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2005.05.20

宇宙を我らの手に──宇宙旅行時代へ到る道

宇宙旅行の時代は、軍事や科学目的の計画によって
ほんとうにやってくるのだろうか。賞金レースを設定し
民間で進めたほうが早いという気運が高まっている。

●宇宙への旅はこんなふう

 宇宙旅行の参加者を募っている「ヴァージン・ギャラクティック」は、宇宙への旅立ちをこんなふうに描き出している。
 グループ会社のヴァージン・アトランティック航空のアッパークラスで最寄りの都市まで移動すれば、そこには「ヴァージン・ギャラクティック」のエグゼク ティブ専用ジェット機が待っていて、同社の豪華施設「スペースリゾート」へ連れて行ってくれる。そこで出発までの準備の日々を過ごす。毎朝、ヘリコプター の迎えが来て、トレーニングベースとスペースポートに行き、健康診断や重力耐性訓練をする。さらに昼はシミュレーションをしたり専門家の話を聞いたりし て、夜は宇宙飛行士やゲストスピーカーと食事。こうして6日間過ごす。出発は、ロケットによる打ち上げではなくて、滑走路から母機が飛び立つ。海抜16キ ロメートルの上空で宇宙船のエンジンに点火、4Gの加速度で大気圏を抜ける。パノラマウィンドウからは、コバルトブルーの空が紫色、藍色、そして漆黒へと 移り変わる様子が見える。ロケットエンジンが遮断されて静かになると、無重力の世界。そう、ここは宇宙なのです!‥‥というふうになるのだそうだ。
 ヴァージン・グループは、もう何年も前から、宇宙旅行を事業のひとつに加えようとしていた。イギリスのこの一大企業グループはリチャード・ブランソンに 率いられ、航空事業から鉄道、ホテル、金融、音楽、飲料水、ゲーム、ソフト販売まで多角的な事業展開をしている。ブランソンは、18歳のときに創刊した雑誌を手始めに、ヴァージン・レコードを設立して ローリング・ストーンや、セックスピストルズら有名アーティストのプロモートで売り上げを伸ばし、事業を拡大していった立志伝中の人物だ。
 彼らが目をつけたのは、ホリエモンが理事 になったX賞基金の賞を獲得した宇宙船を開発した会社だ。ヴァージン・グループは数か月の交渉を経て、X賞の成功直前の時期に彼らとの契約にこぎつけ、宇 宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティックを設立した。X賞受賞の宇宙船スペースシップワンをモデルにした宇宙船を造り、本格的に宇宙旅行ビジネスを始めよ うとしている。
 X賞基金は、3人載れる宇宙船を民間の資金で作り、2週間のあいだに高度100キロまで2回打ち上げたチームに1千万ドル(約11億円)を授与するとい う設定だった。7か国から26チームが応募し、結局、マイクロソフトの創立者の一人ポール・アレンが資金を出して設立したスケールド・コンポジット社製の スペースシップワンが、昨年9月から10月にかけてこの条件をクリアして賞金を獲得している。
 ヴァージン・ギャラクティックはすでに、英語はもちろん、日本語も含めた7か国語のサイトを作り、宇宙旅行を申し込めるようにしている。このサイトによ れば、現在、初フライトの予定は'08年で、チケットの料金は20万ドルだそうだ。席を確保するためには最低2万ドルの予約金が求められている(払い戻し は可能)。このサイトを見るかぎり、宇宙旅行は夢物語や話題作りのレベルではもはやなくなっていて、宇宙ビジネスのリアリティがたっぷり漂っている。

●国家目標としての宇宙旅行

 前回、日本の宇宙開発組織「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」が長期ビジョンを発表し、宇宙旅行の大衆化も視野に入れていると書いたけれど、じつは問 題も山積みだ。日本のロケット打ち上げは失敗続きだったが、2月26日のHーⅡAロケット7号機の打上げ成功で一息ついた。しかし、基本的には資金難と人 材難が続いている。
 同機構のレポートによれば、宇宙開発予算は、90年代後半の2300億円から1800億円まで減少の一途で、宇宙産業の売上高も減っている。現在、宇宙 機器産業が年間約3千億円、宇宙利用サービス産業が約6千億円で、「この産業規模では、適正水準の利益を得て、再投資するという自立した産業循環が難しい 状況にある」と書いている。資金難にともなって人員の欠乏も深刻で、宇宙機器産業の従業員は'95年度の約1万人から6000人を切るまでに減り、「『も のづくり』の現場にも深刻な影響が出はじめている」という。宇宙基地を建設して「宇宙の謎」に挑む派手なビジョンを打ち出す一方で、同機構は、日本の宇宙 計画の「崩壊の危機」にまで言及している。
「宇宙開発予算の大幅な削減や売上高の減少等を背景に、産業界では熟練技術者の維持や製造設備の維持・更新が困難となりつつあり、宇宙機器製造における品 質の劣化、宇宙開発プロジェクトの信頼性の低下等の恐れが増大している。これは、国家戦略技術としての宇宙を支える宇宙産業技術基盤が崩壊の危機にあるこ とを意味する。その一方で、世界の宇宙先進諸国は、宇宙活動を安全保障と国家的課題解決のための手段として位置づけ、その活動をより強固に支援し、国とし ての取組みを強化しつつある。そのなかで、我が国の宇宙開発がおかれている状況には大きな懸念を持たざるを得ない」。
 民間宇宙旅行まで含めた壮大なビジョンに実際にそこへたどり着くための資金や人材、技術力がいよいよ乏しくなっているというわけで、実現可能性との隔た りは顕著だ。日本の宇宙開発は、軍事的目標を前面に掲げて予算をとることもできず、また科学的側面を強調して予算を獲得することもむずかしい。

●賞金レースが引き寄せる宇宙時代

 X賞基金のように民間のプロジェクトを主導している人々は、宇宙活動を安全保障などの手段として位置づけることそのものが、誰でも宇宙旅行に行ける時代 の到来を妨げてきたと感じている。軍事的目的や科学目的ならばかなずしも有人のロケットを飛ばす必要はないわけで、国家主導の宇宙プロジェクトが中心で は、いつまでも一般人が宇宙旅行へ行けるようにはならない。冷戦下の宇宙計画は、「誰でも行けて利用できる宇宙」とは別の方向に大きく逸れてしまった。そ して、民間主導のほうが安いコストでずっと早く宇宙に行けるようになると彼らは思っている。
 日本の宇宙開発組織が打ち出した長期ビジョンでも、宇宙旅行が大衆化する時代は20年後のビジョンのまだその先にあるものとして描かれているにすぎな い。また、とりあえず想定されている「宇宙利用サービス産業」は通信ビジネスなどで、宇宙旅行ではない。JAXAのビジョンでは、宇宙旅行はやっぱり夢物 語にすぎないわけだ。
 歴史を顧みると、民間航空機の時代の幕開けを早めたのは、さまざまの賞金レースが設定されて競って飛行機を飛ばすということがやられたからだと、X賞基 金を設立した人々は考えた。前世紀初め航空産業が立ち上がる以前にも何百もの賞が作られ、多様な飛行機がデザインされた。リンドバーグの大西洋横断もそう した賞金レースのひとつだった。X賞を立ち上げたダイアマンディスは'94年にリンドバーグの本を読んでこうした事実に気づいた。そして、アメリカの航空 産業の拠点のひとつだったセントルイスの経済人やリンドバーグの子孫などに声をかけて寄付を集め、宇宙船レースを開始した。
 スペースシップワンの建設には22億円が必要だったそうだが、この宇宙船の開発者バート・ルタンは乗客一人あたりの見積額をだんだんと下げてきている。 一人880万円で宇宙に行けると言っていたが、70万円で可能と言い始めたようだ。米国や南アフリカの富豪らがすでに参加した国際宇宙ステーションの滞在 ツアーの代金は20億円を超える高嶺の花だったが、70万円ならば、一度ぐらいは行ってみようかという気になるレベルだろう。
 米政府も、民間の有人飛行の活動を推進する方向にどうやら方針転換し始めたようだし、民間の競争によるほうが宇宙旅行大衆化の時代が早く来るということは、どうやらすでに固まりつつあるコンセンサスのようだ。

            *

「宇宙旅行ビジネス」に向けた動きは今回取り上げた以外にも驚くほどいろいろある。海外だけではなく、日本でも始まっている。次回ももう少しそうした動きを紹介してみよう。

関連サイト
X賞基金のサイト。スペースシップワンの打ち上げの様子や関係者のインタヴュー などのビジュアルも豊富。スペースシップワンの設計者のバート・ルタンは、世界一周無着陸・燃料無補給の飛行機を設計した著名なエンジニア。
宇宙旅行会社「ヴァージン・ギャラクティック」の日本語サイト。2008年の宇宙旅行応募ページもできている。
●ライブドアは、堀江氏のX賞基金の理事就任以前から、同基金の紹介ページやスペースシップワンをはじめとする宇宙船の打ち上げのライブ・ビデオ、現地のレポートなどを載せたサイトを作っている。

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