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2005.10.20

ネット調査回答者は不満がいっぱい?

ネット調査は信用できるかを見定めようと
実施された大規模調査は、ネット調査回答者の
隠れた気質を明らかにし、意外な結論を導き出した。

●回答者は全体を代表しているか

 ネットを使った世論調査は、密の味ではあるけれど、はたしてスープの味だろうか、というのが前回書いたことだった。「密の味」というのは、ネットを使えば、安上がりに素早く調査ができるからだ。しかし、スープの味見のように、全体をよくかき混ぜたうえですくい取り、全体を代表している回答者でなければ片寄りが出る。科学的に根拠のある世論調査はできない。
 もっとも、同じ世論調査といっても、市場調査と社会調査ではその目的が違う。数字それ自体がいろいろと議論され意味を持つ社会調査と、その製品がどれぐらい好かれているかなどを調べる調査では、結果の利用のされ方が異なっている。市場調査の場合なら、以前の製品よりも好感度が上がっているかとか、ライバル製品より上まわっているかなどが重要で、細かい数字の違いには意味がないかもしれない。厳密さをとくに要求されるのは社会調査のほうだろう。
 ネット調査に接する機会は増えてきたが、こうした調査はどれぐらい信頼できるのか。それについて知りたいと思っていたところ、まさにそうした疑問について調べたレポートが見つかった。今年の2月に発表された、労働政策研究・研修機構の『インターネット調査は社会調査に利用できるか』である。同機構が以前実施した「勤労生活に関する調査」と同じ質問を、5つのネット調査会社に依託してデータを収集し、その結果を比べてみたものだ。
「勤労生活に関する調査」は住民基本台帳から無作為抽出して訪問面接した。それに対し、ネット調査はいずれもモニター登録者。サイトなどで公募したのが3社。住宅地図などでエリアごとに抽出して訪問し、ネットにアクセスできることを確認したうえで依頼したのが1社。もう1社は、電話帳から無作為抽出して、都道府県の住民基本台帳の構成に近づくように調整しながらモニター登録を依頼した。

●ネット調査回答者は転職好き

 結論から言えば、ネット調査の結果は片寄っていて、しかもその片寄りは一定している。ネット調査回答者は、次のような傾向が強いことが浮かび上がってきた。
 訪問面接よりもネット調査の回答者のほうが、全般的に高学歴だが、正社員が少なく、専門技術者や自営業者が多い。非正規従業員も多く、生活に不安を感じ、仕事や家庭を含め生活全般についての充実感がとぼしい。多くの面で不満があり、不公平感が強い。職業能力について自信がないが、平等社会より競争社会を好み、終身雇用制や組織との一体感などの日本型雇用慣行には否定的。福利厚生を充実させるよりも、給与としてもらいたいと思っている。一つの企業で管理職になるよりも、いくつかの企業で専門能力を磨くことを好む。さらに心の豊かさを好む傾向が弱い‥‥
 うーむ、ネット回答者の性格はいささか「問題ありげ」だ(笑)。
 どの質問についてもネット調査と訪問調査できれいに分かれているとは限らないが、多くの項目について、かなりはっきりとした傾向の違いが見てとれる。
 たとえば、生活全般について、「満足している」と「まあ満足している」と答えた人の合計は、訪問調査では63パーセントだが、ネット調査では、43パーセントから54パーセント。とくにモニター公募型の3つの調査で満足度が低い。自分の健康について不安を感じているという人も、ネット調査は68―73パーセントと、訪問調査の58パーセントより10パーセント以上も不安を感じている人が多い。
「もっと多くを手にするよりも、これまでに獲得したものを維持することの方が重要である」という現状維持志向についても顕著な違いが出ている。訪問調査では47パーセントがイエスだが、ネット調査では31―40パーセントと低く、現状維持志向は弱い。
 仕事の満足度については、いずれの問いについてもネット回答者は低レベルだ。たとえば、「努力に見合った待遇が得られることに満足している」と答えたネット調査回答者は、訪問調査よりも10パーセント以上少ない。さらに、いまの世の中が公平でないと思っている人は、訪問調査より10パーセント以上も多い。
 こうした結果を見ると、これはたんにネット調査回答者の特徴なのだろうか、という気もしてくる。ネット・モニターの性格だけでなく、「ネット的性格」でもあるのではないだろうか。
「2ちゃんねらー」相手の世論調査というのは、やるととてもおもしろいと思うが、協力がどれぐらい得られるかわからないし、実際のところかなりむずかしいだろう。しかし、2ちゃんねるの書きこみを見ると、とても不公平感が強くて、不満度は高そうに思える。その一方、社会主義的な平等志向はなさそうで、むしろ能力を正当に認められる自由競争を望んでいる人が多いように見える。ネット・モニターに関する調査から浮かび上がってきた回答者の性格は、ネットのヘビー・ユーザーが多い2ちゃんねらーの性格でもあるような気がする。

●ネット回答者の動機

 もっとも現段階で、そこまで言うのは、明らかに言いすぎのようだ。この調査では、訪問面接した労働政策研究・研修機構独自の調査について、ネット利用者かそうでないかを分けて、あらためて分析している。そうしたところ、なかなか興味深い結果が出てきた。
 面接調査したなかからネット利用者だけを選び出してその回答傾向を見ると、たしかにネット調査の回答に近くなる。とはいえ、その隔たりはまだ大きい。訪問面接回答者のなかではネット利用者と非使用者の差はそれほど大きくなく、ネット調査回答者との差のほうが大きい。ネットを利用しているかどうかが回答傾向の違いを生んでいるわけではなくて、モニターになるという行動を選びとったかどうかが違いを生んでいるのではないか、とこの調査をやった研究者は言っている。みずから応募したにせよ依頼を受けいれたにせよ、不安や不満を持っている人がモニターに応じたために、こうした結果になったのではないかというのだ(あるいは逆に、モニター回答者のほうが平均値で、訪問面接回答者のほうが楽天的な可能性もある、と指摘している)。
 ネット調査も訪問調査も、回答者に謝礼を出している(訪問調査は筆記具など100円相当のもので、ネット調査は100円相当のポイントから1000円の図書券まで)。もっともたまたま答えて筆記具をもらうのと、謝礼があることを知っていてモニターになるのとでは話はまったく違うはずだ。モニター回答者は、金銭や物質への志向が強いこともこの調査で明らかになっている。とはいえ、回答の動機は謝礼だけではなく、不安や不満を聞いてもらいたいとか、自分の意見を伝えたいということも大きい要因だという。
 こうしたネット調査では、あちこちのモニターに応募し小遣い稼ぎをする「プロ回答者」の問題が指摘されている。それによって回答傾向がゆがんでいる可能性がある。しかし、この調査では、いくつものモニターに登録しているという人の回答を除いても、結果はさして変わらなかったという。回答傾向を変化させている大きな要因は、やはりモニターになることを選択したかどうかにあるというわけだ。
 ネット調査が信用できるかという調査が、思いがけず、ネット調査回答者の片寄りではなく、モニターに応じた人々の片寄りを明らかにするという結果になった。大部な報告書や分析を読んだ私も、いささか拍子抜けするような結論だった。でもまあネット・モニター回答者の性格的な片寄りがはっきりすれば、そうした片寄りを踏まえてデータを補正し、調査精度をあげる道も開けてくるかもしれない。安易な補正はかえって正確さを損なうことも指摘されているし、もちろん確定的なことを言うためには、さらに調査を繰り返す必要はあるだろう。しかし、ネット調査が次々と発表される昨今だけに、貴重な研究だ。

      *

 ネット調査は、面接調査よりも正確さに欠けるという見方が多いが、質問者の影響をうけやすい日本人の性格を考えると、面接調査や電話調査よりも、ネット調査のほうが正直に答える可能性もある。調査内容などによっても、どの方法がいいかは変わってくるだろう。

関連サイト
●「インターネット調査は社会調査に利用できるか──実験調査による検証結果」(http://www.jil.go.jp/institute/reports/2005/017.html
●インターネット調査について言及されるときにしばしば参照される文部科学省統計数理研究所の「インターネット調査の信頼性と質の確保に向けての体系的研究」(http://www.jmra-net.or.jp/book/internet.html)。97年から03年まで4回、調査している。モニター公募型の調査は信頼できず、統計的な推論も無理と結論づけている。また、ネット調査では、ほかの調査よりも内閣支持率が下がり、民主党を支持する傾向が見られたという。本編は有料のCD―ROMだが、概要は読める。
●急増するインターネット調査の信頼度を危惧する声をうけて、電通リサーチなど市場調査5社が昨年秋に「インターネット調査(Web調査)品質管理ガイドライン」をまとめた(http://www.dentsuresearch.co.jp/topics/2004-09_guidline.html)。調査開始直後は、専業主婦や自営業者の回答が多く、会社員の回答が少ない。時間の経過によって回答者の属性が変わるので、調査には一定期間が必要だと、実施した調査の結果をあわせて発表している。
●Eメールマーケティング会社カレンなどが一昨年実施した「ネットリサーチと郵送調査の”差”測定調査」(http://www.current.co.jp/surveys/archives/cat_500.html)。ブランド名をあげて認知を尋ねたり、ひとつを選ぶ質問については差が少ないが、思いつく製品名をあげたり、ブランドイメージについては差が大きいという結果だった。また、情報感度が低く生活態度が受動的な2割の層は、ネット調査からは漏れてしまうことも明らかになった。

(週刊アスキー「仮想報道」vol.407)

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