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2006.02.24

感情的な報道が行なわれる理由

ホリエモン逮捕をめぐって数多くの意見が出たが、
意外に見逃されていることもある。
在米の弁護士が、目からウロコが落ちるような指摘をしている。

法律の専門家もよくわからなかったライブドア報道

 ライブドアのポータルサイトは、「ヤフーの後追い」などと言われているが、少なくともブログについては、ヤフーに勝っていた。ヤフーがブログを提供し始 めたのはずっと後のことだし、いまヤフーのサイトで「ブログ」と検索しても、トップに出てくるのはライブドア・ブログである。
 ブログ・サービス提供者としてホリエモンは貢献したばかりではない。ブログに話題も提供し続けた。逮捕までされて話題を提供したわけで、皮肉な言い方をすれば、文字通り「身を賭して」日本のブログ文化に貢献したとも言えるだろう。

 グレーゾーンを突き続けた堀江氏の行動は、専門家たちにも知的刺激を与えた。多くの専門家がブログで意見を述べている。ホリエモンの逮捕によってとくに知的刺激を掻きたてられたのは、前回取り上げたような公認会計士とともに弁護士らしい。
 法律の専門家たちは、「法律の定めがないのに人を裁いてはならない」ということを、当然のルールとして暮らしている。ライブドアのやったことの何が犯罪 にあたるのかをはっきり知っておかなければ仕事にも差し支える。彼らにとって、ライブドアの事件は他人事ではないわけだ。
 2号前の本誌で、「ともかく検察に逮捕されたのだから悪い」とメディアは言い始めたのではないか、と書いた。弁護士たちのブログをあれこれ読んで、ます ますそう思った。というのは、数多くの弁護士たちが、「報道されているところからすると、いったいどこが犯罪になるのかわからない」と書いており、メディア の報道に、違和感を抱いているからだ。
 たとえば、ある弁護士は、ブログでこう書いている。

「[メディアで]目に付くのは、エモーショナルな形容詞ばかりである。悪質な錬金術師に始まり、マネー市場主義、金儲け主義に天罰があたったかのような記 述しかない。問題は、株式市場で資金を調達したり、M&Aを繰り返すことではなく、コンプライアンス(法令遵守)のシステムが、ライブドアには欠けている のではないか、ということであり、その開示基準がどうなっていて、それにどう反したかということであろう。事実の分析的な報道をせず、主要なマスコミがす べて最初から違法、悪と決め付けてかかって書いて、その偏見を助長するような形容詞を多用している様は、気持ちが悪い。アメリカの報道なら、こういった金 太郎飴のような報道姿勢にはならないということは、確かだろう」

 この弁護士は、シカゴの法律事務所で働いているとのことで、日米の違いについても触れており、『アメリカの風景 シカゴの法律事務所から』と題されたこのブログは、こんどの事件について書いている弁護士ブログのなかで、もっともおもしろかった。

ライブドアの個人メールはどうなった?

 この弁護士は、「ライブドア問題と民主主義」という1月24日のブログ記事で、強制捜査でライブドアのサーバーが押収されたが、「サーバーに保存されて いる全く第三者の電子メールの内容も全部見れるということではないか?」と問題提起している。やみくもに捜査が行なわれれば、通信の秘密の侵害で憲法違反 だ。ライブドアに関するメールと、第三者が利用するウェブメールの内容とは分けなければならない。

「こういうことこそ、マスコミがきちっと主張して捜査機 関に対するけん制をすべきところではないのか。一緒になってライブドアたたきをやるだけではなく、このような広範囲になされた、それもインターネットポー タル企業に対する捜索に対し、一定の歯止めをかけるべきなのは、マスコミとしての責務だと思う」。

 令状があれば、メールの押収はできるが、ライブドアの個人メールがどう扱われているのかはたしかに問題にすべきことだろう(こうしたことを言っているメ ディアがあるか、ネットで検索してみたら、見つかったのは、当のライフドアのニュースサイトに掲載されているパブリック・ジャーナリストのオピニオン記事 だけだった)。

 「権利の侵害の始まりというのは、誰もが疑問に思わないところから始まるものである」と弁護士は書いているが、被疑者のメールもろとも個人 のメールまで押収されていたとしても、いつのまにか気にされなくなっている。

ライブドア側弁護士が出てこないのはなぜか?

 また、この弁護士は、こうしたことも指摘している。
 捜査の着手によって、あっという間にライブドアは、株が下がり、会社の存立さえ危うくなった。ライブ ドアだけではなくて、東京証券取引所は取引停止になり、海外の証券市場の株価まで影響を受けた。ライブドア株の影響はたちまち世界におよんだ。
 ライブドア はそんなに大会社だったのかと驚いた人も多かったはずだが、「そこまでのインパクトのある行動をとるのであれば、検察側にも、それなりの説明責任がでてく るのではないか」。
 検察の十分な説明がないので、マスコミはあいまいな情報をもとにエモーショナルな報道をし、何が何だかわからないまま悪いことをし たという印象だけが先走りしている、というのはその通りだろう。

 やっぱり弁護士というのは鋭い指摘をするものだ。(私が責められているわけではないけど) まったくグウの音も出ない、という気がしてくる。

 この弁護士は、「ライブドア側の弁護士が一切でてこないのも、一方的な論調に輪をかけている気がする」とも書いている。アメリカでは、こうした場合、ラ イブドア側の弁護士が出てきて、偏った報道に反論するのだそうだ。日本でそうならないのは、弁護士が取り調べに立会うことを認められていないからではない か、という。

「朝から晩まで、検察や警察で、自分ひとりだけで取り調べを受けて、自白を迫られる。今まで普通の生活を送ってきた人にはかなりの精神的な重圧であり、そ のことを思うだけで、もう投げ出してしまおうと思う部分もあるのではないか。例えば、隣に弁護士がいて、言いたくないことは言わずともよいとされ、その助 言を受けながら取り調べを続けるなら、まだやっていけるだろう。自殺せずとも、はっきりさせていこうという気持ちも出てくるかもしれない。アメリカでは、 日本では取り調べにおいて弁護士の立会権が認められていない、ということを言うと、信じられないという表情をされて、いつも情けない思いをする」。

 ホリエモンは自己主張ができるのだろうが、もっと気の弱い被疑者だっている。
 アメリカでは、「ミランダ・ルール」と呼ばれるこの弁護士立ち会い手続きが 守られていなければ、「どんな凶悪犯でも手続き違反で無罪」。
 しかし、日本では、「強大な権限をもつ検察に対し、被疑者側にとっては、それを防ぐなんの防 御の手段もなく、取り調べに対する弁護士の同席も認められていない。この国では、捜査機関に目をつけられれば、もうお終いなのであろうか」。

 ライブドア事件について、報道することがなくなってきたテレビは、取調室の間取りや拘置所の食事の内容まで取り上げ始めた。せっかく取り調べの様子に関心が集まっているのなら、この弁護士の言うようなことにも触れるべきだ。

 米軍兵士による事件が起こるたびに、アメリカ側が容疑者を日本の警察に引き渡すかどうかが問題になる。日本のメディアは、「容疑者を引き渡さない米軍は ひどい」みたいな報道をするが、アメリカが引き渡しをためらうのは、日本では弁護士を立ち会わさせず、非民主的な取調べをしていると見ていることもある。
 警察は、自白を取りにくくなるので弁護士の同席を認めたがらないが、取り調べで追いつめられ、やってもいない犯罪の自白までさせられたり、自殺に追いこ まれるということは実際に起こっている。さらに、そのせいで報道が感情的なものになっているというのであれば、報道被害が社会問題になっているときだけに 弊害は無視できない。

   *

こんどの事件をきっかけに弁護士のブログをいろいろ見てみたが、驚くほどいっぱいある。しかも、「ひょっとしたら弁護士って、けっこうヒマ?」という「疑 惑」が湧くほど、熱心に議論している。まあ、ヒマなはずはないと思うけれど、起こったばかりの事件について、ほかの業種の人も交えて議論できるブログは、 格好のケース・スタディの道具なのだろう。次回も弁護士のブログを紹介する。

関連サイト
●目からウロコの在米の弁護士ブログ『アメリカの風景 シカゴの法律事務所から』。事件発覚早々に、「まだまだこれから新しい事実関係が明らかになるかもしれないの で、今の段階では何とも言えないのだが、もし、ライブドア側に有能な弁護士が担当し、徹底的に法廷で争うということになれば、結構、面白い事件だと思う」 と書いている。
『ふぉーりん・あとにーの憂鬱』。こちらも在米の弁護士によるブログ。「私 はライブドアのファンではありませんし、個人的には、適法かどうかは別として同社の戦略が妥当かといわれれば首を傾げる」と書きながらも、「『社会が石を 投げるから、罰(刑罰・行政罰)を与えていい』のなら、法律とかはいらない」という立場から、前回取り上げた公認会計士の磯崎哲也氏などとブログ間で議論 している。
●ライブドアのこんどの事件によって、株の暴落などで損害を受けた人々の集団訴訟の動きが始まっている。ITJ法律事務所が、先着200名限定で第一陣の訴訟の呼びかけをしている。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.423)

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コメント

TBとご紹介ありがとうございます。
アメリカでは、刑罰を重くし過ぎたりすることによるover deterrent(過剰抑止)ということがオープンに議論されるのですが、日本ではいったん「悪い」というレッテルを貼れば何をしてもいいという雰囲気を感じてしまうことがあります。
個人的には、「適切な水準」あるいは「バランスのとれた」抑止力のあり方ということが、オープンに議論されるようになって欲しいと願っています。

ライブドア問題について、私にはよくわからないことが多いのですが、お書きになっているこの記事について、大変感銘しました。
報道のあり方について、大事なことを気づかせていただいたと思います。
ブックマークに入れさせていただいてよろしいでしょうか。

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