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2006.04.06

うーん、これではNTTの再々編は避けられないのかも‥‥

政府の懇談会の動画像が、
通信の未来についての対立を伝えている。
ソフトバンクの孫正義社長とNTTのトップが、
真っ向から意見を戦わせた‥‥

●小泉政権は「放送と通信の融合」にむけてまっしぐら

 このところ、もっとも注目されている政府の会議のひとつは、「通信・放送の在り方に関する懇談会」だ。前回取り上げた「規制緩和・民間開放推進会議」などは首相直属の組織だが、こちらは総務大臣の私的懇談会で、「格」は落ちる。とはいえ、注目度は高い。
 テーマが、NHKの受信料の問題とか「放送と通信の融合」など、一般の人々の関心が高いことを扱っているし、報道しているメディアそのものの今後にもかかわる。注目されるのも当然かもしれない。

 また、この懇談会のメンバーには、テレビにもしばしば登場する著名人が並んでいる。座長の松原聡東洋大学教授は、日曜朝の討論番組「サンデープロジェク ト」の常連だし、宮崎哲弥氏は、言わずとしれた人気評論家だ。このほか、日本のインターネットの生みの親の村井純氏だとか、元マイクロソフト会長の古川享 氏など名前の知られた人がそろっている。
 こうした名前を見てもわかるとおり、放送と通信の問題を話し合う会議であるにもかかわらず、放送、通信それぞれの業界の人はいない。放送と通信の業界は料理される「まな板の鯉」である。

 さて、こういう陣容のこの懇談会、その公開の仕方も変わっている。当初は非公開だったものの、3月13日の第6回会合から、懇談会の動画映像を公開して いる。いまこの原稿を書いているときには、3月22日の第7回まで公開されている。政府の懇談会なるものがどのように行なわれているか知りたくても、傍聴 の申し込みをして、その時間、霞ヶ関まで行くのは厄介だ。いつでも気軽に見ることができるようになったのは、透明度という点で明らかに進歩だろう[追記・ 驚いたことに、この原稿が雑誌に掲載されたあと、動画映像が削除されてしまった! ヒヤリン グ対象者からクレームがついたのだろうか。というわけで、変わってしまった点もあるが、そのまま公開しておく]。

 もっとも政府の「放送と通信の融合度」について、この程度で驚いているのは、いまやかなり遅れている、ということになるかもしれない。首相官邸のサイトを覗いてみた人は、ページトップに「政府インターネットテレビ」という大きなリンク広告があることに気づくはずだ。
 「政府インターネットテレビ」というのは、要するに政府広報なのだが、恐れ入ることに「多チャンネル放送」だ。まだ準備中のもあるが、大都市の地上波テレ ビよりもチャンネル数は多い。オンデマンドで過去の番組を見ることもできる。「改革続行チャンネル」では、「築地で見えた!おいしい構造改革!!」なんて タイトルで、俳優の竹中直人が、築地市場をめぐりながら、構造改革がいかに役立っているかを紹介していたりする。「企画競争」と称して企画の募集もやった ようで、おもしろいかどうかはともかく、一風変わった小泉政権の成果を誇示するサイトになっている。

 しかし、はっきり言って内容はない。こうした映像と比べると、審議会などの映像のほうがはるかに実質的な意味がある。いま映像が公開されている第6回と 第7回は、放送と通信両業界の主要な企業の代表者が、それぞれの立場を説明し、懇談会からの質問に答えている。懇談会での配付資料も公開されており、これ を一通り見ると、それぞれの業界の現状と問題点が手っ取り早くわかる。
 とくに第7回は、NTTと、まっこうから利害が対立するKDDI、ソフトバンクのトップがあからさまに対立する意見をぶつけあっていて、なかなかの見ものである。

●通信の未来を握るのは誰?

 この第7回の懇談会を討論会として見ると、ひとことで言って、ソフトバンクの孫正義氏の「圧勝」である。
 時間の割に内容が濃すぎて懇談会の残り時間が少 なくなり、Fiber_edited 最後に登場した孫氏ははしょって説明しなければならなくなったようだが、そのわかりやすさは群を抜いていた。右の光ファイバー(FTTH)累積加入者数の推移のグラフを示して、「ともかく結果が すべてで、光ファイバー市場はこんなふうにほとんどNTTが独占している」と言った言葉には説得力があった。ADSLは、競 争原理がある程度機能しているので、NTT東西あわせて4割のシェアでとどまっているのに対し、光ファイバーは競争が機能していないのでこうなった、と説明した。

 日本の通信行政は、これまでのやり方に異議を唱える孫氏の行動にあたふたしっぱなしだ(もちろんそれにはいい面もある)。それはなぜかが、この懇談会の映像を見てもよくわかる。その言葉の威力はかなりのものなのだ。
 NTTの和田紀夫社長は、独占事業時代に得た資産は株という形で国に還元した、光ファイバーは民営化されてから引いたものだし、いまや株式会社なので利 益を無視したことはできない、と反論する。それも一応もっともに思えるけれど、次のような孫氏の再反論を聞いてしまうと、やはり影が薄くなる。

 光ファイバーも、電柱などメタル回線時代の設備を使って光ファイバーを敷設している。だから、「民営化されてからやったので、格安でみんなに使わせろと言われても困るなどといった主張は通らない」というのだ。

 さらにNTT側の主張で困惑するのは、NTTは3000万世帯に光ファイバー回線を引くけれど、それ以上の世帯についてはさしあたり計画がない、とサジを投げてしまっていることだ。残りの3000万世帯に光ファイバーを引いても採算が合わないということらしい。
 NTTとしては、そもそも3000万世帯だって、「発表したときには、そんなにできるわけがない」と国内で言われ、海外からも驚きの声が上がった、3000万世帯だけでもすごいことなのだ、と説明している。

 まあ、それはそうなのだろうけれど、「じゃあ、ブロードバンドがますます必須になっていくこれからの時代に、残りの3000万世帯は、光ファイバーのめ どが立たないということでいいのか」ということになる。2011年のテレビ放送の完全デジタル化にあたっては、ブロードバンドのネットも利用する方向に向 かっている。こうしたときに、NTT側が言うように、「2010年までにどうするか考えたい」というだけでは、あまりに弱い。

 一方、孫氏は、6兆円あれば5年間で6000万の光ファイバー回線が敷設でき、1回線あたり月額料金690円で提供できると試算を示した。孫氏率いるソ フトバンク・グループは、モデムをただで配って価格破壊のADSLサービスを始め、ブロードバンドを爆発的に広めた実績があるだけに、このプランも、机上 の空論とばかりは言えない説得力を持って聞こえる。

 もっとも、この事業は、ソフトバンク・グループがやるわけではなくて、ユニバーサル回線会社を作ってそこがやるのだそうだ。電力業界のように地域ごとに 会社を設立し、地域独占の形にするのだという。
 全国に光ファイバーを持っているのは、NTTや電力会社などだが、どこがやるにしても大再編が必要だ。現実 的なアイデアなのかどうかが気にかかるところだが、ともかくも全世帯に光ファイバーを張る案を出しているほうが、「いまのところ考えがない」と言っている ところよりも、少なくとも前向きの答えを提示していることは確かだ。

 さらにあろうことか、NTTのトップは、1分だけ反論させてほしいと言って、「(NTTの資産を)国民のものというのはやめてほしい。これは株主のもの なんです」と言わなくてもいいことまで口にしてしまった。口を滑らせて思わず言ってしまったのだとしても、ホリエモンでもあるまいし、これは明らかに言っ てはいけないことだった。

 「NTTもいまや株式会社なんだから、利益を度外視した過重な要求をしないでくれ」という気持ちはわかる。しかしいま、規制緩和のほうを向いているこうし た政府の委員会が重要な価値尺度にしているのは、それが一般の人々の利益になるかどうかということだ。NTTのトップは、いうまでもなく膨大な情報を持っ ているはずだけど、いまのこうした傾向についての単純な理解がないようで、これでは、孫氏に完全に負けている。

 もちろん、この日の会合だけで決まるわけではないし、この懇談会がすべてを決めるわけでもない。しかし、この日の議論がかなりストレートに結果に反映されるのであれば、NTTの再々編は避けられない、ということになる。

     *

 ソフトバンクがボーダフォンを買収してまた新たに借金を抱え、ほんとうに大丈夫かと言われているが、今回取り上げた懇談会では、トップの孫正義氏は、あいかわらず元気いっぱいで、やる気満々、という感じだった。

関連サイト
●昨年11月に公開された多チャンネルの政府広報ネット・テレビ「政府インターネットテレビ」。ネットでテレビ番組を流す時代を先取りしている。野党第一党がニセ電子メールでぐうの音も出なくなっている一方で、小泉政 権のほうはこんなサイトまで作っている。これでは、政権が終わっても、まだ当分その影響力は発揮されるのだろう‥‥という感じが濃厚にしてくる。内容はな いが、そういう意味では、一見の価値がある。
「通信・放送の在り方に関する懇談会」。上に書いたように、第6回と第7回の関係業界のヒヤリングの回も動画像が削除されてしまった。かわりに議事録が掲載されている。1回あたり2時間を超える会議全部を読むのは大変という人にお勧めは、第7回のフリーディスカッションと、第6回と第7回それぞれの業界関係者のヒヤリングの最後に行なわれている懇談会の メンバーからの質問とその答えの部分。松原座長は下の自分のサイトで、猛勉強したことを明かしているが、鋭い質問を発している。また、3月22日の第7 回のフリーディスカッションでは、今回取り上げた和田紀夫NTT社長と孫正義ソフトバンク社長がかなり激しく議論している。
「通信・放送の在り方に関する懇談会」座長の松原聡東洋大学教授のサイト。ホームページ作成ソフトもまだない頃に、Htmlを書いてホームページを作成したという。出演したテレビ番組や懇談会の裏話も載っている。サイト の文章をあれこれ見ていたら、「地上波デジタル放送を見直せ」などと書いていた。03年7月の原稿だけど、こうした主張の人が、地上波デジタル推進の総元 締めである総務省の懇談会の座長を務めるようになるというのは、やっぱりおもしろい時代になったということなのかもしれない。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.429)

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