« 合意された放送と通信の近未来 | トップページ | 小泉政権の内幕とその評価 »

2006.08.04

携帯電話の乗り換えがもっと簡単になる?

ネットの世界の競争ルールがきちんと整備されれば、
ネットでもケータイでも、ますます便利でおトクに使えるようになる。
そうした検討が進んでいる

●携帯電話と固定電話の融合

 インターネットのような新しい技術の進歩はあまりに速くて、社会制度の整備は後手にまわることがたいていだ。
 とはいえ、手をこまねいているわけにもいかない。

 総務省の「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」が公開した報告書は、「新競争促進プログラム2010」という副題が付き、2010年代初頭をめどに競争ルールをどう見直すか検討している。

 2010年は、IT戦略本部がブロードバンドゼロ地域の解消をめざすとした年で、NTTもそれまでに全世帯の半分の3000万世帯に光ファイバーを引く計画を発表している。また、翌11年7月には、地上波テレビのデジタル化を終えることになっている。
 日本の通信や放送関係のプロジェクトは、そうした10年代初頭にあわせて、再編や新たなルールの準備を進めている。

 この懇談会の報告書は、参考資料もたっぷり付いて135ページもあるが、動画配信やSNS、P2P、RSSなど最近の動きを意識してまとめられている。

 報告書のなかで一般の人々にとくに関心が高そうなのは、持っている携帯電話で別の携帯電話会社のサービスが使えるようになる――たとえば「ドコモのケータイを買ったけど、やっぱりauがいいな」などと思ったとき、ケータイを買い換えないですむ――といった話だろう。

 携帯電話は格安で売られている。
 ドコモやauなどケータイ会社が販売奨励金を出しているからだ。
 販売店は契約を獲得できれば奨励金をもらえるから、電話機を安く売れる。ケータイ会社のほうは、契約後の通信収入で販売奨励金をカバーしている。
 「このケータイ、無料だって。トクした」などと思っても、利用者は、そのぶん共同で割高な通信料金を払っているわけだ。
 こうした仕組みのおかげで携帯電話は爆発的に普及したが、いまとなっては問題点も見えてきた。

 秋からは、ケータイ番号を変えずに他のケータイ会社に乗り換えられる番号ポータビリティー制度が導入される。
 しかし、いまの携帯電話のビジネスモデルは長く使ってもらうことが前提で成り立っている。他のケータイ会社に頻繁に乗り換える人が増えれば維持できなくなるし、値下げもしにくい。
 また、ケータイ会社を変える人の格安の端末代を、乗り換えない人が割高な通信料を払って負担しているわけで、公平とはいえない。
 さらに、日本の携帯電話は一括購入してくれるケータイ会社の意向に沿ってこれまで作られていて、国際競争力がない。もっと自由に作れるようにすべきだ、という声も出てきた。

 じつは同じ携帯電話で他のケータイ会社のサービスに簡単に乗り換えられる仕組みにはなっている。
 携帯電話に挿入され、利用者情報が記録されているSIMカードを取り出してロックを解除するだけでいい。新たなSIMカードを差せば、ほかのケータイ会社に乗り換えられる。
 けれども、日本のいまのビジネスモデルではそうされては困るわけで、SIMカードを埋めんでロック解除できないようになっている。

 この報告書は8月23日まで意見募集をして9月に最終的にまとめられるが、販売奨励金の廃止とSIMロック解除について07年夏をめどに結論を出すことを提唱している。

●統合型事業の登場

 この懇談会では、通信の世界を下位のハードの部分から順に、

  1. 通信設備(物理網レイヤー)
  2. それをもとにした固定電話や携帯電話、ネット接続など各種の通信サービスのレイヤー
  3. 認証、課金、著作権管理、コンテンツ配信事業などのプラットフォーム・レイヤー
  4. それらを使うコンテンツやアプリケーションのレイヤー

 に分けて競争ルールを検討している。

 ネットの進展によって、音声・データ・映像などの区別なく伝送され、固定電話と携帯電話の区別もしだいになくなっていくだろう。
 携帯電話が家の中では割安な固定電話網につながり、戸外では携帯電話の電話網につながるなど、ひとつの電話機と電話番号でどこでも割安に使えれば便利だ。
 「固定と移動の融合」は「利用者利便の向上を図る観点から見て、基本的に望ましい」と報告書も述べている。

 しかし、携帯電話の会社と固定電話会社の結びつきが深まることについては心配もある。
 とくにNTT東西は加入者回線ベースで約94%を保有しており、「市場支配力濫用の懸念がある」ということで、接続ルールの整備が行なわれてきたし、今後も公正競争の確保を図らなければならない。
 NTT東西とドコモの連携についても、共同営業や設備の共用は禁止し、NTT東西がNTTドコモに対して認める料金請求代行などのサービスは、ほかの会社が求めてきたときには同等に応じなければならない、などと条件をつけることを提案している。

 通信サービスについて起こる「固定と移動の融合」のように各レイヤーで統合したビジネス・モデルが出てくる一方で、レイヤーを横断した垂直統合型のビジネスも出てきている。

 たとえば携帯電話会社がiモードやEZwebなどのシステムを作ってコンテンツやサービスを提供するなどというのは2と3の統合的なモデルだろうし、アップルがiPodを発売しiTuneミュージック・ストアでコンテンツを販売するなどというのは3と4の統合型だ。
 利用者にメリットがあるあいだはいいが、勝ち組企業が市場を独占し、新規参入がしにくくなれば、利用者は割高なサービスを使わざるをえない。

 これまではもっぱら下位の通信レイヤーの競争政策が問題にされてきた。
 しかし、「近年特に、Web2・0と称される上位レイヤー(主としてコンテンツ・アプリケーションレイヤー)に位置するプレーヤーが中心となって多様な事業を展開する垂直統合型ビジネスモデルが登場しつつある」。
 通信レイヤーの収益性が低下している反面、膨大な情報がネットで流れ、多くの人が一日のうちかなりの部分をネットで過ごすようになってきた。

 上位の「コンテンツ・アプリケーションレイヤーに収益性の力点が置かれ」る構造になり、そのとき鍵になるのは「2つのレイヤーを結びつけるところに位置するプラットフォームレイヤー」、つまり認証や課金の仕組みが重要性を増しているというわけだ。
 ケータイそのものよりも、ケータイが持つ認証や課金の仕組み――たとえばケータイがクレジットカード代わりになるなど――は強力なビジネスになりうる。通話やメールそのものよりも、「財布代わりになることの収益面のメリットが大きいというわけだ。

 これについても、NTT東西の市場支配力が強くなりすぎる可能性があると見て、説明責任を求める仕組みが必要だとしている。

●報告書に見るギョーカイの事情

 こうした報告書は、多くのデータを集め、関係者の聞き取りをしたうえで、専門家たちが議論してまとめている。
 裏情報めいたものはないものの、情報が集積され、業界の内側の事情が垣間見れることもある。テレビや新聞ではごく簡単に取り上げられる程度のことが多いが、技術や社会制度のこれからが語られていて興味深い。

 しかし、専門用語がときに注釈抜きで当たり前のように書かれていて、わかりにくいこともある。
 限られた人しか見ないときにはそれでもよかったが、ネットで誰でも見れる時代には、書き方や公開の仕方を工夫する必要がある。原案ができた後の意見募集でも、それまでに考えを聞いていることが多い業界関係者よりも、利用者の声を吸い上げることをもっと考えるべきだろう。

    *

 忙しい委員会のメンバーが仕事の傍ら報告書を書くと薄くなる。
 一方、分厚いときには、官僚や事務局が書いた可能性が高い。
 報告書の厚さで、官僚の「コントロール度」を計ることもできるだろう。

関連サイト
IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」とその報告書「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方について――新競争促進プログラム2010」(案)

« 合意された放送と通信の近未来 | トップページ | 小泉政権の内幕とその評価 »

放送と通信の融合」カテゴリの記事

2014年8月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31