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2005.09.30

テレビ・コマーシャルは永遠の存在?

デジタル・ビデオ・レコーダーが普及しても、CMは飛ばされない
──ほかの調査をひっくり返す、そんなレポートも出ているが、
真相はいかに?

●テレビCMのおかげで心は引き裂かれ‥‥

 いまさら言っても仕方がないぐらい当たり前のことになってしまったけれど、テレビというのは、視聴者をばかにしたメディアだと、ときどき思う。さんざん盛り上げてひとを惹きつけておいて、いよいよクライマックスとなったところで「はい、コマーシャル」。「また来週見てね」などということもざらだ。テレビはCMによって成り立っているから仕方がないじゃないか、というのは送り手の論理で、突然番組を打ちきられてしまったほうの立場になって考えたことがあるのか、などとマジで怒ったりするのは、私だけだろうか。
 CMがなければ、テレビ番組を作れないじゃないか、という意味では、たしかにこうした意見は「視聴者のわがまま」だ。しかし、ひとの気持ちをオモチャにするということがいつまでも成り立つのか、と考え始めると、ほんとうにたんなる「視聴者のわがまま」ですむのか、という気になってくる。
 デジタル・ビデオ・レコーダー(DVR)が急速に普及し、さらにネットを使った蓄積型の番組配信もいよいよ本格的に始まる気配が出てきた。いつでも好きなときにまとめて見れる環境は着実に生まれようとしている。そうしたときに、いつまでも視聴者の心をもてあそぶような番組の作り方でいいはずがない、とも思う。
 新聞や雑誌などの活字メディアでは、広告を見るか見ないかは、読者にゆだねられている。興味がなければ広告を見ない、それだけだ。しかし、テレビはそうはいかない。トイレに行くぐらいの対抗策しかなくて、同じ広告といっても、かなり強引な形がまかり通っている。
 そもそも、「ではまた来週」というテレビ番組のあり方も、われわれの生活にそぐわなくなってきているのではないだろうか。毎晩だいたい決まった時間に帰ってくる生活で、来週も同じようにテレビの前に座れるということが前提になっている。飲みに行ったり、デートがあったり、残業だったりする生活を送っていれば、リアルタイムで見続けることはできない。
 だから、そういう人はビデオに録ってみる? たしかにそのとおり。テレビ番組は録画したくなるようにできている。録画技術が誕生したからわれわれは録画しているというだけではなくて、テレビ番組のあり方がわれわれの生活にあわなくなってきたから、われわれはますます録画するようになっているのではないか。そして、録画すれば、当然のように、CMは飛ばして見てしまう。

●今年のテレビCM損失額は540億円

 デジタル・ビデオ・レコーダーの普及がテレビ視聴にあたえる影響について、この夏までに立て続けに3つの調査結果が発表された。突然の選挙があったりして取り上げるのが少し遅れてしまったが、その主張がそれぞれ食い違っていることもあって、なかなかおもしろい。
 DVRの世帯普及率はさしあたり15パーセントぐらいと推測されているが、普及するにつれ、リアルタイムでテレビを見る人が減り、CMを飛ばして録画を見るようになる、と一般的には考えられる。実際、5月末には、野村総研が、ハードディスク・レコーダーのユーザーの4人に1人近くがテレビCMをすべて飛ばして見ており、過半数が80パーセント以上をスキップし、今年の企業のCM損失額は540億円と見積もった。そして、'09年までにDVRの世帯普及率は44パーセントにまで伸びる、という調査結果を発表し、テレビ業界を震えあがらせた。
 また6月末には、矢野経済研究所が、ハードディスク・レコーダーによるテレビ視聴変化の調査を発表した。9割以上CMをスキップする人は46パーセント、7割以上飛ばす人が24パーセント。リアルタイムでテレビを見る時間は、週あたり平均20分減ったという。

●DVRによってCMはますます見てもらえる?

 この2つの調査によれば、DVRの浸透によって、テレビCMがダメージを受けるのは明らかなように思われる。ところが、電通は、これと一見まったく正反対の調査結果を発表した。電通のレポートのサマリーによれば、DVR導入後の6か月、リアルタイムでテレビを見る時間は導入前に比べて平均12パーセント増加していて、DVR所有者のCM認知度は持っていない人よりも高く、「DVRユーザーこそCMメッセージを浸透させる上で効率的なターゲット・グループと言える」!‥‥と明言している。
 DVRは、テレビ好きな人々がテレビをさらに楽しむための装置であり、「コンテンツ制作力と編成機能に裏打ちされたテレビの媒体価値はユニークなものである」と、テレビ業界が歓喜しそうなことを言っている。
 もちろんこうした結果に安堵するのはテレビ局ばかりではない。テレビCMを制作している電通はじめ広告代理店も同じだろう。調査者に都合のいい結果であることが、この調査報告について、ちょっと待てよ、という気にさせられる。ネットでもそうした意見が飛び交った。
 実際のところ、このレポートには「突っこみどころ」がいろいろある。たしかにDVRを先んじて買おうというのは、もともとテレビに関心が高い人々だろうから、リアルタイムの視聴時間が下がらないということはありうる。しかし、今後さらに普及し、テレビに対する関心がそれほど高くない層にも浸透し始めたときも同じかどうかはわからない。いまのDVRユーザーがCMの効率的なターゲットであったとしても、ずっとそうかは疑問だろう。
 またDVRを導入したのはテレビがとくに見たい時期だった、ということもありうる。たとえば「オリンピックがあるのでDVRを購入した」などという動機の人がたくさんいれば、購入後リアルタイム視聴が増えてもおかしくはない(しかもリアルタイム視聴が増えたというのは英国の80世帯を対象にした調査結果だ。国内については、この電通の報告書でも、DVR所有者は非所有者より5、6パーセントほどリアルタイム視聴が減っている、と言っている)。
 電通の報告書は、「広告は時代の流れを反映している」などの項目についてイエス・ノーを答えさせ、「DVR所有者のCM認知度は、持っていない人よりも高い」と結論づけている。しかし、CMへの影響を調べるのであれば、DVRを購入した人が実際にCMをどれぐらいスキップしているかが重要だ。先のふたつの調査と異なり、電通は、どういうわけかそれについては調べていないようだ。
 ちょっと考えてみると、いささか苦しいレポートだが、DVRがもらたす効果は、これまでのビデオ録画装置の置き換えにはとどまらない、とも言っていて、これは正しい指摘だろう。従来のビデオ録画のようなテープ管理の手間がなくなり、電子番組表を使うことで、録画予約が便利になったと感じているユーザーは現在でも多いはずだ、と書かれている。これまでのビデオ装置でCMが深刻な打撃を受けなかったとしても、DVRでもそうとはかぎらない、というわけだ。
 欧米で広く普及し始めたDVRは、あらかじめ予約したり、DVRの電源を入れて録画ボタンを押す必要もない。ライブで見ている番組を自動的に録画していく仕組みを備えていて、用事があって途中で見れなくなっても、いつでも「追っかけ再生」して続きを見れる仕組みになっている。日本でも高機能のDVRのなかにはそうしたものがあるが、こうした機能が「テレビ視聴にあたえる影響は小さくない」と電通のレポートは指摘している。
 電通のこの調査の分析は、「いまのところ」に重点がおかれている。さしあたりDVRはCMにとって脅威ではないということが言えるとしても、将来もそうかどうかはわからない。じつはこの調査レポートの本文でも、ところどころでそう指摘されている。巨大広告会社が自社の利益と調査の誠実さを測りにかけて、微妙なバランスでまとめたレポートと言えそうだ。

    *

 テレビの広告費は、90年以降2兆円前後を上がり下がりしているだけなのに対し、インターネット広告費の伸びは著しく、電通は、09年までに昨年の3倍になると予想している。多チャンネル時代を迎え、テレビの広告収入が総額では伸びないとなれば、新たな分野に進出しなければならないことは明らかだろう。

関連サイト
●5月31日に発表された、野村総研のハードディスク・レコーダーの利用状況に関するインターネットアンケート調査(http://www.nri.co.jp/news/2005/050531.html)。インターネットにアクセスしている時間が増えたという人が64パーセントいるのに対し、テレビの視聴時間が減ったという人は、増えた人より多く、3人に1人におよんでいる。
●6月29日に発表された、矢野経済研究所の『2005 視聴スタイル動向調査』(http://www.yanoresearch.jp/pdf/press/050629.pdf)。CMをスキップして見るためにあえて録画する頻度が増えたと46パーセントの人が答えている。ハードディスク・レコーダー所有者が、効率的な視聴をする傾向が見てとれる。
●7月19日に発表された、電通メディア・コンテンツ計画局開発部によるレポート『DVR普及がテレビ視聴に与える影響について』(http://www.dentsu.co.jp/marketing/report/dvr2.pdf)。ハイスペックの機能のある装置を持っているユーザーを調査したところ、使いこなしている人は25パーセントにとどまり、さしあたりは大きな影響を生んでいないというが、これからもそうだという保証はないだろう。

 (週刊アスキー「仮想報道」vol.404)

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