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2006.02.10

よくわからないけど、ともかくホリエモンは悪い‥‥のか?

もてはやしぶりから罵倒への、
ホリエモンの扱いの変化はすさまじい。
こうした変化を生んだものは何なのだろう?

ホリエモン人気はメディアがちやほやしたからじゃない

 ホリエモンが逮捕されたとき、福岡にいた。
 会ったメディア関係者の話だと、福岡県は堀江氏の出身地ではあるものの、それほど人気があるわけではないという。
 同じIT企業では、ソフトバンクの孫正義氏などはダイエーホークスのオーナーになったことで支持を集めているが、それとは比べものにならないそうだ。
  ところが、福岡市の繁華街・中州の川っぷちの屋台の前を通りかかったら、大きな声で客が、ホリエモンが、とか、ミヤウチが、などとしゃべっている。
「なんだ、けっこう人気があるじゃないか」などと呑気なことを思って、ホテルに戻り、テレビをつけたら、「ホリエモン逮捕」で大騒ぎになっていた。

 すぐに思い浮かべたのは本欄のことだ。何か書こうかと思ったものの、どうも気が進まない。
 メディアでは、強制捜査以来、「ホリエモンは悪者」ということにあっというまになってしまった。
 だけど、ほんとうに何が悪いのかをわかったうえで報道していたメディアは、きわめて少なかったのではないか。マネー雑誌出版社の買収の発表時期を少し遅らせたぐらいで、なぜ犯罪になるのか、当初発表された内容で、すぐ理解できた人はそういないだろう。

 「あんな怪しげな人物をちやほやしたメディアが悪い」みたいな議論があるけれど、ホリエモンの人気に火がついたのは、ちやほやしたからではなかった。むしろまったく逆だ。
 既得権益を握った人々が、見当違いに感情的なホリエモン攻撃をしたからだ。
 その見当違いぶりにあきれ、擁護したくなり、人気が集まった。つまりホリエモンを人気者にしたのはまさに頑強な「抵抗勢力」の存在で、彼らがいなければ、いかにもふてぶてしくルクスがいいわけでもない男に、これほど注目が集まったりはしなかっただろう(抵抗勢力の存在が予想外の人気を生んだという意味では、小泉首相と同じだ)。
 強制捜査や逮捕もそうした延長で、過激な形の守旧派による「いやがらせ」のようにも見えた。

 ライブドアの強制捜査に続いて、国会の証人喚問でヒューザーの小嶋社長が、小泉首相の出身派閥への献金を関連企業に働きかけ、集金係までやっていたことを明らかにした。
 一日のうちで立て続けに起こった2つの出来事は、反小泉陣営による一種のクーデター開始の狼煙(のろし)のようでさえあった。特捜検察は、政治と無関係に行動するようなところではないから、いかにも政治的思惑はありそうだった。

 堀江氏らが逮捕されてまもなく、逮捕者の供述内容が次々と報道されたことも警戒心を掻きたてた。
 この事件にかぎらず、もっとも「うさんくさい報道」は逮捕直後のものだ。「容疑を認めた」みたいな報道があり、「やっぱり逮捕された人は悪かったんだ」というイメージが作られていく。しかし、逮捕直後の人々から話を聞けるのは警察や検察しかいない。警察や検察は、「逮捕したのは悪いやつ」と思わせたい。不当逮捕などと思われたら厄介だし、逮捕した人間を憎むべきやつと思ってもらえば、情報だって集まりやすい。
 ライブドアの事件では、特捜検察の捜査では珍しいほど、検察が情報を流しているようだ。大ニュースだから、メディアは報道の枠をいっぱいとれるが、新たな情報は少ない。検察が少し情報を流せば多くのメディアが飛びつき、ホリエモンのやったことは何もかも悪いと報じられる。きわめてメディア操作しやすい状況になっている。

特捜部の世直し捜査

 こんどの捜査が、どこかの政治勢力の意をうけているのかどうかはともかく、この捜査を指揮している東京地検の特捜部長が、このところの社会風潮を快く思っていないことは確かだ。
 法務省のサイトの検事志望者向けのページで、「闇の不正と戦う」と題して、大鶴特捜部長は次のように書いている。

 実際に社会の陰で進行している腐蝕は、決して報道されるところにとどまるものではありません。闇の部分の広がりは想像以上のものがあります。(一部略)『法令の趣旨からは違法であろうが、判例がないのでどのようにしたものか』などの理由で、摘発を躊躇しがちにもなるのですが、しかし、そもそも腐蝕に利益を貪ろうという人たちは摘発されないように巧妙な仕組みを作っているのですから、多少の困難を前にして捜査をあきらめたのでは彼らの思うつぼです。額に汗して働いている人々や働こうにもリストラされて職を失っている人たち、法令を遵守して経済活動を行っている企業などが、出し抜かれ、不公正がまかり通る社会にしてはならないのです。

 この特捜部長は、昨年4月の就任時の記者会見でも同様のことを言っているが、いまあらためて読むと、ライブドアのことを念頭においていたようにも見える。
 容疑がなければ事件にはならないが、容疑を追及する人がいるから事件になる。たくさんある怪しい事実のなかで、ライブドアをめぐる疑惑をとりわけ重要なものだと思い、東京地検特捜部という超エリート集団を動かしたのは、「額に汗して働いている人々」や「法令を遵守している企業」に悔しい思いをさせてはならないという、この特捜部長の「思想」による。この事件の隠れた主役は、まぎれもなくこの特捜部長だろう。

東京地検特捜部の「メディア対策」

「メディア操作」というと聞こえは悪いが、特捜検察が「世直しのための教育効果」を考えてライブドア捜査を始めたこと、そしてメディアをそうとうに意識していることはまちがいない。
 というのは、いまの特捜部長の前任者は、在任中、「マスコミ嫌い」をあからさまに表明し、問題になった人物だったからだ。
 井内前特捜部長は、新聞記者から送られてきた年賀状にたいして、「マスコミはやくざ者より始末に負えない悪辣な存在」などと書いた文章をつけて突き返した。
 マスコミの反発を買っただけでなく、国会でも問題になった。
 前特捜部長の行為は、鬱憤晴らしにはなったかもしれないが、捜査の役に立つわけではない。無意味なメディア批判をする代わりに、いまの特捜部長が、注目度がとりわけ高いこんどのような事件で、先駆け報道で操作の邪魔をされ苦い思いをさせられているメディアを、逆にうまく使ってやろうと思ったとしても不思議はない。

 また特異なメディア対策をしなければならないのは、22万人もいるというライブドア株主の存在のためもあるだろう。
 ライブドアの株式分割は、株価をつり上げるためだけでなく、世論を味方につけるためにもたくみな戦略だった。
 株式分割を繰り返したライブドア株は、百円玉いくつかあれば買える(いまでは百円玉1個もいらないが)。22万人にも膨れあがった株主は、株価上昇を期待して、ライブドア支持者になる。ネット証券でライブドア株を買った人々の多くはネットのアクティヴなユーザーでもあり、情報の発信能力もあるだろう。事件発覚後、摘発した東京地検には、声援よりも株主たちからの苦情が多く寄せられたというが、特捜部が、こうしたホリエモン支持者に対抗し、世論を味方につけるためにも、情報のリークは有効だ。

 検察がメディア対策をするのは自由だが、メディアの側が、何の懸念もなく、検察組織のリークに乗った報道をしていいかどうかは別問題だ。そんなことを思って書く気が失せていたのだが、少し時間が経って気がついたのは、書く気が起きないのはそればかりではなく、どうやら思った以上に、ホリエモンの逮捕にショックを感じていたためらしい。
 まだはっきりしていないことは多いが、特捜部の特異なメディア対策の根っこには、少なくともライブドア幹部の「作為」があることは確かなようだ。堀江氏が話題を振りまくたびにこの欄でもそれをとりあげてきたが、不正が真実だとすれば、これまで書いてきたことはいったい何だったのだろうか。
 次回は、「ホリエモンの裏切り」について考えてみることにしよう。

      *

 「推定無罪」の原則はどこへやら、罪状も不確かなうちから有罪報道(それも何かもを一緒くたにした有罪報道)を始めたメディアにたいして、ネットでは、違和感を表明している人がたくさんいる。ついこのあいだまではありえなかったようなこうしたメディア批判は、社会がどちらかの方向に一辺倒になることを防ぐ働きをするだろう。

関連サイト
●ライブドア捜査を指揮している東京地検の大鶴特捜部長による「闇の不正と戦う」と題された文章(http://www.moj.go.jp/KANBOU/KENJI/kenji02-01.html)。法務省のサイトの紹介ページの「検事を志す皆さんへ」の「検事の職務内容」というコーナーに載っている。メディアはもう少し、このライブドア事件の隠れた主役にスポットライトをあてるべきかもしれない。
●井内前特捜部長は在任中、「マスコミが犯罪者そのものに成り下がっている」とまで書いた激烈なマスコミ批判の文章を新聞記者に送りつけた(http://www.rondan.co.jp/html/kisha/0501/050127.html)。
●井内特捜部長の行為が問題にされた昨年3月29日の衆議院法務委員会の会議録(http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000416220050329007.htm)。
●ライブドアのサイトの「livedoor 株主コミュニティページ」には現在もこう書かれている(
http://finance.livedoor.com/4753/
: ライブドアのサイトで登録してIDを得ないとアクセスできない)。「ライブドアグループでは、ポータルサイト『livedoor』を通じ、皆様に様々なサービスを提供させていただいておりますが、皆様が当社のサービスをお使いになると、その分当社の売上、利益がドンドン増えていきます。仮に株主の皆様(2005年9月末時点で約22万人)に当社の『livedoor Wireless』にご登録いただきますと当社の毎月売上が約1億円アップします」。株主が22万人もいれば、顧客としても、また世論形成の上でも、大きな勢力になる。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.421)

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コメント

大鶴が本来戦うべき「闇の不正」とは某カルト教団と後藤組であるべきでしょう。
ライブドアは彼らに汚染されかかっていましたが、堀江社長のコントロールが上手だったので実は汚染されていなかったのです。
ですから、捜索を始めてみて、蓋を開けたら肝心な闇の不正が何もなかった。いや、早すぎて、ライブドアがまだエサを食ってなかったと言うのが正しいかも。
某カルト教団と後藤組の北朝鮮覚せい剤密輸販売の闇マネーのロンダリングシステムを構築しようとしていたのが野口さんで、野口さんはその詳細を知り過ぎていたから殺されたんですよ。
大鶴が本当に捜索したかったのはそっちなのに、そっちまで手が届かなかった。それで、ライブドアだけが犠牲になっただけで終わったんです。これが、庶民皆が納得できない結果になった原因です。

はじめまして。某海外雑誌のホリエモン関係の記事を翻訳したときに、地検から強制捜査を行うとの連絡があって六本木ヒルズ待ちかまえていたとの言葉がありました。こういう見せしめのようなことが許されるのか、そもそもそのこと自体が信じられませんでした。また、その連絡を受けたテレビ局で局員が一斉に廊下に出て持株を売っていた様子が書かれたブログもありました。明らかにインサイダー取引ですね。問題なのはライブドアより自分は正しいと信じているそれらの人たちではないかと思えます。

歌田明弘様 アームチェア・ディテクティブを思わせる論理構成、感嘆しました。

まさにご指摘のとおり、幾重にも折り重なった意図・思惑・策謀の中で、大鶴特捜部長の月光仮面的正義感(?)と特捜の恣意的捜査こそ、間違いなく本件を事件たらしめた張本人でしょう。無知と無責任のマスコミ報道を最大限に利用することで、大鶴氏と特捜部は自らを勧善懲悪のヒーローとすることにまんまと成功しました。大鶴氏は前任者の「マスコミなどヤクザ以下」という言葉を決して否定したのではなく、むしろ「ヤクザにも劣る存在」だから「利用するのは赤子の手をひねるほど簡単だ」と学んだのではないでしょうか。実際、彼らときたらほんの少し餌さえやればどんな踊りでもするのですから。
1月16日18:40 一旦ヒルズ地下駐車場に着きながら、わざわざ1階の外へ出て、隊をなして入城するなんて「画づくり」くらいはお安い御用です。

勧善懲悪のストーリーを美しく完結させるには「悪」の側も「ヒーロー」でなければなりません。でなければ「勧善懲悪の画」がサマにならない。「闇の不正と闘う」大鶴特捜にとって、ホリエモン以上の「悪」はいないというわけです。カネボウの2000億円架空利益と比べて、(たとえそれが事実であったとしても)40億円そこそこの親子利益付け替え(つまり連結上は操作されていない)といういかにもセコイ「粉飾」をもって超有名企業へ実質的死刑宣告をするのは一罰百戒の意味においても理不尽すぎるという意見がありますが、ホリエモンならびにライブドアが選ばれたのにはすぐれて合理的性があったのです。いやむしろ、大鶴特捜が完全なる善のヒーローとなるには、ヒールはホリエモンとライブドアをおいて他にいなかった。ホリエモンほどおいしい聖餐はないのです。(やや脂肪過多ですが・・・)

それにしても、大鶴氏を突き動かしたものが本当に正義感や、あるいはヒーローとしての功名心だけだったのでしょうか。亀井氏、日枝氏、ナベツネ、耐震偽造隠し、タレコミ・・・。捜査の過程でさまざまな意図と思惑が伏線としてはたらいたことは想像に難くありませんが、最終的ゴーサインを与えたのは誰だったか? いやむしろ、そもそも影の指揮者(あえて「本当の巨悪」と呼びます)が描いた絵のもとに大鶴特捜は動いていたのではないのか? さらにその「本当の巨悪」が、日本の闇社会にも直結していたら・・・。大鶴氏の真意がどこにあろうとも、大鶴特捜は白装束の月光仮面ではなく、とんだ黒色仮面ということになります。

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