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2006.05.12

「スカパー!」、あなたは見たい? それとも見たくない?

多チャンネル時代がやってくるのはまちがいない、
と言われている。
けれど、そこに到る過程で問題がないかといえば、
そうでもなくて‥‥

●波乱の多チャンネル放送

 住んでいるマンションに、「光パーフェクTV!(スカパー!光)」が導入されたので加入してみた。デジタルラジオ100チャンネルを含めて約280チャンネル、地上波やBSをあわせれば300チャンネル近い放送を見ることができる。

「スカパー!光」は、従来の「スカパー!」のように、戸別にアンテナを設置する必要はない。映像用の光ファイバーを引きこむだけだ。多チャンネル放送は専 用チューナー経由、デジタルとアナログの地上波やBSは、これまでどおり壁のテレビ端子にテレビを接続して視聴する。光ファイバーを使うものの、著作権法 上「通信」扱いになる「インターネット放送」ではなくて、「れっきとした放送」である。当初は、マンションだけが対象だったが、一戸建てでもサービスを始 めた。

 申しこんで最初の2週間は、一部の有料放送を除いてほとんどすべてタダで見ることができるので、ともかく片っ端から番組を見てみた。テレビだけで180チャンネルぐらいあるのだから、けっこうコトである。
 すぐに気がつくのは、アダルト放送が意外に多いな、ということだ。900番台の16チャンネルはアダルトで、このほか番組ごとに申しこむペイ・パー・ビューや深夜の映画チャンネルなどでもけっこうある(アダルトを見ることのできないように設定もできる)。

「新しいメディアはアダルトから普及する」というメディアの経験則があるが、裏返していうと、アダルトに頼らないと、新しいメディアが普及するのはなかな かむずかしい、ということだ。世間的には、「スカパー!」というと、話題になっている映画が見られるとか、サッカーなどスポーツ放送が全試合放送されるな どということがまず頭に浮かぶ。実際それらは大きな吸引力のはずだが、それだけではやっぱりたりない、ということなのだろう。

 通信衛星(CS)を使った「スカパー!」は、96年に「パーフェクトTV!」として放送を始め、その後JスカイBなどと合併し、今年2月の時点で加入世 帯は累計で374万、東経110度のところにある別の人工衛星を使った「スカパー!110」が31万で、400万世帯を超えるところまで来た。
 しかし、か ならずしも順調とはいえない。

 「スカパー!」の提供元スカイパーフェクト・コミュニケーションズの重村一社長の言葉(あとで触れる懇談会での発言)を借りれば、CSのプラットフォー ムは「撤退の歴史」だった。CS放送を始めたほとんどの会社は採算が合わず、1、2年で撤退してしまった。「WOWOWデジタルプラス」なども、ス カイパーフェクト・コミュニケーションズ同様、プラットフォーム事業をやっているが、プレイヤーは少なくなった。

 その「スカパー!」も、02年に「スカパー!110」を始めたころには、加入世帯の伸びが減り、「スカパー!110」の加入世帯とあわせても以前ほどの 伸びはなくなった。
 多チャンネル放送の時代がやってくるのはまちがいないと言われているが、ケーブルテレビとの競争があるし、さらに今後は、インターネッ トを使った動画配信もさかんになってくる。先行き楽観できる状態ではない。

●消えてしまった懇談会の動画像

 CSが抱えている問題点は、竹中総務大臣が組織した「通信と放送の在り方に関する懇談会」でのヒヤリングでもはっきりうかがえる。

 以前、触れたように、この懇談会のヒヤリングは動画像が公開されていた。しかし、本誌で取り上げたすぐそのあとに、動画像は取り下げられてしまった。
 どこでどういう圧力がかかったのかは知らないが、週刊アスキーの影響力を恐れてのこととでも考えるしかない。

 いうまでもないけれど、これは相当に妙な動きだ。
 見てもらうために公開したはずなのに、雑誌で取り上げられて話題になったとたん引っこめてしまうというのでは、「とりあえず公開はしてみたけれど、できれば見てほしくはなかったのだ」と言っているようなものだ。

●「スカパー!」の構造的問題

 というわけで、動画像はなくなってしまったが、懇談会の議論を書き起こした議事録は公開されている。

 海外では、アメリカの多チャンネル衛星放送の普及率は25%、イギリスは32%、それに対し、日本は8・2%に過ぎないという。しかし、スタート当初から2002年のワールドカップの放送権を独占したころまでは、放送開始から同時期のアメリカを上まわる普及率だった。
 ところが、それから逆転する。

 日本では、先に書いたとおり、地上波やBSを見るのには、「スカパー!」のチューナーは不要だが、アメリカでは、ディレクTVで地上波が見られるように なって、一気に普及率が伸びたそうだ。
 そうした仕組み上の問題もあるが、結局のところCSが受け入れられるかどうかは、おもしろい番組があるかどうかだろ う。この懇談会では、それについてもかなりお寒い状況が明かされている。

 そもそもスカイパーフェクト・コミュニケーションズは、CS放送のプラットフォームを提供しているに過ぎない。約280チャンネルが見られると書いたけ れど、「スカパー!」と契約するだけで、それらすべてを見ることができるわけではない。2週間の「お試し期間」を過ぎると、月額数百円からの料金を払っ て、各チャンネルと契約する必要がある。
 マーケティングやエンコード、顧客管理などはスカイパーフェクト・コミュニケーションズがするものの、各チャンネルの番組はいろいろな会社が提供してお り、同社には価格の決定権や、いくつかのチャンネルを組み合わせて割安で提供するパッケージ化の権限がないという。
 つまり、「加入者を増やすためにこうし たい」と思っても、放送事業者の賛同を得られなければできない仕組みになっている。この点は英米のCS放送と根本的に違うところらしい。

 各チャンネルと契約して見ているので、視聴者の個人情報は各チャンネル事業者も持っている。
 「『スカパー!』なら安心」と思うかもしれないけれど、じつ は「スカパー!」だけが個人情報を持っているわけではないのだ。「いつつぶれるかわからないという状況の中で、いわゆる個人の契約の条項というのは各チャ ンネルが持っている」と、懇談会で重村社長も言っている。
 まあ、誰が提供しているかわからないネットの怪しげな動画配信サイトよりは安心だとは思うが、ほん とうに安心かどうかは、控えめに言っても、個人の価値観次第、というところだ。
 現在、スカイパーフェクト・コミュニケーションズに一任してもらおうと各放 送事業者と交渉しているそうだが、これは必要な配慮だろう。

 重村社長は、地上波の編成局長出身だそうで、地上波1局の番組制作予算は700億円から800億円だと述べている。それに対し、各チャンネルを提供して いる日本のCS放送事業者の売り上げ規模は平均25億円。20億円以下の事業者が50パーセント以上を占めているとのことだ。それでは、充実したオリジナ ル・コンテンツはできないだろう。
 実際、映画やドラマの再放送が多く、充実した内容なのは、FOXやCNN、ディスカバリー・チャンネルなどアメリカの放 送が多い。

 とはいえ、しばらく観察しているうちに、CSに対する見方がちょっと変わってきた。
 「スカパー!」の放送には、パチンコ・チャンネルに、釣りチャンネ ル、囲碁将棋チャンネル‥‥こういったニッチな放送が並んでいる。
 こうしたチャンネルが並んでいる点にこそ、これまでのテレビにない可能性があるのではな いか、という気がしてきた。
 そうしたことについては次回書くことにしよう。

      *

 今年は、ワールドカップがあるから、「スカパー!」はそれに期待したい、ということのようで、大きな広告を新聞などでも打っている。ふだんはペイ・パー・ ビューのチャンネルで、5月9日から7月10日の大会終了まで24時間無料のワールドカップ情報の放送をするなど力を入れている。


関連サイト

「スカイパーフェクトTV!(スカパー!)」。スカイパーフェクト・コミュニ ケーションズは、従来の電波を使った「スカパー!」や東経110度の空にある衛星を使った「スカパー!110」、上の「スカパー!光」、それ以外にも、イ ンターネット放送の「スカパー!BB」や通信サービスなどを提供している。「スカパー!」と「スカパー!110」、「スカパー!光」がどう違うのかをどれ ぐらいの人がわかっているだろうか。
●東経110度の通信衛星を使ったデジタル放送サービス「WOWOWデジタルプラス」。「スカパー!」同様、プラットフォーム事業を展開し、2004年12月から本放送を開始している。
●2001年に会社を設立し、110度CS放送を提供している「ep055チャンネル」。ハイビジョンの美し い映像を使った放送をしているようだ。放送番組審議会でも、「文化度が高い」などと評価の声が上がっている。提供元のイーピーは蓄積型放送を02年に始め たが、04年には、中止に追いこまれている。
●衛星放送の情報が詳しいデジタル放送に関する情報サイト『Asahi Satellite Page』。「スカパー!」の加入世帯数の推移なども掲載されている。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.433)

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