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2005.10.28

楽天のTBS統合への意気ごみとその背景

楽天は、TBSとの統合案を早々と発表したが、
実現の見こみはどれぐらいあるのだろうか。
そしてそのねらいはどこに?

●改革ムードの中のTBS株買収

 まあ、いろいろなことが起こるものだ。楽天がTBSの株をひそかに大量に買っていたとは。でもそのことに驚いたかと言えば、そうでもない。むしろ、(自分も含めて)世間があまり驚かなかったことのほうが印象的だった。
 ライブドアがニッポン放送の株を買って大騒ぎになったのはほんの8か月前のことだ。そのときには政治家からも猛反発があった。しかし今回は、テレビ局の監督官庁の総務省の麻生大臣も、「民間の会社同士の話に対して、良いとか悪いとか言う立場にない」と涼しい顔。様変わりが著しい。
 楽天の三木谷社長がお偉いさんの受けがいい、ということはもちろんあるだろう。しかし、日本の社会も、この半年ちょっとで大きく変わってしまった。いや、変わったというより、変わったということを、「守旧派」も含めて誰しもはっきりと認めざるをえなくなった。キャッチフレーズで打って一丸になるというのはとてつもなく危険な話だと思うが、「改革は善」という圧倒的なムードができあがっている。そして、旧メディアと新興ネット企業では、ネット企業のほうが改革派に見える。その改革派がオールドメディアに切りこんで何が悪い、それはもう時代の流れだろう、という雰囲気になっている。
 しかも、楽天の三木谷社長は、いかにもソツがない。ソツがなさすぎて嫌味なぐらいだ。昨年の球団再編騒動のときも、ライブドアの堀江社長が矢面に立ってさんざんたたかれた後ですっと出てきて、球界参入を果たした。こんども、前回とまったく同じ。今年の前半に堀江氏が批判されているのをじっくり観察し、事前に根まわしををした。また買収が明らかになったあとも、力まかせのイメージを薄めようと気を配っている。
 村上ファンドによる株買収もあって、TBSは、第三者割り当てや、敵対的買収時の新株予約権の発行を決めるなど、相次いで防衛策をとっている。時間が経てば経つほどTBSの株を買収して影響力を発揮するのはむずかしくなっていく。その一方、ネット配信にはテレビ局も積極的になってきた。いろいろな意味で時機到来、やるならいま、と判断したわけだ。
 しかし、15パーセント強程度の株(その後、現在までに19.09パーセントまで買い進んだ)で、思いどおりにTBSを動かすのは簡単なことではない。早々と記者会見で統合案を発表したが、三木谷氏にはどんな成算があるのだろうか。ライブドアが、ニッポン放送の40パーセントの株を握り、過半数まで買い進もうとしたのに比べてもあまりにわずかだ。
 もっともその程度の株取得でとどめたから、風当たりは少なくてすんでいる。TBSの買収防衛策発動を検討する委員会の諸井虔委員長は「楽天との統合はいい話」と言ったと株買収発表直後には報道された。しかし、まもなくそれを否定し、じつは「おかんむり」だったという。すでに風向きは怪しくなってきている。これ以上買い進もうとすれば強い反発が起きるのは避けられない。
 ライブドアがニッポン放送の株を買ったときよりは条件がいいにしても、楽天は、銀行融資を受けてTBSの株を買っている。これ以上お金を借りて買い進めばリスクも大きくなっていく。株買収という力まかせの方法には限界がありそうだ。もしうまくいくとしたら、TBSが、感情的な反発にもかかわらず、楽天の提案を受けいれることがプラスになるとほんとうに思ったときだけではないだろうか。

●楽天のねらい

 楽天は、可能性のとぼしい賭けに打って出たようにも思われるが、それはなぜなのか。
 楽天は、いうまでもなく、ネット企業のなかの勝ち組だ。昨年一年の売り上げは456億円、経常利益は150億円。今年の第2四半期の売り上げは前年同期の88パーセント増、経常利益も8割増の快進撃だ。
 しかし、三木谷氏は、流通総額1兆円、経常利益1000億円を目指すと言っている。楽天は、ショッピングモールだけでなく、ネット証券、旅行サイト、有料動画配信サイトと次々にサービスの数を増やしている。ネット企業がたんなるグループ企業と違うのは、リンクを使って異なるサービスを密接に結びつけることができ、高い相乗効果をあげられる点にある。三木谷氏もそうしたことを意識して、最終形としてはインターネット上のワンストップショッピングを可能にし、金融商品もコンテンツもサービスもなんでも買えるようにすると、インタヴューなどで言っている。
『楽天市場』の集客力は強力だが、ヤフーなどのポータルサイトとは違い、基本的には何かを買うつもりのある人しかやってこない。売り上げを増やすには、買うつもりのなかった人も呼び寄せて購入してくれるような仕組みがほしい。そんなことができるのかと思われるかもしれないが、ネットにはそうした仕組みはすでにいろいろある。
 情報を提供し、客を呼びこんでくれたサイトに手数料を払うアフィリエイトはその典型だ。
 また楽天は、ネットリサーチの会社を買収し、リサーチ部門を拡大しているが、ネット調査の回答者にはポイントを与えて楽天市場に誘うなど、買うつもりのなかった人々を引きこむ戦術を次々と立てている。
 視聴率1パーセントあたりで100万人とおぼしき人を集められるテレビ番組も、そのための掛け替えのない手段になる。楽天は、TBSに対して、3000万の会員情報を使って見たい番組の情報を提供する一方、番組を見た人にポイントを与えて関連商品を売ることなどを提案したという。

●テレビ局と王者ヤフーの思惑

 けれども、TBSにかぎらずテレビ局は、自分たちが主導権を失う形でのネット企業との提携はしたくない。テレビとネットの関わりがこの先どうなっていくかわからないだけにいよいよ、コンテンツをお金に買えてくれるネット企業やサイトと臨機応変に組めるようにしておきたい。
 ポータルサイトの王者ヤフーは、いまのところ特定のテレビ局との関係を深めるよりも、あらゆるテレビ局と等距離の関係を保って、コンテンツを増やしていく考えのようだ。
 実際のところ利用者も、TBSの番組を見るにはTBS―楽天グループのサイト、フジテレビの番組は、今年前半の騒ぎのあと資本関係を結んだライブドアのサイト、などといったぐあいにそれぞれのサイトにアクセスしなければならないというのでは不便だ。視聴者は、おもしろいドラマやバラエティを見たいのであって、TBSのバラエティやフジテレビのドラマのなかから番組を選びたいわけではない。どこのテレビ局の番組でもひとつのサイトでまとめて情報を提供してくれて、同じ配信や課金の仕組みで見れたほうがずっと便利だ。
 こうした欲求のために一番好位置にいるのは検索サイトだろう。実際、米ヤフーや米グーグルは、テレビや動画の横断検索の仕組みを作っている。日本のヤフーもこうした米国での動きを見ながら、どこのテレビ局とも付き合いたいと思っているのだろう。
 テレビ局に猛烈なアタックをしている楽天やライブドアは、部分的な業務提携をしているだけでは、最終的に、ヤフーもしくはグーグルのような検索サイトにテレビ番組をさらっていかれる可能性がある。そうならないためには、資本関係を深めてテレビ局と運命共同体になり、コンテンツの囲いこみをはかるしかない。テレビ局がネット配信に積極的になってきたいま、残された時間はもう少ない。三木谷氏が「一文無しになってもやる」とまで言うのは、そういう背景があるからだろう。
 三木谷社長と並んでTBS株買収の発表をやった楽天の副社長は「TBSの子会社になってもかまわない」とまで言った。あとで「事業を一緒にやりたいということを強調したかったのだが、舌足らずだった」と釈明するはめになったが、楽天はそこまで必死ということだ。TBSとの統合という結果を出さなければ、引くに引けない、そんなところなのだろう。

       *

「TBSは、危ないことがわかっていたのに安定株主を作らず油断していた」と批判されている。でも、メディアが、影響関係を疑われやすい大株主を持たないのはむしろ健全なことだ。ただ、そうした状態では今回のように株を買い占められる恐れがある。メディアに関しては、少数株主しか認めないとか、上場そのものを認めないといったことが必要なのではないか。

関連サイト
●『楽天市場』(http://www.rakuten.co.jp/)のサイト。楽天市場は、1年前の4割増14000店舗と契約するに到っている。
●楽天は次々と提供するサービスの数を増やしている。29000店舗と契約している『楽天トラベル』(http://travel.rakuten.co.jp/)。
●楽天とUSENが共同で運営している月会費294円のストリーミング動画サイト『ショウタイム』(http://www.showtime.jp/)。
●『楽天証券』(http://www.rakuten-sec.co.jp/)。楽天市場や楽天ブックスなどのEC部門が売り上げの38パーセントを占めているが、金融事業も30パーセントとそれに並んでいる。

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コメント

はじめまして、モツニ(msaicc)と申します。
なかなかよくまとまった記事だと感心しました。現在、日刊現代とか夕刊フジとかあるいはもろもろの新聞でも上記のことが書かれているのですが、どうもあまりすっきりしていないような部分があるのですが、この記事はあまり現行のメディアのもろもろの影響力は受けていない印象を感じた次第です。 以上

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