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2006.07.28

合意された放送と通信の近未来

総務省の懇談会の報告書は、政府と与党の「激突」が伝えられたが、
意外なほど広範な合意が成立している。
「放送と通信の融合」はさらに進展する‥‥?

●大山鳴動ネズミ何匹?

 竹中総務大臣が組織した「通信・放送の在り方に関する懇談会」は、総務大臣の私的懇談会という地味な位置づけにもかかわらず、通信と放送の今後を決定すると、注目度120パーセントだった。その活動の帰趨が決した。

 小泉改革を推し進める竹中氏に反発する政治家は多い。
 この懇談会も、竹中氏が民間人を集めて、また過激な改革をやろうとしていると警戒 され、自民党は急遽、党内の通信・放送産業高度化小委員会で同じ問題を議論し、報告書をまとめた。委員長を務めた片山参院自民党幹事長は、「竹中さんが総 務大臣になったら、何をやり出すのか心配だ」と放送事業者に頼まれたこともあって委員長になったと、インタヴューでありていに答えている。対立関係をとく に隠すつもりもないようで、きわめてわかりやすい構図だった。

 懇談会の報告書は6月6日にまとめられたものの、それで終わりではなかった。報告書が活かされるかどうかは、予算や経済運営を方向づける『骨太の方針』に盛りこまれるかどうかにかかっていると見られた。
 問題のその『骨太の方針』が7月7日に閣議決定され、ネットでも公開された。

 懇談会の報告書にもっぱら関係していると思われるのは、『骨太の方針』の「第2章 成長力・競争力を強化する取組」の(2)の③「世界最先端の通信・放送に係るインフラ・サービスの実現」の項目だ。
 そこにはこう書かれている。

「『通信・放送の在り方に関する政府与党合意』に基づき、世界の状況を踏まえ、通信・放送分野の改革を推進する」。

 『骨太の方針』でわずか2行。なんとも素っ気ない。
 『政府与党合意』にまるごとゆだねている。微妙な問題なので、勝手に書くわけにはいかなかったのだろう。
 「こっちでは詳しく書けないので、知りたい人は、むこうを読んでね(笑)」というわけだ。

 『政府与党合意』も、総務省のサイトで公開されているが、自民党の小委員会の報告書はネットで見つからなかった。この小委員会のサイトも、上部組織の電気通信調査会のサイトもない。
 総務大臣の懇談会は議論を公開せず、秘密主義だと批判されているものの、少なくとも報告書はもちろん、議事要旨や記者会見の概要はサイトで公開している。
 それに対し、「政策を決めるのは総務大臣の私的懇談会などではなくて自分たちだ」と自負する与党の委員会ではどんな議論をしたのかさっぱりわからない。透明度の明らかな違いがある。

●NHKの料金引き下げと制作部門の分離

 『政府与党合意』は、総務大臣の懇談会と自民党の委員会の2つの報告書の「落としどころ」を探ってまとめられたものだ。
 本文が実質1ページ半しかないきわめて短い文書だが、その中身は薄くない。
 懇談会と自民党の委員会は鋭く対立していたはずなのだけど、読んでみると、そうとう合意していて、むしろそのことに驚かされる。
 懇談会の報告書も、最終段階で与党との調整を意識してまとめられた可能性が高いが、それでも、この合意どおり進むと、かなりのことが起きそうだ。

 どういった内容か、簡単に見てみよう。

 NHKについては、ガバナンス強化や、受信料の支払いを義務化する一方で引き下げの検討をすること、音楽・芸能・スポーツ等の制作部門の「一部」 を本体から分離して子会社化を検討すること、番組アーカイブをネットで有料公開できるようにすることなどが盛りこまれている(ただし、報告書では「娯楽・ スポーツ等の制作部門」を切り離すとなっており、「一部」とは書かれていない。その点は明らかに違う)。

 NHKのチャンネル数の削減についても少し違っている。
 懇談会が、衛星放送1チャンネルとFMラジオ放送の削減を主張しているのに対し、『合意』では、衛星放送だけになっている。

 マスメディアが寡占化しないように集中排除するという原則は、テレビの多チャンネル化などにともなって時代に合わなくなってきており、「自由度の 高い形で早急に緩和する」こととされた。放送業界は、デジタル化のための資金が必要で、吸収合併を進めて効率化を図りたい。そうした希望に沿っているとい うことで、自民党の委員会もすんなり合意したのだろう。

●ハードとソフトの分離

 懇談会がもっとも問題にしたことのひとつは、放送と通信の境界が曖昧になってきたにもかかわらず、法体系上、通信と放送が分かれ、9本もの法律が乱立しているということだった。

 『合意』でも「このような人為的な市場の細分化により自由な事業展開が阻害されている」ことが認識され、「利用者のニーズに応じた多様なサービスを提供できるよう、伝送・プラットフォーム・コンテンツといったレイヤー区分に対応した法体系とすべき」と書いている。

 これまでは、番組制作から電波を発信するところまで一体で「放送」であり、これを変えることに放送業界は反対している。しかし、それについても、 「通信と放送に関する総合的な法体系について、基幹放送の概念の維持を前提に早急に検討に着手し、2010年までに結論を得る」こととされた。
  わかりにくい表現だが、国会で参考人として呼ばれた懇談会の松原座長は、「基幹放送」というのは地上波の民放のことで、これについてはハードとソフトの分 離はしない、と説明している。分離はしないけれど、ネットでも放送でも不特定多数の人にコンテンツを届けるものについては同じ法体系のもとにおくなど整理 はすべきだということらしい。

 実際のところ、ひとつのソフトをいろいろなメディアで使えれば、コンテンツ制作者はそのほうがトクだ。
 それが理解されれば、しだいにハードとソフトは分離していくのではないか。

 竹中大臣は与野党の政治家に嫌われ、コテンパンにやりこめられているように報じられているが、これを見ると、かなりの項目について、ともかくも何らかの合意にこぎつけている。改革の芽を残しており、その政治的手腕はそうとうなものだ。

●どうしても合意できないものは‥‥?

 「意外なほど合意している」とはいえ、あくまで意見が食い違っているのは、NTTの再編についてだ。
 懇談会は、家庭に引き込む末端の回線などの設備を2010年までにNTT本体から機能分離することを主張している。それについては、「2010年の時点で検討を行ない、その後速やかに結論を得る」とされた。
 NTTは2010年までに3000万世帯に光ファイバーを引く方針を打ち出しているから、その様子を見て、ということなのだろう。

 しかし、これはNTTとしても宙ぶらりんで、かなり気持ちが悪い決定なのではないか。
 2010年までに光ファイバーをどんどん引かないと分割しますよという脅しのようでもあるし、多額の投資をして光ファイバーを引いたあとで分割される可能性もある。一生懸命やらなければいけないようでもあり、やっても損なようでもある。
 それぐらいなら、懇談会の報告書にあったように、競争の妨げになると思われるこうしたボトルネックの問題はさっさとすっきりさせて、その代わり、規制をはずして競争しやすくしてもらったほうがずっといいのではないか。

 小泉内閣は、ともかくこの9月で終わる。
 この合意の命運は次期首相の手に握られている。
 政府側の人間としてこの合意に名前を連ねているのは、竹中大臣とともに安倍官房長官である。与党が合意したうえに、次期首相の最有力候補が合意の当事者になっている。そのことの意味はかなり重いはずだ。

    *

 テレビのコンテンツをネットで流す「通信」では、著作権をクリアする仕組みが複雑で、テレビなどのコンテンツをネットで流しにくい。こうした問題についても解決を図ることが「骨太の方針」に明記された。

関連サイト
「通信・放送の在り方に関する懇談会」報告書(PDF)。
『通信・放送の在り方に関する政府与党合意』

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.444)

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