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2005.05.13

日本も「宇宙旅行の大衆化」をめざす?

華々しいNASAのプロジェクトに比べて
とかく影が薄くなりがちな日本の宇宙計画だが、
日本の宇宙組織が大胆な長期ビジョンを打ち出した。

●宇宙の構造と歴史全体を明らかに

 4月にホリエモンがアメリカの宇宙ビジネス促進団体「X賞財団」の理事になっていたことがわかり、ちょっとした騒ぎになった。その後、フジサンケ イグループと和解して多額の資金を手に入れ、「これでいよいよ宇宙ビジネスに本格参入か」などと書くメディアも現われた。宇宙についてはこうした話題のほ うに注目が集まったが、その少し前に、日本の宇宙航空開発組織が将来像を描いた長期ビジョンを発表している。
 以前は、宇宙開発事業団と宇宙科学 研究所がそれぞれロケットを飛ばし、お役所の縄張り争いもからんで非効率的な体制だった。しかし、'01年の省庁再編を経て、この2つの組織と、航空宇宙 技術研究所の3機関が統合され、'03年10月に「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」が発足している。新組織の誕生にともなって明確な将来像を示す必要 があるとのことで、20年後を見すえた『JAXA長期ビジョン──JAXA 2025』というレポートが先月、発表された。長文だが、これを読むと、日本の宇宙開発がどういう方向に向かおうとしていて、また、問題がどこにあるのか もわかる。
 全体の総括的なビジョンは、「世界最高の信頼性と競争力のあるロケットや人工衛星を開発し、安全で豊かな社会の実現に貢献する。ま た、トップサイエンスを推進するとともに、独自の有人宇宙活動や、月の利用への準備を進める。さらに、マッハ5クラスの極超音速実験機の実証を行なう。こ れらにより、宇宙航空の基幹産業化に貢献する」というものだ。
「安全で豊かな社会」というのは、人工衛星で、地球環境や自然災害・気象の観測、さらには安全保障のための監視をし、災害時には携帯電話などに情報を流すといったことである。
 また航空機は、10年後までには低騒音・低燃費にし、いま10時間かかっているアメリカ西海岸まで音速の2倍のスピードによって5時間で行ける機を開発、20年後以降には音速の5倍のスピードで2時間で飛ぶことをめざすという。
  宇宙観測については、「宇宙と物質・空間の起源」「宇宙における生命の可能性」の2つの根源的課題に挑戦し、日本を宇宙科学のトップ・サイエンス・セン ターにする。さらに世界最高の信頼性と競争力を有するロケットと軌道間輸送機で独自の有人宇宙活動を実現、宇宙産業を日本の基幹産業にするとビジョンを打 ち上げている。
 宇宙観測のロードマップとしては、10年後頃までに、軌道上の望遠鏡を全波長域に展開して銀河やブラックホールを観測、宇宙の構 造と歴史全体を明らかにする。また、ダークマターの謎を解明し、太陽系外の大型惑星を直接観測。先進的な深宇宙推進技術による次世代の惑星間宇宙航行技術 ミッションを実現するとともに、木星型惑星の探査の準備を行なう‥‥のだそうだ。
 10年後というのはこのレポートでは比較的近い未来と考えられ ていて、いわば準備段階と目されているようなのだけど、それにしてはずいぶん大胆だ。「深宇宙推進技術等による次世代の惑星間宇宙航行技術ミッション」っ ていうのは「まさかワープ航法?」などという(あらぬ)期待まで抱かせるが、太陽光圧を使った航行技術を開発するということらしい。ビジョンの概要を見る と、この段階で具体的に探査に行くのは月と金星、水星とのことだ。
 でもまあ10年後までに「宇宙の構造と歴史全体を明らかにする」などと書かれているから、これなら20年後には宇宙の謎があらかた解けているのかなと思ったりするけれど、このレポートによれば20年後はもうちょっと地味で、次のような設定になっている。
「実 現された次世代の惑星間宇宙航行技術」で惑星に着陸し、惑星内部探査などを実施、太陽系の生い立ちに迫る。また、宇宙での最初の星や最初のブラックホール の観測を行なうミッション、重力波を検出するようなミッションを実現することで宇宙の生い立ちの謎に迫る。ミッションというと、そこへ行くみたいに思うけ ど、もちろんそんなことではなくて、編隊飛行技術や編隊観測技術によって、「地球周回軌道上やラグランジュ点に編隊飛行望遠鏡、干渉型高解像度望遠鏡、重 力波望遠鏡等を展開」するのだという。シロウトには、残念ながら、「うーん、何だかすごそうな望遠鏡だな」と思うばかりだが、編隊飛行技術というのは、大 型衛星に多くのセンサーを積みこむのではなくて、小型の衛星いくつもにセンサーを分けて飛ばし、衛星を連ねて観測する方法だ。大型衛星ひとつだと、失敗す ればまったく観測できなくなってしまうが、このような「編隊飛行」ならば、少しぐらいの失敗をカバーできる。ただし、小型ながらにいくつも衛星を飛ばすの で、そのぶん予算はかかる、ということらしい。

●いよいよ「未知との遭遇」‥‥

 さて、20年後以降は、いよいよ「未知との遭遇」ということになってくるようで、「太陽系外の地球型惑星に『生命存在の証拠』が見い出されている 可能性が高い」と書かれている。「暗黒エネルギーの正体や、その存在理由を知るための新しい概念の宇宙観測ミッションが実現され、宇宙と物質・空間の起 源、すなわち宇宙の正体を解明するために、素粒子論や宇宙論を統合したような新しい理解の時代が到来している」。まさか20年以上先のことなら何でも書け るというわけではないだろうけれど、太陽系全体に活動領域を広げた将来は、「片道の宇宙探査」から「往復の宇宙利用」へと転換が図られることになるであろ う、とのことで、こうしたことが実現するために、組立や保守、補給をおこなう「深宇宙港」を実現するという。その建設場所は地球重力圏界(ラグランジュ 点)や月面が想定されている。これらの地点は、地球と太陽の重力の影響が釣り合う安定した場所で、長期滞在に向いている。
 これまで日本も宇宙ス テーション建設の国際プロジェクト(ISS計画)に参加してきたが、この計画が終了すれば、宇宙基地は、地球周回軌道から月に移行している可能性がある。 「国際有人月面拠点」作りに備え、これまでの有人宇宙活動を継承・発展させ、段階的かつ戦略的に月面における有人支援技術を磨いていくという。
  日本は、'98年に世界に先駆けて月面の詳細な観測をする月周回衛星計画(SELENE)に着手し先行したことが指摘されているが(打ち上げ予定は '06)、月探査は、欧州宇宙機関や中国、インドも計画している。アメリカは各国に協力を呼びかけて必要な技術を選ぼうとするだろうから、月探査は国際協 調と国際競争がともに繰り広げられる場所になると予測している。宇宙基地としても、また資源獲得の面でも、宇宙開発を企てている国はいずれも月に熱い視線 を注いでいる。

●「誰もが行けて使える宇宙」

「20年後のビジョンの先に」来るものとして、宇宙旅行の大衆化についても触れられている。「誰もが行けて使える宇宙」を実現するために本格的な宇宙輸送システムの実現が必要だと指摘している。
「中 世の大航海時代や20世紀の自動車や航空機の普及等から明らかなように、輸送システムの発展は、社会経済の変革や新しい時代の到来をもたらす」とのこと で、5年後までには、世界水準に達したH-ⅡAをはじめとするロケット技術の信頼性向上に務め、10年後には有人飛行ができるほどの技術を獲得し、20年 後には、使い捨てロケットだけではなく、繰り返し使える有人ロケット技術の開発に着手する。
 うーん、やっぱり20年後でも、再利用可能な有人ロケットは開発に「着手」の段階か。いまの飛行機のように繰り返し何度も使えて落ちることも(そんなに)心配しなくてすむようになる日は、このレポートによれば、やっぱりかなり先のようだ。

    *

 JAXAのレポートは、たとえば極超音速旅客機を作るにしても、「独自の民間旅客機開発はYS-11以来ほぼ40年間着手されていない」などと問題点も指 摘されている。今回は、問題点までは触れられなかったが、次回はあちこちで始まっている民間での宇宙旅行の取り組みなどとあわせて見てみよう。

関連サイト
宇宙航空研究開発機構(JAXA)のサイトに掲載されている報告書「JAXA長期ビジョン──JAXA 2025」。プレスリリースのページの4月6日のところにある。
 コンパクトに図解された概要からいくつか拾うと・・・・
●【11ページ】2025年の「国際有人月面拠点」。「地球周辺から月面、そしてその先へ進出する人類」と書かれており、深宇宙へ行くための「港」になる。
●【14ページ】将来の宇宙輸送のイメージ図。ラグランジュ点の深宇宙港や月面基地などを中心に、有人再使用宇宙輸送機や軌道間輸送機が行き交い、宇宙ステーションが浮かぶ。将来の宇宙空間はかなりにぎやかなものになりそうだ。
●【19ページ】宇宙航空研究開発機構の長期ビジョンのロードマップ。災害や地球観測、宇宙観測、月探査、有人宇宙活動、宇宙輸送システム、航空など、分野ごとに5年きざみの目標が掲げられている。

(週刊アスキー「仮想報道」vol.385)

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