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2005.11.25

グーグルの宇宙進出と地理情報ビジネス

グーグルは、唐突な感じを与える「宇宙戦略」を
明らかにしているが、宇宙への進出と、無線通信や
携帯事業への関心は関係しているのではないか

●大地の傾く地図

 多くのIT企業の経営者同様、グーグルの創立者たちも宇宙に関心を持っている。
 前回書いたようにグーグルは、さ来年の晩春、月面上にネットワークのホスティングと研究開発のための施設「グーグル・コペルニクス・センター」を作ると言い、冗談めかしながら人材募集をしている。
 その一方でNASAと、大規模データの管理運営などの仕事について提携した。
 さらに、インターネットの生みの親の一人で、惑星間インターネットを構築するNASAの研究プロジェクトの中心人物、ヴィントン・サーフをリクルートし副社長に据えた。宇宙への進出の地歩を着実に固めているように見える。

 NASAとの合意が発表されたのは9月末だが、それ以前にもNASAとの関係は始まっていた。この7月にもグーグルは、NASA提供の写真を使ってアポロ宇宙船の着陸地点を紹介するサイト『グーグル・ムーン』を作っている。下段の図のとおり、月面写真の上にA、B、Cなどのピンが立ち、それをクリックすると説明が表示される。

 こうした仕組みは、このグーグル・ムーンのために作られたわけではない。地図の検索サイト『グーグル・マップ』のものだ。地球上の地理情報を紹介するために作った仕組みを月面に応用したわけだ。

 グーグルは、地理情報の提供に並々ならぬ意欲を燃やしている。「今までの地図は便利でしたが、まだ改善の余地がありました。そこでGoogle では、ダイナミックかつインタラクティブな地図を作ることにしました」と、グーグル・マップ開発の動機を語っている。

 グーグルの地図サービスでさらに驚かされたのは、『グーグル・アース』だ。これは米グーグルのサイトからソフトをダウンロード(無料)して使う。まさに宇宙から地球を見ている感じがする。起動すると、暗黒の宇宙空間に漂う青い地球が現われて、ぐんぐん近づいてくる。マウスか矢印キーで地球を回転させ、探している地点を見つけてダブルクリックすると、地球が回りながらさらに迫ってくる。そして、その場所の空撮写真が現われる。

 こうした演出や、解像度の高い写真である点にも目を見はらかされるが、グーグル・アースでびっくりするのは、3D画像で視点を変えられることだ。
 グーグル・マップも衛星写真を使っているが、真上から見ているのでわかりにくい。
 しかし、グーグル・アースは斜めの角度から見ることができる‥‥というと、あまり感動しないかもしれないが、初めて操作ボタンを動かして見たときには、飛行機に乗っていて、大地がぐらっと傾いた感じがしたものだ。そうやって地上に近づいていくと、飛行シミュレーションで着陸するときのようだ。まさにゲーム感覚なのだ。

 このソフトは、キーホールという会社が開発したもので、イラク戦争のときには、CNNなどのテレビも、この画像でバグダッドについての放送をしたという。グーグルは昨年10月にこの会社を買収している。
 「グーグル・アース」の紹介ページでは、メディア以外にも、世界を舞台に仕事をするNGOや、不動産・建築関係、官公庁、荷物のトラッキングをする運送業者、リスク評価が必要な保険業者などから、安全保障のリスク評価をしたり作戦計画を練る国防や諜報関係まで、多くの仕事に活かせると説明している。

●これからのネットで地理情報の価値は大きく上昇?

 グーグルは、こうした技術を次々と取り入れて何をしようとしているのだろうか。
 実際のところ、地図を入り口に提供できる情報は多い。レストランやショップ、映画館にスポーツ施設、こういったものはすべて、地理情報を手がかりに探したほうが都合がいい。

 グーグルは、その使命について、「世界の情報を組織化し、広くアクセス・利用できるようにすること」だと言っている。
 本の全ページをスキャンして検索対象にした『グーグル・プリント』を昨年開始したときにも、グーグルは、「世界の多くの情報はまだネット上にはない。われわれはオンライン化の手助けをする。グーグル・プリントは本の中身をもっとも簡単に見つけられるところ、つまりグーグルの検索結果に置く」と謳っていた。

 こうした発想は、このところのグーグルに一貫している。
 いうまでもなく地図情報も、「ネット上にない情報」を「もっとも簡単に見つけられる」形でグーグルの検索対象にする。
 グーグルは、10月にローカル情報検索と地図検索を一体化し、見ている地図付近の店舗やサービスなどを検索できるようにした。グーグルの発想からすれば、こうした検索は生まれるべくして生まれたことになる。

 実際行かなければできないことについては、まず地理情報を手に入れなければ話にならない。多くのことがネットですむようになればなるほど、それ以外の活動のためには地理情報が重要になってくる。

 このグーグル・ローカルは、携帯電話でも使える。いうまでもなく、地理情報は、移動中にもっとも役に立つ。また、グーグル・アースの有料版では、GPSデータを読みこんで利用できる。グーグルは、携帯電話の地図検索でも、いる場所にあわせてリアルな3次元画像を使って街を表示し、位置情報を取り出せるようにするつもりなのだろう。
 そしてまた、移動しながらのネット・アクセスがさかんになればなるほど、グーグルの広告ビジネスにとって、こうした検索の重要性も増していく。地理情報検索に応じて、その場所の店舗やサービスの広告を出せれば、広告効果は絶大だ。

●深謀遠慮の宇宙戦略?

 グーグルに加わった惑星間インターネットの研究者ヴィントン・サーフも、こうした位置情報データの利用や携帯端末、無線通信の技術に関心を持っていると、米ニュース・メディアは伝えている。それは当然だろう。
 惑星間でインターネットをするためには、時々刻々位置を変える通信相手を的確にとらえる必要がある。位置情報の把握や無線通信についてのきわめて高度な技術がいるわけで、国際衛星電話などにも共通する課題である。無線通信や位置情報データの処理に興味を抱かないはずはない。

 グーグルもまた、携帯電話のOSを開発しているというウワサのある会社を買収したり、無線通信を使った広告ビジネスのために企業と提携したりと、着々と携帯や無線通信ビジネスのための準備を進めている。惑星間インターネットの技術も、無線通信や位置情報ビジネスに役立つと見ているのだろう。
 グーグルは月面の研究所という夢物語のようなことを口にしながらNASAとの関係を深め、大規模データの管理運用というこれまでつちかったノウハウにもとずく現実的なビジネス運用を進めながら、いずれは惑星間インターネットをも可能にする強靱な無線通信技術の開発をしようとしているようだ。

 アメリカ政府は、「月へ人を送る」などといった大きな目標を立てて、そこへたどり着く過程で得られた技術をビジネスに役立てるということをずっとやってきた。「月に研究所を作る」と言って人材募集まで始めたグーグルもまた、かつてアメリカ政府がやったことを、民間会社のレベルでやろうとしているのではないか。
 グーグルの「宇宙進出」には、現実的な一方で、遠大でもあるそんな戦略が潜んでいるように思われる。

関連サイト
●『Google Mapsを軍事的に楽しむ♪』(http://googlemaps.fc2web.com/)のサイトには、日本の防衛庁や自衛隊の基地をはじめ、世界中の軍事施設のグーグル・マップやグーグル・アースの空撮写真が集められていて圧巻だ。
 グーグル・マップ同様、グーグル・アースも、情報を加えたファイルを開発者が自由に作って公開できるようにしている。グーグル・アースを使えば、膨大な地理情報をしまいこんでいる企業はそれを活かすことができるし、まだ始めていないところも、地理情報についてのパワーアップが図れると、グーグルは言っている。
●グーグルは地球の衛星写真ばかりでなく、月の衛星写真サイトも作っている(http://moon.google.com/)。人類の月着陸100周年にあたる2069年7月20日に『グーグル・ムーン』と地域情報サイト『グーグル・ローカル』を統合すると、グーグルは宣言している。統合のあかつきには、月面の企業の住所や電話番号、営業時間などを、月のほかのローカル情報とともに簡単に見つけられるようにするという。
●地図は、IT企業の激しい競争のターゲットになってきた。米ヤフーも、グーグル同様、地図のAPIを公開しているし、米マイクロソフトも、地図と衛星写真を組み合わせたベータ版サイトを作っている(http://virtualearth.msn.com/)。グーグルと同じく解像度の高い写真が表示されるが、治安上の理由からか、ホワイトハウスなどは、わざとぼかされている。この原稿を書いている時点では、日本はまだ対象にはなっていない。
●米アマゾン・コムが作った検索サイト「A9.com」も地図サイトを作った(http://maps.a9.com/)。こちらは別の意味で驚くものになっている。空撮写真ではなくて、街を行く人の視線の高さの写真を見ることができるのだ。いまのところアメリカの大都市の写真しかないが、対象の都市はだんだん増えていのくだろう。居ながらにして、空の上から、そして歩く人の気分で街を見ることができる、そんな時代になってきたようだ。
●惑星間インターネットのサイト(http://www.ipnsig.org/home.htm)。惑星間インターネットについては以前の原稿を参照。ヴィントン・サーフについてはこちら

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