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2005.12.02

決着のついたリンク見出し是非裁判

当たり前のようなことが当たり前でないネットの世界。
ニュース記事のリンク見出しは許されるのか。
確定した「世紀の裁判」(?)の判決の詳細は?

●逆転判決で見出しの自由な利用は許されず

 ウェブサイトで、「記事見出しを表示してリンクを張る」というのはあたりまえのようにやられていることだけど、著作権法上、天下晴れて認められているとは、かならずしも言えない。
 2年ほど前に実際に、ある新聞社がリンク削除の要求メールをいくつかのサイトに送り、ネットで大騒ぎになったことがあった。新聞社のリンク・ポリシーを調べて、必要ならば許可を得れば、法的な問題はクリアされる。しかし、少なくとも個人サイトのレベルで、そうした手間をかけている人はほとんどいないだろう。

 10月6日、記事見出しの著作権について知財高裁の判決が出た。原告も被告も控訴せず、判決が確定した。今後の指針になる判決かと思い、判決全文が掲載されている裁判所のサイトにアクセスして読んでみた。
 この事件は、読売新聞社が、デジタルアライアンスという会社に対して、同社のやっているウェブ上の電光掲示板(ティッカー)「ライントピックス」の配信サービスは見出しの著作権を侵害しており、損害を受けた、と訴えたものだ。
 判決翌日の読売新聞の一面トップには、「ネット記事 見出し無断配信違法」の大見出しが踊った。

 東京地裁の一審判決では、記事見出しは著作権保護の対象にならず、その使用に問題はないというものだった。しかし控訴審では、読売新聞の見出しにあるとおり、同社の「逆転勝訴」。それを見て、あれ、ネットで記事見出しはもう使えないのかな、と思った人もいるかもしれない。
 知財高裁は、デジタルアライアンスが使用した記事見出しに著作権があるという主張は、明確に否定した。「ほら、やっぱり記事見出しに著作権はないんだ」と言いたいところだが、じつはそうではない。

 判決では、一般論として、ニュース報道の記事見出しは内容を簡潔に伝えるための制約があり、創作性を発揮する余地が比較的少なく、「著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないものと考えられる」とまず言っている。そのうえで、読売新聞社が著作権侵害だととくに問題にした記事見出し6個について、ひとつひとつ検討し、創作性がないと、著作権侵害を否定した。ここまでは東京地裁の判決と同じだ。
 しかしながら、この判決ではこうも言っている。ニュース報道における記事見出しであるからといって、直ちにすべてが「著作物性が否定されるものと即断すべきものではなく、その表現いかんでは、創作性を肯定し得る余地もないではないのであって、結局は、各記事見出しの表現を個別具体的に検討して、創作的表現であるといえるか否かを判断すべきものである」。

 うーん、これだから法律の文章っていやだ。二重否定のオンパレードなわけだけど、結局、見出しの文章を具体的に検討してみなければ著作権侵害にあたるかどうか言えない、というわけだ。おいおい、それでは、ことごとく裁判所におうかがいを立てろということなのか、裁判所は自分たちの仕事を増やしたいのか、と毒づいてみたくなる判決だ。だいたい創作性があるかないか、そんなことを裁判所が決められるものなのだろうか。

 読売新聞社のサイトには「個別記事へのリンクは原則としてお断わり」と書かれているが、幸か不幸か、リンクについては提訴されず、問題になったのは、見出しの使用についてだけだった。
 裁判所は税金を使って仕事しているんだから、その判決ひとつでいろいろ使えるぐらいの経済性を発揮してほしかったような気もするし、どうせのことなら、リンクの是非についても判断してもらいたかった。でもまあ、裁判所は提訴されたこと以外のことに口を出すな、という考え方もあって、ほんとうは法律で決めるべきことなのだろう。
 それに、「勝手にリンクを張ることは許されない」なんて判決がもし出たら、ウェブの存在は根底から崩れ去る。日本のウェブだけ、リンクがほとんどない、なんてすさまじいことになってしまうかもしれない。

●「逆転勝訴」の理由

 地裁判決と違い、この控訴審では、次のように述べて、デジタルアライアンス側の不法行為を認定している。
 「インターネットにおいては、大量の情報が高速度で伝達され、これにアクセスする者に対して多大の恩恵を与えていることは周知の事実である。しかし、価値のある情報は、何らの労力を要することなく当然のようにインターネット上に存在するものでないことはいうまでもないところであって、情報を収集・処理し、これをインターネット上に開示する者がいるからこそ、インターネット上に大量の情報が存在し得るのである」。新聞の記事見出しも、「多大の労力、費用をかけた報道機関としての一連の活動が結実したもの」で、「見出しのみでも有料での取引対象とされるなど独立した価値を有する」。というわけで、法的保護にあたいするので、それを無断で、営利目的のために、しかも見出しが作成されて間もない情報の鮮度が高い時期に、2万サイトにも及ぶ登録ユーザのホームページに表示させ、実質的に見出しを配信したのは、社会的に許容される限度を越えていると結論づけている。

 デジタルアライアンスの記事見出し配信サービスでは、ヤフーのニュース・ページに載っている記事見出しのなかからピックアップして配信した。ヤフーは各新聞社に使用料を払って記事を掲載している。もし、無償で勝手に使用することを認めれば「社会的な相当性を欠く」というのが、知財高裁の判断だった。

 一方、逆転判決を受けて、デジタルアライアンスは、「ヨミウリ・オンラインの記事見出しについて、全て著作物性を否定したことは高く評価でき」、「弊社が危惧したような『一部の報道機関が事実についての表現を独占する不当な事態』は避けられ、当初の目的を達した」が、不法行為が認定されたことは、ほかの事例と比較しても遺憾で、裁判所の判断に疑問が残ると批判している。
 とはいえ、デジタル・アライアンスも、記事見出しを利用して何をしても自由と考えているわけではないそうで、判決がすべて不服なわけではないとして、10月25日、最高裁への上告はしないことを表明している。
 デジタルアライアンスは、ライントピックスに入っている広告は、最低限の運営費を捻出する目的のもので、「営業」と言えるほどのものではなく、読売新聞社にも損害を与えていないと主張している。

 高裁も、使用料についての適正な市場相場が十分に形成されていない現状では、「損害の正確な額を立証することは極めて困難」だと、読売新聞社側の2480万円の損害賠償請求に対して、わずか23万7741円の損害額を認定しただけだった。24か月弱の侵害期間について1か月1万円で計算したもので、名目的ともいえるわずかな額にとどめている。読売新聞社側が求めた差し止め請求も、損害賠償で回復できないような深刻な事態をもたらすものではないと認めなかった。

 知財高裁は、読売新聞社がとくに強調した見出し6個のほか365個についてもすべて創作性を認めず、著作権保護の対象にならないと判断した。じゃあ、どういう見出しだったら著作権保護の対象になるのか、ということになるわけだけど、それは書かれていない。ネットの活性化のためにはやはり、どこまでが許され、どこからはいけないかの明確な線引きが必要だろう。いつまでもグレイでは、ネットの活動が制限される。
 判決は、どう考えていいのか聞いたほうもとまどうし、裁判所も迷ったんだろうな、という感じがするものだが、見出しの著作権が認められるのはそうとうむずかしいということは、少なくとも明らかになったと言える。

    *

 グーグルやヤフーなどでも、「キャッシュ」は当たり前のように保存され表示されているが、じつはこれも著作権法上かなりグレーだ。次号は特別号で本欄はお休みだが、もう少しこうした問題を取り上げてみたい。

関連サイト
●裁判所のサイトに掲載された知的財産高等裁判所の「読売新聞社vsデジタルアライアンス訴訟」の判決全文(http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/0/0c642a4a124dc13d492570970018104b?OpenDocument)。
●デジタルアライアンスのサイトに掲載された「知的財産高等裁判所の判決に対する弊社の見解」(http://linetopics.d-a.co.jp/linetopics/main/kenkai2.htm)。同社は、時事・芸能ニュースのリンク見出し配信を一時休止するという。
●読売新聞社のサイト『ヨミウリ・オンライン』のリンクポリシーのページ(http://www.yomiuri.co.jp/policy/link/)。「個別記事へのリンクは原則としてお断りしております」とある一方で、「ヨミウリ・オンラインへのリンクは、原則として自由」とも書かれている。また著作権のページのQ&Aでは、「リンクの方式によっては、読売新聞社の権利を侵害するケースがあります」と書き方が微妙に揺れている。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.413)

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はじめまして。
私は、早稲田大学3年生の夏川潤香(21歳)です。
現在、社会の問題点をわかりやすく綴ったブログ活動を目指しています。
その最初の話題は『靖国問題』に決めました。
他にも、起業や創業、株式市場、他国の反日教育などを取り上げていく予定です。
ブログを読まれた皆さんの感想などが知りたいです。
コメントを頂けたら嬉しいです。
ここまでお読み頂きありがとうございました。

※闘う早大生:夏川潤香の『日本を洗濯します!』
               
     http://yaplog.jp/uruka_natukawa/

※リンク大歓迎です。私のブログに御理解頂ける方は、ご自由にリンクを貼ってください。よろしく御願いします。

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