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2006.03.10

ライブドア事件と「野放しの資本主義」

規制を解き放った社会の是非が、ライブドア事件を
きっかけに議論されている。
「世直し」のために
”最強の組織”も実力行使を始めたが‥…

●新しいメディアはお金になるか?

 ホリエモンの逮捕から何週間か経って、しだいにわかってきたことがある。

 ウェブの誕生は、「これで世界が変わるかもしれない」ということを感じさせるのに十分なものだった。世界の四大発明の一つは、グーテンベルクの印刷術だ が、10年ほど前までは、情報社会などと言っても、500年以上も前に生み出されたこの印刷技術が支配する世界の中にいた。ところが、ウェブによって、そうした世界観は一変することになった。現代人を現代人たらしめている情報は、印刷技術ではなくて、デジタルなネット技術によって運ばれ始めた。
 こうした変化に夢を託した一人がホリエモンだった。

 大きな会社に入って、年長の人々に気を使い、辛抱強く会社に通って、しかるべきのちにそれほど多くはない富を手に入れられる人生。若い頃のホリエモン は、そうしたものに夢を感じられなかった。何の展望もなく、せっかく受かった大学にも行かず、マージャンや賭け事に明け暮れていたらしい。
 そうした彼の前に突然降ってわいたのが、インターネットだった。
 ホリエモンが、グーテンベルクのなんのといったことを思い浮かべたとは思えないが、こ れが世の中を大きく変える技術で、それを使えば、これまでの年功序列的な世界のありように従う必要がないことは容易に感じられただろう。

 そう感じたのはホリエモンだけではない。
 会社に属していたとしても、かなり多くの若い世代の人々が思ったはずだ。
 実際、超大手企業でも、通常なら上司の 反対にあってつぶされただろう企画が、当の上司がわからないということで通ってしまうということを、私もたびたび目にしてきた。ネット関連の仕事は突然出 現した一種の解放区になっていた。

 しかし、まったくの新参者として、古い世界の人々とも戦わなければならなかったホリエモンには、「自由な解放区」とばかりはいってられなかったにちがいない。実際のところ、ネットでは多くのことがタダで提供され、どうやって利潤を得るかを見つけるのは簡単ではなかった。

 ホリエモンは、ネットは利用しただけで、会計操作が「本業」だったのだ、といったようなことも言われているが、私はいまにいたっても、少なくともホリエ モンがネットに情熱を持っていたことはほんとうだろうと(半ば期待を含めて)思っている。ただ、そのネットは、儲からなかった。少なくとも彼(と多くの人 々)の期待ほどには儲からなかった。
 それで、結局どうしたかというと、「ほかのこと」で儲けて、そのお金をネットに投じたわけだ。

 こうした経緯を振り返ったとき、思い浮かべるのは、やはり500年前のメディアの変革者、グーテンベルクのことだ。
 グーテンベルクについてはわからない ことが多いが、彼の印刷した聖書は、全部売れれば(現在のお金にして)5億円以上にはなったと思われる。しかし、グーテンベルクが大金持ちになったかとい えばそうではなかった。ようやく完成した本は、印刷工場もろとも借金のかたにとられ、グーテンベルクは、多額の債務の重圧下、妻子にみとられることもなく 寂しくこの世を去った、と言われている。
 もちろんホリエモンがグーテンベルクだと言いたいわけではない。
 ただ、新しいメディアが富をもたらすかと言えば、 少なくとも当座はそんなことはない、ということだ。
 私は、そうしたことを知識としては知っていたが、それでもインターネットに(金銭とはちょっと離れたところで)期待したし、いまでも期待している。

 じつのところ逮捕されるまで、ホリエモンに対して好意的ともいいかねる文章を書いてきたのに、逮捕されて突然弁護する気になってきたのは妙な気もするが (「弁護」というより拘置所にいて何も言えないホリエモンに代わって少し「弁解」してみようとしている、といったほうがいいかもしれないが)、それは、逮 捕した特捜検察トップの「汗して働く人間をあざむくやからは許さない」という強い意志に違和感を抱いたせいもあった。
 世代的には、私は、たぶんホリエモンよりこの特捜トップに近いのだろうけど、これほど古くさく思えた言葉は近ごろ稀れだ。
 とっさに思ったのは、そもそも 資本主義というのは、汗して働く社会ではなくて、資本が資本を生む社会、つまり金持ちがますます金持ちになる原理の社会なのではないか、ということだっ た。「野放しの資本主義」というのはそうしたもので、だからこそさまざまな「規制」があった。それを解き放ってしまったことを問題にしないで、権力中枢に いる検事たちがいまさら「汗して働く人のために摘発する」というのは、はなはだ偽善的に思えたのだ。
 汗して働く人が報われなくていいとはまったく思わないし、また逆に規制すればいいというものではないけれど、「野放しの資本主義」をどうするかをまず考えるべきだろう、と思ったのだ。

●「野放しの資本主義」の修正はすでに始まっている

 などと思っていたら、そうしたことについて、おもしろいことを言っているサイトが見つかった。
 日本経済の総本山・経団連が設立した「21世紀政策研究所」の理事長を務めている、著名な経済評論家の田中直毅氏は、2月17日の「今週のひと言」というコーナーで、ライブドア事件について次のように話している。

「今回この証取法違反を巡ってどういう裁判過程が展開するのかまだこれは予想の限りでしかありませんが、この分野で仕事をされているプロの人たちにききま すと、これは相当思い切って踏み込んでいる、検察の方が踏み込んでいるというふうに言われています。ということは、資本市場の本来原泉にある清流、清水を 乱す行為というものを何としてでもここは具体的な罪として問うて、それを裁判所における判断を得て、基準として確立する必要がある。そのためには必ずこれ は 100%有罪にできるというだけの判断の積み重ねが、実はこの経済刑法の分野ではこれまでないわけですから、初めてではありませんが、新たな領域に踏み込 み、新たに裁判所の判断を求めるという意味においてイノベーティブといいましょうか、従来の仕組みからいけば極めて刷新的な手法を投入しようとしている、 というように評価できるのではないかと思います」

 すでに紹介したように、特捜部のトップは、判例がなくても躊躇せずに悪事を摘発すべきだと、法務省のサイトで書いている。
 田中氏は、これまでこうした捜 査は「権力の乱用」という批判が起きる可能性があるし、検察や法務省の内部で、「なんだ十分な証拠も揃えきれずに」とか「能力が低いからこういうことにな るのだ」と言われたりする「人事評価制度などの歪み」があった。それなのに、こんどの事件ではあえて踏みこんだ、と評価している。
 その前提として、田中氏はこの前の文章で、他の国でやったことを追いかけてやるだけでは新しい労働市場が生まれないことは日本の社会ではもはや100%理解されたこと ではあるが、青写真だけのアイデアを実現させていく仕組みや経営者が未熟だと言い、そうしたなか、検察が具体的な基準を作ろうとしているという。

 私も、こんどの検察の捜査はかなり異例なもので、それに注目すべきではないかと思ってきたので、田中氏がそれに目を向けたことには納得できた。しかし、 グレーな領域の基準を作るのは、ほんとうに検察のすべきことなのだろうか。法律を使って強制的な捜査を行なうのは、あくまでも「最後の手段」ではないの か。
 ライブドアは、手のこんだ形ながら古典的とも言える粉飾決算をやったようにも報道されているので、”グレー”かどうかはすでにわからなくなってきた。し かし、検察がグレーな領域にまで踏みこんだのだとしたら、やはりもろ手をあげて賛成していていいことだとはとても思えない。

関連サイト
21世紀政策研究所のサイト。理事長の田中直毅氏による2月17日の「今週のひと言」コーナーに「日本 社会に問われること――ライブドア事件を巡って」と題して、音声ファイルとそれを起こした文章が載っている。検察にしても警察にしても取り調べサイドにつ いての話は、アンダーグラウンドな情報というイメージが何となくあるが、日本経済の総本山の設立した研究所の理事長を務める著名な評論家が、こんどの事件 における検察の思惑について、堅苦しそうなサイトで突っこんだことを言っているのはおもしろい。
 21世紀政策研究所のサイトには、地域活性化についてのブログができているが、グーグル・マップを使って、地図から地域活性化のニュースをたどれるようになっている。グーグル・マップの利用がじわじわと広まっている。
検察庁のサイト。ライブドア事件は東京地検の特捜部が捜査している。検察 庁のサイトには広報ページもできているが、公表可能な情報は、メディアに不透明な形で流すのではなくて、事件ごとにきちんとホームページに掲載すべきだ ろう。

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