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2005.06.10

日本にもあった宇宙客船計画

海外では民間の宇宙旅行ロケットの開発が活発化し
いよいよ宇宙旅行産業が生まれようとしているが、
日本でも90年代からこうした研究が続けられている

●宇宙旅行に行けるなら、100万円払ってもいい?

 宇宙旅行に行くためにいくらだったら払ってもいいと思いますか。「マイボイスコム」という会社がやった昨年末のネット調査では、宇宙旅行に行きたい人と行きたくない人は半々だが、行きたい人のうち100万円以上出してもいいと答えた人は33パーセント、つまり3人に1人もいたそうだ。500万円以上となるとさすがに5パーセントに減るが、宇宙旅行に行けるのなら、かなりの額のお金を出してもいいと考えている人がそうとういることになる。
 どれぐらいの期間行きたいかという質問には、数日間と答えた人が44パーセント、1週間程度が31パーセント。もっとも短い選択肢はどうやら1日程度というものだったらしいが、そう答えた人は9パーセントしかいない。宇宙で行きたいところも宇宙ホテルとか宇宙ステーション、月と答えた人が多く、宇宙空間まで行ってすぐに返ってくると答えた人は7パーセントにすぎない。
 前回書いたように、いま1000万円から2000万円の価格で参加者の募集がはじまっているのはまさにこの最後のパターン、宇宙空間に行ってすぐ戻ってくる弾道飛行と呼ばれるもの。'08年の開始予定でいま募集しているヴァージン・ギャラクティックの宇宙ツアーでは、飛び立つ前にホテルに泊まって雰囲気を盛り上げたりといったことはするものの、フライト全部で2時間半から3時間、宇宙空間にいるのは25分、無重力状態はわずか4、5分とのことだった。もっとも、あまり長く無重力状態でいると宇宙酔いになる心配が出てくるから、「誰でも行ける宇宙旅行」ということだと、これぐらいの時間のほうがじつは無難なのかもしれない。料金のほうも、宇宙ステーション滞在となるとさらに高くて、これまでに行った2人の民間人は日本円にして20数億円も払っている。

●ロケットのお値段

 弾道飛行で行く準軌道は高度100キロ、地球を周回してかなりの時間を宇宙で過ごすことができる軌道までだとその数倍。高度が高くなるにつれて必要とされるロケットの能力も飛躍的に高くなる。準軌道までなら秒速約1キロの加速ですむが、軌道まで行くにはその8倍の秒速8キロまで加速しなければならない。再突入のさいの負荷も大きくなり、開発費もケタ違いに増える。
 弾道飛行のためのロケットなら、いまやアメリカの民間の会社が20数億円で作り始めたが、軌道まで飛ばすということになると、たとえば90年代半ばに日本ロケット協会がやった見積もりでは開発費は1兆円を超えていた。宇宙ステーション滞在費用の20数億円はとてつもない額に思えるが、ロシアの古い宇宙船を使ったからこれでも安いといわれている。新たに宇宙船を作って民間人を連れていくということになったら、とてもこれではすまない。
 日本ロケット協会は、軌道まで打ち上げる宇宙船を作って観光ツアーをするための研究を92年ぐらいからやっていた。95年には、再使用できる単段の軌道宇宙旅行ロケット「観光丸」を提案している。「観光丸」という名前は幕末に作られた日本最初の蒸気船の名前にちなんでつけられたものだそうだが、宇宙時代の観光丸はドングリ型で、最大部分の直径は18メートル、高さは22メートル。垂直に離陸し、高度200キロメートルの真円の軌道をまわる。直径3000キロメートルの範囲の地表を見ることができ、軌道上では窓から地上が眺めやすいように機体上部を地球へ向けて飛ぶ。客席も外が見えるように円形に窓に向けて並べられ、定員は50人。2階建てになっていて1階が客室、2階は操縦室と宇宙ホテルへの出入り口がある。宇宙服を着て機外活動もできる。フライトは、地球の軌道1周90分を2回まわって着陸する。関西国際空港のような海上空港に隣接して宇宙港を作り、旅客が簡単に乗り換えられるようにするなどと、かなり細かく検討されていた。
 「宇宙丸」というサイトに「観光丸」の開発のための費用の詳細が載っている。試験機を4機作るとして、95年の時点でその開発費を1兆3千億円と算出している。この試験機で3年間に延べ1200回の飛行をして安全性を確認し、開発開始後7年目から量産体制に入り、6年で計52機を製造する。量産機は平均500億円で作り、試験機とあわせて一機あたりのコストを710億円と見積もっている。
 航空機同様、宇宙船が地上にいる時間をいかに減らし、運行回数を増やすかが採算を合わせるためには重要ということで、着陸してから、点検、整備、燃料補給、旅客・乗員の入れ替えなどをすませて3時間でふたたび離陸する。耐用年数10年で、一機あたり年に300便のフライト。各便に平均45人乗るとして、年間70万人の乗客が乗るという皮算用だった。
 この計画を作るにあたっては市場調査もやられている。日帰りを希望した人はやはり少なく、2、3日から1週間程度、宇宙にとどまって地球を見たいと答えた人が多かった。
 また、チケット料金をいくらにすればどれぐらいの需要がありそうかも探っている。それによると、チケット料金200万円なら年間70万人の需要が見こめ、100万円に下げれば140万人、30万円なら200万人が宇宙旅行をするとはじきだした。この見積もりからいけば、チケット料金を100万円から200万円のあいだに設定すれば売り上げが最大になり、1兆円を超える新産業が生まれる計算だった。
 100万円から200万円というのは安い額ではないし、この設定価格と想定乗客数には関連業界の希望も入っているのだろうと思っていたが、冒頭に書いたマイボイス・コムのアンケートでも似通った結果だったといことだから、信じないわけにはいかない。アンケートにはそう答えても実際に払うとなればまた別問題だろうが、少なくとも宇宙旅行にたいする期待が大きいということは言える。

●議論の分かれた宇宙旅行計画

 この計画を作った日本ロケット協会は、56年に作られた組織である。世界初のソ連の人工衛星スプートニクが飛んだのは翌年のことだから、日本のロケット産業は宇宙時代の本格幕開け以前にその準備を始めていたわけだ。準備は早かったけれども、軍拡競争に血道をあげた国のロケット産業に太刀打ちすることはやはりむずかしかったようだ。
 それでも92年には、宇宙科学研究所の長友信人教授が旅客を乗せたロケットを作り宇宙旅行産業を立ち上げることを提言し、宇宙旅行についての研究が始まった。そして、95年にまとめられた報告書で、「観光丸」のアイデアが発表されたというわけだ。
 報告書の発表後も、日本ロケット協会はさまざまな研究会を組織して研究を続けたが、1兆円を超える開発費を捻出することはできず、さしあたりもっと小さな実験機の開発をめざすことになった。
 けれども、高度百キロメートルの準軌道までの弾道飛行をめざすのか、それとも最初から高度数百キロメートルの軌道の宇宙旅行をねらうのかで意見が分かれた。そして、研究グループは分裂してしまったそうだ。『スペース・フューチャー・ジャパン』のサイトで、パトリック・コリンズ氏が日本ロケット協会の宇宙旅行研究のこうした歴史をたどったうえで、実験機の仕様について研究チームの合意が失われると、研究を続ける建設的な力がなくなり、宇宙旅行を実現するための日本ロケット協会のこうした活動は終わりを迎えたと書いている。
 日本ロケット協会は、宇宙旅行事業のための法整備も研究し、安全基準を定め、非常脱出の設備を付けることなどを取り決めた「宇宙航行法」まで提案していた。ロケット協会のこうした研究は、現在は日本航空協会の航空宇宙輸送研究会で続けられているという。
 結局のところ日本では、高度数百キロメートルの軌道宇宙船どころか、高度百キロメートルの準軌道までの宇宙船の計画も具体化はしていないわけだが、アメリカでは5000万ドルの賞金が設定されて、軌道宇宙船どころか宇宙ホテルの建設までを視野に入れた民間の宇宙計画がスタートし始めた。次回はその話を紹介することにしよう。

関連サイト
マイボイスコムの宇宙旅行についてのマーケット・リサーチ。宇宙旅行に行きたい人が53パーセント、行きたくない人が47パーセントと分かれている。行きたくない理由としては、お金がかかることと危険性を半分以上の人があげている。安く安全に行けるようになれば行きたい人はさらに増えるということだろう。
99年に作られた日本ロケット協会のホームページ(Test版)の観光丸の説明ページ。
●『スペース・フューチャー・ジャパン』のサイトのパトリック・コリンズ氏による日本ロケット協会の宇宙旅行研究の歴史。この特集ページには観光丸の仕様も載っている。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.389)

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