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2006.01.20

「マンション購入者・自己責任説」はなぜ生まれたか

イラク邦人人質事件から、拉致被害者家族への
バッシング、こんどのマンション偽装設計まで、
希望格差社会の住民の不思議な心性が見えてきた

ブログ記事とコメント欄との葛藤

 公的資金の投入が決まって以後、耐震偽装のマンションに住んでいる住人に対するプレッシャーが強まっているらしい。
 たとえば、偽装設計マンション住民のブログ『「揺れるマンション」顛末記』のコメント欄には暴言があふれていた。支援のために税金が使われるのが不満で、八つ当たり的に攻撃しているようだ。
 これまでの震災のときには、政府は頑なな態度をとってきた。それなのに今回は何だという感情が反発に輪をかけている。
 当然ながら、政府だって、根拠なく 税金を使おうとしているわけではない。行政に責任があると認めたからこそ決めたわけで、そもそもそう判断したのは政府で、被害者住民に責任があるはずはな い。

 当たり前のことのようだが、右のブログのコメント欄などを見ると、とても当たり前のこととは思えない。偽装設計マンションの住民であるブロガーに、バカだから騙されたのだとあざ笑ったり、税金を使うことについてどう思うか答えろ、と詰問したり。
 コメント欄には、こんな不愉快なコメントが次々と載るのなら、コメントを受け付けないようにするか、いっそのことブログを書くのをやめたほうがいいので はないかという忠告も何度かあった。しかし、住民ブロガーにとって、貴重な情報となるコメントもあったようで、しばらくコメント欄は維持された。けれど も、結局、昨年末で、コメント欄はなくなってしまった。
 このブログからは、マスメディアが伝えていない渦中の住民の思いが読みとれる。そればかりか、コメント欄とのすれ違いや葛藤が具体的にどのようなものだったかもコメント欄閉鎖直前には書きしるされ、ブログについて考えるためにも興味深いブログになっている。

奇妙な足の引っ張り合い

 このブロガーを含めて問題のマンション住人は、住んでわずかのマンションを立ち退かなければならず、今後のことも考えなければならない。転居先の決定や 住民間の話し合い、売り主や行政とのやりとり、荷造りに引っ越し、子どもの転校問題、それにいうまでもなく仕事もしなければならない。
 忙殺され、精神的に も大変であるにちがいないのに、寝る時間を削ってブログを書いている。お気楽な匿名のコメント欄の書き手に「答えろ」と要求される言われはないし、答える 義理があるはずもない。
 心ないそうしたコメントにかんかんになって怒っている反論のコメントもあったが、その気持ちはよくわかった。いったいどういう思考回路を持っているとこうした暴言が出てくるのだろうかと私も不思議に思っていたからだ。

 もっともこうした反発が出る背景には、「希望格差社会」とまで言われるような、勝ち組と負け組の差が大きくなってきた社会構造があるのだろう。お金の余 裕があるはずの新築マンション購入者が困っているからといって、政府が税金を使うのはおかしい、という感情が渦巻いている。
 また、こうした感情の動きは、イラク邦人人質事件のときと、どこか似ている。イラク事件のときは、勝ち組・負け組ということではなかった。しかし、「危 険なイラクに勝手に行った人々を税金を使って助けるのはおかしい、自己責任だ」という発想と、「怪しげなマンションをよく調べもせずに買ったのは自己責任 だ、税金を使うのはおかしい」という発想はよく似ている。
 こうした感情の動きは、政府にとって都合がいいものであるということもまた共通している。自己責 任だと国民どうしが言いあってくれれば政府の責任は回避できる。国民がお互いに牽制し足を引っ張り合ってくれれば、政府は何もしないですむわけだ。

文句を言うと「石つぶて」

 建築中のヒューザーのマンション内のモデルルームに行った体験を何回か前に本欄で書いたが、常識的な判断力をマンション購入者が持っていればヒューザー のマンションを買わずにすんだかと言えば、それは無理だと思う。
 先の原稿をネットでも公開したところ、いつもより反応が大きかったが、「ヒューザーのマン ションが広くて安いのにはそれなりの言い分があったことが初めてわかった。それではだまされても仕方がない」という声がいくつもあった。こうした反応に は、じつのところ書いた私も少々驚いた。
 これほどメディアでヒューザーのマンションが取り上げられているにもかかわらず、ヒューザーのマンションの正確な実態はあまり伝えられていないようだ。 「広いけれど安い理由」をメディアで説明しているのは当のヒューザーの小嶋社長ぐらいで、それでは信用されない。
 メディアの報道はむしろ、ヒューザーが怪 しげなマンションを売っていたと言いたげなものが多い。それでは、「マンション購入者の自己責任だ」という主張がそれなりの勢いをもつはずである。

『「揺れるマンション」顛末記』でも、次のような体験を明かしている。国の支援策が発表されたころ、社会的地位の高い人から、「3000万円で100平米 なんてありえない。安物買いの銭失いなんだから、土地だけでも国に買い上げてもらえるだけでありがたいと思え!」と、頭ごなしに言われたという。
 実際のと ころ3000万円で購入したわけではなかったが、意気消沈している時期だったこともあって反論する気力が湧かなかったそうだ。
 その後、その人は実際の値段 を知って同情してくれ、国の責任の意味を考えるようになったとのことだが、このブロガーは、「知性があると評価される立場の人が、目の前の人の話に耳をか たむける前に、画面や誌面の中のメッセージを鵜呑みにし、むき出しの攻撃性を示してきたこと」が怖いと言い、何が、そうさせるのだろうと考えたと、こう書 いている。

普段の私なら他人事だったと思うので、私に比べれば、他人や社会の事を考えている点で、はるかに立派な人だと思います。しかし、いい人であるぶん操縦さ れやすいのかと思いました。そういう人が、人を導いています。世の中を操縦するのは、その術を身につけさえすれば、簡単なのかもしれないと思いました。と 同時に、きっと、自分も気付かぬうちにいろいろあやつられているのだろうと改めて思いました。

 このブログは、メディアの報道がいかに怖いかを教えてくれ、報道被害を考えるための格好の素材を提供してくれてもいる。

 ネットでは、住民が政府の支援策に対して「これはまだスタートで70点」などと高飛車なことを言ったと批判されている。しかし、テレビは、たくさんの取 材映像からその部分だけを拾って使っている。テレビ局側は、政府の支援策が十分ではないことを示したくてその部分を使ったのかもしれないが、結果的には、 「感謝すべきなのに態度が大きい」と反発を呼んでしまった。
 政府に責任があるのであれば、支援策をありがたがる必要はなく、支援ではなく賠償すべきだ。理屈としてはそうだが、このところこの国では、政府に対する 謙虚さを求める傾向が強い。政府のほうが行政の責任を認めているのに、国民のあいだで、「感謝しろ」と頭を押さえているのだからワケがわからないが、政府 を声高に批判すると反発を呼ぶ。

 こんどの場合は、税金投入という利害が関係しているから余計にそうした気持ちになるようにも思われるが、実際のところ、そうでなくてもこうしたことは起 こっている。
 2回目の日朝首脳会談を終えて帰ってきた小泉首相に対して、拉致被害者家族が、手ぬるいと声高に批判した映像が流れたときにも、拉致被害者家 族に対するバッシングが起こった。
 政府に強く要求する国民は批判される。
 不思議な現象だが、小泉内閣が高い支持を維持していることも関係しているのだろ う。「人気のある政府」というのは、思いがけない反応を引き起こすものらしい。

関連サイト
●偽装設計マンション住民のブログ『「揺れるマンション」顛末記』。ヤフーのトピックス・ページから もリンクが張られ、アクセスが殺到していると思われる。とてもたいへんな状況なのに、つとめて冷静かつ客観的に書かれている。「もっとはっきり書け」と心ないコメントが飛んだりもしていたが、いろいろな交渉の過程では明らかにできないこ とがあるのに加えて、ブログを書いていることがマンション内でわかってしまったようで、ますます書きにくくなっているようだ。ページトップにあるマンショ ンの写真は、ブログ・サービス・サイトが提供しているものだそうで、「うちは、こんなに立派じゃありません」と以前は書かれていた。
●マンション購入を考えている人向けの掲示板『《eマンション》』のヒューザーのマンションについての意見を述べあうページ。事件発覚前の書きこみも残っている。購入を考えている人の質問に答えて、安いのに広いことに満足しているヒューザーのマンション住人がいる一 方で、駅から遠いことや工場地帯の立地といったことから購入をためらっている人もいる。ヒューザーのマンションには立地条件の悪いものもあり、それも値段 の安さの原因と考えられた。
●国会の証人喚問で、証拠をもとに鋭い質問をして人気が急上昇した民主党の馬淵澄夫議員のサイト。身辺には脅迫めいた怪しい動きが続き、ついに警護をつけることになったことなどが、サイトの日記で明かされている。
●上のブログに、リンクがあったので、クリックしてみてビックリ。バーチャル・マンションの住人募集をしている「エキサイト・ザ・マンション」のサイトが 現われた。エキサイト・ブログのイラストを選択するとリンク広告が張られるようだが、耐震 強度偽装マンション住人のブログにもリンクされているのは何とも皮肉。試験サービス期間中の現在はすべて無料だが、本サービス開始後は、高層階を希望する と有料になるらしい。この事件があったためか、本サービス開始が延びている。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.418)

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耐震強度偽装」カテゴリの記事

コメント

http://www.nissan.co.jp/RECALL/DATA/report1626.html

よかったよかった
小さなこどもが燃えずに済みました

それにしてもまた1年以上も前のものを呼び寄せるんですか…
http://gonbe.nobody.jp/fillertube2.htm

まあ国民全般の「当事者意識」が低いから
仕方ないですかねえ・・・

http://gonbe.nobody.jp/sinsa-user2.jpg
http://gonbe.nobody.jp/taisaku.htm
http://gonbe.nobody.jp/kokudo2.htm
http://gonbe.nobody.jp/kokudo2.jpg

こんにちは。
偽装トンチキ マンションを買う、住むほうが悪い、追加の金を払えば良い、というのは、どうでしょう。ボッタクリ詐欺マンションを売るほうが悪い、引越し費用、建てかえ料金、精神的苦痛料を払うのは、当然だと思いますけど。

トラックバックをありがとうございました。

友人から、『週間アスキー』に掲載された記事を紹介され、拝読しました。

今日あたりは、ライブドアのおかげか、アクセス数も半減です。このまま、沈静化し、忘れられてしまうような気がします。

今後ともよろしくお願いします。

2ちゃんねらーがよくはやらせてたね。

やられるのが悪いから自己責任って…まるで騙されるやつが悪いみたいな詐欺師的な発想。

加害側の正当化説
被害者側が全部悪いみたいな変な発想。

本当の自己責任と呼べるものならいいけど最近では知能犯の言い逃れに使われるケースが増えてきましたね。

その犯人が確信犯かは本人にしかわからないわけだしね。

Winnyや2ちゃんねるもそう。
つくった人は被害が大きくなること前提につくったとしても自己責任だと言い張れば罪にとわれないわけだし。

こんにちわ。ブログランキング、応援しています。
僕は早稲田を目指している現役生です。本当は慶応も好き。でも、父が慶応だから、早稲田に決めました。同じじゃ嫌なんです。
僕は以下の3つのブログを読んで、
早大受験のやる気を保っています!

1位 現役女子大生芸能プロ社長の日記
(22歳・政経学部4年の天才女社長が熱く語る)
   http://blog.livedoor.jp/riddler/

2位 闘う早大生:夏川潤香の「日本を洗濯します!」
(小泉総理が愛読しているという噂の注目ブログ)
   http://yaplog.jp/uruka_natukawa/

3位 輝女KIRAJYO 輝女ブログ
(社会貢献を目指す女子大生サークル。
早大生も参加しています。
メンバー登録受け付け中)
http://kirajo.jugem.jp/

この人たちとキャンパスで出会えるように頑張ります。

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