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2005.07.01

仙人の世界が実現する?──宇宙エレベーター

するするとヒモを伝わって空の彼方へ消えていく。
そんな魔法を現実のものにしようとしている。
NASAがその第一歩を踏み出した。

●夢物語か正夢か?

 宇宙エレベーターといったアイデアは以前からあった。地上から宇宙空間までケーブルを張りわたし、それを伝って荷物を昇り降りさせるというものだ。おもしろいアイデアだけど、そんな話はSFか、もし可能だとしても、ずっと先のことだろうと思っていた。
 しかし驚くことに、宇宙エレベーターは、NASAが支援する具体的なプロジェクトのひとつとして立ち上がってしまった。
 前回書いたように、NASAは、スペースシャトル・コロンビアの事故のショックのあと、財政難のなか、どうしたら持続可能な宇宙探査ができるかと計画の見直しや組織の再編をやっている。宇宙計画を一政府の力だけで進めることはもはや無理と悟り、国際協力を押し進めるとともに、民間の力を活かそうとしている。そのひとつとして、賞を設定して参加者を募り競わせることを始めた。
 こうしたやり方は、第一には、民間で行なわれたロケットの賞に影響をうけたわけだが、政府関係の機関でも先例はあった。
 国防総省の高等研究計画局(DARPA)は昨年来、「グランド・チャレンジ」と名づけて、自律走行型のクルマのレースを始めている。昨年は、GPSなどを積んで砂漠地帯などを2百キロ以上10時間以内で走り、最初にゴールしたチームが百万ドルをもらえることになっていた。レース3時間前にコースを教えられるという厳しさもあってたちまちリタイア続出で、一台もゴールできないという無惨な結果だった。しかし、将来、戦場の相当数のクルマを無人ロボットカーに置き換えるというのが軍の方針で、DARPAもこのレースを諦める気は毛頭ないようだ。今年も賞金を倍にして続けられている。
 NASAもまたこうした動きに触発されて、「センテニアル・チャレンジ(百年の挑戦)」と名づけたプロジェクトを開始した。その第1弾がこの宇宙エレベーターだ。
 なんとも夢物語みたいことを始めたものだと思ったけれど、その詳細を知ると、なるほどそう無理な話ではないのかもしれない。五年以内に宇宙エレベーターの基礎となる技術を実証できると固く信じている、とNASAもホームページに書いている。2010年までに宇宙エレベーターができることを証明することが目標だという。

●技術のめどはついている? 

 静止軌道と呼ばれる軌道に人工衛星を乗せれば、地球とともに回転するので、地球からは静止して見える。だから「静止軌道」といわれているわけだが、その軌道上の人工衛星から地表へケーブルをたらせば、ケーブルがずるずる動いていくことはない。地表近くでは、このケーブルは重力によって地球に引っ張られる。しかし、地球から離れれば、こんどは遠心力が働く。天地両方で引っ張られるから、つねにぴんと張っているはずで、エレベーターのケーブルとしては具合がいい。さらに人工衛星のその先の宇宙空間までも、遠心力によってケーブルを張れるはず、という理屈だ。こうして静止軌道どころかその先、月面でも火星でもお望みのところに時速200キロぐらいのスピードで昇って行けます‥‥まさに「ジャックと豆の木」の物語そのままの世界が出現することになる。豆の木だけでなく、ヘビでも棒でもヒモでも、するすると伝って天に昇って行くという話は古今東西あるが、まさかそうしたことがまともな科学技術として考えられるようになるとは思わなかった。
 ただし、この宇宙エレベーターのコンセプトには大きな問題があると見られていた。ケーブルを長くすると、その重みで切れてしまうのだ。その点がネックになって、宇宙エレベーターは無理だと考えられていた。ところが90年代になって、この難題を解決するブレークスルーが日本で起こった。カーボンナノチューブの発見だ。カーボンナノチューブは100万分の1ミリの大きさの炭素物質で、強度がありながら軽い。これを使えば、宇宙エレベーターのケーブルができるのではないか。現状では、カーボンナノチューブはまだ長さや太さを自由にできるところまではいっていないが、この技術は、半導体をはじめとする電子部品やバイオ、燃料電池など多方面で大きな進歩を引き起こすとみられていて、世界中の企画や研究所が熱心にとりくんでいる。ケーブル状にすることもいずれできるだろう。宇宙エレベーターは一挙に現実味を帯びてきた。というわけで、「エレベーター2010」と名づけられたNASAのこのプロジェクトの賞のひとつはケーブルが対象だ。軽くて強いケーブルを作ったチームに賞があたえられる。
 宇宙エレベーター建設のもっとも困難な仕事は、10万キロの長さのケーブルが作れるほど軽くて丈夫な材質のものを開発することだと、この賞のページにも書かれているが、これは簡単なことではない。いま商用化されている最高のケーブルの25倍の品質のものが必要で、木材が金属に変わるほどの進歩がなければならないという。
 今年は、2・25メートルのループ状の縄を開発することが求められている。重さ2グラム以下、幅は20センチ以下で強度が試される。毎年、前年の50パーセント増しの条件にしていって、8年で宇宙エレベーターが作れるぐらいの強度と軽さのケーブルを見つけるそうだ。

●9月に宇宙エレベーター・コンペを開催

 それだけではまだだめだ。ケーブルは張れたとしても、重い荷物を安全に運べる昇降機も必要だ。このプロジェクトのもうひとつの賞はこの昇降機が対象で、九月の終わりにサンフランシスコで、参加者が作った昇降機を実際に昇らせて、その技術を競うことになっている。今年の条件は、平均毎秒1メートル以上のスピードで50キロの重さのものを上昇させ、終点の1メートル内に停止し、平均毎秒0・5メートル以上のスピードで、降りてくるというルールになっている。カーボンナノチューブのケーブルはまだないから、主催者側がクレーンで金属のケーブルを吊るし、参加チームが持ちこんだ昇降機を動かす。順調にいけば、2020年までに最初のエレベーターを完成させることができる、という。
 昇降機の動力源はケーブルに電気を通すのかと思ったが、そうではなかった。光を照射して、それを電力源として使うのだという。9月のコンペでは、上のイラストのように強力なサーチライトが準備されるらしい。サーチライトの光を光電池でうけて電気に変える。昇降機は軽くするとともに、こうした仕組みを備えることが条件だ。
 ハードルは高いが、賞金はじつはかなり安い。日本円にして1等500万円、2等200万円、3等100万円。来年の賞金は少なくとも倍にするというが、10億円単位の賞金が出る民間のロケット開発レースとはえらい違いだ。もちろんロケット製作ほどの費用はかからないが、たとえ受賞はできても、持ち出しは避けられないだろう。
 こうした賞によって宇宙開発がほんとうに促進されるのか、懸念の声もじつは議会などであがっている。企業が受注して仕事にかかるこれまでのNASAの仕事とは違い、勝者がすべてをとるこうしたレースでは、企業のリスクは大きい。エントリの意向を示しているのはすでに20チームあると主催者は言っているが、投資家というより、パトロン的な人々しか集まらないのではないかと危惧されている。
 NASAのこの賞金プロジェクト「百年の挑戦」は、宇宙エレベーターに続いて、5月19日には、月に似た土壌から酸素をとりだすことができた最初のチームに25万ドルをあたえると発表した。ほんとうのところ宇宙エレベーターもこの酸素プロジェクトも、「百年の挑戦」のなかでは格下のクラスの賞にすぎない。だから賞金も安い。このプロジェクトを代表する格上のクラスがこの上に二つ設定されている。これについてはまだ発表されていないが、格下の賞でも、これだけびっくりさせられるのだから、よりビッグな賞はかなりのものかもしれない。賞金レースをしようとすれば、人目を引くものにしなければならないだろうから、野次馬としては楽しみだ。もっとも、議会が予算を承認しなければ、立ち消えになる可能性もあるわけだが。

関連サイト
宇宙エレベーターのコンペのサイト。博物館で宇宙エレベーターのコンセプトを見せることなども計画されていて、宣伝や教育効果もねらっている。「月、火星、その彼方」を宇宙探査の目標として掲げるブッシュ政権は、地球軌道の宇宙計画を捨てた、と先々週号で取り上げた、軌道上に宇宙ホテルを作ろうとしているアメリカの億万長者ビゲロウは、怒っていた。軌道を対象にした仕事をしていた人々は、今回とりあげた賞のような形で民間の力を活用するしかないのだろう。
●宇宙エレベーターの研究は、もともと科学研究機構というところがやっていた。これまでにもシンポジウムを開いたりしていたようだ。
●驚くことに、アメリカには宇宙エレベーター会社がもうできている。リフトポート・グループは、宇宙エレベーターの開発をする会社を中心に、金融会社やメディア会社、ロボット技術の会社など5つの宇宙エレベーター関連会社から成っている。いまからこんな会社がやっていけるのかと思うが、四月末には、カーボンナノチューブの工場を作る計画を発表している。
NASAの「センテニアル・チャレンジ(百年の挑戦)」のサイト
宇宙賞のサイト

(週刊アスキー「仮想報道」vol.394)

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コメント

はじめまして。

こうした巨大建造物は、環境にあたえる
影響も心配ですね。テロの心配もあります。

参考
http://lv1uni.cool.ne.jp/tuki/tukikara15.html

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