« 小さな政府と大きな政府、どちらを望むか? | トップページ | 雨のち晴れは出口調査に最悪の日? »

2005.09.16

ポピュリズムとブログ

小泉内閣は、日本の政治を変えた。
その変化はもはや逆戻り不可能で、
ネットもそうした変化にいやおうなく巻きこまれていくだろう

●自民党のメルマガ作者・ブロガー懇談会

 こんどの衆院選では些細なエピソードだが、のちのちけっこう大きな意味を持つかもしれないことを自民党はやった。メルマガ作者やブロガーを集めて会見をしたのだ。参加者たちがブログなどに書いているところによると、ある日突然メールが送られてきて、そこにはこう書かれていたという。

 自由民主党では、下記日程にて『メルマガおよびブログ作者と自民党幹部との懇談会』を開催する運びとなりました。ネット上で信頼性が高いと判断させていただいたメルマガ作者およびブログ作者を党本部にお招きし、私どもの考え方についてご説明させていただくとともに、幅広いテーマについて意見交換をさせていただくものです

 メール本文の差出人の名前は自民党広報本部長代理になっていたが、受けとった人の中には新手のいたずらメールと思った人がいたり、またサイトの更新も滞りがちな自分がなぜ選ばれたんだろうといぶかしく思う人もいた。
 23日にメールが届き、24日が申し込みの締め切り、25日に開催という、ネットを使わなければ不可能な慌ただしい日程で、100人ほどに声がかけられ、33人が集まった。懇談会では、質疑に応じたうえで、総裁室を見せたり総裁のイスに座らせたりといったもてなしをしたそうだ。

 この懇談会で中心になって話したのは武部幹事長だが、補足説明などをして取り仕切ったのは世耕弘成広報本部長代理らしい。世耕参議院議員は、ボストン大学の大学院に留学して企業の危機管理を研究し、帰国後、NTTの広報にいたという経歴の持ち主で、参加者たちの多くは、的確な言葉をはさむ切れ者ぶりに強い印象を持ったようだ。

 懇談会に現われた世耕氏は、スタッフが手分けし、中立でまじめに活動をしていると思われる人々を選んだ、と説明した。しかし、選ばれたのは若手の経営者が多く、選ぶにあたってはもう少し戦略的な基準があったようにも思われる。
 自民党の従来の有力な支持層は、農村部や業界団体などともに中小企業の経営者たちだ。しかし、財政赤字が膨大になって利益誘導型の政治はもはやできず、自民党は農村部でかつてほどの支持を得られなくなってきた。また、業界団体との関係も壊れつつある。そうしたいま、中小企業の経営者、それもネットで積極的に情報発信をおこなっている人々をとりこみたいと考えたとしても不思議はない。

 小泉メルマガ誕生のときにも書いたが、これまで歴代の首相は、国民に直接働きかけるメディアを切望してきた。新聞は主張をねじ曲げると不信感をつのらせたあげく、政権の最後に、テレビだけを相手に記者会見をやった首相もいた。そのテレビにしても、ほとんどの場合、会見のごく一部だけしか拾わない。メルマガはもっと長いメッセージを国民に直接届けることができるが、基本的には一対多のメディアだし、発信者が内閣ではいかにも「広報」だ。小泉自民党は、ボランタリーなネットの情報発信者たちに積極的に働きかけ、、網の目状にメッセージを伝える試みを開始したわけだ。
 懇談会で世耕氏は、アメリカの大統領選挙ではブロガーに記者証を渡しており、そうしたことも意識したと言っている。実際にその後この懇談会の参加者たちには、自民党の提案で開かれた7党の若手議員政策討論会への「取材案内」のメールが送られている。この討論会は一般の人は入れず、立ち会えたのは報道機関と懇談会に参加した人々だけ。つまりマスメディアの記者とネットの情報発信者を同列に扱ったわけだ。ネット社会の先端を行く試みと言える。

 しかし、一般論として言えば、懇談会に招いてシンパシーを持たせたうえで「取材案内」するというのは、好意的に書いてくれることを期待してのことと考えざるをえない。選挙で多忙を極めるなか、幹事長が相手を務め、さらにポスト小泉の呼び声が高い安倍晋三幹事長代理も遅れて参加することになっていた。安倍氏は結局、台風で新幹線に閉じこめられて来れなかったそうだが、その代わりということか、若手経営者に人気のありそうな竹中平蔵大臣が現われた。選挙をまえにした時期、何の思惑もなく、こんな厚遇をすることは考えられない。
 そもそも取材やインタヴューというのはもろ刃の剣である。会って話を聞いた人のことは、なかなか悪く書けないものだ。相手の裏の意図を嗅ぎとってやろうと身構えている職業的なジャーナリストでもそうなのだから、一般の人であればなおさらだ。常識的な感覚を持っている人であればあるほど、会って話した人には悪意を感じにくくなる。広報したい側にとっては都合のいい相手ということになる。権力者がもともとなぜ新聞記者をきらい、別のルートをほしがるかと言えば、新聞記者が彼らの意図したようには書いてくれないからだ。招待したメルマガ作者やブロガーには、新聞記者と違った「素直な広報」を暗に期待しているのだろう。

 もっとも、いわば実験的に始めた今回は、参加した人々の情報発信に期待したというよりも、自民党が、ネットの新しい動向にも敏感で、これまでとは大きく変わったことをアピールしたかった、と考える方が自然かもしれない。
 
●言論封圧にも使われるブログ

 この欄で何回も書いたように、小泉首相は大衆迎合気味のところがあるが、歴代の自民党の首相はこれまであまりに国民に目線を向けずにきたから、とりあえずはこうした変化を肯定的に見るべきだとは思う。けれども、自民党を筆頭に政治の世界では、うるさ型の老政治家が次々と放逐され、派閥も壊れ、良くも悪くも、国民の人気とりがますます重要なものになってきた。いまや自民党の政治家は、党内基盤などなくても、国民の人気さえ得られれば、弱小派閥に属していたり若手であっても地位を駆けのぼれる。ポピュリズムの時代がいよいよ本格的に幕を開けた。それにともなって、有力なブロガーやメルマガ作者にむける政治家たちの視線も熱くなっていくにちがいない。好むと好まざるとにかかわらず、ネットも政治の渦中に引き出され、ポピュリズムの道具になる可能性が増大している。

 今年初めには、アメリカで次のような事件があった。
 スイスのダボス会議で米CNNテレビのニュース部門の責任者イーソン・ジョーダンがしたとされる発言が問題になった。イラクで米軍が故意にジャーナリストを狙い、十二人を殺したと述べたというのだ。ジョーダンはすぐにこうした発言をしたこと自体を否定したが、もう遅かった。ブログが追及し、結局、わずか2週間で辞任に追いこまれた。ブログがマスメディアを上まわる力を持つようになった、草の根メディアの勝利みたいな語られ方もしている。

 けれども、これはそんなに単純なことではないだろう。実際のところ、米軍は、アフガニスタンに続いてイラク戦争でもアルジャジーラの支局をミサイルで「誤爆」し、記者を死なせるなどといったグレーなことをやっている。ジョーダンが言ったとされるのは根も葉もないことというわけではないのだ。彼は、CNNの特派員もねらわれるのではないかと心配していたらしい。
 しかし、CNNをここまで育てた立役者のひとりでもあるジョーダンは、会社に火の粉がふりかかるのを恐れたのか、口数も少なく身を引いた。いまのアメリカ社会では、こうした深刻な疑惑を不用意に提起すればジャーナリスト生命を失ってしまう。それほどに保守化しているということだろう。
 それはともかく、この事件では、ブログは、自由な言論活動を妨げる働きをしたわけで、草の根メディアの勝利どころの騒ぎではない。そして、こうしたことはアメリカだけで起きることではないはずだ。

 もちろん、自民党はブロガー相手に懇親会をやるべきではないと言いたいわけではないし、ましてや、ブロガーも、呼ばれたからといって行くべきではないと言いたいわけでもない。ただ、ネットが力をつけてきた今、誰もが情報発信できるようになったことを素朴に喜んでいた時代は、そろそろ終わりつつあるのではないだろうか。

        *

 つて先ごろアメリカで、情報源の秘匿を通して監獄に入ったジャーナリストの事件もあった。情報源を秘匿すべきかどうかということもさりながら、メジャーな雑誌が政権中枢部のリークを受けて記事にし、政権の情報操作に乗せられていたことがまず問題だろう。プロのジャーナリストであろうとブロガーだろうと、情報提供側と親しくなれば、利用される可能性も高まっていく。

関連サイト
自民党のサイトに掲げられた『メルマガおよびブログ作者と自民党幹部との懇談会』のニュース(http://www.jimin.jp/contents/news/170825a.html)。このニュース記事の最後に、「参加者からは、『自民党がこのような会合を開くことは画期的。自民党が変わったことを印象付けられるのでは』など、評価する声が多かった」と書かれている。こうした声が出ることこそがこの懇談会のねらいだろう。
●ブロガーたちとの懇親会を取り仕切った世耕弘成参議院議員は、自分のブログも持っている(http://blog.goo.ne.jp/newseko)。自民党広報本部長代理として選挙で多忙をきわめるなか、毎日ブログを更新している。
●「普通のおばちゃんOL」が「何を思ったか大真面目にルポライターを目指す」という泉あい氏のブログ(http://www.surusuru.com/news/)。自民党のメルマガ作者やブロガーとの懇談会にも無理やり出席して、その様子を詳細に報告している。ほかにも、記者クラブについての取材をしたり、各党の政治家にインタヴューしたりと読みでたっぷりのジャーナリスティックなブログだ。
●米CNNテレビのニュース部門の責任者イーソン・ジョーダンを辞任に追いこんだブログ『イーソン・ゲイト』(http://www.easongate.com/

(週刊アスキー「仮想報道」vol.402)

« 小さな政府と大きな政府、どちらを望むか? | トップページ | 雨のち晴れは出口調査に最悪の日? »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/56597/5968890

この記事へのトラックバック一覧です: ポピュリズムとブログ:

» [ネット]歌田明弘の『地球村の事件簿』 [「短歌と短剣」探検譚]
http://blog.a-utada.com/chikyu/2005/09/post_fd74.html 自民党のブロガー懇談会 ↑先の衆院選の話です。やるなあ自民党。 [続きを読む]

« 小さな政府と大きな政府、どちらを望むか? | トップページ | 雨のち晴れは出口調査に最悪の日? »

2014年8月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31