくさんのリンク網の中心にあるハブ的なブログ も生まれている。中央大陸に属する個人サイトは増えているにちがいない。

 バラバシによれば、98年末の時点では、ウェブ上の任意の2ページ間の距離は、平均19リンクだったという。サイト数が飛躍的に増えた現在、距離 はもっと開いたように思われるが、ブログの普及によってリンクが増えたことは、距離の縮小に貢献しているはずだ。はたしてサイト間の距離は増えたのだろう か。それとも減ったのだろうか。

 99年には、ミクシィのようなSNSサイトも存在していなかった。ミクシィから外のサイトにはリンクが張られているが、外のサイトからミクシィへは会員でないかぎり入れないので少ないはずだ。
 外部サイトとの関係から見ると、ミクシィは全体として、起点サイトからなる「IN大陸」に属していることになる。
 ミクシィは、あえて双方向的にリンクを張るサイトにはならないことで、「安全神話」を生むクローズドな性格を持つことに成功したわけだ。
 こうした事例を見ると、中央大陸へ進出することだけがネットビジネス成功の秘密とはかぎらないのかもしれない。

Afterword
ウェブのサイズはサイト数が注目されることが多いが、ページ間の距離も重要だろう。それによって、サイト間の遠さ(あるいは近さ)がわかるし、ネット空間で体感される広さが変わってくる。

関連サイト
IBMのアルマデン研究センターの「蝶ネクタイ理論(Bow-tie Theory)」のページ
コンパックを買収したヒューレットパカードの「蝶ネクタイ理論」のページ。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.459)

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