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2005.07.22

若貴騒動のメディアの不可解な態度

若貴騒動は、「お兄ちゃん」の相続放棄で一件落着するのだろうか。
それにしても、この間のメディアの態度はそうとうに妙だった

●貴乃花にたいして腰の引けているメディア

 花田家のお家騒動について、「相撲に関心のない奴があれこれ言うな」とテレビで怒鳴っていたコメンテーターがいた。あるいは、「相撲の世界は特別の世界なのだから、世の中の常識であれこれ言うべきではない」という人もいた。それはそうかもしれないが、貴乃花が自分からテレビに出てきて訴えている相手は一般の人々なのだから、世間の常識であれこれ言われても仕方がないだろう。
 こうしたコメンテーターの言動も含めて、この騒動をあつかっているメディアの様子はまったく不可思議だった。ひと言で言って、(非難のほこ先が分かれた雑誌は別として)メディアの多くは、貴乃花に対してあきらかに腰が引けている。さすがに若乃花が相続放棄を発表して以後は、少し風向きが変わってきたが、テレビ局はまだ中立の姿勢を崩してはいないようだ。両方の側に立ったコメントを流してバランスを取ろうとしている。
 ふつうの感覚で言えば、貴乃花の言動はどうにも怪しげに見える。これまでは寡黙だったのに突然テレビに出てきて、遺産をめぐる争いをべらべらぶちまけ、兄の非を一方的に語るという行動はどうみてもアブノーマルだ。
 ライブドアとフジサンケイグループの争いで、テレビの公共性がどうのという議論がされたけど、貴乃花のやり口は、個人的ないさかいのために公共の電波を使うということでしかない。相撲は公共の関心だろうが、遺産相続をめぐる争いについて一方的な主張を流すのは公共の電波のやることなのか、と「常識的」には思う。コメンテーターが言うべきことは、「相撲に関心のない奴があれこれ言うな」などといったことではなくて、「そんな家庭内の争いは、テレビカメラを使ってやるなよ。うちのなかでやれ」ということだろう。
 さすがに一方的な貴乃花の話だけを流してはまずいと思ったのか、テレビ局のなかには、「勝さんの話を聞きたいですねえ」と下手に出た言い方をしたり、「勝氏も黙っていないで、テレビの前で話すべきだ」と居丈高に言ったりといろいろなやり方で、貴乃花の話を一方的に流すのは本意でないというポーズをとってバランスをとろうとしていた。
 だけどまあ、「お兄ちゃん」がして見せたように、「家庭内のみっともない話はテレビの前などでしたくない」というのがまともな行動というものだろう。それなのに、「若貴はどっちもどっち」というキャスターやコメンテーターが多いことにはびっくりさせられた。世間的に見れば、どうみても若乃花のほうがまとも、貴乃花は非常識、ということになるはずだ。実際、言いたい放題の貴乃花を生出演させていたテレビ局には、「なぜずっと放送するのか」と苦情が寄せられたそうだが、当然だろう。
 そもそも貴乃花はいったいなんでこうやってテレビに出てきたのか、とほとんどの人はまず思ったのではないか。大横綱が、いかにも裏ありげに、大っぴらに言うようなことではない話をべらべらテレビでしゃべるというのは、ほんとうに不思議な光景だ。貴乃花は、それで視聴者の共感を得られると思ったのだろうか。もしそう思って出てきたのだとしたら、勘違いも甚だしい。結果的には、(控えめに言っても)常識はずれの人間であることを広く知らせてしまった。こういう人物が将来、相撲協会の中心人物になってほんとうに大丈夫なのだろうかと(いまさらながらに)思った人は、相撲関係者にもかなりいたにちがいない。局アナだった恵子夫人がまず、「やめたほうがいい」と思わなかったはずはないと(常識的には)思うが、忠告しても聞くようなダンナじゃなかったのだろうか。
 若貴のあいだで妙にバランスを取ろうとしていたのは、テレビ局ばかりではない。
 たとえば毎日新聞のサイトに載っている6月14日のコラムは、若乃花は、鼻が丸いから純朴そうでトクをしており、とがった鼻の貴乃花は無表情で、だから「『冷たいやつ。若貴のけんかも弟に原因がある』と思った人もいる」などと書いている。鼻の格好の問題じゃないだろうに、何とも見当はずれの感じがするコラムだった。
 毎日新聞のために言っておけば、もちろんこんな記事ばかりではない。「気になる貴乃花親方の過剰露出」などという記事もあった。けれども、メディアが全体に妙に腰が引けていたことは確かだ。

●メディアも黙る大横綱?

 メディアが不自然な態度を取るこういうとき、考えられることはいくつかある。
 貴乃花はたしかに「平成の大横綱」と言われたほどのずば抜けた相撲取りだった。怪我をおして出場して優勝し、小泉首相が「感動した!」と叫びながら優勝杯を渡したことなどはまだ記憶に新しい。そのうえ、今回は番組に登場して赤裸々に語り、視聴率に貢献してくれた。だからテレビ局が貴乃花に遠慮している、ということは考えられなくはない。どんな大物であってもそれだけで臆するようなメディアではなさそうだが、なるほど相撲の(もと)超人気力士というのは、ちょっと理不尽だなと思われることについてもテレビや新聞を黙らせてしまうほどの力があるということなのだろうか。
 もちろん、この「(もと)超人気力士への遠慮」ということには、相撲協会の将来の最高幹部になると目されている人物への配慮ということも含まれている。相撲人気はすっかり低迷しているとはいえ、相撲協会は国技の映像を握っている。テレビにとっては、軽んじることができない存在だ。できるだけ睨まれたくないということはあるだろう。とくに、貴乃花が暴走しても、相撲協会はその行動を抑えられないようだから、いよいよそうしたことはありそうだ。
 もうひとつ考えられるのは、報道できないような若乃花の秘密をメディアが知っていて、あえて若乃花の味方をしないようにしている、ということだ。こうしたことはときどきある。誘拐事件などでメディア協定が結ばれているときや、犯人が精神障害や未成年者で特定するとまずいときなどには、メディアは、奥歯に物が挟まったような妙な報道をしがちだ。
 二子山親方が死ぬ前に残したビデオ映像か音声テープがあって、それは貴乃花に不利な材料だとウワサされていた。とくに映像テープは、あるテレビ局が番組に使うつもりで撮影したもので、報道目的とは離れて若乃花側の思惑のために利用されないように、局の幹部の判断で表沙汰にしないことにした、などと書いている週刊誌もあった。「若乃花側の謀略に乗せられた」とあとで言われて、相撲協会や将来の大幹部の貴乃花に睨まれないようにメディアが用心した、ということもありそうだった。しかし、若乃花が相続放棄をしてしまったところを見ると、そんな謀略があったようには思えない。
 若乃花は、どうせ相続放棄するのなら、もっと早くに言えばよかったのに、そうすればこんなに揉めなかっただろうに、という人もいる。貴乃花自身も、若乃花が自分に直接言わず、メディアを通して今ごろ発表するのは「不可解」と言っている。
 しかし、それは不可解でも何でもないだろう。これまでさんざんうんざりさせられてきたこの弟に、兄貴はもうすっかりアイソをつかしていて、相続放棄のことを早くに直接言う機会もとくになかったし、わざわざ知らせてやる親切気もなくなっていた、というだけのことではないか。勝手に言わせるだけ言わせておいてから相続放棄を発表し、弟が恥をかけばいい気味、と思ったとしても不思議はない。自分がテレビであれだけ言いたい放題に言われる立場だったらどんな気になるかを思い浮かべてみれば、誰でも容易に想像がつくことだ。
 それなのに、かなり多くのメディアが、貴乃花の反応と同じく、若乃花のこうした行動を不思議がっている。そっちのほうがよっぽど不可解だ。「相撲界の常識」にしたがえば相撲界を勝手に辞めた若乃花には相続の権利はないのだとしても、せめてそれぐらいの腹いせをする権利は、いかにもひとの良さそうな「お兄ちゃん」だってあるだろう。

     *

 貴乃花の突然のテレビ出演の原因を探るには、力士としてはずば抜けた能力があったものの、人間的にはどこか歪んでしまった大横綱の心のなかを覗いてみるしかなさそうだ。

関連サイト
●相撲協会とgooの共同プロジェクト・サイト(http://sumo.goo.ne.jp/)。本場所が始まって、幕内の取り組みがリアルタイムでネット配信されている。昨年の取り組みも見れる。
●貴乃花部屋(http://www.takanohana.net/)。大相撲改革に熱心な貴乃花はサポーター制を始めていて、年会費10万円のスペシャル・サポーターからレディース、子ども会員まで、さまざまな資格のサポーターの申し込みが、ネットでできるようになっている。
●サンケイスポーツのコラムは、珍しく、当初から貴乃花に厳しい文章を書いていた(http://www.sanspo.com/top/am200506/am0606.html)。執筆者の今村忠編集委員は相撲担当が長いそうで、こんなことでは亡き二子山親方が泣いている、という思いが、貴乃花に厳しい言葉を書かせたかのもしれない。
●毎日新聞の記事「キレの良いのが珠にキズ:鼻立ちばなし・若貴編」(http://cc.msnscache.com/cache.aspx?q=2062826750530&lang=ja-JP&FORM=CVRE2)と「気になる貴乃花親方の過剰露出」(http://cc.msnscache.com/cache.aspx?q=2059923703686&lang=ja-JP&FORM=CVRE)。

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