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2005.07.08

失敗は防げる!?──失敗知識データベース

失敗をデータベース化してその体験を活かし、
失敗を防ごうという試みがはじまっている。鉄道や
飛行機のトラブル続きで、必要性は高まる一方だ‥‥

●脱線事故は珍しくない

 電車や飛行機の事故やミスが続いている。過密ダイヤにあわせるために、猛スピードで飛ばしてマンションに突っこんだ尼崎の事件のほかにも、3月の土佐くろしお鉄道の列車脱線事故では11名の死傷者が出るなど、今年になってから、電車に乗るのが不安になるようなことが起こっている。東京駅から1時間ぐらいのところに住んでいるので、どこに行くにもけっこう長い時間、電車に乗るけれど、「人身事故のため電車が遅れ、ご迷惑をおかけします」というアナウンスを聞くはめになることがじつに多い。いや、多いというより、むしろ聞かずに家に帰ることのほうが少ないといったほうがいいかもしれない。もちろん、飛びこみ自殺もあり、鉄道会社の責任ばかりではない。でも、つねに「人身事故」と放送されるから、ほんとうの原因はわからない。ヤフーの鉄道事故のページを見ると、「脱線事故受け西鉄に厳重注意 九州運輸局」とか「青梅線でブレーキ故障 7万8000人に影響」「列車トラブル 高架橋に車衝突」などいろいろなトラブルが並んでいる。大きなニュースにならなくても、事故やミスはかなりある。航空・鉄道事故調査委員会のホームページに載っている調査報告書を見ると、そんなことがあったのかという事故がずらっと並んでいる。驚くことに、今年になってからだけでも、この調査委員会が調査している列車脱線事故は4月までに14もある。ひと月に3回以上、脱線事故が起こっていることになる。脱線事故というのは、恐ろしいことに、そう珍しいことではないらしい。
 ヤフーの「航空機事故」のトピックスにも、事故やトラブルがずらっと並んでいる。大事故こそないが、6月21日には、日航機のエンジンが爆音を発して不調になり、緊急着陸した。その4日前には、大阪発高知行きの全日空機で煙が充満し、このことをきっかけに、この便のフライトは就航以来1年半で5回も事故やトラブルがあったことがわかった。またこの2日前には、新千歳発羽田行きの日航便で着陸時に前輪タイヤが2本ともパンクしてはずれた。さらにこの日、6月5日に全日空機が管制官の指示と1600メートルも違ったところを40分も飛んでいたことがわかった、という記事がトップニュースになっていた。まったくトラブル続きで、事故調査委員会はさぞ大忙しのことだろう。

●失敗まんだら

 こうした数々の「失敗」をデータベース化して、防ごうという試みが始まっている。成功した話は誰でもしたがるが、失敗した話は隠したい。でも、それでは失敗は防げない。科学技術振興機構が作ってネットでアクセスできるようにしたこのデータベースは、いろいろな意味でおもしろい。ただし、一見してすぐわかるシロモノかというと、かならずしもそうは言いがたい。
 キーワードで検索でき、カテゴリー別や年代順に事例を並べられ、こうやって探すことは、もちろん誰でもできる。機械、材料、化学・プラント、建設の4分野について、それぞれ専門家が担当して1100以上の事例が集められている。こうしたカテゴリーだと、なんだかふつうの人には縁遠いようだが、たとえば「機械」の分野には、みずほフィナンシャルグループのシステム統合が間に合わなくてATMのトラブルが続出した話などが入っているし、一昨年のH―2Aロケット打ち上げ失敗など航空・宇宙分野や、容器が腐食して炭酸ガスが噴出して飛び、店の壁が壊れたなどといった「材料」の事故もある。
 日本の話ばかりではない。韓国の地下鉄大火災や、スコットランドでのコンピューターエラーによる大学入試でのミスなど、海外の事例も含まれている。それぞれについて日付や場所はもちろん、原因、対策、死者数、負傷者数、物的被害、経済損失などが記述されている。
 そこまでは誰でも見ればわかる。だんだん難解になってくるのは、「シナリオ」と書かれたリンクをクリックして現われる記述である。
 たとえば、「炭酸ガス容器の内部腐食によるガス噴出・飛翔」の「シナリオ」はこんなふうだ。

01. 不注意
  02. 注意・用心不足
  03. 作業者不注意
   04. 使用
     05. 運転・使用
        06. 機器・物質の使用
          07. 炭酸ガス容器
            08. 残圧
              09. 水分浸入
                10. 使用

 途中をちょっと飛ばすと、

                  14. 破損
                    15. 減肉
                      16. 腐食・酸化
                        17. 破損
                      18. 大規模破損
                           19. 破裂

 原因から結果までのプロセスを、抽象化したキーワードで記述しているわけだ。いったい何のためにこんなことが必要なのか? 
 さらに、キツネにつままれたような気分がしてくるのは、「失敗まんだら」という図だ。「原因まんだら」「行動まんだら」「結果まんだら」という3種類の図ができていて、抽象化されたキーワードが、「まんだら」らしく円形にずらっと並んでいる。それぞれのまんだらから言葉を選んで検索すると、それに合致した事例が検索される‥‥ということらしい。
 ただ、このまんだら、たとえば、原因まんだらの「誤判断」というキーワードは、「状況に対する判断」「誤認知」「誤った理解」「狭い視野」とさらに4つに分かれている。まんだらの外側に行くほど細かい分類項目になっていくわけだ。原因まんだらの外側は27項目ある。行動まんだらは24項目、結果まんだらは33項目。つまり外側からそれぞれひとつずつ選んで検索すると、27×24×33、えーと電卓ではじくと21384。これだけの数の事例が必要だ。ひとつの事例にいくつものキーワードがついてはいるが、1000例ぐらいでは、なかなかヒットしないんじゃないか。実際にやってみると、やっぱり‥‥。こういうのを見ると、ついあら探しをしたくなる性分で、申し訳ないけど、コンセプトを活かすには、もっと事例が必要のようだ。

●「使えるデータベース」を求めて

「このデータベースについて」というところをクリックしてみたら、責任者の大学教授による説明ビデオがあった。これはわかりやすい。それによると、失敗データベースは「失敗を防ぐためだけではなく、失敗そのものの性質を正しく知って、失敗という貴重な体験を活かすにはどうしたらいいかを考えたもの」で、「従来のデータベースはなぜ使われないのかということから考えはじめた」という。従来のデータベースは「一件落着と責任追及のためにはきちんとした構造になっているが、そのデータベースを使いたい人が知りたいと思う構造にはなっていない。使いたいと思う人が理解できる構造にしたということが最大の特徴」なのだそうだ。「ほしい人がいてほしいときにほしい中身がほしい形で表現されている。そうなっているものだけが検索することも使うこともできる。検索を使う人の脳のなかの考え方の動きに沿ったものになっていなければならない」と考えた。そして、原因と結果だけではなく、原因と行動と結果の3つで記述し、それぞれのキーワードをツリー状に分類したものを円形に並べ直してまんだら状にしたそうだ。
 なるほど。こう説明されてみると、少しわかった気がしてきた。でも、起こったことを要素分解し、構造化すると解明できるというのは、うーん、いかにも理系の人が考えそうなことだ。生粋の文系育ちの私にはけっして思いつかない発想で、これでほんとに失敗が防げるのかな、という思いは多分にする。ただ、いろいろなことを考える人がいるものだ、ということがわかったことだけでも、少しトクした気にはなった。

関連サイト
●航空鉄道事故調査委員会のサイト(http://www.mlit.go.jp/araic/)。事故の報告書などを見ることができる。この委員会が調査した鉄道事故は02年から04年までは、20件から23件だったが、今年は半年ですでに15件もある。
●失敗知識データベース(http://shippai.jst.go.jp/fkd/Search)。利用の多かったランキングやキーワード、カテゴリなどのリストもできている。失敗知識データベースというのはアイデアとしてはおもしろいと思うけれど、実際のところ、これを見てあらかじめ失敗を防いだということがあるのだろうか。むしろ失敗した人が、似た事例はないかと探すことのほうがありそうだ。私のようにおもしろ半分に見たのではなくて、ほんとうに役に立った例があれば、それを知りたい気がする。

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