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2005.07.30

はてなダイアリーがテロを撲滅する?

何がテロを生み、防ぐにはどのような方法があるのかを考えていくと、
意外な人気サイトの機能がとてもおもしろいものに思えてきた

●テロリストを生まない方法

 懸念されていたイギリスで、同時テロが起こった。アルカイダ系の組織の犯行のようだが、実行犯は往復切符を買って談笑しながら電車に乗っており、自白しないようにだまされて自爆させられたのではないかという推測もされている。ともかくいまやアルカイダというのは、特定の組織の名前というだけではないようだ。自分でアルカイダだと言えばアルカイダなのだという説もあるし、もともとアルカイダとして認定されていなくても、テロをやってその「業績」が認められれば、資金があとから提供されてアルカイダになるのだという話もある。ようするに、いつ誰がアルカイダのテロリストになるのかわからない、ということなのだろう。
 ではどうやって人はテロリストになるのか。
 もちろん決まったルートがあるわけではない。しかし、インターネットという新しいメディアにも、過激な思想を生むメカニズムがあることはおそらく確かだろう。
 たとえば、穏健なイスラム教徒だった青年が、イラクでのアメリカのやり方に腹をたて、イスラム原理主義者が集まるサイトにアクセスし始める。もしそこに掲示板があれば、「人を殺したりするテロには反対だけど、アメリカのやり方はあんまりだ」などと書きこんでみる。こうした「なまっちゃろい」書きこみには、激烈な反応が返ってくる。「そんな中途半端なことを言っているから、英米がどんどん増長するんだ。ブッシュやブレアを怖がらせてやらなければだめだ」とかなんとか。こうしたやりとりを繰り返しているうちに、穏健なイスラム青年はだんだん自分の「中途半端さ」を思い知らされていく。この青年が、素朴な青年であればあるほど、過激な思想を信じ込むということはきわめてありそうだし、実際(こんどのテロはともかくとして)あるにちがいない。
 しかし、こうしたとき、もしこの青年がテロの犠牲者の家族のサイトなどを覗いてみることがあれば、少しは考えが変わるかもしれない。テロリストに理屈があるのと同じく、殺されていった人々にも悲哀がある。青年がそれに気づけば、思いとどまる可能性もある。危険なのは、ほかの考えや立場の人がいることに気がつかず、またそうした情報に接することもなく、過激な思想が頭のなかでどんどん雪だるま式に膨らんでいくことだ。
 これはテロにかぎらない。性的な妄想などでも同じだろう。性的な妄想を現実に実行したときに、その対象にされた人間が何をどう考えどう思うか、そうしたことを顧みなければ、妄想に歯止めがかかることはないかもしれない。インターネットは、過激な思想やニッチな欲望を共有し理解し、それを育む。では、インターネットは危険な道具なのか。
 いやいや「リンク」というのはそうした思想や欲望の雪だるま現象を防ぐ働きもするはずだ、と言っているアメリカの憲法学者がいる。
 どうすればいいのかというと、強制的に、対立する考えのサイトにリンクを張るルールにすればいい、というのだ。もっと効果的な方法は、党派的なサイトを見ていたら、反対の考えのサイトに無理やり飛ばすなり、ページが開くようにすればいい。
 キャス・サンスティーンという憲法学者の『インターネットは民主主義の敵か』は、まじめで堅い本なんだけど、こうした指摘をしていて、これには思わず笑ってしまった。冗談でも何でもなく、まじめにこうした唖然とするようなことを書くとは、なかなかスゴイ学者だ。
 サンスティーンのこの本は、'01年にアメリカで出版されると、大反響を引き起こしたそうだけれど、それも当然かもしれない。もちろん、これを現実にやれば、そうとうの反発があるだろう。でもまあ、イスラム過激派のサイトを見ていたら、突然、嘆き悲しむテロの犠牲者のサイトが立ち上がる、などという仕組みになっていたら、かなり強烈だ。あるいは、アダルト・サイトを覗いていたら、教育基本法を議論している自民党のサイト(などというのがあるのかどうか知らないけれど)に飛ぶなどというのもおもしろいかもしれない。
 過激派やアダルト・サイトが、自発的にこうした仕組みを作ることは考えにくい。だから、ほかの人間が仕掛けをつくる、つまり一種のハッキングが必要だろう。でも技術的には、「頭を冷やす」ためのサイトを、ポップアップ広告が立ち上がるのと同じように立ち上がらせることは可能ではないか。

●ウェブ・サイトをすべて「はてなダイアリー化」したら?

 もっとも、サンスティーンは、こうしたアイデアを披露したくて本を書いたわけではない。
 この憲法学者は、インターネットが社会の分極化をもたらし、それが民主主義にとって危険なことになりかねない、と主張している。つまり、インターネットによって、思想や妄想が頭のなかで雪だるま現象を起こしやすいことを憂いているわけだ。
 こうした雪だるま現象は過激派やアダルト・サイトなどにかぎらず、ネットではたしかにますます起こりやすくなっていくだろう。たとえば最近では、ニュース・サイトなども、その人の興味や関心に沿って表示されるように設定することが可能になってきている。あらかじめ表示する記事のジャンルを指定できるし、アクセスして関心のある記事をクリックしていくと、その人にあった記事が優先的に表示されるようになる、といったこともできる。
 こうしたカスタマイズやフィルタリングの機能はどんどん洗練されていくにちがいない。履歴やプロフィールによってシステムの側が判断した利用者の好みや関心に沿って、ページがつねに現われるということになったら、われわれは広大なウェブの世界をサーフィンしているつもりでいながら、じつはどこまでいっても個人化された心地よい自分だけのウェブの世界に浸っている、ということになる。
 これはとても気持ちいいことかもしれないけれど、人間はかなり行き当たりばったりに情報にぶつかって、驚いたり感情が揺り動かされたりすることで、考えが変わっていく。どこまでいっても「自分の世界」──というよりも、システムが判断した「自分の世界」になり、フィルタリングやカスタマイズによって「自分」をますます肥大化させていった社会はどんなものになるだろうか。
 妄想や過激な思想で頭のなかがいっぱいになった人々で世の中があふれかえるんじゃないか、というのが、サンスティーンの心配していることだろう。そうならないために、むりやりほかの考えに触れさせるような仕掛けが必要なんじゃないか、と彼は提案しているわけだ。
 この学者の言いたいことはとてもよくわかる。だけど、強制的に対立する考えのサイトが立ち上がるようにするなどということは、反発が強くて実際上とても無理にちがいない。強制リンクにしたってできないだろうなあ‥‥などと考えていたら、ふと気がついた。そういうサイトって、もうあるじゃないか。それも人気サイトが。
「はてなダイアリー」というウェブ日記サイトでは、書きこみをした文章にかたっぱしから自動リンクが張られていく。キーワードとして登録されている言葉が自動リンクになる仕組みだ。
 正直なところ、書いた文章が、アンダーラインの付いたリンクでいっぱいになるのは、いかにもうるさい感じで、私はこれまでどうも好きになれなかった。だけど、いろいろな考えにランダムに出会うための仕組みとしてはたしかにいいのかもしれない。サンスティーンも、こうしたサイトがあると知ったなら、「はてなダイアリーがテロを撲滅する!」などと感激し、「ウェブ・サイトはみんなはてなダイアリーにしてしまおう」と提案するかもしれない。

   *

この春に中国で反日運動が起きたとき、反日運動のサイトで病気の子どものための募金運動をやっていたので、「日本から大量の募金を送るのが、効果的な反・反日運動なのでは?」と書いたことがあるけれど、今回書いたように、ネットが、カウンターとなるような使い方をすることができるツールであることは確かだろう。

関連サイト
●一般の人が撮った写真を簡単に公開できる『フリッカー(flickr)』のサイトのロンドン同時テロのページ(http://www.flickr.com/groups/bomb/pool/show/)。こうしたサイトをテロリスト予備軍が見れば、少しは考えが変わるかもしれない。問題は、彼らがこうしたサイトをまず見ないことだ。
●さまざまな考えにランダムに出会う仕組みができている人気ウェブ日記サイト『はてなダイアリー』(http://d.hatena.ne.jp/)。有料サービスなら自動リンクにならないようにもできるが、そうでなければ自動リンクを(その数を減らせはするものの)すべてはずすことはできない。
●マイクロソフトのニュース・サイト「ニュースボット」(http://newsbot.msnbc.msn.com/)。クリックして記事を読むと、その履歴が利用される。まだベータ版(実験段階)だ。

(『週刊アスキー』「仮想報道」Vol.396)

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