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2005.05.27

日本の宇宙計画のゆくえ

日本の宇宙計画は、目標と現実の開きが大きくて
ぐちゃぐちゃになっている。宇宙旅行を視野に入れ
方向転換すべきだという声があがっている

●日本人貸し切り宇宙フライト募集開始

 1千万ドル(約11億円)の賞金レースに勝利した宇宙船開発グループがイギリスの巨大企業と契約して新会社を設立し、08年をめどに宇宙旅行ツアーを募 集していると前回書いた。5月半ば、日本の旅行会社「クラブツーリズム」が、このイギリスの宇宙旅行会社「ヴァージン・ギャラクティック」と提携し、日 本人の貸し切りフライトをすると発表した。クラブツーリズムはいきなり宇宙旅行ビジネスに乗り出したというわけではなくて、'01年9月に「宇宙旅行ク ラブ」を設立し、現在500人の会員がいる。クラブツーリズム側が提案して契約にこぎつけたが、ヴァージン・ギャラクティックが他企業と販売契約したのは これが初めてのケースとのことだ。海外でも日本は有望な宇宙旅行マーケットとして見られているのだろう。
 ヴァージン・ギャラクティックは今後4年間で5機の宇宙船を建造する。8人乗りで、パイロット2名を除き、6人の客が乗れる。すでに118か国28000人が予約しているそうだ。
 最初の100人は「ファウンダーシート」という特別枠で募集される。これに応募した人たちは、ヴァージン・グループの総帥リチャード・ブランソンが参加 するイベントなどに参加でき、乗る順番は抽選で決まる。クラブツーリズムは、この枠についても1名を日本人枠として確保した。
 貸し切りフライトのほうは、08年の運行開始後1年以内におこなわれる。「宇宙旅行をご家族やご友人とご参加ください」とクラブツーリズムは言ってい る。日本にもかなりの金持ちがいるみたいだから、1回の貸し切りフライトの定員6人をおさえてしまう金持ち一家も現われるかもしれない。
 料金は、特別枠、貸し切りフライトともに20万ドル。募集期間は、特別枠のほうが7月末まで、貸し切りフライトは年末まで。
 私は残念ながら、そんなお金があったら、宇宙へ行く前に住む家を買わなければならない身なのでとても無理だけど、お金がある人は応募してみてください。

●宇宙旅行に冷たい日本の宇宙計画

 宇宙旅行の時代はこのようにほんとうにやってきそうな気配になってきた。
 その一方で、政府の宇宙計画は宇宙旅行に冷たいと激しく憤り、論陣を張っている人がいる。パトリック・コリンズという大学教授だ。イギリス出身だけれど 90年に日本に来たそうで、日本語もぺらぺらだ。協力者もいて、日本語の充実したサイトができている。コリンズ教授は、X賞基金のアドバイザーにもなって いて、「宇宙旅行時代」を誕生させようと国境を超えて活動しているようだ。
 その主張をもっともわかりやすく表わしているのは、「JAXAマネー時計」だ。日本の宇宙組織を統合した「宇宙航空研究開発機構 (JAXA)」が03年10月に誕生して以来、使ったお金は3000億円を超えているのに、宇宙観光旅行産業実現のために使ったお金は0円。JAXAが 使ったお金のほうの数字はどんどんあがっていくのもひとつの数字は0のままだ。
 海外では、X賞基金や受賞宇宙船をつくったスケールド・コンポジット社のように、寄付を得て、民間の資金で宇宙旅行時代を招き寄せようとしている。 なのに日本ではやっぱり政府の資金なのか、と思わないでもないけれど、実際のところ日本には寄付の文化はないし、高いリスクを負って宇宙旅行のためのロ ケットを建設しようという民間の会社もない。もっとも、高額の宇宙旅行に応募する金持ちの日本人はいるし、ホリエモンのようにX賞の理事になったりする人 もいるのだから、もう少し寄付にたいする優遇制度があれば、民間の資金で、ということもありうるだろう。だけど残念ながら現状は、官僚や偉い学者たちが (堅い頭で)税金を分配してハイリスクの研究資金を捻出しているのだから、「政府の資金を宇宙旅行にまわせ」と要求するのも致し方ないことだろう。

●宇宙旅行の経済効果

 コリンズ教授らは「宇宙丸」と名づけた高度100キロの準軌道に到達するロケットを提案している。3年間で開発できるそうで、サイトを見ると、その開発 コストは300億円と書かれていたり、数十億円となっていたりとばらつきがあるが、3年間で300億円としても年間100億円。JAXAの使っている年間 予算1900億円の5パーセントほどを3年間まわせば開発できるとのことだ。
 03年に中国が有人宇宙ロケットを飛ばすことに成功して日本の宇宙関係者に「チャイナ・ショック」が走ったけれど、同じように有人使い捨てロケットで中 国と競っても、中国は軍事ミサイル産業の規模が大きく、またコストの面でも日本は勝てない。しかし、宇宙に行きたい中産階級がいる日本は、観光産業なら勝 ち目があるのではないかとコリンズ教授は言っている。
 コリンズ教授の専門は宇宙旅行経済学で、日本が宇宙旅行に力を入れることの経済的なメリットについても説いている。
 日本はすでに宇宙開発に4兆円も使ったけれど、経済効果は1千億円程度しかない。しかし、宇宙旅行事業が立ち上がれば、数兆円規模の宇宙産業が誕生す る。「宇宙観光旅行は、大きな新しい宇宙ビジネスに発展する将来性を示す唯一の宇宙活動」で、JAXAの「宇宙観光旅行拒否政策」は誤りだと批判してい る。
 「宇宙丸」のプロジェクトでは、20年以内に40機製造すれば、乗客一人あたり30万円で行ける計算だという。「お手ごろ価格」ではあるけれど、宇宙へ行 くのは危険だろうし、そんなに乗りたい人がいるのかな、と思うが、ロケットの打ち上げがなぜ危険かというと、使い切りロケットであることも関係している。 高額で一回飛ばしたら終わりというロケットでは、そうばんばん飛ばすわけにはいかない。しかし、再利用可能のロケットなら何度も飛ばしてデータを集めるこ とができ、それにともなって安全度が高まる。とりあえず高度百キロの準軌道ならばロケットの負担も少なく、打ち上げコストも安いから何回も飛ばせる。
 飛行機だって、無人使い捨て飛行機から開発を始めて数十年後に有人再使用型に移行したわけではなかった。最初から有人再使用型だったとこのサイトでも指 摘されている。使い捨てロケット中心の宇宙計画は誤りで、有人再使用型で「近場の宇宙」から始めて、高いところまで飛ばしていくべきだと主張している。言 われてみれば、シロウトでも、なるほどという気がする。
 「宇宙への道」が、どこの国もみなNASA方式で進めなければならないわけはない。前回書いたように、JAXAは打ち出したビジョンと現実との隔たりが大 きい。JAXAの報告書自体が日本の宇宙産業の基盤は「崩壊の危機」にあると認めており、予算、人材、技術が乏しくなってきているのに壮大なビジョンを打 ち出している。目標との隔たりが大きいから予算を増額してくれと言いたいのだろうけれど、膨大な財政赤字の現状では、予算が増額される可能性はほとんどな いのではないか。理想と現実の整合性がなくて、宇宙計画そのものが破綻しかかっている。JAXAもビジョンと現実があっていないことはわかっているのだから、ここらでもう一度、日本の宇宙政策を根本的に考え直してみ るべきだろう。
 ただし、海外の民間主導の宇宙ビジネスが盛り上がり、低コストの宇宙船が作られ始めたいま、そのための時間はもう残り少ないかもしれない。X賞基金を受 賞した宇宙船スペースシップワンの開発費は22億円だったそうだ。国のプロジェクトとなるとお金の額が膨らむのがつねとはいえ、開発費に300億円かかる のでは海外勢に太刀打ちできないのではないか。海外の宇宙旅行ビジネスも日本市場には目をつけているし、せめて100億円以下でつくらないと、ビジネスと しては成り立ちにくいだろう。日本が宇宙旅行ビジネスに乗り出すのなら、もうタイムリミットぎりぎりだ。

関連サイト
●コリンズ教授が中心になってつくられた宇宙丸プロジェクトのサイトの「JAXAマネー時計」。日本の宇宙開発組織「宇宙航空研究開発機構 (JAXA)」が誕生して以来、同機構が使ったお金の額は刻々と動いていくが、下の数字は変わらない。「政府が宇宙旅行を拒否する政策を改めるまで、この 時計は動かないでしょう。この時計の針が動き出し、宇宙旅行の研究開発が始まることを切に願っています」とのことだ。
●旅行会社クラブツーリズムは、ヴァージンギャラクティック社と提携し、宇宙旅行の貸し切りフライトの募集を始めた。
●コリンズ教授が中心になっている『宇宙旅行ポータルサイト・スペース・フューチャー・ジャパン』。英国の宇宙旅行サイト『スペース・フューチャー』のパートナー・サイトだそうで、宇宙旅行に かんするさまざまな情報や主張が読める。
●3月には、日本航空協会と日本ロケット協会の主催で「宇宙旅行シンポジウム」が開かれた。宇宙旅行ビジネスが立ち上がり始めたいま、日本も遅れをとっていいのか、というわけだろう。日本航空協会には航空宇宙輸送研究会が作られ、有人宇宙開発の必要性を説いている。

  (週刊アスキー「仮想報道」vol.387)

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