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2006.10.27

ブログや動画配信サイトで損しているのは誰か?

みんなで楽しめればいいじゃん、などと、
利用者が呑気に思っている傍らで、
ビジネス・サイドは、広告収入の分配について思案をめぐらしている。

●考えられるユーチューブのビジネスモデル

 映像や音楽を無断で使われるのは、制作者にとってほんとうに損なのか。
 一般的には損だと思われているし、実際そうであることも多いだろう。
 ところが、そうではないとコンテンツ企業を納得させ始めた会社が現われた。日本でも大人気の無料動画配信サイトの『ユーチューブ』である。

 ユーチューブは、10月9日に日本円にして2000億円近い額でグーグルに買収されたが、独立のブランドで事業を続けると言い、同じ日に、音楽企業や大手テレビ局との新たな提携と発表している。
  ユニバーサル・ミュージックやソニーBMGミュージック・エンターテインメント、あるいは先に提携が発表されたワーナー・ミュージックは、ユーチューブで ミュージック・ビデオを流すだけでなく、ユーザーが、それらの会社のアーティストの曲を使ってビデオを作ることも認めた。
 ユーチューブは、著作物の使用を検知する仕組みを開発したとのことで、アーティストは使用を拒否し、動画の削除を求めることもできる。しかし、少なくとも音楽企業は、曲の使用は宣伝になり、損にはならないと判断して、そうした決断に踏み切ったものと見られる。

 音楽共有ソフトのナップスターが登場したときにも、同様の議論があった。無料で音楽を聴かせることは、音楽の売り上げを落とすどころか増やす―― そういう主張に共感したミュージシャンもいたが、レコード会社は猛反発して裁判になった。そして結局、第一次ナップスターは葬り去られた。
 しかし、それから5年たって生まれたユーチューブは、音楽企業を説得することに成功しつつある。
 ニューヨークタイムズの記事で、ワーナー・ミュージックのデジタル戦略担当副社長はこう言っている。

「ユーザーがコンテンツを生み出す現象は今後ますます発展していくだろうし、おそらく止めようがない。われわれは、そうした流れに組みして消費者にすばらしい体験を提供し、それによってわれわれもアーティストも報酬を確保したい」。

  著作物の自動検知システムは年末までに導入するとのことで、具体的にどんなものになるかはまだわからない。しかし、自動検知ができるなら、たとえば、利用 者がアップした動画のかたわらに、その動画で使われている音楽の情報やリンク広告を表示し、気に入った人がすぐに購入できる仕組みも作れるはずだ。ユー チューブの幹部たちは、動画の冒頭に広告を入れ強制的に見せるのは利用者の反感を買うと慎重だったが、こうした形の広告ならば、利用者の役に立つ。グーグ ルの豊富な資金や技術力もあてにできるようになったいま、彼らは当然こうしたことは考えているだろう。

●動画サイトと音楽販売の結びつき

 グーグルは、ユーチューブ買収を発表した10月9日、やはりワーナー・ミュージックやソニーBMGとの提携を発表している。そして、ユーチューブ と同じく年末までに、著作物の自動検知システムを導入するという。それを前提に、両音楽企業は、「グーグル・ビデオ」でも自社の曲を使ってユーザーが動画 を作ることを認めるそうだ。ただし、ユーチューブとの契約とは違う点が2つある。

 ひとつは、両社のミュージック・ビデオを1・99ドルで販売するということだ。「グーグル・ビデオ」は動画の有料販売をすでにやっている。ユーチューブも、グーグルにリンクを張って販売につなげていくこともできるだろう。

 ユーチューブとの契約ともうひとつ違っているのは、グーグル・ビデオの動画をとりこんだ一般のサイトで動画に付随して表示される広告から得られる収入を、楽曲の提供企業、グーグル、サイトの運営者の三者で分けるという点だ。
  ユーチューブやグーグル・ビデオでは、動画ごとにhtmlを生成している。各サイトは、それをブログなどに張りつけるだけで動画をとりこみ、それぞれのサ イトで視聴可能にできる。動画サイトのほうからすれば、各ウェブサイトを「出城」にして、自分たちのコンテンツを表示している、とも言える。グーグルはそ こに広告も載せ、収入を三者で分けるわけだ。

 これはなかなかおもしろい仕組みである。動画サイトのコンテンツが広告付きでウェブサイトにアメーバのように広がっていき、世界中のウェブページ が彼らの広告媒体になっていく。まさにワーナー・ミュージックの副社長の言うとおり、「ユーザーの生成するコンテンツで収益を上げていくビジネスモデル」 である。

●忘れられたコンテンツ制作者

 グーグルにはもちろん、音楽企業にも、またウェブ運営者にもいい話に思える。けれども、気になるのは、動画を作ってアップしている人の立場だ。音 楽企業の楽曲を使って、動画をより魅力的にできるとはいえ、広告収入の分け前はない。しかし、広告に消費者を惹きつけているのは動画である。動画制作者 は、広告媒体作りに無料で手伝わされているとも言える。

 じつはこうした構造は、ウェブ2・0的なサイト一般に言える。たとえば、ミクシィやブログなどで日記やコメントは、人々を惹きつけ、広告媒体とし てのサイトの魅力を増す働きをしている。しかし、広告収入の全部、もしくはかなりの部分はサービス提供企業がとり、だいたいの場合、利用者には金銭的見返 りは(ほとんど)ない。これは、2ちゃんねるのような掲示板でも同じである。
 けれども、「コンテンツ作りに協力させられている」などと不満を抱 く人はいない。実際のところサービスを提供し続けるには多額の投資が必要だし、それに、利用者はもともとお金目当てで書いているわけでもない。多少疑問を 持つことはあっても、「タダでサイトのサービスを使わせてもらっているのだから仕方がない」と納得しているのがふつうだろう。
 とはいえ、誰もまったく気にしていないかというと、じつはそうでもない。運営側にはそうしたことを感じている人もいる。だから、コミュニティ内での活動に、ポイントなどの形で報酬を出したりもしているわけだ。

 動画サイトで、テレビなどのコンテンツを録画してお手軽にアップしている分には、(たとえそれらの冒頭に広告を入れられたとしも)それほどの反発 はないかもしれない。しかし、著作権侵害のコンテンツが排除され、オリジナル動画が中心になってきた場合には、「コンテンツにただ乗りして広告を載せるの はどうか」というムードも出てくる可能性がある。
 ユーチューブの創立者たちが広告の入れ方に気を使っているのは、第一には著作権を侵害している コンテンツに広告を付けて利益をあげているということで訴えられるのを恐れたからだろうが、苦心して作った動画の冒頭に、動画の雰囲気を壊す広告を勝手に 入れられれば、誰でもムッとする。他人が作ったものに勝手に広告を載せてカネ儲けしている、と反発を買いかねない。
 消費者にコンテンツを作らせてそこに広告を載せるというウェブ2・0のビジネスモデルは、それらのサイトに投稿されるコンテンツのグレードが上がってくればくるほど、微妙な問題になってくる。

「ブログや動画配信サイトでは、利用者が知らないうちに損している」とまで言うのは、おそらく言いすぎだろうが、グーグルの新しい広告モデルで、動 画作者に分け前がいかないのは、少なくとも不思議だ。しかし、文章を書いたり動画をアップしている人よりも、コンテンツを流通させる仕組みやサイトそのも のを作った人たちのほうが、金銭的にはまず評価される。現実のありようを見ると、それがいま現在のウェブの経済ルールのようだ。

    *

 グーグルやユーチューブの頭のいい人たちは、上のようなことはじつはすでに感じているはずだ。いずれはコンテンツ制作者たちにも広告の分け前が行くようにするのではないか。しかし、”それは後回し”ではあるわけだ。

関連サイト
Google VideoYouTube。グーグルはユーチューブを買収したが、さしあたり2つのサイトは統合しないという。これらのサイトは広告媒体でもあるわけで、複数あってもいい、ということなのだろう。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.456)

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