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2005.12.25

「危ない建築」を生んだほんとうの犯人

耐震強度の偽装設計事件では、メディアも国会も
「悪者捜し」に明け暮れている。それはまるで
肝心のことを覆い隠そうとしているかのようだ。

うやむやにしようとしているのは誰か

 国会の証人喚問では、質問時間の大半をひとりでしゃべりまくって抗議の電話が殺到した自民党の議員がいた。具体的な証拠を突きつけて追及する議員 がいる一方で、ほかにも、ばかにしたようなそぶりで証人を批判するばかりで、解明する気がほんとうにあるのかと思わせるやりとりもあった。
 証人 喚問の舞台になった国土交通委員会の議員たちには、当然ながら建設業界はふだんから熱い眼差しを注いでいる。
 これらの議員たちは、建設業界と特別な関係が ないかどうか、裁く側にいる資格があるのかどうかをまずはっきりさせてから、審議すべきだろう。国会で自民党は早くも幕引きを図ろうとしているというが、 それでは「あらぬ疑い」を抱かれても仕方がない。
 いま多くの人がもっとも気になっているのは、名前が上がっている関係者の建築物だけが危険なのか、ということだろうが、そこに触れるやりとりはほとんど見られなかった。

  不思議なことに、この点はメディアも同じだ。
 メディアの事件の取り上げ方は、とりあえず名前のあがった「悪人」を追いかけるばかりで、事件の広がりを予見 させる報道はきわめて少ない。
 次から次へと不良物件が明らかになれば、日本経済がめちゃくちゃになることだってありうるが、メディアはまさか社会不安を恐 れて、わざとそうした報道をしているわけではあるまい。たんに場当たり的な報道をしているだけなのだろう。

 一方、当の「悪人」とされる人々は、一定の責任を認めながらも、決定的に責任を負うことには反駁している。姉歯元建築士にしても、国会で、自分の罪は認めながらも「自分一人ではできなかった」と言っている。

  ではいったい誰が悪いのか、ということになるわけだけれど、問題は明らかに構造的なものだ。
 もちろん悪事を働いた人間はいるが、この事件の場合はとくに、 そうしたことを可能にする構造があったからこそ悪事をやれたわけで、表面に表われた悪人だけを追及しても問題解決にはならない。むしろそればかりやれば、 その人たちが特殊だったから事件が起こったということになり、根もとにある問題はフタをされてしまう。
 メディアや国会は、意図してかそうでないかはともか く、「悪人」と見なした人たちを執拗に追及することで、隠蔽行為をやっている、とさえ言えるのではないか。

 日本建築構造技術者協会のサイトには、11月28日というかなり早い時点で、驚くべき現状が書かれている。
「今 回の構造計算書偽造は、構造設計者として憤りを感じるだけでなく、悲しみを覚える事件です。構造設計者は真摯に設計を行ない、建物の安全性をはじめとした 質の確保に真面目に取り組んでいますが、今回の報道で、私たちの職能がいかに社会に理解されていなかったかを改めて理解しました」と、次のように言ってい る。

 建築士法は一定規模以上の建物は建築士でなければ設計ができないと定めているが、法的には一つの建築物に対して建築士は1名で、協力して設 計を進める構造設計者は、法的に位置づけられていない。

「極端な言い方をすると、建築士でなくても、また、構造的な判断力や見識が無い者でも構造計算や構 造設計を行える」。

 構造設計はまったくの裏方で名前が出ないから、法的には誰でもいいことになっている、というわけだ。

 これには、唖然とさせられた。構造を任せる人間は誰でもいい、ということならば、木村建設が姉歯氏にプレッシャーをかけたように、ほんとうに「代わりはいくらでもいる」わけだ。

「人間の生命や社会資本を守る重要な役割を担っている構造設計者に、建築士法的には何の資格も、ましてや権限も責任も無いことが実状」で、「誰が責任を持って構造設計したのかが位置づけられる仕組みとなっていないことは大きな問題」と言っている。

 まったく驚くばかりの実情だ。

真の責任のありか

 しかしながら、構造設計者が法的に位置づけられていれば、姉歯氏が偽造しなかったかといえば、そんなことはあるまい。
  いい加減な設計をしてもばれないという状況があるかぎり、誘惑に負ける建築士はいるだろう。性善説ではなく、性悪説にたって検査の仕組みを作らなければな らないという、当たり前すぎるほどに当たり前の(それでいながらなぜか実現されていなかった)ことが今度の事件では原因だ。

 そういうことになっ た背景には、検査機関に対する仕事の受発注の仕組みのおかしさもある。
 そもそも検査機関に仕事を頼むのは建設会社や設計事務所だという。検査機関に とって、これらの会社はいわば「お客さま」で、スピードアップなどの「サービス」も図らなければならない立場だ。不利な行動を取りにくい構造になってい る。
 今回の事件の直接的な原因ではないとしても、検査機関への仕事の発注者が検査対象物件を作る人たちというのは、どう考えても無茶苦茶な話だ。

  日弁連は、98年の建築確認や検査の民間開放にあたって、行政だけで手が回らないのなら、民間の会社にゆだねてしまうのではなくて、英米などで行なわれて いるように「住宅検査官」の制度を作って検査する方法を提案していた。実際、姉歯氏のように仕事がなくなることを心配していた構造専門の一級建築士までい たぐらいだから、十分可能なはずだ。
 それをやらなかったのは、建築確認のスピードアップを求める建設業界の要請に応じることに熱心で、安全への配慮をなお ざりにしたからだろう。事件の根本には、建設業界と一部国会議員との癒着の構造がある。

 とはいえ、今回の事件に限っていえば、自治体の検査も偽造設計を見逃していたわけだから、民間へ任せたからというより、そもそも検査方法がおかしかったと見るしかない。
  なぜ見抜けなかったのかについて、イーホームズは、そのサイトで、「審査項目は多岐にわたり、よって、今回のような巧妙な偽造を見抜くためには、構造設計 者が実際に構造設計を行なった過程を復元して構造計算プログラムを用いて再計算を行なわなければ不可能であります。この作業を繰り返すことは時間的量的に 不可能」で、また膨大な資料を「1枚1枚チェックすることは現実的に無理」。「こうした説明を言い訳に取られてしまうことは残念ですが、法律は不可能を求 めるものではないはずです」と言っている。
 実際、発覚してからも、行政が再検査してもわからず、データを提供してもらって再計算して初めて強度不足がわかった例がいくつもあった。民間でも行政でも、これまでの検査方法ではまったくダメ、というわけだ。
 外部の人間には信じられない話だが、仕組みそのものがまずいのであれば、その仕組みを作った人々、つまりこんどの場合であれば政府の責任がまず問われる。それがわかっているからこそ、自民党は幕引きを図りたいのだろう。

告発するのは割に合わない?

 違法建築が発覚しない理由について、もう一つ危惧することがある。
 イーホームズが偽装を見抜けな かったのはたしかに落ち度にちがいない。しかし、日本ERIの担当者が一年半前にやったように、姉歯氏の設計はおかしいと知らせてきた建築士の言葉を受け て本格的に調べなかったら、どうなっていただろうか。それどころか徹底的にシラを切ることにしていたら、いまにいたっても発覚せず、さらに被害が拡大して いた可能性もある。
 イーホームズは、ともかくも批判を受けることは覚悟しながら国交省に通報したのだから、その点は考慮されるべきではないか。

  悪行を知っている当事者の中には、イーホームズの置かれているいまの立場を見て、公にするのはやっぱり割に合わないからやめておこう、と思っているのもい るのではないか。日本の社会は告発者を評価しないが、告発したことを認めなければ、隠蔽体質はなくならない。刑事・民事の責任は司法の場で追及すればいい が、「告発の代価」は考えられるべきだろう。

    *

 やっぱり民間が建築確認をするのはダメだ、みたいな意見もあるが、地方自治体も見逃しているし、ではどうすればいいのか、ということになるわけだけど、対処方法をひとつ思いついた。次回は、それについて書こう。(サイトでは1月13日ぐらいに公開の予定)

【追記】
 上にもちょっと書いたけど、この事件の進み方はどうもあれこれとても妙だ。
 いま詳しく書いていることはできないけれど、現実との食い違いをたどってみれば誰でもわかるように、姉歯元建築士の話にはウソがいろいろある。もうウソを言ってもしたがないはずなのに、なぜこの期に及んでウソをつくのだろう。まだ隠さなければならない何かがあるのではないか。
 メディアもとりあえずの「悪人」の吊るし上げに終始しているようなのも、まったく解せない。
 下のイーホームズのサイトの「トピックス」に掲載されたコメントの数々は、おもしろい。
 この事件の不可思議さを感じさせてくれる。
 それと、そのうちとりあげるかもしけないけど、怪しげなブログやネット上の怪情報(!)。

関連サイト
建築確認検査機関「イーホームズ」のサイト。根拠がない 非難と見たメディア報道にひとつひとつ反駁している。イーホームズに、制作関係者は恥を知れ、とまで書かれているテレビ番組もある。イーホームズの肩を持 つ義理は何もないのだけれど、これはあんまりだという報道はたしかにあった。とくにワイドショー化したテレビ番組は、視聴者の鬱憤をはらしてやろうとばか りに、弱っている相手をたたくやり方があまりにあくどすぎる。
最大手の建築確認検査機関「日本ERI」のサイト。「日本ERIは姉歯建築士の構造計算書偽装を知りながら隠蔽した」というイーホームズの藤田社長の国会発言に激しく反発している が、1年半前に情報を得ていながら放置していた責任は、イーホームズよりずっと重いのではないか。
●日本弁護士連合会は耐震強度の偽造発覚にあたって、会長声明を発表し、98年の法律改正のときにこうしたことについて懸念を示していたと言い、当時の政府への申入書を再掲載している。この申入書は一読の価値があ る。

(週刊アスキー「仮想報道」 Vol.416)

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