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2006.10.20

グーグルによるユーチューブ買収の背景

わずか1年8か月まえに作った会社を
2000億円でグーグルに売った超人気サイト
『ユーチューブ』はやっぱりただものではなかった

●「バブル2・0」とウワサされたユーチューブ

 アメリカの無料動画配信サイト『ユーチューブ』は、日本でもすっかり有名になった。掲示板やブログ、SNSに組みこまれたりリンクが張られたりし て、おもしろ動画が1日1億の割合で見られている。毎日新しく6万5千のクリップがアップされ、重複なしで月2000万近い人がアクセスしているそうだ。
 しかし、かかる費用もすさまじい。回線コストだけで月100万ドルぐらいかかっていると言われている。
  ヤフーやグーグルにも投資してきた名うてのベンチャーキャピタル「セコイア」の1150万ドルの投資などがあって、当面の資金は何とかなっているものの、 きちんとしたビジネスモデルなしでいつまでも持つはずはない。「ウェブ2・0」のはずが「バブル2・0」になるんじゃないか、などとささやかれ、短期間の うちに獲得した世界中からのアクセスを、ユーチューブがどのようにお金に換えるつもりなのかが注目されていた。

 グーグルなどの成功によって、膨大なアクセスが「金のなる木」であることは認識されるようになってきた。広告を載せれば、とりあえずお金になるか らだ。ユーチューブの創立者たちも、広告をとることはかなり早くから明言し、グーグルの広告やバナー広告などを控えめに載せていた。
 けれども、膨大な動画の冒頭や最後に広告を載せるつもりはないようだった。
  ユーチューブの大成功を見て、次々と同様の動画配信サイトが生まれている。おカネに釣られてユーチューブがいまの支持を失うようなことをすれば、たちまち それらのサイトに取って代わられる。動画の冒頭に広告を入れればうるさがられるし、最後では広告効果が低い。また、アップされた動画が残酷だったりエロ ティックだったり、あるいは広告主の製品に批判的な内容だったりすれば、逆効果の広告になってしまう。さらにスポンサーたちは、著作権侵害が明白な動画に 広告を載せることも躊躇する。

 実際、ユーチューブの2人の若い創立者は、もっと洗練された広告を思い描いていたようだ。正式オープン半年後の今年5月の米フォーチュン誌でのインタヴューでも、彼らはこう言っている。

 「スポンサーシップやダイレクト・アドを売るつもりだ。しかし、われわれはひとつのコミュニティを作っており、人々を広告で悩ませるようなことはしたくない」
「映画会社やテレビ局、音楽会社は、これまでとは違う視聴者にアピールする方法を探していて、われわれはそれを可能にするすばらしいプラットフォームや場所を持っており、彼らと関係を作っているところだ」。

 ダイレクト・アドというのは、広告を出したい人が直接出す広告で、以前からある広告としては、ダイレクトメールなどがそうだ。ネットが普及してからは、グーグルが個人や中小企業でも簡単に広告を出せる仕組みを整えて、大成功をおさめている。
 しかし、ユーチューブの創立者たちのこうした言葉は、どれぐらい真剣に受けとめられただろうか。
  ユーチューブの幹部たちは、スポンサーや広告主になりそうな企業とかなり広範にコンタクトをとっているようではあったが、どうやって持続性のあるビジネス にしていくのかはよくわからなかった。まだはっきりとしたビジネスモデルを持っていないから、曖昧な言い方をしているんだ、ぐらいに見られていたのではな いか。
 しかし、その後の展開を見ると、こうした解釈は誤りだったのかもしれない。彼らはかなり具体的な広告モデルを思い描いていたようにも思われるからだ。

●ウェブ2・0時代の広告

 ユーチューブの広告は、いまのところ映画会社やテレビ局、音楽会社がらみが多い。アメリカの三大ネットワークのひとつNBCが秋の番組の宣伝をし たり、映画会社やレーベルが新作や新譜のプロモーションをしたり、といったぐあいだ。映像や音楽と関係のある企画を中心にして、利用者に反感を持たれない ように気を配っているのだろう。
 8月22日には、ユーチューブは、「参加型ビデオ広告」と「ブランド・チャンネル」というふたつの広告モデルを発表している。
  「ブランド・チャンネル」は、ブランド・イメージにあった形で「ビデオのショーケース」を提供するというものだ。スポンサーをつけて特別のページを作り、 映像コンテンツを流す。トップページなどにバナー広告をおいてユーザーを誘導し、それぞれのページは一定の範囲でカスタマイズ可能。ブランド・チャンネル が新しいビデオ・クリップを公開したときに知らせるチャンネル登録者も確保できる。大手テレビ局のFOXがスポンサーになり、パリス・ヒルトンのデ ビュー・アルバムのプロモーション・ビデオを流す企画がその第一弾だった。
 「参加型ビデオ広告」については、次のように説明されている。

「こ れまでのバナー広告やプロモーション、スポンサーシップなどを補うもので」「消費者が広告コンテンツを評価し、コメントをつけ、取り込み、お気に入りに加 えることができ」「消費者の行為を邪魔するのではなく、ともに参加することを誘い」「『もっとも視聴された動画』『もっとも議論された動画』『お気に入り ランキング』のトップに持って行くようにする」。

 こうした説明だけではいまひとつピンと来ないが、9月18日に発表されたワーナー・ミュージックとの合意はびっくりする内容のものだった。
  同社のアーティストのミュージック・ビデオやインタヴューをユーチューブで流すばかりか、ユーチューブのユーザーが同社の曲を使って動画を作ることを認め るというのだ。そうして作られた動画のまわりに載せる広告から得られる収入をコンテンツ提供企業と分けるという。著作権のあるコンテンツが使われたかどう かがわかる仕組みも開発したそうで、著作物の利用状況は自動的に検知できるらしい。ユーチューブの利用者は著作権を気にせずコンテンツを使うことができる し、コンテンツ制作企業は、ユーチューブでの利用を認めることで宣伝になり、広告収入も得られる。両者にとってハッピーだというのが、ユーチューブの主張 である。10月9日には、ユニバーサル・ミュージックやソニーBMG、CBSも、似た内容の契約をユーチューブと交わしている。

●広告の一大革命

 広告というのはこれまで、もっぱら広告主や広告制作会社が作るものだった。しかし、一般の人々が著作物を使ってコンテンツを作り、それによって宣 伝するという意味で、広告についての考え方を一変するものだ。一般の人がコンテンツを作って情報を広めていくというのは、まさに「ウェブ2・0時代の広 告」と言ってもいい。
 こうしたことを発想し実現してしまうとは、ユーチューブは「たまたま急成長した動画配信会社」などではなくて、アイデア豊 富な若い2人の創立者によって成功すべくして成功し、ことによると、第2のグーグルになるのかも‥‥などと思っていたら、10月9日、そのグーグルが16 億5000万ドルでユーチューブを買収してしまった。

 ユーチューブの創立者たちは、会社を売る気はないと公言していた。これまでのようにサービスを提供できなくなることを心配していたものの、グーグル傘下でも独立したブランドとして事業を続けられるということで納得したらしい。
 グーグルと張り合って、グーグルをも恐れさせるアイデアを展開していくところを見たかった気がするが、グーグルのすぐれた検索などを導入でき、広告についての新たな展開も模索するのだろうし、さしあたり最善の選択と判断したということなのだろう。

        *

 「利用されたほうがトク」とユーチューブが大手メディア企業を納得させてしまった意味は大きい。コンテンツをめぐる状況に大きな変化が訪れる可能性がある。 
 次回も、それについてもう少し考えてみたい。

関連サイト
『YouTube』のサイトと、10月9日のグーグルによるユーチューブ買収の発表

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.455)

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