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2005.06.24

変貌するアメリカの宇宙計画とNASA

民間の力を使えと、NASAも機構改革を強く迫られている。
政府が宇宙計画を独占すべきではないというムードが強くなってきた。

●アメリカの新しい宇宙計画

 予算はない。でも、宇宙開発をやめるわけにもいかない。そもそも何で宇宙へ行かなければならないのだろう。こうした悩みはいずれの国も抱えているのだろうが、宇宙というフロンティアへの進出を国家の存立基盤にさえしてしまったように思えるアメリカではよりいっそう深刻だ。
 ブッシュ政権は、科学の探求よりも宗教の命じるところのほうを重んじているような印象がある。クリントン前政権が、情報技術やインターネット、ゲノム、ナノテクと矢継ぎ早に新たな科学技術戦略を打ち出したのと比べるとえらい違いだが、昨年初めに打ち出した新たな宇宙戦略は、それなりにエポック・メーキングなものだった。
 一昨年2月、スペースシャトル・コロンビアの事故によって7人の宇宙飛行士の命が失われ、アメリカの宇宙計画は深刻なダメージを受けた。来月13日には、日本人宇宙飛行士・野口聡一さんを乗せて、この事故以来初めてのスペースシャトル・ディスカバリーの打ち上げが予定されている。昨年初めに発表された宇宙戦略は、アメリカが受けたこのトラウマにどう対処するのか、合衆国大統領からの答えでもあった。そこではまず、次のようなことが謳われていた。

  • 国際宇宙ステーション(ISS)の組み立てを'10年までに終える。
  • スペースシャトルは、事故調査委員会の勧告をもとにできるだけすみやかに運航を再開し、ISSが完成しだい引退させる。
  • スペースシャトルに代わる人間を運ぶ乗り物のテスト・フライトを'10年までに行ない、'14年までに運航させる。

 問題児のスペースシャトルには引導を渡し、新しい有人探査機(CEV)の開発をする。軌道上の活動については、このように前向きなのか逃げ腰なのかわからない雰囲気を漂わせていたが、軌道の彼方の新しい計画についてはもっと熱がこもっていた。ブッシュ大統領は、「2010年までにわれわれは月へ戻るのだ」というキャッチコピーのもと、次のようなロードマップを打ち出した。

  • '08年までに無人ロケットを月へ送り、将来の有人活動にそなえる一連の計画をスタートさせる。
  • 月への有人飛行は'15年から'20年までに行なう。

 月を火星やその先の宇宙に行くための基地として使う方針も打ち出された。そして、火星をはじめとする星々で生命の証拠を探し、太陽系の歴史を知るために有人もしくはロボットや望遠鏡を使った探査を行なう。こうしたことが目標として掲げられた。何回か前に、日本の宇宙開発組織が発表した長期ビジョンを紹介したが、そこでも月面基地について触れていた。それは、アメリカの新方針を反映したものだろう。
 こうした大統領の発表をうけて、昨年6月には、大統領の諮問を受けた委員会が報告書を出した。その扉ページにも「月、火星、その彼方‥‥」という言葉がキャッチフレーズのように入っている。
 もっとも、この答申の大部分は、宇宙探査計画そのものよりも、税金の使い道について納税者の理解を得ながら、宇宙計画をいかにして持続可能なものにしていくかを述べている。宇宙開発を国家が独占することはもはや無理で、民間の活動を引きこみ、新たな雇用や経済活動を生み出しながら、宇宙開発をすることを説いている。
 ここ何回か、「国家が宇宙を独占しているからコストが下がらず宇宙旅行の時代がやってこないのだ」と怒り、民間の会社を作ってロケットや宇宙船の開発をしたり、賞を設定して民間の宇宙進出を奨励している人々の活動を取り上げてきたが、この報告書はまさにこうした動きに呼応したものだ。1千万ドルの賞金を設定して行なわれた民間のロケット・レースなども横目で見ながら、この報告書はまとめられている。

●子どもたちも「賛成!」?

 報告書は「現在、独立した宇宙産業は存在していない」とはっきり言っている。NASAの民間企業との関わりはアポロ計画の時代そのままで、それではまずい。宇宙計画でも民間企業が重要な役割を果たすことを認め、そのためにNASAを改変すべきだと主張している。NASAの仕事は、経済的なリスクが大きいなどといった理由で民間がやらないことに限定し、それ以外の分野は民間企業を積極的に利用していくべきだと提言している。太陽系の長期的な探査を続けるには、強い宇宙産業が必要で、「こうした宇宙産業は、国の経済成長に貢献し、新しい知識の創造をとおして新しい製品を生みだし、発明や技術革新について世界をリードする。こうした宇宙産業は、国家の宝となるだろう」と書いている。
 日本の政府のレポートはだいたいが総花的で無味乾燥だが、この答申は、宇宙関係者の具体的な証言も織りこまれ、何が問題でどうしたいのか、官僚機構の主張ではなくて、人間の声が聞こえてくる。
 たとえば『火星年代記』を書いたSF作家ブラッドベリが諮問委員会に登場し、宇宙探査の重要性について、「われわれの子どもたちが空を指さして、『賛成!』ということでしょう」と証言したといった話が紹介されている。未知のものを探るということは人間の義務であり、人間の重要な役割でもある。宇宙計画に使ったお金を税金という形で負担しなければならない子どもたちも、こうした出費は認めるだろうというわけだ。
 アポロ11号で人類初めての月着陸をしたアームストロング船長も委員会で証言したようで、次のような言葉が枠囲みで強調して紹介されている。
「将来の宇宙探査の成功には、コストとリスクについての心配をいかに乗り越えるかが重要だ。わが国の経済力にはこうした規模の仕事をするだけの余裕はたしかにある。しかし、その投資に見あった社会への貢献があり、出くわしたリスクに応じた進歩があると人々に納得してもらわなければならない。企業人よりも一般の人々のほうがリスクを嫌うものだが、リスクを避けようとして発展を妨げてしまうのはいいことではない。この仕事の成功は、政府、産業界、科学界といった宇宙コミュニティのわれわれみんながどれぐらい力をあわせ、共通の目的に向かっていくことができるかにかかっている」と、こう言っている。

●宇宙になぜ行くか

 この報告書では、宇宙になぜ行くのかについて、三つの理由があげられている。ひとつは、未知の世界の探検はそれ自体意味があるということ。二つ目には、宇宙探査は、雇用を生み出し、先端産業における新たな市場を創出するなど経済を成長させる。三つ目の理由は安全保障だが、軍事的なことよりも経済的な側面が強調されている。この報告書のタイトルは、「激励し、改革し、発見する旅」というもので、宇宙開発は「レース」ではなくて「旅」である、つまり、ほかの国々と競うのではなくて参加してもらい、ともに宇宙へ出ていくことが重要だ。ただし、旅にもリーダーは必要で、アメリカがやらなければどこかほかの国がやるだろうから、それは自分たちが担わなければならないと言っている。
 実際のところ、すでに書いたとおり、ミもフタもなく言えば、この報告書は、いかにしてコストを削減しながら宇宙開発によって経済効果をあげていくかということにつきる。私企業の活用と国際協力もそのためのものだ。
 肥大する国家権力にたいする警戒は、アメリカがイギリスとの独立戦争を戦った誕生のときから植えつけられたDNAのようなものだが、宇宙開発についてもいまそうした力が働き始めたようだ。
 日本でも道路公団に続いて郵政の民営化などが議論されているけれど、当初の採算があわないときには政府の予算ではじめ、少したって軌道に乗り始めたら民間に移すというのは自然な経緯だろう。それを当たり前と思うか、紛糾してなし崩しになっていくかが、国の運命の大きな分かれ目なのかもしれない。

    *

 新しい方向を目指すというNASAは、そうとうに驚くことをやりはじめた。なんと、スペース・エレベーター。ほんとうに地球から宇宙空間までヒモを張りわたしてエレベーターにしようとしている。次回はそのお話。

関連サイト
●昨年1月、NASAでブッシュ大統領が『蘇る発見の精神』と題した新しい宇宙政策を発表したことを伝えるホワイトハウスのページ
「宇宙探査政策の実現についての大統領諮問委員会」が昨年6月に出した報告書『激励し、改革し、発見する旅』。長期間持続可能な宇宙計画であるためには、納税者に納得してもらうことが必要で、それにはわかりやすい説明ができなければならないと説いているせいか、写真を入れてビジュアルにも気を配っている。
NASAの宇宙探査ビジョン「地球、月、火星、その彼方」のページ。アポロ11号の船長ニール・アームストロングによるビジョンの説明ビデオができている。

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コメント

人類が宇宙を目指す理由は人類は宇宙に発展しないと人々の価値がなくなるからというのがある 人類は進んだ科学技術でますます便利になって努力しなくなる段々科学技術の進歩が必要なくなり只怠け者になるだけだ それでは何の価値も無い それと人類は地球からの自立という課題がある 人類史は文明は発達したが地球破壊がひどすぎる地球に甘えた文明しか築けずそのことが人々の不幸に大きな関係がある 科学技術が発展した今こそ宇宙へ発展して地球から自立して本当の幸福な社会を築くべきである 企業でも甘えた人がトップになると業績は下がって不幸な集団になる 人類も地球から自立すると健康になり新しい世界にやる気が出るかもしれない 宇宙に行かない人々はさぶくて外に出ない子供なのかもしれない

スペースプレーンを普通の飛行場を利用して離発着すると世界中の飛行場が宇宙基地になり今の文明がいっぺんに宇宙文明のようになるかもしれない またそのことによって人類も多くの人が宇宙に関心を持ち宇宙を目指して宇宙開発に参加するかもしれない

地上で宇宙都市を開発し建設するとその都市技術が販売出来るので 宇宙都市開発とお金儲けが同時に出来るので損は無いだろう

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