« MS技術開発観察日記開設 | トップページ | インターネットの生みの親が、その30年の歴史を顧みて思うこと »

2005.11.11

誰でも使える高精細画像付き地図

このところのウェブ地図の進化は著しい。
グーグルは、衛星写真の表示や使いやすさの飛躍的向上をはかり
地理情報の新しい可能性を切り開こうとしている。

●使いやすくなったウェブ地図

 これまでのウェブ地図は、すぐ隣りの地域を見るのでも、地図の周辺の矢印をクリックして表示されるのを待つしかなかった。紙の地図を広げて見ているときには、視線を少し動かすだけなのに、ウェブではずいぶん面倒なことをやっていた。
 それがあたりまえのことではないと気づかされたのは、グーグルの地図検索サイトの誕生によってだ。
 『グーグル・マップ』では、画面左上の矢印をクリックして移動することもできるが、便利なのは、マウスで地図をドラッグしたり、キーボードの矢印キーで移動するほうだろう。いま見ているところのもうちょっと隣りが見たいと思ったら、マウスで画面をつかんで動かす。つまりクリックして見たいぶんだけひっぱる。あるいは、矢印キーを押して画面が移動しているのを見ながら、都合のいいところでキーから指を離す。われわれが日常生活でやっている自然な動作に近い。
 これまでは、画面を拡大・縮小するのでも、縮尺の数字をクリックして表示されるのを待たなければならなかった。8000分の1の縮尺を21000分の1にして見え方がどれぐらい変わるか、すぐピンと来る人は少ないだろう。「あれ、これではまずいな」などと、縮尺率をあれこれ変えてみるしかなかった。けれども、グーグル・マップは、(インターネット・エクスプローラーでは)「+」や「-」のキーを押すだけで画面が少しずつ拡大・縮小される。
 グーグル・マップを使い始めてみると、地図を見るには、クリックしてダウンロードするよりも、ドラッグのほうがずっと自然であることを実感する。こうした変化は一見わずかのことのようだけど、微妙な操作の変化の積み重ねが、使いやすさを大きく向上させていく。
 コンピューターのインターフェイス、つまり操作方法は、ずいぶん研究を重ねられてきた。この分野ではここしばらく、アフォーダンスと呼ばれる概念が注目されている。アフォードというのは、与えるとか差し出すといった意味だ。道具は、みずからの使い方をわれわれに指し示している。電子機器から突き出たボタンがあれば、われわれはとくに習わなくても押すものだと思うし、トンカチの柄を見れば、つかむものだとわかる。道具はみずからの使い方を指し示し、われわれもそうしたことを身体感覚として身につけている。コンピューターの操作も、こうした身体感覚に沿ったインターフェイスにする必要があると考えられている。隣りの地域を見るときにも、つかんでひっぱっる(ドラッグする)ほうが自然な動作というわけだが、こうした人間工学的な改良は、じつは、グーグルが地図について始めた改革の第一歩でしかなかった。

●あなたの家も見える?──グーグルの衛星写真

 米グーグルが地図検索に進出したのは今年の2月だった。4月には、昨秋に買収したキーホールという会社の衛星写真データベースを使って、表示している場所を真上から撮ったリアルな写真が、クリックひとつで見れるようになった。日本語サイトでも、7月から可能になっている。地図の右上の「サテライト」というリンクをクリックすると、衛星写真が現われる。
 衛星写真だから、地上ではおいそれと入っていけないようなところも映っている。たとえば北朝鮮の衛星写真などもある。「うーん、ここが現代の秘境・北朝鮮か」などと、見ているだけでもどきどきしてくる。ただし、地域によって解像度はかなり異なっているようで、北朝鮮については高解像度の写真は表示されない。総じて山間部は解像度が低いようだ。国内も、東京など大都市はかなり高精細の写真になっている。でも、よほどの大邸宅でないかぎり、家の一軒一軒まではっきりと識別できるほどではない。
 実際のところ、真上から見ると、どれが何だかはとてもわかりにくい。移動したり、拡大や縮小を繰り返していると、どこにいるのかわからなくなってくる。そうした反応が多かったのだろう。英語版では、「ハイブリッド」という表示の選択肢が加わった。航空写真と地図が重ね合わされて表示される。この原稿を書いている時点では、日本の地図についてはまだサポートされていないが、いずれは可能になるのだろう。
 たまたま見たよく知っている街の写真は、最初は5年は前のものだったが、数週間してもう一度見ると、最近の時期のものに変わっていた。公開されて以後も、写真はどんどん更新されている。いま解像度が低い地域も、いずれはもっとよく見えるようになるかもしれない。

 グーグル・マップの新しいアイデアに感心する一方で、自分の家らしきところがわかると、「あ、見られている」と複雑な気分もしてくる。人間ゲンキンなもので、人の住みかを見ているぶんには楽しいが、自分の家を見られのは気分がよくない。
 米グーグルのサイトでは、あなたがプライバシーを気にするのはわかりますが、リアルタイムの写真ではないし、「空を飛んだり、特定の地形の場所にドライブした人が見るものと変わりありません」と書かれている。ヘリコプターや高いところから見られるのと同じ、というわけだ。しかし、わざわざヘリコプターに乗ったり、高いところに昇らなければならないのと、家や会社の机の上で見られるのとでは話は異なる。「どうせ見られている」にしても、見られ方が違うことは確かだろう。

●サイト運営者が誰でも使える地図データ

 「グーグル・マップ」は、10月になって地域検索「グーグル・ローカル」と統合された。場所と探しているものをそれぞれ検索ウィンドウに入れてクリックすれば、店舗がずらっとリストアップされ、その場所が地図上にマッピングされる。
 検索表示の対象になる店舗は、グーグルがあちこちのウェブサイトや情報サービスから集めたものだという。これまで検索できるローカル情報は、店舗の側が登録しなければならないものも多かった。それでは、検索してもヒットせず、利便性は限られる。グーグルの地域情報+地図サイトは、ヒット率が高い。
 グーグルが地域情報と地図情報の統合を発表した5日後、ヤフーも、従来の地図検索や地域検索とは別に、「エリア検索」を開始した。地図ページで店舗などを検索でき、地図のドラッグ移動も可能だ。地図検索の競争が始まっている。
 また、グーグルもヤフーも、APIといって、サイト運営者たちが地図に情報を加えて、サイトのコンテンツとして無償利用できるようにしている。下段の『全国天体観測マップ』のようにサイト運営者の側で情報を加えてもいいし、また誰でも情報を書きこめるようにすることもできる。
 8月末から9月にかけてアメリカにハリケーンが上陸して洪水が起きたあと、グーグル・マップの地図を使って、「○○番地の家はちゃんと建っているぞ。屋根がちょっと傷んだだけ。大丈夫だ!」などと、現地の情報を持っている人が、被害状況を書きこめる地図情報サイトができた。こうしたサイトは、自宅の様子を心配している避難者の役に立ったはずだ。これは、誰でも書きこめる、いわば掲示板のような地図である。
 グーグルもヤフーも、日本語のサイトではいまのところAPIについて案内していない。しかし、地図データは使えるので、グーグルの地図を利用した日本のサイトはすでに数多く生まれている。
 ところで、グーグルは、こうした地図サービスを使って何をやろうとしているのだろうか。あれこれあたってみると、グーグルには、たまたま地図検索を始めたという以上の戦略があるようだ。グーグルの思惑を、次号でもう少し探ってみることにしよう。

   *

 グーグルは、リアルな航空写真を見ることができる「グーグル・アース」というソフトを無償配布し、こちらも評判になっている。これについても次回以降であわせてとりあげる。

関連サイト
●グーグルは地図と地域情報を統合した(http://local.google.co.jp/)。場所と、もうひとつの検索ウィンドウに「喫茶店」などと入力して検索すれば、たちまち喫茶店のリストが現われて、その場所が地図に表示される。
●『ニューオリンズ洪水地図』【http://mapper.cctechnol.com/floodmap.php】は、地図の上でクリックすると、その地点の洪水が最大時どれぐらい、最新情報ではどれぐらい、と表示される。また、グーグル・マップが提供しているハリケーン通過後の衛星写真もこのように見れるようになっている。以前の写真と比較すると、一変した街の様子がわかる。
●グーグル・マップを使っているのは個人サイトばかりではない。NHKも、番組関連の場所をマッピングした『ワールドテレマップ』というサイトを作っている(http://www3.nhk.or.jp/toppage/wtm/)。地図上のアイコンをクリックすると番組情報が表示され、そのリンクをクリックすると番組のページに飛べる。誰でも無料でアクセスできるのであれば、商用サイトでも、グーグルのAPIは無償利用できる。
●『日本の天文情報──全国天体観測地マップ』(http://japan.astronomy.jp/modules/astromap/)。日本全国の天文観測お勧めの場所を注釈付きでマッピングしている。
●『ハリケーン情報地図』【http://www.scipionus.com/】は、一般からの情報にもとづいている。情報提供があった場所にはピンが立ち、そこをクリックすると「オークリッジ・サークルは大丈夫。些細な風による被害だけ」などといった書きこみが、情報が提供された日時とともに現われる。

(週刊アスキー「仮想報道」vol.410)

« MS技術開発観察日記開設 | トップページ | インターネットの生みの親が、その30年の歴史を顧みて思うこと »

グーグル」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/56597/7028755

この記事へのトラックバック一覧です: 誰でも使える高精細画像付き地図:

» 地図に情報を置いてみる [マチヅクリ]
先日 これまでの記事の中で、 ある特定の場所に関するものを地図上にプロットしてみた。 思いついて考えてきた内容を場所とリンクさせてみると、地域に偏りがあることがわかる。なんとなく自分の主要な行動範囲が重なっている。どうやら日常生活の中でいろいろ考え事...... [続きを読む]

« MS技術開発観察日記開設 | トップページ | インターネットの生みの親が、その30年の歴史を顧みて思うこと »

2014年8月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31