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2006.02.17

ホリエモンの裏切り

ホリエモンの悪巧みとされる行為が次々と
報じられているが、もしそれが事実だとすれば、
ここ数年の大騒ぎはいったい何だったのだろう

IT企業とグレーゾーン

 前回書いたように、ホリエモンの逮捕は、(知り合いでも何でもないけれど)思いのほかショックだった。もちろん、寝こむとか、外に行きたくなくなるとか、そんなことではなくて、とても不愉快な気分になってきた、ということだ。
 これまで堀江氏の言動には賛成も反対もあって、このコラムでもそう書いてきた。また、既得権益を持った人々などからの理不尽な物言いについては、堀江氏 を擁護した。前回書いたように、ホリエモンが人気が出たのは、メディアがちやほやしたからではなくて、プロ野球騒動やフジサンケイグループとの争いなど で、堀江氏に対する「問答無用」みたいな訳のわからない反発があり、それに対して、多くの人がおかしいと思ったからだ。
 いま振り返ると、堀江氏も、自分に人気が集まるのは「抵抗勢力」がいるからだと、(はっきりとは意識していないまでも)感じてはいたのかもしれない。
 プ ロ野球とかマスメディアとか、参入障壁が大きい業種にわざわざ挑戦したのも、反発が大きければ、味方してくれる人も増えるというメディア力学を理解し、直 感的にそれを利用したようにも思われる。

 IT企業が、法律のグレーゾーンで仕事をすることにはそれなりの理由がある。デジタルやネットの領域は、これまでの法律では想定していないことが次々と起こる。
 たとえばいまは、家庭内でも電話回線にモデムなどさまざまな機器を自由につけているが、20年ほど前までは、これは電話事業を独占していたNTTの前 身、電電公社だけに許されていた。一般にはほぼ認められていなかったのだが、このルールに素直に従っていたのではインターネットの実験もできない。グレー ゾーンのなかでネットの研究が始まり、日本のネットが誕生した。
 また現在でも、少し前の本誌で書いたように、検索サイトで検索し、ヒットしたサイトの本文の一部が読める、とくにキャッシュ表示などは著作権法的にはグレーゾーンだろう。検索サイトは、サイトを作った人間の承諾を得て、本文の一部をコピーしているわけではないからだ。

 しかし、法律で認められるまで検索のシステム作りは待とう、などということをやっていたら、ネットの進化はない。
 法律で禁じられていなければ、ともかく やってみる。訴えられれば、裁判で正当性を争えばいい。それぐらいの感覚で仕事をしなければネットの可能性は開けない、ということはいくらもある。
 ライブ ドア事件のあと、グレーゾーンの行為はモラルを持って控えるべきだ、みたいな意見がにわかに強くなってきたが、これはつまり、日本では新しいことをやら ず、アメリカで生まれたものの後追いに甘んじろ、と言っているのに等しい。事実上、「後追い」になっているのはまちがいないところだが、これから先もそう いうことになってしまう。

自分の言葉への裏切り?

 

そうは思うが、堀江氏がやったとされていることは、IT企業ならでは、というものではなかった。堀江氏が、グレーゾーンを突いたのは、ITに関わる部分 ではなくて、もっぱら金融に関わるところだ。堀江氏がかかわっていたとされる疑惑の中で、(刑罰の軽重以上に)とくに深刻なのは粉飾決算だろう。
 検察は、ライブドア・グループが投資組合を通して資金を捻出する工作をやったのは違法行為だと確信しているようだが、堀江氏も含めて逮捕されたライブドア幹部は、その点については争う余地があると思っているのではないか。
 しかし、たとえ犯罪にならなかったとしても、株を買うための最重要の指標である決算を繕っていたのであれば、株主をだましていたわけで、それでは、堀江 氏が二言目には口にしてきた「株主のため」という自分の言葉そのものを裏切っていたことになる。もしそうだったとすれば、有罪か無罪かといったこととは別 に、世の中すべてをあざむいていたという意味で、罪は大きい。

 

「会社は株主のためのもの」という考えがいいか悪いかといった議論が成り立つのも、そう言った人間が、ほんとうにそう思い、そうした原則で行動していた場 合だろう。口では「会社は株主のためのもの」と言いながら、じつはまったく違うことをやっていた、というのでは、いままでの議論は何だったんだ、というこ とになってしまう。つまり、堀江氏の言ったことに反対していたことさえも意味がなくなってしまう。
 「カネで人の心が買える」に始まって、堀江氏が口にしたことは、しばしばことさらに挑戦的で、偽悪的でさえあった。それでもそれなりに支持されたのは、本 音を語っているように思われたからだ。実際、「体【ルビ:てい】のいいウソを言うよりもよっぽどいい」と支持した人も多かったのではないか。
 手のひらを返したように「ホリエモン叩き」をやっているテレビなどがうさんくさく見えるのは、いまさらのように「あいつはやっぱり怪しいやつだと思っていたよ」と言わんばかりの放送をし、これまでのことを全否定しようとするからだろう。

 実際のところ、堀江氏がやったことを何もかもおかしいと思っていた、と言える人はそんなにはいないのではないか。
 既得権益を握った人々が恣意的に球団をつぶそうとしたのに、「待った」をかけたのは堀江氏だった。堀江氏の行動を全否定して、プロ野球はやっぱり1リー グにすべきだった、という人は少ないだろう。
 また、「デジタルビデオレコーダーでCMが飛ばし見され、テレビ局が危機に陥る」などという(堀江氏の言って いたような)ことが起こらないわけではないし、「一次情報はネットで簡単に手に入る」という(堀江氏の言っていたような)ことが起こっていないわけでもな い。
 いまさら全否定してみても始まらず、基本的な状況は変わらないながら、ここ何年間かの大騒ぎがにわかにばかみたいに思われてきた‥‥というのが、こん どのライブドア事件なのではないか。

ホリエモンの錬金術?

 ただし、ホリエモンの派手な行動に、メディアも含めてみんなが目を奪われていたまさにそのころ、「疑惑」を感じとっていた人もいた。
 公認会計士の磯崎哲也氏は、強制捜査直後の1月17日から数日にわたって、ブログで、ライブドアの経理処理の怪しい点を指摘し、こう書いている。「昨年3月頃にライブドアの開示資料の分析をしたところ、かなり『普通とは違う』取引をしていたことが明らかだった」。
 ライブドアのやったことが違法か「ルールの穴」を突いただけなのかについても、会計というのは、すべてを先にルール化しているものではなくて、「企業の 財政状態や利益を適正に表示する」という「大原則中の大原則」に依拠しているものだから、「誤解を恐れずに大胆なことを言えば、会計に『ルールの穴』なん か無い」。時間外取引と「同じノリで、『どこにも悪いとは書いてないじゃないですか』という論理は会計の場合には通用しない(ハズ)」、「(もし報道され ているような取引を意図的に行なっていたのだとしたら)明確に『アウト』」だと指摘している。ただ、違法性があることを前提にブログを書くわけにはいかな かった、とも断わっている。
 こうした「遠慮」をせずに、昨年のうちからサイトで、はっきりとライブドアの「錬金術」を指摘していたのは、会計事務所所長の山根治氏だ。冤罪事件で検 察に起訴され破滅寸前になったというすさまじい過去を持つ人物だが、株上場以前からのライブドアと堀江氏をめぐる疑惑を「遠慮」なしに書いている。よくラ イブドアに訴えられなかったものだと思うが、いまから見れば、やぶ蛇になるのを恐れて、告訴できなかったのかもしれない。
 すべてをウソで固めていたというのは信じたくない話ではあるが、これらのブログを読むと、堀江氏が違法性を認識していなかったとは信じられなくなってくる。すべてがウソだったとすれば、あまりにむなしい。

      *

 今回は、公認会計士のブログを紹介したが、ライブドアの開示資料書類を見た公認会計士などは不正の匂いを感じとり、それを見ていた監査法人が見抜くのはむ ずかしくなかったはずだと指摘している人もいる。ところが、法律の専門家のブログでは、事件についてかなり違った見方が出ている。次回は、それを紹介し よう。

関連サイト
●事件によって急増したライブドアのサイトのアクセス。世界中のサイトの「視聴率」を収集している『アレクサ』のライブドアの情報ページ
●公認会計士の磯崎哲也氏のブログ『isologue』。ライブドア事件について、公開されている書類などから詳細な分析をしている。かなり専門的な部分もあるが、上に書いたような会計の基本的な考え方はわかりやすい。もっとも、堀江氏らがほんとうに罪に問えるかどうかは、こうした専門的な証拠を積み上げていった結果、初めて明らかになるもので、テレビの感覚的な報道ではもとより無理なのだろう、ということも感じられる。
●コンサルティング会社代表の山根治氏のブログ記事「ホリエモンの錬金術」。昨年前半に、ライブドアの株上場や経理の不正を指摘しているばかりか、不審な報告書等 を開示しているにもかかわらず多額の増資に応じたフジテレビの経営陣は、株主代表訴訟の対象になることが考えられるとも、当時から指摘している。
●1月22日で更新の止まってしまった旧『livedoor社長日記』。逮捕後、社長ではなくなって『堀江貴文日記』とタイトルが変わった。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.422)

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