安心な建築物ができるための方法
いつ建物が崩れてくるかわからないとなれば、
うかうか街も歩けない。何かいい方法はないか。
こうした仕組みはどうだろう。
事件の広がりと不思議な静けさ
ビルのなかで、地震が来た。新しいビルだから、これぐらいのことでは大丈夫だろう。そう思っていたら、天井が降ってきた‥‥
耐震強度の偽装設計は、そんな悪夢がありえなくはない現実を突きつけた。
正月早々、不吉な話で申し訳ないが、ちゃんとした建物であることを保証する建築確認がいい加減で、ひどい設計の建築物も、認可されて涼しい顔で建っていることがはっきりしてしまったのだから、安心して街を歩けないどころか、家の中でおちおち寝てもいられない。
もちろん、こうした状況は、人間が心配できる範囲を超えている。24時間ずっとそんなことを気にしていれば、ノイローゼになってしまう。運を天にまかせて、気にしないようにしているしかないだろう。
まったくひどい状況だが、そのひどさをたいていの人よりも早く口にしたのは自民党の武部幹事長だった。
「悪者探しに終始すると、マンション業界は、ばたばたとつぶれ、景気がおかしくなる」と言った。
「じゃあ、危ない建物をそのままにしておいたほうがいいの?」ということを考えなかったらしいのはほとんど笑い話だが、「いつ来るかわからない地震を心配して景気を悪くするようなことはやめたほうがいい」というのは、いかにも本音っぽい話だ。
でもまあ、「景気が悪くなるほど危ない建物がいっぱいある」と与党の幹事長が予想してしまったわけで、それだけで景気が悪くなっても不思議はなさそうだった。
けれども、株価はその後も上昇を続けている。たいていの人は、あまりにネガティヴなことは考えられないのだろう。そこへいくと、武部幹事長は、良くも悪くも非凡な慧眼の持ち主だった、といえるのかもしれない。
「あまりにネガティヴなことは考えられない」というのは、そうしたことをもっとも考えそうなメディアも同じだった。「大地震が来る」などといった話は得意なのに、現実に、建築物の安全性の根幹が壊れているとなると、想像力がなかなか働かず、肝心の、建築をめぐる構造的な問題よりも、お手軽な手近の悪人探しのほうに熱心だった。
そして、政府もまた、そうした動きに荷担している。
北側国交大臣は、建築確認業務をきちんとしたものにしなかった政府にも責任があることを、いち早く認めた。いまとなっては当たり前のことのようだが、公明党のこの人が大臣でなければ、そうあっさりと認めることはなかったにちがいない。民間どうしの問題だということでつっぱね続け、裁判で決着がつくまで国の責任を認めようとしなかった可能性もある。
政府がそうした行動をとったとしても、それなりの理由はある。なにしろいい加減なデータで書類を作成してもどの検査機関もわからなかったぐらいに、建築確認の検査はザルだったのだ。今後、不良建築の被害はどれぐらいのものになるか見当もつかない。政府に責任があることを明言すれば、最悪の場合、ただでさえ傾いている国家財政がいよいよ傾き、大混乱に陥る恐れだってある。官僚たちがそうした心配をしなかったはずはない。
それでも北側大臣が行政の責任を認めるような発言をしたのは、昨年6月の最高裁判決で、「民間の指定確認検査機関がやった建築確認は、地方公共団体の事務行為」という判断が出ていたからだろう。裁判になれば、行政の責任は免れがたい。だとすれば、いち早く認めたほうが政治的にもメリットがある。北側大臣の政治的判断は妥当なものだろう。
問題はその後だ。政府はさらに「救済策」を発表した。売り主に代わり、買い取って解体し、建て直して、希望する現在の住人に分譲するという。一見とても親切な話だが、もはや建物は価値がないので、買い取り価格は土地価格相当。金額もさることながら、国が住民に対して行なわなければならないのは、そもそも支援なのか賠償なのか。
国に責任があるのであれば、本来は賠償しなければならないはずだ。被告席に着かなければならない立場の行政が、安く不良資産を「買い取ってあげる」ことで、責任のありかをうやむやにしようとしているようにも見える。不良物件が生まれたのはいい加減な建築確認制度を作った国にも責任があるということであれば、住民は、売り主が倒産などして責任を負えない場合、国にたいして賠償請求することだってできるはずだ。救援策は、それを妨げるものではないのか。
メディアは、こうした点について触れていないようだ。しかし、当のマンションに住んでいる住人には、そうしたことに気づいている人もいる。
問題のマンションの住民が書いているブログ『「揺れるマンション」顛末記』は12月7日に次のように書いている。
「国は、行政が買い取ることで、行政と住民が一緒になって瑕疵担保責任を請求していけるという前提を立てています。しかし、この前提を了解することができません。そもそも、国と住民とは、利害は一致していません。住民は、行政の権限で行われた誤った建築確認の責任を追求し、その誤った建築確認によって生じてしまった不利益の賠償を求める立場にあります」。
まったくそのとおりだろう。
もっとも当てになりそうな監視役は誰か?
建築確認が当てにならないのなら、いったいどうしたらいいんだということになるが、こんな方法はどうだろうか。
違法建築が発覚した場合、住宅ローンを組んだ銀行には、担保物件の瑕疵を確かめずにお金を貸した責任があるということで、ローンの支払いは不要ということにしてしまう。
現在は、違法建築だった場合、購入者にしわよせが行くが、こうした仕組みができれば、違法建築のつけは銀行にまわる。金融機関は提携マンションが違法建築でないか、真剣にチェックするにちがいない。個人が建築の監視をするのはむずかしいが、銀行は、多額の損が出かねないとなれば、必要な経費をかけて監視するだろう。
銀行だと、ローンが「ちゃら」になるだけだが、さらに保険会社をかませてもいいかもしれない。建築主は強制保険に入らなければならず、違法建築だった場合、保険会社が支払う。そういうことならば、保険会社も、建築の監視をするだろう。
などと思っていたら、日本建築構造技術者協会の会長も、サイトでそうしたことを提案していた。また、国交省も実際に、保険制度を作ることを考え始めたようだ。ことここにいたれば、保険会社に銀行と、二重三重のチェックが働くようにしなければ、もはや誰も信用して家を買ったり建てたりはしなくなる。不良建築が次々と発覚すれば売り手責任をまっとうしにくい中小のデベロッパーも、そんなふうな方法がとられないかぎり、やっていけないだろう。
そもそもいまの仕組みでは、マンションの購入者は、自分の住んでいるところが違法建築だったとしても、それを発見・告発することに二の足を踏みかねない。もちろん危険な目に遭うのは困るが、さりとて、違法建築だとわかった場合、こんどのように突然、退去しなければならなくなるかもしれない。さらに修理や建て直しのために、思ってもみなかった負債を背負うし、マンションの資産価値も下がる。違法建築がわかったほうがいいか、わからないほうがいいかは微妙なところだ。
しかし、マンションの住人がそういう態度をとれば、近隣の住民は安心していられない。違法建築がわかってもマンション住人に経済的負担が発生しないということになれば、告発しやすくなる。
「いい加減なものができると大損」という立場の関係者が増えれば増えるほど、建築物は安全になっていく。「民間ではダメだから、やっぱり行政」というのは簡単だけれど、こんどの事件では、行政でもダメなことがはっきりしている。資本主義のモラルは、資本主義的な方法で守るのがもっとも効果的なはずだ。
*
この事件はいよいよ不可思議なものになってきた。イーホームズ(http://www.ehomes.co.jp/SITE1PUB/sun/6/news/list1.html?t=1132554463266)のサイトで次々と明かされる話は、マスメディアで言われていることとそうとうに違い、驚くべき内容だ。そしてまた、偽装設計マンション住民のブログに書かれていることもまたマスメディアの内容とはかなり違う。次回はとりあえず後者のほうをとりあげる。
関連サイト
●日本建築構造技術者協会のサイト(http://www.jsca.or.jp/index.html)。今回問題になっている10階建てぐらいのマンションでも、確認申請手数料は1棟20万円たらずらしいが、「あまりにも低額で、責任を負えない」として確認申請料を10倍にすることや、発注者と設計者に保険を義務づけることなどを提案している。
●この事件に関するもっとも不思議なサイトはこれだろう。ヘアメイクの仕事をしているという「きっこ」なる女性が書いたブログ(http://kikko.cocolog-nifty.com/kikko/)。早くから事件の黒幕として総研の内河所長の名が出ていた。どこから仕入れているのかわからないが、インサイダーっぽい情報が満載。国会で証拠を示して追及した馬淵議員の事務所とも関係があると言う。イーホームズの藤田社長からのメールが来るハプニングも。2ちゃんねるでも、きっこの日記は話題騒然だった。
(週刊アスキー「仮想報道」vol.417)
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コメント
湯川さんのブログでこちらを知りました。的確な分析を読ませて頂き、感謝致します。
上記の『金融機関に監視させろ』という案ですが、仮にそうした制度が出来た場合、将来的には、財閥系の建築会社だけが生き残る(少なくとも相当有利になる)ことになりませんか?
現に、しばらく前のYahooニュースで取り上げられていた、或るアンケートでは、『(マンションを買うなら)今後は、補償能力のある財閥系を選ぶ』という回答が多数になっていたようです。補償能力とは、結局は、後ろ盾ですよね?
そして、そうした『まともそうな』建築会社だけが生き残ったとしても、実質どうなのかは、これでは確保されませんよね?
個人的には、いっそ、確率的な問題と観念してしまって、保険で対応した方が、変なバイアスがかからないだけ増しではないかと思っているのですが、いかがでしょうか?
通りがかりの戯れ言で、すみません。
投稿: broom | 2006.02.27 21:49