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2005.12.23

あわや偽装設計マンションに住むところだった‥‥

偽装設計マンションは広く快適そうで、
悪意は感じられず、もう少しで買うところだった。
渦中のヒューザーのマンションは、こんなふう‥‥


理は通っていた安くて広いマンション

 都内の中古マンションを購入して、先月末に引っ越した。本契約をした直後、耐震強度の偽装設計が発覚した。
 いまのところ、姉歯建築士がからんでいるものが発覚しているが、今後どれぐらい広がるかはわからない。
 問題のマンションに住んでいて、疲労困憊している 人たちの様子が伝えられているが、とても他人事とは思えない。とくに人ごとでなく思えたのは、見に行って購入まで考えたマンションのひとつが、まさに問題 になっているヒューザーの藤沢のマンションだったからだ。
 引っ越しをしようと思ったのは、家で仕事をするには手狭だったからで、ヒューザーのマンションは、いずれも一戸あたりが広く、しかも安い。うちの条件にはぴったりあっていた。

 広いのに安いのがおかしいと思わなかったのか、という意見があるが、藤沢のマンションの場合、安いと言っても、私の感覚では、1、2割安いかな、ぐらいのものだった。広いにしても、藤沢にしては高い価格帯で、売りにくそうにも見えた。
 また、安い理由は一応あった。最近の新築マンションは、キッズルームやAVルーム、フィットネス・ルーム、さらには温泉にいたるまで共有施設が充実している。ヒューザーのマンションにはそうしたものがいっさいなかった。
 派手な売り出しをしている大手の大規模マンションのモデルルームに行くと、大画面を使って情報のとぼしいイメージ・ビデオや派手なプレゼンを見せられる。それにはうんざりしていたから、無駄を省いてそのぶん価格を引き下げているのは、いかにも良心的に感じられた。
 私が見に行ったときにはまだ建築中だったが、モデルルームは、すでにできた階下の部屋を使っていた。しかも、そこに販売員が常駐しているわけではなく て、電話をかけると、都心からやってきた。そんな具合で、余計なところにお金をかけていないことはありありとしていた。
 だから安いんだな、と買いに来た人 は、私も含めて思ったはずだ。
 そう思わせるのが目的だったとしたら、ずいぶん手のこんだ話だが、いろいろな点でコストを切りつめていたのは確かだろう。
  ヒューザーの社長が言うように、一戸あたりを広くとれば、お金のかかる台所や浴室などの水回りを作る数は減る。そのぶん坪単価が安くなっても不思議はなさ そうだった。

 ヒューザーのマンションには、幹部を含めて社員が何人も住んでいるようだ。ヒューザー社内にも、「うちの会社のマンションは危ない」などという噂はなかったのだろう。中年男性の販売員も、ヒューザーのはいいマンションだと思って自信をもって薦めていたのだと思う。
 通常のマンションのように、影も形もないのに、一生ローンが付いてまわる高額のマンションを、図面だけで売りつける商法をかならずしもよしとはしていな いようで、販売員は、「ほんとうは完成して部屋を見てもらって売ろうと思っていたのだけれど、人気があって、ほしい人がいるから売っているのだ」というよ うなことを言っていた。完成のはるか以前にマンションを青田売りしている国はそうあるわけではないらしいが、このやり方にはつねづね不信感を抱いていたか ら、ますます共感を感じた。

 しかし、結果的には、このマンションはとりわけ耐震強度が低かった。国は必要な強度の28パーセントだと発表したが、藤沢市が調べてみると、耐震強度は さらに低く15パーセントしかなかった。震度5弱で倒壊する恐れがあるという。つまり、いま発覚している中でもっとも危険なマンションがこれだったわけ だ。
 そのはずなのだが、モデルルームになっている部屋の窓からは、建築中の建物の内部がむき出しで見えた。建築の専門家だったら「柱が細い」などと思ったのかもしれないが、素人にはわからない。販売員だって、見せてはまずいと思っているふうはまるでなかった。
 さらに、ヒューザーのマンションは断熱設計で、冬でも寒くない、というような説明で、窓を広くとっていなかった。最近のマンションは窓を大きく取ってい るところが多い。開放感があって、客に喜ばれるからだ。でも窓を大きくとると壁が減り、耐震強度は弱くなる。もしかすると柱が細いぶんを壁でカバーしよう ということがあったのかもしれない。しかし、一軒家に比べて眺望がとれるのがマンションのわかりやすい利点のひとつなのに、それを犠牲にしてまで「住みや すさ」を追求しているようにも見えた。

 ヒューザーは、サイトで、「当社は売主として全ての結果責任を負っており、元請けやその先の下請に偽造してまでコストダウンを要求したり、偽造している者を使えと指示する事など自殺行為と等しく、何の得もなく全く考えられない事であります」と言っている。
 いずればれそうな偽装設計を仕組むというのは、あまりに愚かすぎて、とてもありそうなことではない。ヒューザーをめぐる疑惑は、偽装を知ったあとも売ったのではないかとか、あるいは隠蔽工作を行なったのではないか、といったことのほうではないか。

自己破産覚悟の家の購入

 結果的には、窓が小さかったおかげで、私は、ヒューザーのマンションを買わなかった。原稿書きで息づまると窓から見える眺めだけが息抜き、という生活な ので、仕事部屋の窓が小さいのは困る。しかも冷房が最近ますます苦手になってきたので、窓が小さいと風が吹きこまず、夏暑いのではないかと思ったからだ。
 そのほかにもいくつか理由があってやめたために、まあいまのところは大丈夫ということになっている(が、ほんとうにそうかはわからない)マンションに移り住んでいるのだけれど、それにしても家を買うリスクはあまりに大きい。

 事件が発覚後、引っ越しの費用や家賃、解体・建て直しの費用が問題になっているが、ふつうに考えると、ローンを借りるときの担保は、購入したマンション だから、それが無価値ということになってしまうと、銀行は、新たな担保を求めてくるはずだ。実際、銀行がそう言ってきたと、事件発覚直後にテレビで語って いた住民もいた。ほとんどの人は代わりになる担保などないだろう。「担保がなければ返済しろ」ということになれば、自己破産でもするしかない。家を買うこ とが、破産のリスクまで負うことになる。
 現実には、銀行は、そうやって自己破産されるより、わずかずつでも払ってもらうほうがありがたいわけだから、そこまで追いこむことはしないだろう。もっと も、別の家を買うためにローンを組もうとしても、銀行は貸してはくれまい。よほど収入がないかぎり、二重の住宅ローンを返済する能力があるとは見ないはず だ。
 この理屈は、じつは地震があって住んでいるところが壊れてしまったときも同じだ。家が壊れ、担保がなくなれば、銀行の対応は厳しくなる。
 住宅雑誌は、「家を買うのと借り続けるのはどちらがトクか」という特集をよく組むが、そうした記事では、両方の費用を合計して比べるだけだ。巨大地震が来て家が壊れる可能性はまったく考えていない。
 この可能性を考えると、圧倒的に賃貸のほうがいい、ということになるはずだ。また、結婚し子どもができたり、会社や子どもの学校の都合で引っ越さなけれ ばならなくなることなどを考えると、借りているほうがトクということになるだろう。ここ何年もそう思っていたのだけれど、そこそこの家賃で、快適な借家を 見つけるのがむずかしいこともまた事実だ。これだけ不動産価格が下がると、買ったほうが毎月の負担が少なくなる。‥‥などと思い、マンションを買ったら、 この騒ぎ。とはいっても、建築確認がまさかこんなにいい加減なものだとは思わなかった。

         *

 いずれの関係会社のサイトに掲げられている文章にも、一定の責任は認めながらも、いまの非難は理不尽だという雰囲気が漂っている。それはいったいなぜなのだろう。

関連サイト
国土交通省の「姉歯建築設計事務所による構造計算書の偽造とその対応について」のページ。「構造計算書偽造物件」のリストがほぼ毎日更新されて増えていくのが、なんとも 無気味。問い合わせが殺到しているのだろう。マンションの耐震性等についてのQ&Aページも作られた。
ヒューザーのサイトには以前のコンテンツはいっさいなくなり、「姉歯建築設計事務所による構造計算書の偽造事件について」と題した文書がトップページに掲げられている。
●「黒幕」とされる内河所長率いる日本総合経営研究所のサイト。迷惑をうけているホテルが多々あり「大変遺憾なことと思う」と書きながらも、「黒幕」説はまったく事実に反すると反駁している。

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コメント

伝えるということが、単に伝えるのではなく、どちらかの立場にたって伝えることを余儀なくされるということを、このエントリーを読んで痛感しました。

歌田さんの体験は体験、感想は感想なのですが、それが、否応もなく、どちらかの立場になって語らざるを得ない。

詳らかにすることは重要だけれど、そのことでわかりにくくすることもある。つまり、アネハ氏やヒューザーの社長に罪があるかどうかについて…。

難しいものですね。

それでも語る姿勢に感動します。

もしすんでいたら大変でしたね。私は、今我が家を建築中ですが、本当に困ってます。結構びっくりの施工です。一度HP見てみてください。悲しい。

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