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2005.11.18

グーグルの宇宙戦略

グーグルは、さ来年の晩春に、月面上に
研究施設を開設すると、人材募集サイトまで
作っている。冗談のようで本気なその戦略は?

●月世界で宇宙のさえずりを聞く

 IT企業の経営者たちの「宇宙好き」は有名だ。マイクロソフトの共同創立者ポール・アレンは、民間宇宙ロケットやET探しのプロジェクトなどに大金を出している。
 また、ライブドアの堀江貴文社長は、民間宇宙飛行を支援しているX賞財団の理事になり、さらに10月半ばには、個人の資金を投じて宇宙旅行ビジネスに参入することを明らかにしている。
 グーグルの創立者もまた「宇宙好き」らしい。2人の創立者のうちラリー・ペイジがX賞財団の理事になっている。

 「お金ができるとみんな宇宙か」と貧乏人のひがみ根性で言ってみたくなるが、グーグルは、どうやら「個人の趣味」の範囲を超えて、本業の一部として宇宙進出を考えているようだ。さ来年の晩春、ネットワークのホスティングと研究開発のための施設「グーグル・コペルニクス・センター」を月面上に作ると言って、人材募集までやっている。
 ただ、その募集ページを見ると、どうにも首をひねる気分になってくる。

 「なぜ月に施設なのか」と、当然の疑問に答えるページには、無限の太陽エネルギーで大きな並列溶岩(ラヴァ)ランプを作ったり、ほかの惑星からやってくる電磁波の「宇宙のさえずり」に耳を澄ませたり、地球から届くテレビやラジオの放送をすべて蓄積するなどといったことが、「68年にBBCに出演したピンクフロイドの映像はもう見れないけど、そういうのが残っていたらすばらしいだろ?」なんて感じで書かれている。
 月面ですることとして、情報のフィルタリングや、広帯域大容量のデータ転送、球体の低酸素住空間での実験などもあがっている。それによって、「地球上の技術を飛躍的に成長させて情報を新たな利便性の高見に引き上げる」などともっともらしいことを言っている。
 その一方で、「このセンターでは代替不可能な能力を持っているのでないかぎり、月世界やほかの惑星の住人たちを、使うつもりはない。地球人だけを雇う」だとか、重力のない月では、マウスでアップとかダウンとか指示してもうまく動かないかもしれない、などとも書かれている。
 いくら開放的なアメリカのIT企業だとはいえ、はたして本気なのかという気がしてくるのだ。
 さらに大豆のローファット・ラテや流行りのテレビドラマ『ソプラノズ』、それに確実な酸素供給の便利さを忘れられない人は応募を控えるように、本気度はどんどん疑わしくなってくる。

 米グーグルは、『グーグル・ビデオ』という検索サイトを立ち上げ、テレビや動画の検索を始めている。だから、地球から届く放送電波を月面基地で収集し、膨大な映像データが手に入れば、それはいいにちがいない。
 しかし、ETとの通信で、どうやって金儲けをするんだろう?
 もちろん、何か方法はあるだろう。
 貿易したっていいし、ET世界の情報検索なんてことになれば、ものすごい金を出してもいいという企業や金持ちはごろごろいるかもしれない。
 しかもグーグルは株主たちに、自分たちは株を上場しても、短期的な利益より長期的利益をとると、最近の上場企業らしくないことを宣言している。
 とはいえ、「ETとの通信で儲かります」なんて正気な会社の言うことではないだろう。

 実際のところ、この募集案内は、勤務地別や職種別になっている募集サイトのトップ・メニューには載っていない。ほかのページからのリンクをクリックして、私もたまたま見つけたにすぎない。
 7ページにもわたるこの募集サイトの最後には、「もしあなたが新しい仕事に興味があるなら、いまが前進のときだ。もっと詳しい情報が欲しければ、本日、月の仕事@グーグル・コムにメールするように」と付記されている。
 でも、どういう仕事をする人間がほしいのかという肝心なことは明記せず、「地球の住人であることを証明するように」などといった、馬鹿げた要求事項は書かれている。どう控えめに言っても半分ぐらいは冗談‥‥と思っていた。

●深謀遠慮の宇宙戦略

 ところが、その後、驚くようなニュースが伝えられた。グーグルは、NASAと提携した、というのだ。9月28日付でプレスリリースも出ている。大規模なデータ管理や分散コンピューティング、バイオや情報・ナノテクノロジーの融合分野、企業の宇宙産業への参加奨励など、多様な分野について協力することを決めたという。

 バイオやナノはグーグルの専門ではないだろうが、大規模なデータを扱う技術や分散コンピューティングはグーグルの得意分野だ。グーグルは、たくさんのパソコンを並べて低コストで膨大なウェブ・データを操っている。

 またNASAと交わした覚書には、NASAのリサーチパークにある100万平方フィート(約9万3000平方キロ)をグーグルが開発する計画も盛りこまれているそうだ。グーグルは、増え続けるスタッフや新たな研究施設のための一大拠点をそこに作るつもりらしい。
 NASAとの提携は、いわば宇宙事業の縁の下の仕事で、月面基地とは直接の関係がないように見える。
 ところが、グーグルは、9月の初めにもうひとつ、NASAのインターネット・プロジェクトに関係している大物のリクルートを発表した。インターネットの基本的な仕組みを作り出した「インターネットの父」ヴィントン・サーフを、「チーフ・インターネット・エバンジェリスト」および副社長として招いたのだ。
 「チーフ・インターネット・エバンジェリスト」は、そのまま訳せば「インターネットの伝道責任者」とでもいったことになるだろうが、リクルートにあたってはっきり仕事が決まっていたわけではないようだ。サーフも、「会社の内外でグーグルの可能性を説いてまわる」などと遊軍的な活動をすることを口にしている。

 サーフは、アメリカの通信会社MCIの副社長を務めながら、NASAと組んで惑星間インターネットの研究をやっていた。
 宇宙空間をまたいでインターネットをするとなると、通信相手の位置は時々刻々大きく変化する。
 その一方、ウェブ情報などを要求し、戻ってくるのにかかる時間は、地上の比ではない。
 そうした状況に対処するにはどのような通信システムにすればいいかを研究しているわけだ。
 このプロジェクトはグーグルのメンバーになっても続けるらしい。

 そうしたことを踏まえて先の募集サイトを見てみると、そこには、サーフの関心とも重なる次のようなことが(ジョークにまぎれて)書かれていることに気づく。

  • ワールドワイドウェブは、正確にはどれぐらいの距離まで拡張できるのか。惑星間で役に立つものになるのか。
  • 遠距離でリンク切れすることがありうるとしたら、それはどんなものか。リンクの強度には限界があるのか、それともバブル・ガムのようにどこまでも伸びて靴の底にくっつくのか。
  • ブラックホールあたりでは、[グーグルのウェブサイト評価システムの]「ページランク」には何が起こるのか。
  • 迷惑メールは永遠か。

 どこまでいっても冗談っぽくはある。
 しかし、月面研究所のスタッフを募集する一方で、NASAと提携し、惑星間インターネットの研究者を雇う。
 着々と、しかし急速に、グーグルは宇宙に向けて照準をあわせ始めたように見える。

 宇宙に照準をあわせているなどというと夢物語のようだが、グーグルは、前回取り上げた地図のような地理情報サービスの未来とも重ね合わせて、宇宙戦略を練っているのではないか。次回はそれについて書くことにしよう。

    *

 グーグルが進出を決めたリサーチパークは、NASAエームズ研究センター内にあって、教育や教育開発のための誘致をしている。アメリカ政府は、財政的に宇宙事業の国家独占はもはや無理だということを悟り始めている。リサーチパークへの誘致やグーグルとの合意も、民間導入策の一端なのだろう。

関連サイト
●9月8日、グーグルは、惑星間インターネットを研究している「インターネットの父」ヴィントン・サーフをチーフ・インターネット・エヴァンジェリストにすると発表した(http://www.google.com/press/pressrel/vintcerf.html)。サーフは、惑星間インターネットの基幹技術を10年内に開発すると言っている。
●以下、グーグルの月面研究所人材募集ページより、おもしろい写真が載っているページを紹介する。

  • グーグルが、さ来年の晩春開設すると、冗談めかして人材募集サイトで語っている、ネットワークのホスティングと研究開発のための施設「グーグル・コペルニクス・センター」(http://www.google.co.jp/intl/ja/jobs/lunar_job.html)。グーグルの若い創立者二人は、創立以前の98年前半に、月のクレーターに施設を作る計画を立てたという。月面施設は、「グーグルナプレックス」とも呼ばれることになるようだ。グーグルの創立者の一人ラリー・ペイジが、レゴの電子ブロックでアイデアを得たそうだ。
  • 月面施設で使うという巨大溶岩ランプ(http://www.google.co.jp/intl/ja/jobs/lunar_job6.html)。溶岩ランプというのは、流れ出る溶岩を思わせる装飾ランプのこと。グーグルの好きなもののひとつらしい。海水を入れてバイオマス(石油などの化石資源ではなく、再生可能な環境にやさしい有機資源)を使って酸素を作り出し、このランプの中で藻や魚を育てて、寿司職人に料理させるのだそうだ。

         (週刊アスキー「仮想報道」vol.411)

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In search of the Real Google 【TIMEへGO】 タイム誌のカバーストーリーは、グーグルです。もちろん、注目されるのに相応しい存在になりましたが、何を今さらという気もしてきました。なぜなら、私自身がグーグルを毎日何時間も使う日が続いていますので、あたかも、空気のような存在になっていたことに気付きました。そう言えば、日経ビジネスの2月6日号には、「水と空気とヤフー」という表現がありました。 同誌は日本で絶大な強さを誇るヤフーの特集記事を書い... [続きを読む]

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