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2005.12.16

ネットの世界はグレーなことばかり──検索結果表示のゆくえ

われわれがネットで当たり前にやっていることも、
その根拠は、じつはかなりあやふやだ。
グーグルの始めたプロジェクトが波紋を呼んでいる。

●儲かることはわかっているけれど‥‥

 グーグルは、昨年、グーグル・プリントと名づけた新しい検索サービスを開始した。
 これは本の横断全文検索で、検索ウィンドウに言葉を入れてサーチすると、 その言葉が使われている本を見つけてくれる。選び出された本のリストからクリックすると、該当個所が黄色くマーキングされて本のページが表示される。タイ トルや著者名、表紙、目次、索引なども見ることができ、該当個所の前後2ページが読める。つまり、ウェブ上で本の「立ち読み」ができる。オンライン書店の リンクが並んでいるので、それをクリックすれば各書店に飛んで購入もできる。
 本の全文横断検索は、米アマゾンが先行して始め、11月には日本のアマゾンでも「なか見!検索」という名前で開始している。米アマゾンはこの11月さら に、スキャンした本のデータを使って、ページ単位、章単位などの形で本を「ばら売り」してウェブ上で閲覧できるようにしたり、紙の本の価格に加えてもう少 し払えば、ウェブ上でいつどこででも購入した本を読めるサービスを始めることを発表している。
 本の全文横断検索は、グーグルにしては珍しく「後追い」の形になった。
 でもまあ、そこまでは問題はなかった。
 検索対象の本は出版社が提供したもので、そ の本の何パーセントまで見せるようにするかなどは出版社の側で決められる。自社の本を検索対象にしたくなければ、断わることもできた。しかし、検索できる ようにしたほうが本が売れることがわかってきて、大手出版社なども協力姿勢を示した。
 ところが、昨年12月、グーグルはびっくりするようなプロジェクトをもうひとつ発表した。英米の5つの大図書館の蔵書をスキャンして、「グーグル・プリ ント」の検索対象に加えると発表したのだ。このプロジェクトでは、出版社の許可を前提とせず、図書館所蔵の本をスキャンして検索対象にされる。
 英米の大学図書館のなかには、研究者や学生の利便性のために本の電子化に積極的なところも多い。しかし、それにはお金がかかる。予算の制約があって、電 子化のスピードは遅々たるものだった。そうしたときに、グーグルがただで電子化すると言ったわけだから、図書館にとってはありがたい話だった。
 グーグルは、検索結果ページにキーワードを含む数行を表示するだけならば、評論やコメントのさいの著作の引用と同じで、米著作権法の認める範囲内だと考 えた。しかし、作家や出版社などは反発した。グーグルは8月には一時作業を中止し、11月1日までにリストを出してくれれば、その本はスキャンの対象から はずすと申し出た。
 それならばいいだろう、と思うかもしれないが、これは現行の著作権法の主旨からすると、問題がなきにしもあらずの提案だった。
 著作物の複製を認める権利は、著作権者の側にある。グーグルが出版社に対して、どの本のスキャンを許可するか教えてくれと言うのならわかるが、許可しな いものを選べというのは話が違う、と著作権者たちは思った。申し出ない本は、許可したことになってしまう。米作家協会に続いて、米出版社協会加盟の大手出 版社も、グーグルを著作権侵害で訴えた。
 出版社協会の会長は、グーグルに協力したほうが本は売れるようになるかもしれないが、グーグルの金儲けのために、著作権者たちが権利を捨てることを求められるべきではないと、裁判に訴えた苦しい胸の内を次のように明かしている。
「著者も出版社も、グーグルの検索エンジンがどんなに役に立つものになりえるか、そしてまたグーグルのライブラリー・プロジェクトがすばらしい情報源にな りうることもわかっている。しかしグーグルは、現在の計画では、著者と出版社の能力と所有物にただ乗りして金儲けをしようとしていることになる」。

●アナログで許されなければ、デジタルでも許されない?

 ヤフーでもグーグルでも、検索すれば、ヒットしたウェブ・ページ中の該当個所数行が表示される。ウェブ検索では、もはや当たり前だ。それを著作権侵害だと言う人はいないだろう。もしいやなら、検索対象に含まれるのを拒否することを、ヘッダーに書きこんでおけばいい。
 グーグルが本についてやろうとしたことも、基本的にはそれと同じだ。原則的にはコピーされるが、いやなら、それを明示する。ウェブでは当たり前のように 行なわれていることをやろうとした。ウェブの検索エンジンでは、みんなが当たり前だと思っているから当たり前になっているけれど、紙の本については、じつ は当たり前とは言えない。

 日本では、たとえば図書館に行って本をコピーしようとすれば、「これこれのページ数しかできない」とか、「新刊の雑誌や今日発売の新聞はダメ」などと言 われる。いろいろ制約があるわけで、少なくとも日本の著作権法では、図書館にある本を、著作権者の断わりなく片っぱしからスキャンするなどということは、 とても許されないだろう。アメリカの著作権法にはもう少し許容度の幅の広い「公正利用」という条項もあるが、著作権者に複製権があるという原則は同じだ。

 グーグルは、自分たちの主張を支持している意見として、ジョナサン・バンドという知的財産の専門家の論文にリンクを張って紹介している。その論文では、アリバ・ソフトという画像検索エンジンをめぐる03年の連邦控訴裁判決を持ちだして、グーグルを擁護している。
 この裁判は、検索エンジンが写真のサムネイル画像(小さいサンプル画像)を表示するのは著作権侵害にあたると、カメラマンが訴えたものだ。判決は、利用 の仕方や被害の度合いなどから考えて、サムネイルは、米著作権法が定めている「公正利用」にあたり、著作権侵害にならないというものだった。グーグルの本 の全文検索もこれと同じで、数行を表示するだけなら著作権侵害にはならず、スキャンするのもかまわないはずだと、バンドは主張している。
 しかし、グーグルの行為を批判する米大学出版会のトップは、自分たちの裁判では、ネット上にあった著作物が対象で、本をスキャンするのは問題がまったく違う、図書館にある本のシステマティックなコピーが認められた前例はないと一蹴している。

 ウェブ・ページの作成者は、作った時点で他人に見てもらいたい意思があったわけで、それを助ける働きをする検索エンジンに、暗黙の許可を与えたことにな ると、検索エンジン側は解釈している。ライブラリ・プロジェクトをめぐる裁判では、本についてもそうしたことが言えるかどうかというのが争点のひとつにな るだろう。
 本も、発行した時点で、読んでもらいたい意思はあったわけで、検索エンジンはそれを助けただけだ、と言うことはできるかもしれない。また、数行の表示で あれば、写真のサムネイル画像と同じだとも言えるかもしれない。とはいえ、これはすべて「かもしれない」ということでしかない。裁判で認められた主張では ないので、グレーゾーンである。

 裁判所も、利用者の利便性をまったく無視した判断をするわけにはいかないだろうが、デジタルでもアナログでも、著作権の原理原則が異なるわけではない。この裁判でもしグーグルが負けると、どういうことになるか。
 本を勝手にスキャンして検索結果画面に(数行でも)表示することが許されないなら、ウェブについても同じ、勝手にデータを集めて、検索結果画面に数行の サマリーを載せることはできない、ということになるかもしれない。つまり、「やぶ蛇」になる恐れもある。検索結果にウェブ・ページのサマリーが載せられな いのでは、グーグルを始めとする検索エンジンのパワーは相当にそがれることになるし、利用者としても不便になることはまちがいない。そういう意味でも、 グーグルのライブラリ・プロジェクトをめぐる裁判のゆくえは注目される。

     *

 アメリカにはデジタル著作権法があるにもかかわらず、著作権者の許可なく著作物を利用できる余地は、ある意味では、日本よりも大きい。本文でも書いたよう に、「公正利用」という条項があって、ごく簡単にいえば、世の中の役に立つんだったら、著作権者の許可なく使っていい、ということになっているからだ。

関連サイト
●本を許可なくスキャンして、こうした検索表示をするのは許されるか。グーグルが英米の大図書館の本をもとに始めた「グーグル・ライブラリー」 というプロジェクトが波紋を呼んでいる。
●アマゾン・ジャパンも、本の横断全文検索「なか見!検索」を始めた。まだ開始して一か月ちょっとしか経っていないが、扱っている本はずいぶん増えた。
●加盟出版社が「グーグルのライブラリー・プロジェクトは著作権を侵害している」と訴えたことを伝えるアメリカ出版社協会のリリース
●米作家協会もグーグルを「大規模な著作権侵害」で訴えたほか、国際出版協会とアメリカペンクラブも、グーグルが著作権を守るように声明を出した 。

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コメント

「切り抜き」だというご指摘は、その通りですね。
グーグルは、クリックするとページ全体が見れるようにしたいし、実際そうなっている本もあるのだと思いますが、出版社などが許可しない場合は無理で、「切り抜き」になってしまいますね。

週アス「仮想報道」はいつも楽しく読ませていただいています。


ふと思ったのですが・・・
写真のサムネイル表示は「全体圧縮」なのに対して、文章の数行表示は「切り抜き」だと思うのですが、どうなんでしょうか?
後者の場合、切り抜き方次第で印象が変わる可能性があるため、著作者にとっては問題が大きいのでは?

ウェブのサマリー表示の場合、もとのデータはほとんど無料なのでリンクで飛べば全体を見せることが出来るから良いと思うのですが、それが本の場合は元々が有料であるため全文章を見せることができず、結果として切り抜いた部分だけが一人歩きする可能性があると思うのです。

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