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2005.06.03

日本の宇宙船の可能性

海外の宇宙旅行会社が次々と上陸してくる
海外の宇宙船は、たしかに低コストでスマートだけど
日本のロケットもなかなかおもしろい

●宇宙旅行会社の「上陸」

 うーん、海外の宇宙旅行ツアーがどんどん日本に進出してくる。前々回、イギリスの大手ヴァージン・グループがつくった宇宙旅行会社「ヴァージン・ギャラ クティック」が日本語のホームページをつくって宇宙旅行ツアーの予約を始めていると書いたが、次の週には、日本の旅行会社がフライトを押さえて7名の日本 人の客募集を開始した。かと思ったら今度は、アメリカの「スペース・アドベンチャーズ」という会社が日本事務所を開き、ホームページを立ち上げた。
 スペース・アドベンチャーズは、すでに宇宙旅行の実績のある会社だ。'01年にアメリカの実業家、'02年には南アフリカのIT企業家を宇宙飛行に送り 出している。ソ連のソユーズロケットで国際宇宙ステーションまで運び、1週間滞在して代金は2000万ドル、20数億円。半年以上の訓練も必要で、お金の 面でも時間の面でもハードな「旅行」だった。
 この会社もやる予定の「弾道飛行」と呼ばれる宇宙旅行はもう少し手ごろだ。ヴァージン・ギャラクティックの場合、アメリカで3日間の訓練やメディカル・ チェックをして飛び立つ。優美なグライダーのような母機の下部に取り付けられて高度16キロまで運ばれ、そこで切り離されてエンジンに着火、ジェットコー スターに乗れるのだったら大丈夫というぐらいの加速度で高度100キロまで上昇する。発表された宇宙旅行の概要によれば、全フライトタイムは2時間半から 3時間、宇宙滞在は25分で、無重力状態は4、5分と説明されている。また、前号でとりあげた弾道飛行をめざしている日本の宇宙船「宇宙丸」では、宇宙船 がそのまま離陸してまっすぐ上昇し、頂点に達したあと落下に転じるというもので、その間の飛行時間は約5分と説明されていた。
 昇って落ちてくるだけなら、払うほうとしては、あんまり高額だとためらわれる。が、価格競争はじつはもうすでに始まっている。「ヴァージン・ギャラク ティック」の弾道飛行の値段は20万ドルだったが(2100万円)、スペース・アドベンチャーズのほうはその半分ほどの10万2000ドルだ。弾道飛行は いずれは30万円ぐらいでできるようになると目算している人たちもいる。払うほうから言えば、上昇して同じところにただ降りてくるのでは30万円でも ちょっと高いが、もし移動もできる、それもたとえば国外でも降りられるということにもなったら、海外旅行に行きがてらに乗ろうという気になる人はかなりい るだろう。

●よりどりみどりの宇宙ツアー

 スペース・アドベンチャーズは、宇宙ステーション滞在や弾道飛行のほかにも、いろいろなメニューをそろえている。軍用ジェット機で急上昇と急降下を繰り 返してゼロG体験をする「無重力体験フライト」とか、本格的な宇宙飛行士の訓練を体験できるコース。あるいは「宇宙への入り口の旅」と称したロシアの最新 鋭ジェット戦闘機体験搭乗など。戦闘機は旅客機ほど乗客にやさしい構造にはなっていないから、乗り物酔いしやすい人には向いていなさそうだが、戦闘機マニ アにはこたえられないものだろう。
 20数億円の宇宙ステーション滞在と比べると、無重力体験フライトはすでにずっと「大衆価格」になっている。アメリカで体験するなら、ホテル代別の「日 帰りプログラム」で41万円だ。「バンジージャンプのようなスリリングな隠れた観光スポット」だとホームページで宣伝している。このキャッチフレーズどお り、ちょっとグレードの高いバンジー・ジャンプぐらいの感覚で宇宙体験ができるのだとしたら、ずいぶん簡単になったものである。
 宇宙飛行士の訓練体験コースは意外に高くて2200万円もする。もっともこれには、230万円もするミグ・ジェット戦闘機搭乗をはじめ、無重力体験フライト、水中での無重力訓練なども含まれている。
 スペース・アドベンチャーズのサイトには写真もふんだんにあって、あちこちウェブ・ページを覗いていると、観光ツアーを選ぶような気分になってくる。

●これぞ宇宙船

 「日本の宇宙開発組織は宇宙旅行に冷たい」という話を前回書いたけど、じつはこの組織にも、宇宙旅行まで視野に入れて、再使用型の宇宙船の開発をしてい る研究者がいる。宇宙科学研究本部の稲谷芳文教授だ。稲谷教授の作ったロケット「RVT」は、「いかにも宇宙船」という感じだ。
 「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」のホームページにある動画を見ると、カウントダウンとともに、円錐型のロケットの先っぽからもくもくと煙を吹き出 す。一瞬、下部の噴射口から炎が見え、浮き上がる。垂直に上昇し、やがて停止してしばらくそのまま浮き、またまっすぐ降りてくる。着陸寸前のところで減速 してふわっと着地する様子などは感動ものだ。
 一方、ヴァージン・ギャラクティックやスペース・アドベンチャーズが計画している弾道飛行の宇宙船は、飛行機型だ。ヴァージン・ギャラクティックが作る 宇宙船は1000万ドルの賞金を獲得した宇宙船「スペースシップワン」をもとにするというが、これは、スケールド・コンポジット社のサイトの写真でわかる ように、あざらしを思わせるぷっくりした形で、着陸するところなどは飛行機そのものである。こうしたロケットを初めて見たときには、「ふーん、いまはこう いうのなんだ」と感心しつつも、じつはちょっと思惑はずれの気分がしたものだ。
 それにひきかえ、稲谷教授の円錐型のロケットの姿かたちは、まぎれもなく子どものころ夢見た宇宙船だ。ただ、内実はまだ「宇宙船」ではない。一昨年10 月に秋田県の能代ロケット実験場で行なわれた実験で3回飛んだときの最高高度は42メートル。飛行時間は17秒。「宇宙」はまだずっと彼方にある。
 水平離陸型と稲谷教授のRVTのような垂直離陸型では、それぞれ一長一短があるらしい。水平離陸は飛行機と同じく滑走路が必要だ。RVTならば離着陸の ための場所はそれほどいらない。しかし、ロケットそのものの建設費は水平離陸型よりかかるというのが一般的な傾向のようだ。

●宇宙旅行産業誕生の障害

 稲谷教授ももちろんいまの高度で満足しているわけではない。スペースシップワンなどと同じく高度100キロの準軌道まで飛ばすことを当面の目標において いる。だが、基礎研究以上の予算がなかなかつかないらしい。さしあたり高度よりも、エンジンがひとつ止まるなどの故障があっても致命的なダメージをうけず に飛行を続けられるロケットづくりをめざしている。稲谷教授が念頭においているのは、飛行機のような運行ができるようにすることだ。飛行機も故障は起きる が、それでも(たいていは)飛び続けられる。故障のたびに落下していたのでは、人間は乗せられない。飛行機と同じぐらいの安全性と信頼性のあるロケットを 作ろうというわけである。
 日本は自動車産業は世界のトップクラスだが、航空機の製造業はついに育たず、欧米の飛行機会社の下請けに甘んじている。有人ロケットもそうなっていいの か、というのが関係者の危惧だが、有人ロケット産業や宇宙旅行産業が育つにあたっての一番の障害は、国民の意識だろう。海外の旅行会社のツアーには日本の 規制の網はかからないが、有人ロケットを日本の会社が作って旅行客を募集し始めたら、安全性は保てるのかという強い危惧の声が官民あげてあがるにちがいな い。欧米でさんざんやられた後ならともかく、先駆けてやるのはそうとうにむずかしいのではないか。リスクを知りつつ新しいことをやってみようという意識が 社会に広く共有されていなければ、こうした事業を立ち上げるのは容易なことではないはずだ。日本の宇宙計画が有人宇宙飛行にさしあたり消極的なのも、そう 考えると仕方のないことなのかもしれない。

関連サイト
●「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」のサイトに掲載されている稲谷芳文教授のコラム「再使用ロケットの研究」のページ。 稲谷教授の開発した垂直離陸型ロケット「RVT(Reusable Vehicle Test)」の発射実験のビデオ映像も載っている。ロケットは全長3・5メートル、重量500キロ。また、前回とりあげた宇宙丸のサイトには、このロケッ トについてのリンク集ができている。
●日本事務所を開設したアメリカのスペースアドベンチャーズ社の日本語サイト。退役した NASAの宇宙飛行士たちを顧問にして、宇宙ステーション滞在から弾道飛行、無重力体験フライト、ジェット戦闘機の体験搭乗までいろいろなメニューをそろ えている。
●三菱電機のサイトにも稲谷芳文教授のインタヴュー・ビデオが載っている。02年11月に収録した少 し前のもので、ビデオに映っているロケット発射実験は上のよりも前のときのものだろうが、もう少し近くからアップで撮影されている。いま宇宙にものを運ぶ のは1キロ100万円ぐらいかかるが、それを100分の1にしたいと稲谷教授はこのインタヴューで言っている。い ずれは数十万円で行けるようになると言われるのも、こうした計算にもとずくのだろう。もっともこの計算だと、太った人はいずれにしても少々お値段がはるこ とになるのかもしれないが。
●1000万ドルの賞金を獲得した宇宙船「スペースシップワン」を作ったスケールド・コンポジット社のサイト。スペースシップワンは、稲谷教授のロケットのように円錐型ではなく、このように飛行機型。この写真は着陸のときの もの。離陸のさいはグライダーのような優美な飛行機に取り付けられて運ばれる。

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