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2005.10.14

ネット世論調査は信用できるのか?

ネットでの世論調査がさかんに行なわれ、
次々と結果が公表されるが、
そうした調査の信頼度は
どうやって測ればいいのだろうか

●ネット世論調査にもいろいろある

 おもろしいネット世論調査があると、この欄でもしばしば紹介している。調査会社は、ネットを使えば、これまでのようにお金がかからず、大勢の回答者を集めてスピーディーに結果を出せる。その一方、次々と怪しげな犯罪が起こり、個人情報保護がさかんに強調される昨今、ピンポーンとベルを押し、「調査に来ました!」などと言って、素直に応じてくれる人は少なくなっている。
 新聞社の世論調査なども、こうした社会の変化もあって、電話調査に切り替わっている。しかし、電話でも、「○○新聞の調査ですが」と言って信じてもらえるとはかぎらない。ましてや「調査会社の者です」と言ったら、巧妙な押し売りか新手の詐欺かと思われかねないご時世だ。調査会社の「ネット依存」はますます強まっていくにちがいない。
 だけど、その結果をあれこれ見れば見るほど、「うーん」という気になってくる。いったいこうしたネット調査ってどれぐらい当てになるんだろう? 
 9月の総選挙のときにもあちこちの調査を紹介したが、結果はずいぶん違っていた。実際の選挙結果と異なり、民主党のほうが自民党より支持が多かった、というのもあった。また、ネットでは、「小さな政府よりも大きな政府になることを望んでいる人が多い」と解釈できるものもあった。一般の意見とネット利用者の意見が違っているというのはありうることだが、「ネットではそうなんだ」と断言できるほど、ネット利用者の意見を代表しているかどうかについても疑問が残る。
 そんなふうに気にかかっていたところ、まさにそうした疑問に答えようという調査が見つかった。
 労働政策研究・研修機構が今年2月に結果を公表した『インターネット調査は社会調査に利用できるか』で、大部の報告書に加えて、さらなる分析に使えるようにと、研究者向けに、オリジナル・データの無料公開もしている。
 この調査は、住民基本台帳から無作為抽出して訪問面接調査をするという正統的な調査と、5つのネット・リサーチ会社に依頼した結果を比較している。
 お金がかかっている調査で、そんじょそこらの研究者が思いつきでやれるものではない。それぞれの調査費用がいくらかかったかも明かされていて、もっとも安かったネット調査で174万円。高いもので425万円だった。ただし、比較調査をする目的上、追跡調査を求めるなどあれこれ頼んだので割高になったそうで、通常ならもっと安いという。それにたいし、ネットを使わない訪問調査は、1260万円かかっている。
 調査会社が集めたネット・モニターは、サイトでの公募というもっともありふれたものから、地域ごとに無作為抽出して訪問したうえでモニター登録を依頼するといった手間ひまをかけているところもある。住民基本台帳の人口構成に近づけるように調整しているというネット調査会社もある。ひと言で「ネット調査」といっても、そのやり方は千差万別のようだ。
 
●「インターネット投票」は調査ではない

 どういう具合にしてどのようなネット・モニターを集めたのかはとても重要だ。最低限、同じ人間が何度も答えた結果は省くべきだし、アクセスしてきた人が誰でもクリックして簡単に答えられる公開型は、回答者が片寄っている可能性がある。どうやってモニターを集め、どういう人たちが答えたかを明らかにし、見るほうも、それを踏まえて判断する必要がある。
 世論調査や市場調査の国際学会などが「世論調査ガイドライン」を発表しているが、このような公開型の調査を、「インターネット投票」と呼んで、こう言っている。「この方法で得られる結果は、こうした調査票をサイトで見つける確率が最も高いヘビー・ユーザーを過剰に代表することはほぼ確実であり、インターネット・ユーザーの代表的サンプルを得ることは非常に困難」。「サンプルに代表性があるという確信がないのにインターネット調査の結果を公表して、悪例を作らないように注意すべき」。サイトの余興としてならともかく、きちんとしたやり方でないのに「調査」だというのは、調査の信頼性を損ねるので好ましくない、というわけだ(ついでに、テレビでよくやっている「賛成の人はこれこれの番号に、反対の人はこれこれの番号に電話してください」というのについても、娯楽目的のメディア活動としては正当だけど、「視聴者の中で回答することを選択した人々の見解だけを代表できるに過ぎず」、信頼性と代表性があるサンプルではないので、「リサーチャーはこのようなプロジェクトを実施すべきではない」と手厳しく批判している)。
 回答者数が多ければ信頼度が増すかと言えば、そんなこともない。1890年に創刊された「リテラリー・ダイジェスト」という雑誌は、選挙予測が売り物のひとつで、高い評価を得ていた。1936年のアメリカの大統領選挙でも、1000万人に調査票を送付し、237万人の回答を得、共和党のランドン候補が地滑り的に勝利すると予測した。しかし、結果はルーズベルトの再選で、予想は大幅にはずれた。結局、同誌は、この失敗がもとでつぶれてしまったそうだ。
 一方、ギャラップ社は、この選挙で、科学的に抽出した3000人(2000人という説もある)の調査対象者のデータによってルーズベルトの当選を予測した。『リテラリー・ダイジェスト』の調査の誤差が19パーセントだったのに対し、ギャラップのほうは5パーセントだったという。これが近代の世論調査の始まりであり、「1936年の米国大統領選挙は『数百万人に尋ねるアプローチ』の不正確性を如実に物語る、最初の、そして現在でも最良の例」だと『世論調査ガイドライン』も紹介している。
 この事件は、けっして過去のことというわけではない。「世論調査ガイドライン」は、1700万人に対して調査票を送信している「英国のある公共事業会社」や、調査票150万通を若者のサービス利用者に配布している「フランスの輸送会社」の調査は、大規模だが、回答者に代表性がない可能性のある「非科学的サンプリングの例」だと、名前は出さないながら見る人が見ればわかる形で非難している。そのうえで、「世論調査結果の正確さと信頼性は、インタビューの人数だけで決まるのではなく、より重要なことは、質問され回答したサンプルの科学的な代表性」だと強調している。

●スープの味見と世論調査は同じ

 こうした「代表性」についてよく持ちだされるのは、スープの味見の例である。よくかき混ぜてからすくいあげて飲めば、少し飲んだだけでスープ全体の味がわかる。しかし、そうでなければ、固まっている塩や薬味、具などが拡散したときには味が一変してしまう。それでは、いくら味見をしても正確なところはわからない。
 テレビの視聴率は、関東地区でもわずか600世帯を調べているにすぎない。それでどれだけほんとうのことがわかるのかという気がするが、科学的なサンプル抽出が行なわれていれば、わずかの調査対象で、正確な結果が得られるはず──そういう前提のもとに成り立っている。
 もっともこの論理を推し勧めていくと、わざわざ莫大な費用をかけて選挙をしなくても(総選挙の費用は700億円!)、科学的に抽出した一部の人をリサーチすればそれでいいじゃないか、という考えだってありうるだろう。しかし、現状は、幸か不幸か、そこまで「世論調査の科学性」は信じられてはいず、また実際はずれてしまった世論調査を見ることも稀ではない。

 すっかり話が脱線してしまったが、最初に書いた労働政策研究・研修機構の調査結果は、なかなか興味深い結果になっている。このレポートも含めて、ネット調査は信用できるかについて、次回もう少し探ってみよう。

関連サイト
●労働政策研究・研修機構の労働政策研究報告書『インターネット調査は社会調査に利用できるか ── 実験調査による検証結果』 (http://www.jil.go.jp/institute/reports/2005/017.html)。
●世界世論調査学会のサイト(http://www.unl.edu/WAPOR/
●ヨーロッパ世論・市場調査協会/世界世論調査学会(ESOMAR/WAPOR)『世論調査ガイドライン』(http://www.jmra-net.or.jp/guideline/esomar-guide.html)。日本マーケティング・リサーチ協会が翻訳して、そのサイトに載せている。出口調査については、「その方法は国によって異なり、まだ開発途上にある。選挙というのはめったにない出来事であり、選挙時以外に出口調査の方法をテストすることは不可能である。出口調査実施についてのガイドラインを示すことができるまでには、何年かが必要であろう」と書かれている。
(週刊アスキー連載「仮想報道」vol.406)

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コメント

世論調査で百パーセント完全な方法などない


のではと思います。ただ、百パーセントに近


づける方法はあると信じます。

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